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副業人材じゃなくて、ともに理想を目指す「バディ」。大川印刷の副業人材と経営者の二人三脚の半年間に迫る

2021.12.28 

【1】サムネイル

 

横浜市は、企業や大学等との連携により、街ぐるみで人材交流やビジネス創出などに取り組む「イノベーション都市・横浜」を宣言しました。これまでに、みなとみらい地区の研究開発拠点をはじめ、様々なイノベーション人材の交流機会が形成されています。その一つとして、スキルを持った副業・兼業人材の活用による、市内のスタートアップや中小企業の経営課題の解決、組織の垣根を超えた人材交流・成長機会の獲得を支援する──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を行っています。この事業を通じて副業・兼業人材を受け入れた株式会社大川印刷の事例を取材しました。

 

大川様プロフィール2

 

【3】小園様プロフィール

 

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副業人材じゃなくて、『バディ』

「環境印刷で刷ろうぜ」

株式会社大川印刷のホームページを開くと、目に飛び込むキャッチコピーです。環境印刷=環境に配慮した印刷のこと。大川印刷では、再生可能エネルギーやサステナブルな用紙の使用、梱包材のゴミ削減のためにプラスチックコンテナでの納品をしています。社長の大川哲郎(てつお)さん(54)が、環境印刷へ舵を切ったのは2004年のこと。SDGsが国連で採択された2015年よりも、さらに11年も前のことです。

 

「デザイナーなので、印刷会社とは多くお付き合いしていたんです。その中でも、大川印刷さんは先進的でめっちゃ面白い会社だなと思いましたね。」

 

そう語るのは、小園 勝之さん(39)。2021年4月から、大川印刷に副業人材として参画しています。以前から学生のインターンシップは積極的に導入していたという同社。インターンシップの仲介で縁があったNPO法人ETIC.から紹介を受け、「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を知ったのだそう。

 

副業人材の活用は、今回が初めてでしたが、「デザイナーとしてのスキル」「社内の組織づくりにも貢献してくれそうだったこと」「環境印刷という自社のビジョンに共感していて、共に事業を推進できる仲間になれそうだったこと」が決め手となり、小園さんとの協働がスタートしました。

 

副業人材ってよそよそしいでしょ。『何かいい名前ない?』ってメンバーに募って、『バディ』にしたんだよ。」と、大川社長は言います。

 

【4】2ショット

 

1対1で、1~2時間の対話を全員と

 

小園さんが副業人材として参画した当初、社長と話し合った末に生まれたミッションは、主にスキルの伝授でした。外部の協業パートナーとの仕事の進め方、デザインスキルの底上げなど、デザイナーとして長年活動してきた小園さんのスキルを、大川印刷の従業員に伝えるというもの。

 

しかし、当初の計画は早々に変更されることになります。

 

デザイナーとしてはもちろん、今のビジネスマンには共感力が大事だと思っています。スキルの前に、一人ひとりが、もうちょっと他者を知り共感を高めるということ、そして他者の成長に寄与していくという意識を持たないと、にっちもさっちもいかないな、というところがありました。」

 

小園さんは、組織と教育体制を整える提案を社長に行います。その後、企画デザイン課の全員と、1時間から2時間くらい時間をかけて1対1で話を聞くことからスタートしました。しっかりメンバーの人となりを理解したところで、3人1チームによる少人数マネジメント体制と、「クリラボ」と呼ばれる社内スタッフの仕事共有の場や、「超デザ院」と呼ばれるデザインのスキルとマインドセットを伝える社内研修企画を提案していきます。

 

超デザ院

研修企画「超デザ院」資料

 

「小園さんの素晴らしいところは、ちゃんと従業員の話を聞いていったってところ。そのおかげで、仲間になれてると思うんですよ。」(大川社長)

 

工夫が施された取り組みを通じて、従業員自身が学ぶ楽しさや、自分が成長する喜びを感じている、と大川社長。小園さんに、過去に似たような業務経験があったのかを尋ねると、答えはNO。過去の自分の経験から来る反省をベースに、足りないところは本から学んで補っていると言います。

 

「隙間時間にまっさきに考えるのは、大川印刷さんのことでした。」

 

――そんなに副業に力を入れて、本業に支障が出ることはなかったのでしょうか?

