新型コロナウィルスで生活が変わり、これまでの暮らし方・働き方を見つめ直している方も多いのではないでしょうか。
日本酒文化を未来に引き継ぐための事業をしているナオライ株式会社。代表の三宅紘一郎さん自身、広島で農業と酒造りを行っています。人が自然を支配するのではなく調和すること、暮らしを慈しむこと、などの思想を、事業を進めることと同じくらい大切に扱って発信されています。その考えが、withコロナ時代の暮らし方にヒントになるのではとお話を伺いました。
三宅 紘一郎 / ナオライ株式会社 代表取締役
1983年生まれ広島県出身。多様で豊かな日本酒文化を未来に引き継ぐため、2015年にナオライ株式会社を創業。瀬戸内海に浮かぶ人口21名の離島・三角島に本拠地を置く。スパークリングレモン酒MIKADO LEMONの開発、日本酒を低温浄溜した浄酎(Jo-chu)の製造販売などの事業を展開中。
コロナでの日々の変化
――この数か月どのように過ごされていましたか。コロナは生活や事業にどのように影響がありましたか。
ナオライの拠点は広島県内に2ヶ所、浄酎を製造している酒蔵がある神石高原と、レモン畑がある久比の三角島になります。もともとその2拠点と他地域・東京を渡り歩く生活で、コロナの自粛期間は専ら広島県内、酒蔵とレモン畑を行き来する生活になりました。三角島は高齢化率が70%を超える島で、地域外と行き来する仕事は一般的ではないので、島の人は外部から来る人に敏感になっている雰囲気は感じました。マスクを着け、地元の人を不安にさせないよう心がけていました。
とはいえレモンや酒といった自然相手の仕事も多いので、仕事が一切止まるということはなく、製造や商品開発を粛々と少人数で行っていました。
前々から準備をしていた会社の周年行事を始めイベントは全て中止、三角島での農体験もなくし、事業への影響はそれなりにありました。ただ、主力商品である浄酎が若いブランドであることもあり、ここからスイッチできる、やりようはある、とポジティブに捉えようと考えました。
業界全体を見ると、外食産業向けの業務用販売が大きく影響を受けることが予想され、単月の売上が前年比50%減なんていう酒蔵もたくさん出ています。酒蔵は、倉庫に酒の在庫が余っているのに、今年醸造するための米を買わなければ行けないという状況に追い詰められており、もともと縮小している酒造業界で更に廃業が出る気もしています。ご一緒している酒蔵は、何とか切り抜けていこうという想いを持って皆さん頑張っています。
自分達の主力商品である浄酎は日本酒からピュアなアルコールを極限まで温度をかけず抽出して造るお酒で、余っている日本酒を価値に変えるということも使命に掲げています。ただ、今は自分達のキャパシティだけでは到底対応することができなくて、ふがいなさも感じています。
日本酒を低温浄溜したお酒、浄酎(Jo-chu)
未来にいいものを仕込んでおくとやがてやってくる。時間の捉え方を変えてみたら
――緊急事態宣言中、移動が身の回りに限られたり、状況も都道府県ごとに違ったりして、地域毎の独立性とか存在は強く感じるようになりましたよね。他に、Withコロナの生活で気づいたことはありましたか。
観光業や飲食店は人が来れば来るほど素晴らしいという感覚でしたが、今、混み合う場所では人数制限せざるを得ない状態です。10人しか呼べない条件でやるのと、呼べるならば100人1000人呼びたいと思いながらやるのとでは、事業をする上での頭の使い方が全く違ってきます。自分は、10人しか呼べないけれど事業を続けたい、という状況に未来を感じます。数を追うだけでは得られなかった世界が出てくると思います。数を追うことも悪いことではないのですが、見えなくなってしまうものもあるので。
時間に関する感覚も変わっていくのではないでしょうか。市場規模は単年で捉えることもありますが、未来の市場規模という考え方もあります。全国的にもあると思いますが、例えば広島でも有志メンバーのお声がけで「ひろしま飲食店未来チケット」という取組が始まっており、大切な飲食店を潰さないようにできることをやろうという取り組みに心をあらわれました。お客さんがお店を支えようという取組で、今すぐではなく未来に向けてのお金を払っているんですよね。これは緊急事態宣言がなければ生まれていなかったかもしれません。今は飲食店が多いですが、他の業界にも広がればなと思います。
時間って、過去から未来に流れているのか、未来から今に流れているのか、そんなことを緊急事態宣言中ずっと考えていまして。現代は、過去の積み上げで今があるという考え方が一般的ですが、江戸時代の人は未来から今に時間が流れていると考える生き方をしていた、と聞いたことがあります。「未来に沢山いいものを仕込んでおくと、時が来ればここに来る」というような。その考えが面白く、消費、学び、人間関係…色々なことに取り入れてみたいと思っています。
