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地方で次々にチャレンジを生み出せる理由とは?雲南市・上勝町の首長・起業家座談会〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(1)

2020.12.10 

10月27日~31日の5日間、「ローカルベンチャーサミット2020〜withコロナ時代のニューノーマルを創る 地域×企業連携のための戦略会議〜」が行われました。主催は、地方発ベンチャーの輩出・育成を目指すローカルベンチャー協議会。その参画自治体および各地のベンチャーたちに、メーカー、物流、ゼネコンなどの大手企業も加わり、プレイヤー連携の最新事例を共有し、協働を生み出す場として毎年開催されています。

 

00スクリーンショット

 

4年目となる今年は、初の全面オンラインで実施。各日の基調セッションのほか30の分科会が設定され、5日間で延べ1,700名に参加いただきました。本サイトでも各セッションの内容をダイジェストでレポートしていきます。

 

この記事では、雲南(うんなん)市長と上勝(かみかつ)町長が地域の起業家とともに登壇し、それぞれの先進的取り組みを語った分科会をご紹介します。(本文中敬称略)

 

< 分科会:首長と実践者が語る地方でのチャレンジ(雲南市&上勝町) >

【登壇者】

速水雄一雲南市長トリミング後3

島根県雲南市長 速水雄一氏

花本靖上勝町長トリミング後2

徳島県上勝町長 花本靖氏

雲南歌田ちひろトリミング後2

Community Nurse Company株式会社 取締役 中澤ちひろ氏

pangaea 野々山聡トリミング後2

合同会社パンゲア CEO 野々山聡氏

【モデレーター】

村上富美トリミング後3

日経ビジネス シニアエディター 村上富美氏

「ソーシャルチャレンジバレー」を目指す雲南市

 

【速水】 雲南市は、島根県東部に位置する自然豊かな町です。しかし、日本全体の25年先をいく超高齢社会を迎えており、少子化、若者流出など、早急な解決を必要とするさまざまな課題を抱えています。そうした課題先進地域として私たちは「チャレンジ」をテーマに掲げ、子ども・若者・大人・企業、それぞれのチャレンジの連鎖を起こすことによって、地域全体で社会課題を解決する「雲南ソーシャルチャレンジバレー」を目指しています。

 

01雲南

 

中でも「若者チャレンジ」においては、2011年に始まった創業塾、「幸雲南塾」が160名を超えるチャレンジャーを生み出しており、同塾出身者の活動は市内にとどまらず、全国展開を進めているところもあります。こうしたチャレンジをさらに後押しするため、ふるさと納税を活用した「雲南スペシャルチャレンジ制度」も創設しました。その中の「ホープ事業」は、特に社会課題解決に資する起業や創業を支援するもので、この3年間で9組が活用してくれています。

 

「企業チャレンジ」には多くの関心が寄せられており、本日登壇のコミュニティーナースカンパニー株式会社を含めて、これまで7社と4つの連携協定を締結しました。市民、行政、企業から日本の各地域まで、「5方良し」の姿を目指し、新たな価値の創造に取り組んでいるところです。

 

村上】 新しく入ってくる人たちと元からの住民との関係や交流はうまくいっていますか?

 

【速水】 大変うまくいっていると思います。幸雲南塾を始めた理由は、起業家のチャレンジがまちに刺激を与え、それでまちが元気になっていくと考えたからです。外からいろいろな人に来ていただき、彼らの活動を「見える化」することで、市民の皆さんも啓発され、「自分たちも頑張らなければ」となりました。若者たちがお互い啓発し合って創業に取り組む姿を見て、子どもから大人まで刺激を受け、チャレンジの連鎖が起きています。

コミュニティナース発祥の地、雲南で始まった「おせっかい会議」

 

【中澤】 コミュニティナースは10年ほど前に幸雲南塾から誕生しました。ナースといっても職業や資格ではありません。地域の人の身近な存在として、毎日の「嬉しい・楽しい」や「心と体の健康」をまちの人と一緒につくっていく役割を担います。

 

※コミュニティナースについてはこちら

>> まちへ飛び出したナースたち――“世話焼き”コミュニティナースの普及が日本人の健康意識を変える

 

「地域おせっかい会議」は、コミュニティナースを含む幸雲南塾出身者が中心となって立ち上げたもので、「お節介したい人がお節介できる場所づくり」を目指しています。ケアの専門職だけではなく、美容院、移動販売、郵便局など、いろいろな形で住民と接点を持つ人たちが集まって、「この人の健康のため、私はこれをしてあげたい」というのをシェアし、一歩踏み込んだ“お節介”をしようというものです。

 

02雲南

 

去年始まったこの会議からは、例えば難病の方の買い物支援が実現したり、年金受給日に合わせて郵便局で「町の保健室」を開催したりなど、既にたくさんのコラボが生まれています。参加者も去年は88名、今年は150名と順調に増えています。

 

また、“お節介”をしていくと、健康だけでなく教育やまちづくりなど、幅広い分野にインパクトを生み出していきます。この活動の体制を整えるため、評価機関の方たちとも一緒に、成果連動型の報酬体系なども検討しているところです。

 

【村上】 中澤さんご自身は雲南出身ではないということですが、実際に入ってみて活動しやすいですか?

