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チャレンジ創出を「環境づくり」と「つながりづくり」の両面から公私でサポート。気仙沼市役所・小野寺憲一さん

2021.05.10 

本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。

 

宮城県気仙沼市の復興プロセスでは、セクター同士の協働や移住者の活躍、地域の自律的な活動などが注目されています。そこで今回は、気仙沼市役所で復興政策を進めてこられた小野寺憲一さんに、何を感じ考え、どう動いてこられたのかを伺いました。

 

P1立教1トリミング後

小野寺憲一(おのでら・けんいち)さん

気仙沼市役所 震災復興・企画部長

宮城県気仙沼市生まれ。1989年気仙沼市役所入庁。主に福祉・介護、財政を担当。2011年3月の東日本大震災により自宅は全流失。震災後1年間は、社会福祉事務所児童福祉係長として保育所の再開・再建を担う一方、震災対応として炊き出し、被災者の応急仮設住宅入居調整、災害弔慰金支給、震災関連死認定等の業務に当たる。2012年度から震災復興・企画課。2019年度から震災復興・企画部長。復興管理から地方創生・まちづくりも担当し、「気仙沼まち大学構想」等を実践中。2021年4月からは保健福祉部長。

2014年以降、立教大学及び兵庫県立大学大学院でゲストスピーカーや非常勤講師を務めている。社会活動では、鹿折まちづくり協議会や気仙沼まち大学運営協議会に参画。趣味では、フルマラソンに75回出場するランナーであり、面瀬中学校の駅伝部コーチも務めている。2020年からは小学校6年生教科書「新しい社会6」にコラムが掲載されている。(2021年3月時点)

震災も、震災をきっかけに得られた環境も、「事象」ととらえて、未来に向けたまちづくりの仕掛けにする

 

――この10年の復興プロセスを振り返った時、どんな思いが浮かぶでしょうか。

 

気仙沼は以前から、明治三陸津波、昭和三陸津波、チリ地震津波などの自然災害に遭い、また、200海里問題や国際的なマグロ資源保護のための減船など経済的な打撃も受けながらも、これらの危機を乗り越えてきたまちです。そんな歴史の中で、東日本大震災はまちがなくなるようなとても大きな出来事でした。

 

しかしながら、20年後・30年後に気仙沼に暮らす人から見ると、この震災も過去の1つの出来事になるものと考えることができます。私は震災後1年が経って企画部門に異動したのですが、異動して半年ほど経った頃、「復興事業は何のためにやっているのだろう」「復興の先には何があるのだろう」と疑問が浮かびました。このようなことを自問しながら導き出した考えは、東日本大震災を起点に物事を考えるのではなく、過去から未来に向けて終わることなく続く「まちづくり」を考えの幹においてやっていこうと思いました。

 

――小野寺さんが考える「まちづくり」について聞かせてください。

 

気仙沼に特化したことではありませんが、それぞれの地域にはその土地の歴史や自然、文化、人材などの「地域資源」があります。まちづくりでは、これらを基礎にして地域の課題とそこに住む人々の想いをコーディネートし「融合」させて未来に向けたまちづくりの様々な仕掛けをすることが大事だと考えます。また、他地域の成功事例も参考にしますが、これはヒントにはなりますが気仙沼流にカスタマイズすることが必要です。

 

さらに、世界の流れ(メガトレンド)やまちに降りかかる様々な「事象」も融合させなければなりません。東日本大震災も、この「事象」と考えます。東日本大震災では尊い命と多くの大切なものを失いましたが、一方でこれがきっかけで得られた環境(例えばボランティアや企業のCSR活動、復興予算、災害復旧の制度など)もありました。これを事象と捉えます。これらも融合させた上で、行政・地域・産業界が方向性を合わせ協働し、創発が生まれることで「未来に向けたまちづくり」につながると考えます。

 

今はこの創発をチャレンジと捉え、気仙沼のあちこちで対話から共創・協働が生まれ、新しい挑戦やチャレンジが次々に起きる市民が主役のまちづくりを「まち大学構想」として展開しているところです。

 

P2図トリミング後

「まちづくり」の考え方

 

――では、市民にとっての復興はどう考えればいいでしょう。

 

「復興のバロメーターは何か。市民はどうなったら復興したと感じるだろうか。」震災復興部署として考えなければならないテーマです。阪神淡路大震災時の復興のバロメーターの1つは人口でした。神戸市は震災で10万人減りましたが、10年目には震災前の人口150万人を回復しました。その時点の市民の復興感は8割ほどでした。東日本大震災は人口減少時代の災害です。ましてや地方はその状況は顕著で、人口を復興の指標にすることはできません。

 