コロナ前の世界を踏襲するのではなく、これからの地球での生き方、人の行為の正しさを考えていきたい
――少しずつ日常を取り戻している街を見て、どのように感じていますか。
広島も、一時は平和公園にもほとんど人がいませんでしたが、今は人数規制が行われる程度までになっています。街が少しずつ日常を取り戻しているように感じていますね。
私は、コロナは「鏡」であったと考えています。今までの良かったことも悪かったことも浮き彫りになり、色々なことを見直す機会になった面もあります。今後日常が戻ってきたとしても、コロナ前を踏襲するのではなく、これからどのように自然と向き合って行けばいいのか、人の行為は正しいのだろうか、と自分に問いかけていきたいです。
――具体的には、どのようなことをお考えでしょうか。
商売において「三方良し」の状態を作ることが大事とはよく言われますよね(※注:「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。売り手と買い手がともに満足し、社会に貢献もできるのがよい商売であるということ)。自分達は、三方だけでは足りない、「未来良し」「自然良し」という観点も必要だと考えてきました。今を生きる自分達だけではなくて後の世代の人々にとって良い状態になっているか、人間だけでなく他の動植物や自然にとって良い状態になっているか、ということですね。これって本当に欠けがちで、誰かを・何かを搾取するビジネスモデルが当たり前になってしまっているんですよね。
私自身にも、まだまだしみ込んでいます。例えば、レモン畑で有機農業を行っていて、自分では「自然に良いこと」をしていると思っていたんです。ある日農業の先輩に「そのやり方だとレモンと、レモンと共生できる虫しか生きられない。モノカルチャーで自然からするとマイナスですよね」と言われまして。いいことをしているつもりが、自分の行為によって生態系が破壊されていると気づいてショックでした。それを完全になくすことは無理でも、意識をしながら行動を選んでいきたいです。
――コロナで生活様式が変わり、自分が当たり前に行ってきた行動を「これまでのスタイルは正しかったのか?」と振り返った人は多かったと思います。一方で、正直「自然よし」までなかなか考えられない、とも感じました。三宅さんの感覚は、他の人に通じていると感じますか?
まず、コロナを経験して、体に良い食事や免疫がつく発酵食品を食べたいという気持ちは皆さんの中に出てきていると感じます。良いお米で作ったお酒や副産物は、今のタイミングだから受け入れられそうな気がしています。生産者側の情報を発信して、生産者と消費者との壁を超えたいと思っていたのですが、そのニーズは増える気がします。
一般社団法人Code for Japanさんと、Code for SAKEという取組をして、酒蔵のECを考える場を持ちました。「この1本を買うことでどんな影響があるのか?」ということを想像しながら買う・暮らすスタイルを実現していきたいです。例えばオーガニックな田んぼのお米で作ったお酒を飲むときに、自分の体にいいというイメージだけでなく、豊かな生態系を持つ田んぼのイメージも広がる、そんな売り方をしていきたいと考えています。
広島県北部神石高原町の田んぼ。ここの有機米を使用した純米酒から、浄酎を造っている。
――自分の体によいことへの関心から、生産現場や自然への影響まで意識が繋がっていくということですね。
Withコロナの時代が、そのような機会にもなればいいですね。ただ、いつであっても自分達の思想を押し付けることはしないです。
ナオライが浄酎やMIKADO LEMONを造る理由なんですけれど、気づくきっかけを作りたいと思っているんですよね。おいしいと感じたところから、生態系の豊かさや人のあり方を想像してもらったり、何となく面白いと思って現地に来たときに、僕たちが大事にしている世界を感じてもらったり。
熱心になるほど、つい「べき論」で語ってしまいがちなんですが、そもそも自分達はこのやり方が楽しいからやっているんですよね。自分達が楽しいと思ったことをコツコツやる、それがいいと思った人はどうぞ勝手に真似してください、というくらいの感覚です。
くらしを、自分たちの手に取り戻す
――コロナで身の回りのことや家での飲食を楽しむ変化があると感じます。お酒がこういう役割になっていくのでは、というところを教えていただけますか?
