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あなたらしさは、「もっともっと」という成果型の評価では分からない。―「喫茶ランドリー」を運営する田中 元子さん(後編)

2020.11.27 

まちに人があふれる日常をつくることで、エリアの価値と幸福度の向上を目指す。「喫茶ランドリー」の運営をする株式会社グランドレベル代表で建築コミュニケーター田中元子さんのお話を前後編のインタビュー形式でお送りします。

 

前編は、喫茶ランドリーへの想い、そして人の自己肯定感を応援することが、どう社会貢献に繋がるかについて伺いました。後編は、田中さん主催のワークショップや、コロナ後のこれからの街について伺っていきます。

前編はこちら

 

ワークショップ

柏の葉UDCKまちづくりスクールでのワークショップ風景。約30名の市民が自分たちが暮らすまちをフィールドにさまざまな振る舞いを発表した。/写真提供:グランドレベル

 

最初から最後の発表までグループワークはしない

 

――田中さんは、まちづくりや建築・都市だけに関わらず、教育やビジネスの分野など多岐にわたり講演やレクチャーをされていますよね。中でも気になっているのが「付箋を貼るワークショップはやらない」と発言されていたことです。なぜですか?

 

田中:「付箋ワークショップ」のことですね。

 

ひとつは、グループになって、自分のアイデアを出そうとすると、自分の内側のものをストレートに外に出すことを躊躇してしまいます。「どうせこのアイデアなんて…」と思ってしまうから。でも、私はその「どうせ」にこそ圧倒的な可能性があると思ってるんです。

 

あとは、付箋に自分のアイデアを書いて、貼り出したとき、貼った時点でそれは自分のものから“みんなのもの”になってしまいます。そこから構築されていくものを「集合知」と言ったりしますが、そこで生み出されたものは、結局、みんなのものであって、「私」はいない。だから、結果的に私じゃなくてもいいよねってものがそこに生まれていたりします。

 

私はそういうことはやりたくないんです。「これはあなたじゃないとできないことだね!」ということを個人、ひとりの人間からそれぞれに引き出したいんです。だから、私たちのワークショップでは基本的に最初から最後まで、グループワークはしません。

 

全国でさせていただいているパーソナル屋台のワークショップでは、「あなたなら、街のどこで、何を無料で振る舞いますか?」というテーマを与えるだけです。注意点は、街や社会の問題を解決することは一切考えないでくださいということです。自分自身の好きなことを、街にどう表出させることができるだろうか。参加者の皆さんは、一気に自分自身とだけ向き合い妄想をはじめます。

 

躍る子ども

無料で振る舞う人たちを「マイパブリッカー」と名付け、渋谷キャストのビルの公開空地に集結させた。DJ TOMCはDJプレイそのものを振る舞う。見ていた子どもがはじめてのDJを。その前で通りがかった子どもが踊り始めた。/写真提供:グランドレベル

 

あなたらしさって、「もっと」じゃない

 

発表は、例え発表者が100人以上いたとしても、必ず全員に一人ずつしていただきます。これまで1000人以上にやってきたので、本当にいろんなことを言うひとがいました。「自分の集めてる文房具を見せたい」「世界のFMを聴くのが趣味だから、その場にあったFMを流す屋台をつくりたい」「数学の中でも円の世界が大好きだからその面白さを伝えたい」。

 

そういうことが次々と出てくるわけです。これが、学校や会社、組織なんかでやったときには、みんなお互いにビックリするんですね。「このひとってこんな面白いところあるんだ!」ってことが如実にでる。改めてお互いを知る機会にもなるんですよ。でも、このワークショップで出てきたものは、ヘタをすると一生誰にも知られないものだったかもしれないわけです。

 

でも、こうやって出てくるものこそが、チャーミングでかつその人に魅了される部分だったりするんです。人間のチャームポイントって、コンテンツではないんですよ。私はそこに興味があるんです。人はパソコンのCPUじゃない。私は誰しもが本当は持っている「あなたって変態ね」みたいな、その人らしさをスルッと出してあげて、「あなたのそういう部分最高にステキね!」って一人一人と会話するワークショップをしているんです。

 

子どもとDIY

DIYを振る舞うというもの。実際にまちでやってみると、アイデアを聞いたときには想像できないほど、人が自然と寄ってきて、自然と会話がはじまる。/写真提供:グランドレベル

 

