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地方にこそ、人と地域をつなげて仕事をつくるハブになる飲食店が必要―Teshigoto 古平賢志さん

2023.04.06 

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カフェやレストランは、その土地の文化を体現し、発信の拠点となる場所。特に山や海に囲まれ風土が色濃い日本の地方では、「食」は豊かなコンテンツの1つであり、料理人やクリエイターが生産者に近い場所に移住し新しいスタイルを切り開く動きが生まれています。

 

千葉県松戸市には、4坪のスタンディング形式ながらコース料理を提供する地域の看板店「Tiny kitchen and counter」というワインバーがあります。店主である古平賢志さんは、飲食での従業員、食空間のプロデュース業を経て、生産者の声を伝える飲食店をつくりたいとこの店をはじめました。

 

「Tiny kitchen and counter」のコースは、スタンディング形式の飲食店の平均単価の3,4倍はするかと思われる価格帯ですが、オーガニック食材への関心の高まりと、コロナ禍ではじめた「MOKUJIKIー黙食」という、曹洞宗の修行の中にある「もくじき」からヒントを得た、黙ってすべての料理を手で食べ五感を刺激し、感覚を開くことをコンセプトとした“舞台のような”コースが話題となり、県外からも人が訪れる人気店に。

 

そんな中、古平さんは群馬県の限界集落である六合村に移住し、松戸でも月に1週間ほど店をオープンしながら、スパイス料理を媒介に六合村の文化を伝えるプロジェクト「yamanofoodlabo」をスタートされたのだそうです。

 

なぜ人気店を開き続けることを手放し、限界集落に移住されたのか。古平さんが考える飲食店の可能性、地域との関係性についてお話を伺いました。

 

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古平賢志さん/Teshigoto代表

1980年3月群馬県生まれ。大学在学中から飲食業の面白さに目覚め独立を胸に10数年間様々な業態で修行。修行していく中で飲食業が抱える問題と周辺地域の課題を知り、新しい仕組み作りを意識し始める。コンサルタントとして独立後、松戸市を中心に数店舗の飲食店の立て直し、また柏市の行政プロジェクトでのカフェやレジャー施設の立ち上げ、地元不動産屋との共同企画でシェアカフェの立ち上げ等に携わる一方、松戸市内の観光案内所を間借りして「good music and books coffeeStand」という若者向けの観光案内施設を運営。

2019年に「Tiny kitchen and counter」をスタート。コロナ禍をきっかけとして地元群馬の自然環境に改めて興味を持ち現在は群馬県の六合村という限界集落に移住しながら松戸の店を運営する2拠点生活を送る。

ローカルベンチャーラボ第7期において、「食」のまちづくりとエリアブランディングテーマゼミのメンターを務める。

自分がコントロールできる範囲で自分のメッセージをしっかり伝えるというビジネスモデルを実現した、4坪のワインバー

 

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――「Tiny kitchen and counter」はたった4坪の空間ですが、どうしてそうした場所を選ばれたのでしょうか。

 

お店を持とうと決めた一番の理由は、生産者情報をちゃんと伝えたかったからなんですね。そうするとカウンターで料理風景が見れて、料理人とコミュニケーションが取れることが必須だと思ったんです。さらに、僕が一度にお話できる最大人数が6〜8人だろうと。

 

そうすると、あまり広い店だと受け入れられるお客さんの人数上限に比べ、固定費が高くなって、さらに一体感もなくなってしまうと思って。箱は「狭い」ことが前提条件だったんです。

 

松戸を拠点に全国各地のエリアブランディングに携わっている寺井元一さんに物件について相談したら、現在の物件を紹介していただいて。最初は自分でも「狭すぎるかな」と思ったんですよ。そこで、自分を勇気づけるために、隣駅の北千住にある狭い店をたくさん見に行って。そうしたら「Tiny kitchen and counter」よりも半分くらいの狭さの物件で営業してる店もあって、自分もやれるんじゃないかと思えたんです。

 

あとは、本当にあの店を事業として拡張するつもりはなくて、当時は妻と2人で店に立っていたんですけど、1〜2人分の売上が立てられて、自分がやりたいことをしっかり補完できたらそれでいいと思っていたんです。それで行き着いたのが、あの形でした。

