2001年から社会起業家支援を続けてきた、WEBメディアDRIVEを運営するNPO法人ETIC.(以下、エティック)。昨年に引き続き、これまで出会ってきた社会起業家が向き合う現実の変化に呼応するように、社会課題解決という長い旅路に組織と個人が持続可能に関わり続けるためのラーニングジャーニーを開催しました。
「自分たちが向き合う複雑な社会課題の構造は?」
「私は『なぜ』『何のために』この仕事をするのか」
「作り出したい未来は? どのように自分の活動を更新できるのか」
本記事では、こうした問いと深く向き合った3ヶ月間のラーニングジャーニーのレポートをお届けします。
前編記事はこちらから。本ラーニングジャーニーの詳細、1回目の集合研修の様子がまとめられています。
「I(わたし)-We(わたしたち)-It(社会システム)」の旅路に触れ、感じる
1回目の研修を終え、2回目は7月に1泊2日で東京での合宿を行いました。合宿のテーマは、「”Iの変化”が生みうる影響と可能性──変化の源として生きることを探求する」「Weを主な題材としながら、システムリーダーシップを探求、実践する」です(※本ラーニングジャーニの学びの中心にある「I-We-It」のフレームワークについては、前編記事に詳細をまとめています)。
合宿1日目の午後には、「I-We-It」のつながりを体感するために、事務局が参加者に出会ってほしいと感じた「I-We-It」の旅路に向き合い続けている他団体への視察を実施。
困難を抱えた子どもへの無償の学習支援や居場所支援を行ってきた「NPO法人Learning for All」、LGBTを含めたすべての子どもがありのままの自分で大人になれる社会を目指し、出張授業や企業研修を実施している「NPO法人ReBit」、貧困問題を社会的に解決するために、生活困窮状態の人たちへ向けた入居支援や交流事業、生活相談・支援事業を行っている「NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」へ、3チームに分かれて訪問しました。
NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの事務所にて
筆者は「NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」に同行。当日は休日にも関わらず、理事長の大西 連(おおにし れん)さん、事務局長の加藤 歩(かとう あゆみ)さんが迎えてくださり、事務所を巡りながら、困難な社会課題に向き合う中でスタッフは普段どのように自分自身も大切にしながら仕事をされているのか、同じように福祉をテーマにした参加者からの踏み込んだ質疑を交えながら、お二人がここにいる背景、もやいの信念と自分自身の信念とのつながり、社会構造へ向ける視座、他団体との協働について2時間かけてお話を伺いました。
わたしと、わたしたちの未来を描く
会場に戻り、各視察へのリフレクションを全体で共有し終えたあとは、一息ついてこの日最後のコンテンツ「We(わたしたち)」をより深く探求していくタームに入ります。
事務局がこのために用意したのは、「ディープデモクラシープロセス」という対話劇。特定のアジェンダを中心に、様々な声や立場(経営者、マネージャー、現場スタッフなど)を役柄として見立て、表明し合いながら、集団に生じている葛藤や行き詰まりを再現します。
設定したアジェンダは、「サービスの質を落とさずに事業を拡大したいが、人材育成している余力がないジレンマ」。
体験後、参加者からは
「経営層からするとマネージャーに経営的視点を持ってほしいが、現場の声が持っている力にマネージャーは引っ張られる」
「現場リーダーのとき一番大切にしたいのは受益者(It)。経営が思っているItとの解像度が違う」
「経営の守りの立場では、弱みを出してはいけないというより、対立が始まった時点で思うことはいろいろあるものの、すごく言いづらい。声を自分で消してしまう」
「前提に感情を共有するということがあって初めて、状況をどうするかという段階がくる。それが今いかにできていないかということに気づいた」
といった、それぞれのロールの現実の追体験をしてこその気づき、Weで生まれるコミュニケーションのプロセスを俯瞰して見ることができたときに生まれた気づきへの声があがりました。
さらに踏み込んで、次は先ほどのワークの場の根底にあり、IやWeに影響を与えていたと思われるメンタルモデル(個人の持つ世界に対する認知や解釈)を全員で探していきます。
一方では「とらわれている固定観念がある。ポジティブなワードがほぼない」という声があがったかと思えば、「ポジティブな制約がある。『人は分かり合えるものだ』と思っている」「ポジティブなことが書かれているように見えるが、じっくり読むと残酷だったりもする。見てて苦しくなった」といったメンタルモデルが見出されていきました。