 

「うーん、ないですね。副業の方のキャパシティもけっこう増えてはきているものの、ちゃんと本業は本業の方で滞りなく仕事しています。むしろ相乗効果の方が大きいと感じます。」

駆りたてたモチベーション、どこから?

 

もともとお願いされた仕事は、「スキルの伝授」。外部人材として、お願いされた仕事だけをこなす選択肢もあったはずです。しかし、小園さんはそうしなかった。メンバー一人ひとりと膝を突き合わせ、本質的な変化を起こそうとしました。何が小園さんを突き動かしたのでしょうか?

 

「“働くってことを楽しいって思える人が社会に少しでも増えてほしい”っていう、自分なりの小さな使命感みたいなものがあるんです。僕が関わることによって、大川印刷で働く皆さんにも、少しでもそう思ってもらえたら。僕にとっても、それは幸せな仕事になると考えています。」

 

【5】小園様写真

 

その原点は、小園さんの過去の経験にあります。27歳のとき、小園さんは、会社のナンバーツーとして、デザイン事務所を切り盛りしていました。マネージャーとして未経験の若手デザイナーを育てながら、プレイヤーとしても自らメインでデザイン事務所の業務を回す日々。

 

「『自分がひたすら頑張って仕事します!』って感じだったんですね。僕が先頭切ってやりすぎることで、部下はモチベーションの維持に苦労したと思います。」

 

めちゃめちゃしんどかった、と当時を振り返る小園さん。育成した部下が働きがいを感じられずに育てては巣立っていくという6年間。相談できる先輩はおらず、学ぶ余裕もない。心身ともに限界でした。

「過去の僕みたいな人を増やしたくないなって思って。」

 

現場のメンバーの主体性を育むために、「ああしよう。」「こうしよう。」と言いすぎない。十分にコミュニケーションをとって、相手に胸襟を開いてもらう。当時の経験と反省は、12年の月日を経て大川印刷の仕事で花咲きます。

 

大川社長は、小園さんが関わったことによる会社の変化をこう話します。

 

従業員どうしの会話が楽しそうになった、明るくなったっていうのは、他の部署の従業員から聞いてます。あとね、あれかなぁ。経営者と従業員の橋渡し的なところも、小園さんに担ってもらっていると思いますね。」

 

「社長、部下に声をかける時、否定から入ってませんか。」など、従業員が面と向かって社長に言いづらいことを小園さんが伝えてくれることもあるそう。副業人材が関わるメリットを「仲良しクラブ」にならないこと、と言う大川社長。副業人材は、どっぷり会社に浸かってないからこそ、「そんな固いこと言わなくても。」という、なあなあの関係になりません。

 

その一方で、

「外部の方が入ってくるのは変化は期待できますけど、そんなに上手くいくとは限らなくてですね。」

と、大川社長は続けます。

上手くいったのは『バディ』になれたから

 

「私がもっと若かったら、たぶん小園さんをコンサルタントのように扱ったんじゃないかな、と思って。お金払ってんだから、『小園さんやっといてよ。』って。今でも、『それも小園さんがやればいいじゃない。』って思っちゃうこともあるけど、そういう事じゃないんだよね。背景にある状況や意味を理解しないとだめなんだな、と。」(大川社長)

 

小園さんが一番腐心しているのは、従業員の皆さんが、自分の頭で考えて“行動”できるようになっていくこと。そのために、小園さんが伝えた方がいいのか、社長が伝えた方がいいのか。誰が言うのがベストなのかは慎重に考える、と小園さん。

 

副業人材を入れたからと言って、課題がすぐに解決される訳ではありません。うまくいかない事を他人任せにせず、どうやったら解決に導けるのか共に考え、共にベストを尽くす。ここまでの成果が出たのは、大川社長と小園さんが、同じ目的を目指す「バディ」になれたからです。

 

あたりまえだけどね、みんな『人』でしょ。想いを丁寧に汲んで、小園さんの姿勢に敬意を表しながら、ものごとを判断することに注意してるかな。」(大川社長)

 

「僕の感覚的には、『大川印刷の小園です。』と言いたいくらいです。いつ名刺もらえるんだろうなって思ってますけど(笑)。」(小園さん)