そのような中で市民が復興したと感じるのは、新しいものができたり、過去からの課題が解決されたり、新しいチャレンジが生まれたりして、未来に向けた明るい気持ちになることではないかと考えました。私はこれを「わくわく・きらきら」という言葉で表現しています。今では、まちのあちらこちらにだいぶその雰囲気が出てきました。

震災で打撃を受けた地元企業向け経営塾を5年で85人が卒塾。気仙沼の未来を考え行動するネットワークに

 

――具体的にはどんなチャレンジがありましたか。印象的だったものを教えてください。

 

震災の翌年2012年から全国的な経済団体がバックについた「東北未来創造イニシアティブ」というプロジェクトが始まりました。気仙沼市は震災で打撃を受けた地元企業の足腰・体力を強くするために本プロジェクトに参加し、40代・50代の若手経営者や次期社長候補を対象に1期当たり約6ヶ月間の「経営未来塾」を開講しました。行政が始めた珍しい「経営」塾です。

 

塾では、リーダーシップ論などを学びながら自社の事業拡大・事業再構築に向けた構想を練ります。興味深かったのが、この塾を通して自社の売り上げを伸ばすことはもちろん、一緒に塾で学んだ同期(同種異業種問わず)とのつながりや気仙沼への思い、従業員の大切さなどにどんどん気づきが深まったことです。5年で85人が卒塾し、卒塾生のネットワークもできました。さらに、卒塾生は行政の政策や気仙沼の未来についても考え、行動してくれるようになり、海外進出や新商品開発・新会社設立など様々なチャレンジを進めています。まさに塾が気仙沼の「人づくり」の始まりだったと感じています。

 

――地方創生でも「人づくり」をベースに据えていますね。

 

2015年10月に策定した最初の地方創生総合戦略では「人材育成」はメインの施策ではありませんでしたが、継続して行ってきた人材育成の実績から、人づくりがまちづくり・地方創生につながると確信を得て、翌年3月の改定計画にはしっかりと入れました。その後の市総合計画においても人材育成を基礎においた市民が主役のまちづくりを「まち大学構想」として一丁目一番地にしています。

 

人材育成について話してきましたが、単に人材育成プログラムに参加する人数を追い求めているわけではありません。いろんなところでチャレンジができて、共創・協働がポコポコと起きることが大事で、チャレンジを促す環境整備の1つとして人材育成を位置づけているということです。チャレンジが起こることで市民の復興感も高まるだろうと考えます。

若者のアクションに大人が伴走し、本気で応えた結果、若者、NPO、企業、行政の共創が実現

 

――若い人たちの活動も活発だと聞きますが、どんな動きがありますか。

 

ぬま大学」という事業は、若者が半年間の講義や対話等を通して自分が気仙沼で実行するマイプランを作り上げていくというものです。地域を知り、自分を知ることを大事にしていて、2020年度で第6期まで終了しました。ここからもたくさんのチャレンジが生まれています。

 

また、高校生を対象とした同様の「高校生マイプロジェクトアワード」もあり、全国大会での優勝実績もあります。いずれの事業も、運営は震災を機に気仙沼に移住してくれた若者たちやNPOが担っています。

 

P3_2020ぬま大学3

小野寺さんによる「ぬま大学」での講演

 

――参加してくれた若者のその後が気になります。

 

私が印象に残っているのは「気仙沼Uターンマイプロバス」というプロジェクトです。高校時代に探究学習やマイプロジェクトアワードに取り組み、首都圏に進学・就職した卒業生等向けに片道帰省バスを出して気仙沼に戻ってきてもらう。そして、現役高校生のマイプロ発表にアドバイスをもらいます。先輩・後輩のつながりです。また、気仙沼に滞在中に経営未来塾の卒塾生から自社の会社案内や経営者としての想いを聞いていきます。故郷の大人の想いの伝達と就職に向けたリクルートの意味ともとれます。

 

――先輩と後輩、そして気仙沼と関東がつながりましたね。

 

このマイプロバスの主催は、NPOが中心となった「気仙沼の高校生マイプロジェクトアワード実行委員会」です。震災を機に移住した方たちが中心です。共催として市の「気仙沼市移住・定住支援センターMINATO」が関わります。バス運行資金は、経営未来塾の参加企業等から協賛していただき自己調達で実行されたものです。高校生マイプロジェクトアワードもマイプロバスもそうですが、学生たちのチャレンジと思いきや、大人たちの本気度が問われる大人のチャレンジです。

 

――結果として若者、NPO、企業、行政の共創になりました。

 

これらの活動の中心をなすNPOのみなさん(一般社団法人まるオフィスや認定NPO法人底上げなど)などは、震災直後から個人で高校生や若者支援の活動をしてきて、その後法人化しました。市の移住定住支援センターもIターン者に委託しました。彼らの活動の積み重ねと市の人材育成を基礎とする「気仙沼まち大学構想」がちょうど重なり合い、課題を共有し、人材育成プログラムを卒塾した人と組織等をつなぎ連携して相乗効果を上げてきたと感じます。私はこの構想の検討・実践で彼らと出会って、協働を続けているところです。