 

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――スタンディングでコース料理を提供されているのがお店の特徴かと思うのですが、なぜそうしたかたちを選ばれたのでしょう。

 

通常のカウンターだけの狭い店舗って、客単価がある程度低い一杯飲み屋が多くて、早く多く回転させる業態がほとんどだと思うんですけれど、そうしたお店を望む客層と生産者情報に関心を持つ客層は違うんですよね。僕の場合、生産者情報を伝えることを大事にしないと、本末転倒になってしまうので、狭い空間でスタンディングだけどコースを出すっていう選択を選んだんです。

 

いわゆるフレンチレストランと比べるとそれほど高い単価ではないんですけれど、スタンディングという形態からすると相当値段の高い、3〜4倍以上するような客単価になってしまうので、僕にとってかなりチャレンジングで。だから、最初の半年は赤字覚悟だったんですよ。そんなことをして誰が受け入れるんだろうかっていう疑問、不安も正直あったので。

 

けれど、当時オーガニックワインのブームが来ていたり、農家さんから直接野菜を仕入れているお店が増え始めてきていた流れもあって、好意的に使ってくださる方がいらっしゃって。コアなメッセージに対して、ちゃんと受け取ってくれるお客さんが少しずつ増えていったんです。

 

おもしろいのが、例えばお客さんに「これぐらいの年齢で趣味はこういう農家さんがいて、野菜に対してこんな思いを持っていて、この時期の土っていうのはこういう状態だからこういう野菜が採れるんだよね」と農家さんを紹介しながら料理を手渡すと、それにすごく感銘を受けてくれたお客さんは次はご自分でその農家さんのことを調べて、野菜の販売をしてるところに行くようになるんですよね。

 

そうした循環を体験して、生産者さんをご紹介をするっていうことがちゃんと機能していることを実感できたのが「Tiny kitchen and counter」という店です。

スタイルに共感する若者に留守中の店を預け、2拠点生活をスタート

 

――現在は群馬県に移住されて、お店は一部他の方に貸されているそうですが、どのように相手を見つけられたのでしょうか。

 

「自分がコントロールできる範囲内で自分のメッセージを伝える」というビジネスモデルに興味を持ってくれる若い人たちが増えてきていて。おそらくコロナがきっかけなんですよね。いわゆる大箱のチェーン店の居酒屋が軒並み潰れて、飲食において王道の売上を獲得していくビジネスモデルがことごとく破綻してしまって。そのとき一番割りに合わない目にあったのは、当時そこに勤めてた人たちなんですよね。

 

そうすると、「そもそも飲食って何なの?」とか、「自分は何をやりたくて飲食を志したのか」を考えて、技術や経験がある人はちゃんと自分が大事にしてることをやんなきゃ駄目だって思うようになったようなんです。

 

とはいえ、自分で箱を構えるにはすごい投資がかかるのでどうしようというとき、うちは小箱で、一日単位で貸し出していて、実際に僕は自分でコントロールできてきたし、客単価もしっかり取った上でちゃんと自分が伝えるべきメッセージを受け取ってくれるお客さんがいるよということで、若い子が来てくれて。

 

いま僕は月に約1週間ぐらい、山で仕入れた素材だったり季節の話だったりお伝えするために山から降りて、松戸でお店を開ける営業形態になっています。

 

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飲食店だからこそ、地域課題解決にコミットする

 

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――飲食店経営者の地方移住は耳にしますが、客商売という中で、なぜ限界集落へ移住して食のプロジェクトを始められたのでしょうか。

 

松戸時代の友達が群馬の山に数年前に移住して若いマタギの人と同居しているのですが、そこには生活と食の“近さ”みたいなものを実践している人たちがいて、いわゆるオーガニックライフとしての自給自足というよりも、自給していくしかないから自給自足みたいな環境に関心を持つようになったんです。

 