 

成功の果実は、小園さん側にも。小園さんは、組織マネジメントや教育体制づくりのスキルが得られて、仕事の幅が広がる可能性を感じているとのこと。また、自分の仕事量が多いときは、大川印刷のデザイナーに発注することもあります。大川社長は、このデザイナーどうしの連携をこう語ります。

 

「これはすごくいい形だと思いましたね。若手のデザイナーが実際に仕事をしながら、小園さんから学ばせてもらえるわけですよね。通常の業務フローでは発生しないようなトレーニングの機会ですし、大きなメリットです。」

スロットマシーンを回し続ける

 

大川社長は副業人材を受け入れる時点で、これらのメリットを全部想定済みだったのでしょうか。

 

「先を読んでいたよ、とは言いませんけれども、何か起こることを期待してやってますので、常に。インターン生に『社長はいつもスロットマシーンを回し続けている人に見えますね。』と言われたことがあります。」(大川社長)

 

――スロットマシーンですか。勝負する、ということですか?

 

良い結果が起きるのをね、待ってられない、常に動きつづける、働きかけ続けるって感じですかね。宝くじを買わないと当たらないっていうのに似てるかもしれない。当たるか当たらないかって言う前に、買わなきゃ始まらない。何もしないで、『何か起きないかなぁ』って期待してもね、起きないですよね。

 

だから、自分でなるべく動きつづける。やり続ける。答えが出るまで。しつこいですよ。諦めないでね、スロットマシーンを回し続けるんです。」

経営者は、自分の命がかかっている

 

「大川印刷は、社長がパワフルすぎるんですよ(笑)」と、小園さんは言います。「従業員の皆さんには『社長についてきたからこそ、今がある』という大きな成功体験がある。ゆえに『自ら考えて動く』というマインドになりづらいのだ」と。

 

「その問題から逃げちゃいけないし、逃げるつもりもないんだけど。」と、大川社長。

 

「やっぱりさ、経営者って、かっこつけるわけじゃないけど、命がかかってるんですよ。」

 

【6】大川様写真

 

「社長としてお金を借りて、連帯保証人も私。何で2つとも私なんだろうなってよく思いました。中小企業の社長にとっては当たり前なんだけど、命がかかってるんですよ。お金返せなくなったら、全部差し押さえられるわけですから。まあ、社長ってそういうものなんでしょうけど(笑)。」(大川社長)

 

大川社長は、従業員に「会社に万が一のことがあってもいいように一所懸命に働きなさいと話しています。会社が万が一大変な状況になっても、関係している皆さんから「うちで働きませんか。」と声がかかるように。そして、それは社長も同じなのだ、と言います。

 

「うちの会社が倒産したら、私もただの人だから。大川印刷っていう看板があるからこそ、活動できている。だから謙虚に考えて、社長も同じように一所懸命にやらないと。」

 

共に働くことで、副業人材は経営者の生き様、働く姿勢に触れることができます。会食で出会うのとも、クライアントとして出会うのとも違う、経営者の横顔。「経営者としての覚悟と行動力はいつも尊敬しています。」と、小園さんは言います。

 

先月は、社長がギターを担当するバンドのライブを観て、その後、食事をしたというお二人。笑顔と真剣な顔が交互に立ち現れた対談、「本業を通じて社会課題を解決する」という目的に向かって進む、バディのお手本を見せてもらった気がしました。

【案内】令和3年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について

 

今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施しています。

また、当事業のWebサイトでは、副業・兼業の利用の流れや、副業・兼業に関する相談ができます。ぜひご覧ください。

 

【7】バナー

 

※本記事の掲載情報は、2021年12月現在のものです。

※本記事は、令和3年度 横浜市イノベーション人材交流促進事業で横浜市から受託し作成したものです。

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乗越 貴子

1982年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、塾講師、ネットサービスベンチャー企業を経て、NPO法人ETIC.参画。2児の母。志ある人と組織をつなげる求人サイトDRIVEキャリア(http://drive.media/career)で、事務局業務を担当しています。モットーは、「書くことと人をつなげることで、一歩踏み出す勇気を生み出せる人になる」