お酒はこれまで、外で外部の人と繋がるために飲むものでした。極端な言い方をすると、接待ならば、多少飲んだくれて家を蔑ろにしてもよい、というイメージすらあったと思います。だけど本来お酒には気の流れをきれいにするという意味もあり、ナオライも飲む人が自分の内側と向き合うようなお酒を作ろうとしてきました。コロナで外で人と飲む機会が大幅に減ったのは予期しないことでしたが、このタイミングだからこそ、自分の内面と向き合う飲み方を提案していきたいですね。
――お酒以外の点では、これからどんな時代になっていくと思いますか。
里山推進コンソーシアム代表の末松弥奈子さんとお話しているときに「都市だけが中心という感覚を捨てよう、中心はそれぞれの地域にあるよね」という言葉にハッとしました。東京や大阪が絶対的な中心なのではなく、自分でいうと瀬戸内とか広島とかに中心があるわけです。
都市の人が地方から物を買うと地方が元気になる、ということもよく言われますが、上下関係で“買ってあげる”感覚ではなく、フラットに地域に向き合ってもらいたいという願いがあります。
地方側にも、都市に出ないといけない、都市の人に売ることを目指さないといけない、というような感覚がありました。それを一度をなくして、誰に売りたいか、誰と繋がりたいか、考えたらいいと思います。
都市中心で物事が進んでいく社会には面白さを感じないし、その社会に戻ってほしくないですね。
2019年に、ナオライ本社がある久比で、久比に関わる人達と「まめな」という一般社団法人を作りナオライも参画しました。まめなのテーマは「くらしを、自分たちの手に取り戻す」。久比は450人の集落で空き家率は40%。空き家を1つ1つリノベーションしながら、理想の未来の暮らし方を作ろうと、様々な取組をしています。
私たちの世代は、お金があれば季節も関係なく何でも買える時代に生まれてきて、くらしを作るというよりは消費者であるという感覚が強いのではないでしょうか。消費したり買うことの体験はするけれど、何かを育み生み出し、くらしを作るという体験をする機会はあまりないんですよね。「まめな」では、種から土壌を改良して穫って食べる、というような「育む力」を体験し学べる場を作りたいと話しています。自分で何かを作るということは、意識を自分の内側に向けるシーンを増やすことでもあります。ずっと考えてきたことではありますが、コロナの期間になってからは一層強く考えるようになりました。
まめなの活動拠点、久比
――以前から「くらしを自分達の手に取り戻す」というコンセプトを聞いていましたが、コロナでの生活の変化を受けて、社会でもそのようなことが言われているような気がします。
「外に出て仕事している自分は偉い」というような考えが、数年前までは自分もあったんですよね(笑)。でも、食卓を囲んで会話を楽しむ時間や、自分としっかり向き合う時間も大事にしたいと思うようになりました。
欲に関しても、何かを買う喜び・買うだけの財力を持った喜びばかりを感じていました。けれど、初めて自分でレモンを作った時に、下手な出来でも今まで感じたことのないような喜びを感じられたんです。消費欲・所有欲から、育む欲・自然と繋がる欲に変化してきた感じがします。体験してわかること、変わることがあると思うので、他の人にも体験してもらえる場を作りたいですね。
――ありがとうございました!
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