そこからコロナ禍に入って、僕ら飲食店もやっぱり通常の営業ができなくなって、生き方について考えるようになったこともあり、何かにすがるようにして群馬の山に滞在して。すると、普段の生活だと五感が閉じられていたんだけれど、閉じてた五感が自然と開くようになって、自分が感じられなかった匂いや音が体感できる経験をしたんです。「本来の人間らしい生き方ってどっちなんだろう?」と気付かされて、ちょうどコロナになる前に松戸のアーティストインレジデンスの企画で南インドのアーティストと交流しながら食文化を体験したとき自分の体に起きたことともリンクしたんですね。

 

ありがたいことに松戸のお店にはお客さんがついてくださっていて、コロナ禍中も無理して開けようと思えば開けられたのですが、本格的に移住に意識が向かって、物件を探してみたら条件に合致するいい物件が出てきて、もうこれは移住しようって決めました。

 

食のプロジェクトをはじめた経緯は、もともと僕にとって飲食店って、飲食物を通してお金をいただく空間ではあるのですが、もうちょっと踏み込んだことをやらなきゃいけないなっていう気持ちが常にあって。飲食店が自分たちだけ儲けてそれでいいのかというと、世の中が良くなってお客さんがハッピーになって、お客さんがそれなりにお金を稼がないと僕らの商売って成立しないんですよね。自分たちだけが儲ける仕組みだけでやってると、終わりが見えてきていて。

 

これまで生産者のところにちゃんと行って、情報を携えて、農作業とかも手伝ったりして、それを料理と一緒にお伝えするっていうことをやってたんですが、もっとスケールを広げて考えたときに、例えば山間部に来ると林業の衰退や買い物弱者の問題もあったり、過疎化や高齢化だったりがついてまわって、それらを全部無視してとりあえずどこからか仕入れて何倍かの値段にして売って儲けてだけではだめだろうと、もっと手を広げようって思ったんです。

 

だからこっちに来たとき、飲食業をやるっていうつもりはなかったんですよ。とはいえ、これまで飲食店を経営してきたので、飲食物が関わってくるだろうとは思っていたのですが、いわゆる店舗を構えて常にオープンさせることは違うなと思っていて。それで最初は間借りしてポップアップイベントを開催したり、料理教室をやったりして、自分のやれる範囲内でとりあえずいろんなことをやろうって思っていました。

 

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集落の文化と歴史、生活と食を融合して“食の舞台”をつくり、限界集落に外の人を呼び込む

 

――現在は六合村でどんなプロジェクトをはじめられているのでしょうか。

 

村の人に山から木を切っていいという許可をいただいていて、木で器とかキャンドルスタンドを作っています。それもつまりは、高齢化で山の管理が難しくなった人たちから木を譲っていただいて、マネタイズできるようなプロダクトに変えていくという仕事で。いまは料理提供の際に舞台装飾として付加価値をつけて販売していく仕組みを作ろうと模索しています。あとは、山の素材でスパイスミックスを作ることを実験的にやり始めていて。

 

また、コロナをきっかけに、この村に移住したいとやってくる非常に若い人が増えてきたんですけれど、実際に彼ら彼女らが直面する問題は大きく3つあって、家が出てくるのかというのと、村の人と仲良くなれるのかっていうのと、仕事はあるのかっていうところなんですね。

 

まず家は大丈夫そうなのですが、次にその村に溶け込めるかどうかっていう話は、やっぱりまったく繋がりがない人が突然その村に入っていくのは、人間性も影響しますがそうはいっても大変だなと思います。だから例えば移住する前に、「お試しで僕らが住んでいる家に住んでみなよ」っていうことができたら移住のハードルってぐっと下がるだろうなと思っていて。

 

最後は仕事ですが、仕事がないってことはないんですよね。それこそ林業の従事者は不足していて、補助金もあるのでお金になるのですが、やり手がいないから山が放置されてるっていう現状もあるので。でも、その情報って結局内部情報であまり表に出てきませんし、そこを僕が山でとれるものをプロダクトにしてマネタイズの仕組みをつくるとか、試しに村に行ってみたいってなったときのハブになるような飲食スペースを作るとか、若い人が移住しやすい環境をつくれたら、マンパワーが増えて山で起こっている問題解決のスピード感が早まるのではないかと思っていて。

 