 

――他にも起こっている変化はありますか。

 

気仙沼を目指す若者も増えてきていると感じています。大学時代にボランティア活動で訪れたとか移住者が始めたサマーキャンプに参加したとかきっかけは様々ですが、気仙沼を気に入ってくれて気仙沼の企業に就職する人や気仙沼で起業する人、気仙沼市役所を目指して受験してくれる若者も増えてきました。人材不足の中で、行政職員の募集にも人が集まらない時代、市役所のリクルーターとしても嬉しいことです!

 

P4マイプロ3

マイプロバス参加者の様子

 

――では、行政の役割や仕事をどう捉えていらっしゃいますか。

 

今担当している企画部というのは、市長が描いているビジョンを具体化させる部署だと考えています。そして、行政の役割は「環境を作る」こと。行政が単独で進めるのではなく、市民や業界と協働して、また市民や業界が動きやすく環境を整えることだと思います。

 

例えば、未来への方向性(ベクトル)を合わせる、応援している姿勢を示す、対等な関係で対話する、補助金で支援する。このように環境を整えるスポンサーシップが大事です。舞台を作って環境を整えて、そうすることによって、市民や地域、企業が方向感に迷いなく思う存分躍ることにつながっていくでしょう。

 

震災で気づいたのですが、気仙沼は市民力があるまちだと改めて感じました。行政に頼らずとも、自分たちで専門家を探し連携して高台移転の計画を作った地区や、独自に全国からの支援を取り付け復興につなげた商店街や産業界の人たちがいます。このような市民力を今後のまちづくりに生かさない手はありません。これも気仙沼の資源です。

市民、地域、業界でのチャレンジが増えることで持続可能なまちに

 

――これから取り組みたいことは何でしょうか。

 

継続してチャレンジが行われるよう、もっと環境を整えたいと考えています。今までも、新商品開発や企業内起業の補助金を出したりしてきましたが、2021年度からは企業の悩みや相談に応えるビジネスサポートセンターが始動します。

 

併せて、くらしの分野でもまちづくり協議会や自治会がさらにチャレンジしやすくなればいいなと考えています。行政としてはまち協の事務局の人件費を支援したり、公民館を事務所として利用できるようにしたりと、人と拠点のサポートをしています。そうすることで、自治組織が地域課題に向き合いやすくなるでしょう。また、行政と、企業・地域・市民の距離感を縮めて相談しやすくし、チャレンジする人や組織を応援したいと思っています。

 

――そのチャレンジの先に何を見据えているのか教えてください。

 

気仙沼市としては、商品を買うときも、旅行先を計画するときも、就職先を検討するときも、移住先を探すときにも、気仙沼を選択肢に挙げてもらえるような「選ばれるまち」になること。そのためには、まちに本物を作り、まちに誇りと自信をもってプロモーションすることが大事です。

 

そしてその先は「持続可能性を追求する」ことが目標になると思います。私は、チャレンジが起こりやすく、それを応援する雰囲気を続けられれば達成できると考えています。とは言え、数値的な成果が見えるまでには時間がかかるでしょうが、じっくりと過程を踏み、市民、地域、業界と信頼を築きながら「未来に向けたまちづくり」を続けていきたいです。

 

――ありがとうございました!

 


 

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【イベント情報】6/25(金)、入山章栄さん(早稲田大学)、菅野拓さん(大阪市立大学)、高橋大就さん(一般社団法人東の食の会)によるオンラインセミナー『イノベーションと社会ネットワークとの関係を考える ~「東北リーダー社会ネットワーク調査」分析結果から~』を行います。参加は無料です。ぜひご参加ください。

 

※東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。

調査の詳細はこちらをご覧ください。

 

NPO法人ETIC.では、未来をつくる人の挑戦を支える寄付を募集しています。

 

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【関連記事】

>> 地域に「本物」をもって「選ばれるまち」を目指す。宮城県気仙沼市役所のケース

 

この記事を書いたユーザー
遠藤智栄

遠藤智栄

まちづくりアドバイザー、ファシリテーター。 仙台市在住。大学卒業後、雑誌の企画編集、農山漁村の活性化のコンサルティング、NPOの中間支援等の仕事や活動を経て独立。現在は、共創でのソーシャル・デザイン、地域づくり、組織開発、人材育成などの支援と実践を手掛けている。地域社会デザイン・ラボ代表、株式会社ばとん代表取締役。好きなのは景観散歩とクラフトビール、野菜づくり。

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