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ワクワクする地方をデザインしていく。北海道経済の挑戦の循環を生み出す「えぞ財団」団長が見る、コロナ後の地方の未来

2020.10.27 

 

新型コロナウイルスは、新しい生活様式への転換を迫るだけでなく、働き方や人々の意識、世界観を変えるような影響を及ぼしつつあります。見通しがつきにくい、変化も激しい環境において、経営者はどんな思いでこの状況を見つめているのでしょうか。

 

意外と語られていない「経営者のあたまのなか」を解剖してみようと立ち上がった本企画。第14弾は、新千歳空港から車で約30分の北海道厚真町(あつまちょう)を拠点に、地域交通インフラをはじめとしたモノ・ヒト・サービス・エネルギーがひとりひとりに届く世界の創出を目指すマドラー株式会社を経営する成田智哉さんのケースをお届けします。

 

東京大学を卒業後、トヨタ自動車人事部に入社しブラジル駐在を経て退社、故郷の北海道千歳市からほど近い厚真町で2019年5月に起業した成田さん。自身の事業である地域発モビリティインフラ「MEETS」に加え、北海道胆振東部地震後に継続的に集まり語り合ってきた地域の若手メンバーらと共に、2020年6月厚真町に誰もが気軽に集まれる場所を作ろうとクラウドファンディングでコミュニティスペース「イチカラ」をオープンしました。

 

さらにその活躍は厚真町にとどまらず、2019年6月からは北海道で新たなチャレンジを行う挑戦者と応援者をつなぐコミュニティ「ほっとけないどう」の北海道事務局として、2020年6月からは北海道経済コミュニティ「えぞ財団」の団長として北海道全域の若手経営者を支える活動を精力的に続けています。

 

今回の記事では、成田さんの挑戦の現在から、コロナ禍のいま感じる地方の未来について語っていただきました!

 

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成田智哉/マドラー 株式会社 CEO

1988年北海道千歳市出身。東京大学文学部卒業後、トヨタ自動車人事部入社。会社役員サポートや様々なバックグラウンドな8万人の従業員をまとめる業務等を経て、6年間の勤務後ブラジルにて海外駐在を経験後独立。帰国後、様々な人に出会う中で、世界の広さを感じ、様々な立場をリスペクトを通じつなぐ(かき混ぜる)ことの重要性を感じ、世界をつなげる取り組みを推進する。

町のプレイヤーとして、北海道のプラットフォームとして、2つの顔で人と資源をかき混ぜる

 

――まずは、成田さんが現在取り組まれていることについて教えてください。

 

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、ここ数ヶ月は厚真町でリモートワークをしています。こうした社会状況ではありますが、先日厚真町に昨年度から地元の漁師や林業家や役場の職員などの若手に声をかけてもらい準備を進めてきた、コミュニティスペース「イチカラ」がオープンしました。併設のカフェはマドラー株式会社(以下、マドラー)の運営なので、基本的にはそのカフェでお客さんを迎えながら仕事をしています。またオープンにあたっては、札幌や東京からも200名以上の人が駆けつけてくれました。モビリティインフラ構想を実現する「ミーツ」に関しても、現在取り組める範囲で進めており、サービスの構想と座組み整理が終わり実証実験も繰り返しているので、後期に向けてサービス開発に入りました。

 

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モビリティインフラ構想を実現するサービス「ミーツ」のイメージ図

 

マドラーの北海道全体としての取り組みには、サッポロビール株式会社による新たなプロジェクトにチャレンジしたい「挑戦者」とその活動を支援したい「応援者」をつなぐコミュニティづくりを目指した共創活動「ほっとけないどう」の事務局をしています。月に1度の「ほっとけないAWARD(プレゼンテーションイベント)」がメインの取り組みで、イベントで挑戦者が発表したプロジェクトに共感した応援者が、その場で指定のドリンクを購入することで支払額の半額をプロジェクトへ寄付できる仕組みになっています。こちらも、現在はリアルイベントではなくオンラインでの開催となっています。

 

あとは、この6月にスタートした北海道を盛り上げたいという想いの企業や個人、地方自治体が次世代の北海道経済を考えるために集まり、共に学び、行動していくためのコミュニティ「えぞ財団」の団長としての活動です。発起人は北海道の企業サツドラホールディングス株式会社の代表取締役社長 富山浩樹さんで、北海道の若手経営者は現在40歳前後ぐらいの年齢層が中心なのですが、すでにあるそのコミュニティを起点に若い層のつながりを強めて「ONE北海道」として北海道全体の経済を盛り上げていきたいという想いで去年の秋ごろから構想を練り始めました。

 

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「えぞ財団」全体像

 

これからは地方の時代? 何もしなければ、きっと東京へ人は戻っていく

 

――厚真町での自主事業だけでなく、広く北海道全域に跨る事業に関わられているのですね。ただ、「イチカラ」でのカフェ営業、「ほっとけないどう」に「えぞ財団」と、どれも本来は人をリアルで集めるビジネスモデルだと思うのですが、新型コロナウイルス感染拡大の中どのような対応を迫られたのでしょうか。