ワークを終え、「逆説的に『こういうものにとらわれないようにやっていこう』という気持ちになった。日々の思考を可視化したことですっきりした」という振り返りが生まれたところで、1日目の日中のプログラムは終了となりました。
変化の源としてのわたしにつながる
一夜明け、合宿2日目。同じ組織からの参加者がペアになって散歩をして、自分たちの組織のメンタルモデルを探求する時間からスタートしました。会場に戻ったあとは参加者全員で輪になり、見つけ出したメンタルモデルの背景にある自分自身の痛みや諦め、不安、恐れについて共有していきました。
共有されたメンタルモデルを乗り越えていくためにも、役割としての自分ではなく本来の自分を探求する時間として事務局が準備したのは、複数枚の写真。気になるものを1人1枚選び、その写真をサポートに「今この瞬間、現れようとしている本当の願いや、“可能性”としての自分はどのような存在ですか?」という問いに対して思い浮かぶものを自由に話す、2人1組でのインタビューを行いました。
自分自身に深く向き合った午前中を終え、午後には、3〜5年後に実現したい「組織と自分の理想の姿」をレゴブロックで表現するというワーク(レゴ®シリアスプレイ®)を実施。
組織の未来の源としての自分自身の姿、組織の未来の源としての自分たちの姿、取り巻くステークホルダーの姿などを表現して、その「組織ビジョン」に名前をつけた作品を囲み、皆で語り合う体験をしました。
合宿の最後は、「組織ビジョン」の実現に向けて何ができるか対話をし、ネクストアクションを考え合いました。次回の最終研修に向けて、作り出したネクストアクションに取り組もうと考えた際に感じた感覚、感情や、そこに影響しているメンタルモデルについて内省の時間をとり、合宿は終了となりました。
システムとダンスするように生きる
最後の集合研修は、8月に都内のイベントスペースで開催されました。これまで、I(わたし)とWe(わたしたち)のメンタルモデル、相互作用を見つめてきましたが、最終回ではIt(社会システム)をより深く見つめるため、ステークホルダーや社会のメンタルモデルと向き合う時間となりました。
まずは、『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。――スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー ベストセレクション10 』(SSIR Japan編集,2021)に掲載された『システムリーダーシップの夜明け』という論文を全員で読みました。
システムリーダーとは、問題に関わる多くの人々を支援し、「自分も変わるべきシステムの一部なのだ」という気づきをもたらし導く存在。これからの時代に欠かせないリーダーのあり方のことです。論文を通してシステムリーダーシップの本質や、どうすればシステムリーダーになれるのかを考えていきました。
さらに、それぞれが追求したいテーマについて参加者同士が考え合うワークと、いま感じているIから始まる変化のストーリーを語って、その変化を後押しする声、反対に現状に押し戻そうとする声を出し合うワークを実施しました。
最後には、自身と周囲が相互に変容していくために、それぞれが信じる正しさが異なっていたとしても複雑性の中に留まり「ともにいる」こと、その先に誰のもとにもなかった第3の選択肢を見出していく生き方を体感する、ある文章が綴られた手紙を読み合うワークをして、チェックアウトの時間になりました。
この3ヶ月間を振り返って生まれた声は、下記のようなものたちです。
「仲良くなれるか不安だったが、今では皆に手紙を書いているときに泣きそうになるぐらいあたたかい新たな仲間ができた。こうした場づくりは大事。自団体でもやっていきたい」
「組織の全員にとってここで過ごす人生の貴重な一瞬が良い時間になる方がいい。その人を丸ごと受け入れるということが、それにつながるのではないかと思うようになった」
「何かあったら戻ってもいい場所があると一歩目が踏み出しやすい。それは社会変革でも日々の活動でもそうなのでは。自分たちはどれぐらいの人に『いってらっしゃい』と言えているか。このキーワードはこれからも大事にしたい」
「自分自身が達成したいことと団体が目指したいことのつながりを考えて、自分の新しいビジョンが見つかった。その途端に悩みの種だった課題がビジョンに近づく種に見えたり、どうでもいいと思えるようになった。この場で自分に向き合ってやっと感情や言葉が出てきた。皆さんの言葉も自分の中で反響した。これからの日々も楽しみ。一人ではこうはなれなかった」
システムチェンジの旅路は、複雑性のなかを航海し続けるようなもの。そんな中、少しだけ荷物を降ろして今後のビジョンや問いを見出す停泊期間のような3ヶ月間のラーニングジャーニーは、今後も開催を予定しています。最新情報は、ぜひエティックのWebサイトからチェックしてみてください。
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