また、外からこの村を訪ねたいと思ってもらうために、六合村独自の魅力的な世界観を表現しないといけないなと思っていて、以前リサーチした村の食文化とか歴史から構想を練って「ヤマノタミ」という“食の舞台”プロジェクトを始める予定です。

 

――“食の舞台”というのは、どのような舞台になるのでしょうか。

 

「舞台」になったのは、松戸の店でコロナ禍ではじめた「MOKUJIKIー黙食」というコースがあるのですが、その体験からヒントを得ました。このコースが生まれたのは、コロナ禍で黙って食べることが求められる中、話して伝えることに価値を置いた店でしたし、癒しの時間を提供していたはずの飲食店が食料供給所みたいな位置づけにされていることにすごい怒りがあって、黙って食べることを逆手に取ったすごいやつを作ってやると思ったんです。

 

そこから構想を進める中で、インドで言語コミュニケーションがあまり取れず、自分が普段食べ慣れない料理を食べるとなると黙るしかなくて、黙ってるけど他の人がどう食べてるか、何入ってるのかをすごく探っていたのですが、すると食事をすることの解像度がめちゃくちゃ上がって、香りのレイヤーだったり、食感とか、一つひとつが記憶されていて、そこに食事の本質を感じた体験があって、その記憶と繋がって。

 

ただ黙って食べようだとおもしろくも何ともないので、オープニングとクロージングを作って、より集中してもらうため照明を落としたり、音楽もアンビエントミュージックをかけたりして、初めての食材を手を使って黙って食べるときに自分の中でどういう感覚が起きているかっていうことを1回1回確かめながら食べるコースを作ろうと思ったんです。実際始めてみたら、お客さんの反応を見てから気づいたんですけど、舞台要素があるんですよね。「舞台みたいだった」って感想を述べてくれるお客さんも非常に多くて。

 

そうした体験があって、群馬県民からしても何か秘密が多い土地に感じる六合村で、集落の文化や歴史をベースにした、とはいえ学者ではないので“架空の”物語を作って、その舞台の中で食事をさせるのはおもしろいんじゃないかと思ったんです。

 

また、インドでの滞在期間、外資企業が参入している都市部でも過ごしたのですが、複数の宗教文化がミックスされて、人種や宗教が多様になり、そこに紐づいて食文化がいい意味でカオスになっている土地の雰囲気がすごく新鮮で居心地の良いものに感じられて。生活と食文化、地域の文化を一緒に舞台にして表現していくことへは、そうした記憶も影響しています。

 

実際、この辺りの山の中にある空海に由来している寺院の装飾は、ネパールのお寺の装飾とすごく似てるんですよね。自然環境の厳しさもネパールと共通する部分があって、食材も限られていて。もしかしたらこの辺りの郷土料理にスパイスを入れたらネパール料理に近くなるんじゃないかと感じるくらいで(笑)。

 

まず最初に4月末に群馬に移住した友達が経営する宿で、場所を借りて5日間ぐらい「ヤマノタミ」の演目をする予定です。

 

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地方にこそ、人と地域をつなげて仕事をつくるハブになる飲食店が必要

 

――最後に、古平さんが感じられている地域での飲食店の可能性について教えてください。

 

移住して実感したのですが、こうした場所に何が一番不足してるかというと、やっぱりコミュニティ機能なんですよね。いわゆる新しく入ってきた人たち、観光客とか、地元に住んでいる人たちをつなげたり、新しい人がしばらく滞在したいというときに面倒を見れる店主がいたら、山間部の問題解決のための新しい仕事が生まれたり、もっと自然と地域と人をつなげられると思っていて。やっぱりそれがないと人が散っていってしまうので。

 

飲食ってある種誰もが利用するし、利用しやすいっていう強みを持っていて。プラットフォームとして機能する可能性を持っているので、地域のハブになる飲食店がいろんな場所で生まれていってほしいと思っています。

 

これからお店をやりたいっていう人たちも、いろんな理想を描くと思うのですが、地方でやる理由ってそこを加味してお店を作らないと、変な話おもしろくないと思うし、実はすごく重要なポイントになるんじゃないのかなと思っています。

 

――ありがとうございました!

 

※こちらの記事はローカルベンチャーラボに掲載の記事からの転載です

 


 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。