 

そうですね、どれもスケジュールや方法を変えなくてはいけなかったのですが、歩みを止めるという選択肢はありませんでした。例えば「ほっとけないどう」は札幌での取り組みなので、これまでリアルの空間で共有していた熱量をいかにオンラインで共有するかが課題でした。ITリテラシーが高い人だけを対象にする事業ではないですし、そこを置いてけぼりにする必要もないので、オンライン開催に変更しつつ試行錯誤しています。厚真町の「イチカラ」ではスマホが使えない年長者も巻き込みたかったので、感染症対策に気をつけながらリアルイベントを開催しています。

 

厚真町のコミュニティスペース「イチカラ」

厚真町のコミュニティスペース「イチカラ」

 

「えぞ財団」については、緊急事態宣言下で経済的ダメージを受けた北海道の若手経営者らに向け「これから共に頑張ろう」というメッセージを届けたいと思い、6月のリリースを決めました。新しい生活様式が求められるいま、これからは地方の時代だといった声がメディアやSNSで散見されますが、僕自身は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で何もしなければ都市部への一極集中に戻っていくと思っています。現在の地方でチャレンジするという流れを消さないためには、おいしい楽しいだけではなく、前向きな人たちが集まってビジネスが活性化しているという“ワクワクする地域”をデザインしていかなくては。「えぞ財団」は、そのための器(うつわ)として機能していければと思っています。

 

――「えぞ財団」はコロナ後の地域を見据えた取り組みとして、このコロナ禍で進化されたのですね。現在、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

 

道内の経営者同士のトークセッションなどを開催してnoteで記事を配信、youtubeでインタビュー動画の配信をしつつ、夏にはオープンスクールをスタートさせました。北海道を熱くしたいというメンバーに向け、越境して学べる場・コミュニティを提供することを目的としています。また、サツドラHD、コープさっぽろ、石屋製菓の人事研修の一部も、このオープンスクールで合同開催中です(2020年9月現在)。

 

これらの事業で得た資金は、北海道で芽のある事業に再投資していくことを構想しています。その他、団員の会費は個人が1,000円/月、企業は30,000円/月なのですが、それらも同様に道内の事業に再投資し、北海道に「挑戦を応援し、育てる経済の循環」を生み出していきたいと思っています。手段は違えど北海道経済への思いは一緒という企業をつなげていき、将来的には地域の人事部としての動きもしていけたらと構想しているんです。

 

また、道内179市町村それぞれに団員1人は作りたいと思っていて、そのためにエネルギーのある人とどんどん出会っていき、各自治体の関係者らともつながりを作っていけたらと思っています。財団なのですが、中間支援組織のような動きもしつつ、自主事業も今後積極的に創出していくつもりです。

 

「やってみようよ」。挑戦を応援し合う、テクノロジーと自然環境が融合したオープンタウンを目指して

 

――北海道全体をつなげ挑戦が後押しされていく未来を作るという動きは、「イチカラ」「ほっとけないどう」ともつながり、成田さんご自身のテーマでもあるように感じられます。

 

そうですね。プラットフォームとしての動きもしつつ、プレイヤーとしても動いていることが自分の強みなのかなと最近は感じます。また、拠点も札幌ではなく厚真町であることが価値になってきているんですよ。札幌で活動している人たちが僕に会いに厚真町にきてくれたとき、それをきっかけに他のプレイヤーや資源とつながり予想外のシナジーが生まれることがあるんです。特に町で挑戦している人が集まる「イチカラ」ができたことも、そうした新しい協働を生む後押しになっていると思います。例えば、「イチカラ」では1次生産者の方とスタートアップの方が出会いセレンディピティが起きていると感じます。

 

――成田さんご自身の挑戦が、他の方や厚真町の新しい挑戦にもつながっているんですね。最後に、今後のビジョンがあれば教えてください。

 

東京と札幌は、2時間程度で移動できるんですよ。これからは午前中に東京で仕事をして、午後は北海道でワーケーションするスタイルを作り出すことだってできるのではと考えています。Wi-fi環境の整った大自然の中にクリエイターを誘致して、現地のおもしろい取り組みをしている人を紹介するコーディネーター機能を整えて、手ぶらで移動しても大丈夫な厚真町でのワーケーションの仕組みを整えていきたいですね。

 

また、互助や贈与、共感資本主義などの地方ならではのキーワードが今後どんどん語られる時代になっていくと思っています。厚真町でも東京の外資系企業で働いていた人が金融資本主義から脱却して畜産の事業を始めていたりしているんですよ。その人ともこれから会社を一緒に作り、オープンタウン構想を厚真町で始めようとしています。物理的なオープンさよりも、マインドを含めたオープンさを持つ手触り感のある“タウン”を掲げて、「やってみようよ」と挑戦を応援し合う人々が集まる場所を生み出していきたいと思っています。

 

――ありがとうございました!

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。