CPU型ワークショップは、「〇〇は新しい」」、「〇〇さんはたくさんアイデアをだした」―ようするに、もっと新しいものを、もっとたくさん出せる、と「もっともっともっと」という成果に意識が向くんです。私はそういう成果型の対人評価に疑問に思っていて。そんなことはロボットで済む話。もっと優秀なCPU搭載して、そのうちAIにかわるような話で。でも、その人らしさって「もっと」じゃないですね。

 

例えば、あなたが映画が好きだとします。そして、「私はこんな好きな映画があるんです」と話してくれたとします。それってもうそこに、その人らしさが表出していて完結してるんです。かつそれは、他者とコミュニケーションがはじめられる豊かなものなんです。私はその豊かさにお互い気がつかないままのCPU型のワークショップには入りたくない。せっかく人間を使ったワークショップをするなら、人間らしさに触れる時間が長いワークショップをする方が良いなと思っています。

 

サーカス

お花好きの女性は、大好きなガーベラを手に入れて、一本ずつ振る舞った。お花を包みながらちょっとした会話がはじまる。見渡すと同じ花を持った人たちが通りを行き交っていて風景をも変える。/写真提供:グランドレベル

あなたがしたいことが、あなたにしかできないこと

 

――他者から見た「自分」を無意識に考えて振舞う時は誰でもあると思います。でも、あるがままの自分らしさにも気づける機会が増えると、自己肯定感も生まれますね。

 

田中:そうなんです。自分らしさを出すことは本当は誰でもできることです。さらにそこに正解なんてありません。だから、ワークショップで発表される、それぞれの「やりたい」は、その人らしく楽しく話してくれたら、すべては100点なんです。

 

あなたしか見てない景色に、あなたしか湧いてこない想いでアイデアが出てくるわけだから、もし「それは、〇〇さんがもうやってるよ」なんて、誰がけなそうが、「あなたがしたいことが、あなたにしかできないことなんです」と私はいつも強く伝えています。

 

―― パーソナル屋台はあまねく人たちが幸福を自分で見つけていく手段なんですね。

 

田中:そうでありたいと思っています。

 

そして、そういう効果を発揮できる場所が「まちの1階」であるということなんです。喫茶ランドリー然り、私たちが暮らす「まちの1階」の多くが、そういったあまねく人々の「小さなやりたい」で満たされていくことが、私の考える「まちづくり」です。

 

渋谷の黄色い屋根

パーソナル屋台を渋谷キャストの公開空地に集結させた「シブヤパブリックサーカス」。どの参加者も無料で振る舞っているのでここでは1円もお金は交わされてない。それでも公開空地完成後、最大の来客数となった。/写真提供:グランドレベル

 

――年齢制限が無かったら自分の母親にやらせてあげたいです。

 

田中:年齢制限なんて、全くないですよ。これからもっと高齢者率が高くなっていくじゃないですか。21世紀のお年寄りの中でパーソナル屋台がブームになると前から予言しているですが、もうそろそろでしょうか(笑)。

 

よく言うんです。例えばお年寄りが孤独に話し相手もなく家の中で編み物をひたすらやっているんだったら、そのまま公園や街の中にポンと置いてあげたいわけです。そうしたら子どもとかが「何やってるの~?」とか話しかけてきます。不特定多数の人があなたを見る確率が高くなりますよと。見られる確率が高くなるということは、その分その人にとっての社会が広がるのと同じこと。

 

ちなみに、無料で振る舞うパーソナル屋台は、いろんな世代の人たちに広まりは見せていて、影響されて自分はこういうことをはじめましたと、連絡をいただくこともあります。ある街では、行政として市民参加型の新しいまちづくりの形として、取り入れていただくところも出てきました。でも、お年寄りにこそやってみてほしいですね。ファミリー屋台とかも凄く楽しいと思います。

 

他者に対しての喜びとか祝福を感じられるようになったのは、ビフォーコロナとは明らかに違ったところであって欲しい

 

喫茶ランドリー前

喫茶ランドリーの前を犬の散歩で通りがかったおじいさんが軒先の縁台に座り、お店に来ていた大学生と話していると子どもたちが駆け寄ってきた。/写真提供:グランドレベル

 

――最後に、コロナ禍でのこれからの街づくりについてお伺いさせてください。

 

田中:これまで考えてきたこと、実践してきたことは、コロナになっても何も変わりません。喫茶ランドリーでさえ、休まず開け続けてきました。開け続けることで、さらにまちとの関係も深まりました。そこで気付いたこと、コロナになってから何が変わったかというと、これまで話してきたことを、より早くきちんと実践していかなくてはならないと思うようになったことでしょうか。

 

コロナウイルスの発生から今日までの報道や社会・政治の反応を見ていると、コロナにかからないことがとにかく第一になってしまっています。じゃあ、コロナにかからないけど、まちのお店は閉まっていて、人と触れ合えないで一生終わる社会を人間が目指すんでしょうか?コロナにかからなくても、自殺者が増えていく世の中を、私たちは望むのでしょうか?

