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インターンシップの受入で、中小企業が活性化する ―成果が出るインターンシップ導入のポイント―

2014.05.09 

受入企業の人材育成がはかどる?中小企業向けインターンシップの可能性

日本に存在する企業のうち、99.7%は中小企業である。特に地域・社会を支えている企業の多くは中小企業だが、そうした事業者は人材育成に課題を抱えている。

本稿においては、「地域を支える中小企業の人材育成」に、インターンシップが効果を発揮するということを論じていく。 SBIインターンシップの様子

島崎株式会社における高知大生のインターンシップの様子

人材育成の課題は、指導・育成人材の不足と余裕のなさ

中小企業における人材育成・能力開発に関する課題として、「指導・育成できる人材が不足している(67.7%)」次いで「時間的な余裕がない(59.7%)」が上位に挙げられている*1。

こうした回答の背景には(1)指導・育成に優れた人材が少ない、(2)社員の時間を人材育成などに割くことが難しい、という現状がある。

人材の流動性が低い中小企業では、社内でのポジションが固定化することが多く、マネジメントや経営等に携わる機会が少ない。従って、日常業務の中で、マネジメント経験を含めた機会を提供することが重要となってくる。

「中小企業と交流したい」7割の教育機関と、「受け入れたい」3割の中小企業とのギャップ

こういった中小企業の課題に対して、「インターンシップ」が効果的だという声が高まっている。

インターンシップというと、学生の教育機会として、企業が社会貢献的に実施している場合が多いが、実は受入れる企業側にもメリットがあると言われている。

近年、インターンシップの実施大学数は右肩上がりだ。教育機関の7割が、中小企業との交流に対して前向きだという。中でも高校・高等専門学校・大学においては中小企業との交流が必要と考える割合が、大企業との交流が必要と考える割合を上回っている。

しかし、受入側の中小企業においてはその割合は3割と、教育機関と中小企業との間に大きな認識のギャップがある*2。 このギャップの要因は何か。主なものとしては、教育期間側が企業側に対してメリットを提示できていないことが考えられる。企業側にも、「何をしたらよいかわからないため連携できない」という声が多い。

両者にメリットのあるインターンシップの要件とは

では、教育機関・中小企業双方にメリットのあるインターンシップとはどのようなものだろうか。企業にとってのインターンシップ導入のメリットは、大きく(1)事業拡大と(2)組織改善に分けられる。

こうしたメリットを生み出すための取り組みについては個々の企業に任され、事前に設計されていない場合が多い。これでは、インターンシップの成果が出るかどうかは運任せとなってしまう。

成果が出るインターンシップには様々なアプローチが考えられるが、本稿で紹介するポイントは、(1)入念な事前設計と、(2)学生をチーム制にすること、の2点である。以下では、高知大学が実施する「人間関係形成インターンシップ」(Society Based Internship、略称SBI)のケースを使って、インターンシップのモデルを紹介したい。

高知大学が推進する「人間関係形成インターンシップ」

SBIは2011年の春から始まり、現在8期目(半期ごとに実施)を迎えている。2013年夏にはNPO法人ETIC.と連携して受入企業を開拓し、横浜市市内の企業でのインターンシップを開始した。 インターンシップ中の学生

倉庫整理中のインターン生

SBIの特徴は、大学生、受入企業双方に対する徹底した事前トレーニングの提供と、大学生をチームとして派遣する点である。

学生に対しては、合計20時間の事前セミナーを提供し、チームビルディングや個人・チームの目標設定を通した意識の醸成を徹底している。

一方、インターンシップの受入企業の担当者に対しては、インターンシップのカリキュラム作成や、会社・個人の目標設定を事前に実施する。3週間のインターンシップ期間中にも、毎日チーム全員の日報を確認、コメントを記入し、モチベーション管理や役割分担を行う。受入担当者には、期間内に設定した会社・学生それぞれの目標を達成することが求められる。

こうした環境下で、インターン生によるチームは「仮想新入社員」となる。インターンシップを導入する中小企業の意思決定者(多くの場合は社長)のねらいは、部下のマネジメントスキルの向上だ。マネジメント経験が不足している若手社員にとって、インターン生との3週間は貴重な機会となる。

日常業務に加えて、マネジメント業務をこなさなければならない受入期間を、担当者はどう感じたのか。以下では、実際の声を紹介する。

インターンシップ受入担当者の声

ここで今回SBIを受入れていた島崎株式会社のSV小山隆司さんの声*3を紹介する。

今回のインターンシップを通して自分は成長することができたのでは、と感じています。最初に社長から『うちの会社でインターン生を受け入れる、その担当SVを任せる』と言われた時は『自分には荷が重すぎる、責任を果たせないんじゃないだろうか』といった不安や焦りでいっぱいでした。 (中略)目標設定塾を終え、横浜に戻ってからはがむしゃらでした。インターン生を迎えるための土台作りの為、社員一人一人に説明したり関係する部署の人たちと打ち合わせをしたりと走り回りました。 それでもいざインターン生を迎え入れてみると予想外の出来事や不測の事態が起こり、予定通りにいかないことだらけ、不備だらけではありました。自分の至らなさを思い知りました。でもその度に社員の皆が仕事を手伝ってくれたり、案を出してくれたりと助けてくれました。いい会社に入ったんだなと思いました(笑)。 その事に改めて気付かせてくれたインターン関係の皆様、助けてくれた会社の皆、何より楽しい3週間を過ごさせてくれた3人の学生さんたちには本当に感謝しています。(島崎株式会社 小山隆司氏)

まとめ:中小企業の人材育成力を強化するインターンシップ

インターンシップのカリキュラムを丁寧に設計することで、学生に対する教育効果だけでなく、企業の社員教育という新たな価値がうまれる。そのためのポイントは、以下の3点である。

  1. 学生、受入企業双方に対する事前トレーニングの徹底。3週間という限られた期間で最大限の成果を得るためには、何のためのインターンシップを実施するのか、期間中に達成すべきこととは何か、といった設計が重要である。
  2. チーム制の導入。インターンシップに参加する学生をチームで派遣することにより、学生間での学びが深まるとともに、受け入れ担当者にチームをマネジメントするという環境を提供することができる。
  3. 受入企業トップのコミットメント。インターンシップを「人材育成の機会」ととらえ、業務として取り組むことが必要である。それにより、受入担当者やその周囲がインターンシップに本気で取り組むことができる。

参考文献

*1:日本経団連「中小企業における人材の確保・定着・育成に関する調査結果」

*2:株式会社野村総合研究所「企業における人材マネジメントの取組に関するアンケート調査(2008年12月)、株式会社野村総合研究所「教育機関と企業の交流等に関するアンケート調査(2008年12月)

*3:高知大学教育研究部 総合科学系地域協働教育学部門 研究論集 Collaboration vol.4 2013 『首都圏SBインターンシップの開始ーSBIの新たな取り組みー(大石達良・福井美和)』より抜粋

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瀬沼 希望

NPO法人ETIC. チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト事務局 コーディネーター/1989年新潟生まれ。新潟育ち。大学在学中から、地域コーディネート団体でのインターンシップを経験。地域の中小企業と大学生のマッチングイベントやインターンシップのコーディネート業務などを行う。ETIC.参画後はチャレンジ・コミュニティ・プロジェクトにて「地域コーディネーター養成講座」の企画運営など行う。全国のおいしい日本酒を飲みながら地域の面白い話を聞くのは楽しみの一つ。