 

人と触れ合うことは諦めない。「まちの1階」は屋外と屋内を繋ぐ唯一の場所です。2階以上はそうはいかない。三密を避けるといった衛生的にも効果を発揮できる最高の場所なので、その利点を活かして人との繋がりを断ち切らないような活動を続けていかないといけません。

 

だからこそ、人が使いこなせていける、豊かな1階をいろいろなところにつくるお手伝いをこれまで以上のスピードでやらなくてはと思ってます。なんだかんだ、アフターコロナはビフォーコロナよりも、良い街になったよね、結果オーライだよね、という方向に舵をきっていかないと損じゃないですか。

 

笑う女性たちと高齢者

田中さんが喫茶ランドリーに立ったのは最初の1、2ヶ月。その後、周辺に住むママたちが、助けるように働きはじめてくれた。今はもう立つことはなく、スタッフそれぞれが自身のパブリックマインドでお店を動かしている。/写真提供:グランドレベル

 

もちろん誰だって戸惑いはあると思うし、コミュニティやイベントのように、人が集まることを生業にしていた人は「密を避ける」状況では、できなくなってしまったことがあるでしょう。けれど私は、そんな日はそう長く続かないと思ってます。

 

考えるのは、人は2メートルの距離を持ったままなんて暮らせない、生きていくことはできないです。自分が近づきたい人と詰めたい距離って2メートルどころじゃない。恋愛だけじゃなくて、ライブハウスなどでみんなで密になって踊り合う、楽しみあうということも含めてそうだと思います。本能で人が人にひかれる力の方が強いと思っています。

 

今は「あなたに会える」ということがすこし特別な価値になりました。他者の存在に対しての喜びとか祝福を感じられることになったのはビフォーコロナとは明らかに違ったところであってほしいと思います。あなたに会えることに喜びを感じて、お互いを尊重しあっていくことで作れることがたくさんある。

 

まちづくりもそうだし、さまざまな場所をどうつくるかということも、そういった人間的なリテラシーがあってこそ実現するもの。そうできるようにドライブしていきたいと思っています。

 


 

一部の起業家、クリエイター、若い人だけでなく、街に暮らす市井の人々全てが本当は最高の魅力を持っている。それに自分で気づき、他者と共有し認め合うことで、その人にとってその街が「幸福に暮らせる街」になる。

 

どんな時も「1階づくり」を諦めない田中さんの生き方の根底には、人の幸せや個人を応援したいと願う想いがありました。これからもどんな風にそれを実現してくれるのか、とても楽しみです。

 

田中 元子(たなか もとこ)

株式会社グランドレベルの代表取締役社長・喫茶ランドリーオーナー

1975年生まれ。独学で建築を学び、2004年より、ライター・建築コミュニケーターとして、建築関係のメディアづくりに従事。2016年、“1階づくりはまちづくり”をモットーに株式会社グランドレベルを設立。まち・建物の1階をより公共的にひらき、市民の能動性を高める日常をつくることで、エリアの価値と市民の幸福度の向上を目指す。2018年に墨田区に洗濯機やミシン、アイロンなどを備えた“まちの家事室”付きの喫茶店「喫茶ランドリー」をオープン。年齢や職業に関わらず、多様な市民が集い、さまざまな活動に使われている。現在、「喫茶ランドリー」のような場所をつくるプロジェクトを全国へ展開中。主な受賞に「2018グッドデザイン特別賞グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞」ほか。

 

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まちづくり
この記事を書いたユーザー
芳賀千尋

芳賀千尋

1984年東京生まれ。日本大学芸術学部卒。 2018年からETIC.に参画。 チャレンジを応援する場「Beyondミーティング」の運営スタッフ。 コワーキングスペースのコミュニティマネージャーでも副業しつつ、心身の調和が出来るヨガの面白さに魅かれインストラクターの修業中。

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