 

【中澤】 とても活動しやすいです。私が雲南市に来たのは6年前ですが、チャレンジの連鎖はもっと前から始まっていました。一緒に活動している矢田明子がコミュニティナースという働き方を始めたのは10年前です。雲南市がすごいのは、そういう小さなチャレンジの一歩を全力で応援してくれるところ。それを見ていた人が、「では自分も」とつながっていく。町の人たちも、最初は戸惑う部分もありつつ、面倒を見てやろうという感じで応援してくださいます。

葉っぱビジネスとゼロ・ウェイストで知られる上勝町

 

【花本】 上勝町は徳島県のほぼ中央部にあり、町土の9割が森林です。人口は1,500人を切っており、町としては四国で最小の自治体です。2013年に「持続可能な美しいまちづくり基本条例」を制定し、地域資源を生かした地域づくりに取り組んでいます。2018年にはSDGs未来都市のひとつに選ばれました。

 

町を代表する産業に、「葉っぱビジネス彩(いろどり)」があります。これは、「つまもの」と呼ばれる、料理を彩る季節の葉っぱや花の生産・販売事業で、いまや2億円を超える産業に成長しています。ただし、今年のコロナ禍では打撃を受けました。

 

03上勝修正済み

 

また、上勝は「ゼロ・ウェイスト」を掲げ、自治体として日本初の「ごみゼロ宣言」を行った町としても知られています。ごみは45種類に分別、リサイクル率は8割に達しています。今年は、町のほぼ中心部に「ゼロ・ウェイストセンター」という施設をオープンさせました。ごみステーションに加え、オフィスや宿泊施設も備えています。環境問題は世界の経済に影響します。情報発信や研究・教育機能も併せ持つこのセンターを通じて、環境問題を考える仲間をつくっていきたいと考えています。

 

2016年にローカルベンチャー推進事業を開始して以来、これまでに11の新事業が誕生しました。いろいろな方が力を発揮し、やってみたいことに挑戦できる町を目指しています。

 

【村上】 小さな上勝町が、なぜここまでうまく事業を回してこられたのでしょうか。

 

【花本】 1981年の大寒波でそれまで町の主力産品だった柑橘類が大打撃を受けました。彩の誕生の背景には、そのときの町民の皆さんの強い危機感、そして何とかして立て直そうという強い意思がありました。

 

ゼロ・ウェイストの議論が始まったのは、1993年ごろからです。上勝町は勝浦川という川の最上流部に位置しています。川は隣の勝浦町、小松島市、徳島市へと流れていきますが、その最上流部の私たちが川を汚したらどうなるか。みんなが環境を守らなければ、日本中に影響が及ぶことに気づき、リサイクルによってごみはできるだけ減らそう、というところに行き着いたのです。いろいろなことへの危機感が現在につながっています。

サステナブル・ツーリズムを掲げるパンゲア

 

【野々山】 私は2013年、上勝町の地域おこし協力隊の第1期生として愛知県から上勝に来ました。3年後の2016年に合同会社パンゲアを立ち上げ、観光事業や教育研修事業などを手がけています。もともと町営のキャンプ場があった場所で、そのハードを活用しながら、学校向けの体験型課題解決プログラム(サステナブル・アカデミー)、法人向けの体験型研修プログラム(MICE)など提供しています。

 

04上勝

 

私たちの活動は、上勝町が持つ「葉っぱビジネス」、「ゼロ・ウェイスト」というブランドをソフトに落とし込んで事業につなげているものですから、いわゆる一般向けの観光とは異なると考え、「サステナブル・ツーリズム」と表現しています。

 

また、上勝には年間で村の人口を上回る2~3千人の方が国内外から視察に訪れます。私たちは町からの委託を受けて、そうした視察団のアテンドのほか、葉っぱビジネスやゼロ・ウェイスト、さらにサステナブル・ツーリズムやSDGsの取り組みなどについて、講義やセミナーも企画・提供しています。

 

【村上】 東京でも活躍されていた野々山さんが上勝へ移住したとき、不便さは感じませんでしたか?

 

【野々山】 東京にいても不便なことはありますよ。最初に上勝で事業をと考えたとき、僕も難しいかなと正直悩んだところはあります。が、協力隊員という形で町民のみなさんと接しているうちに、町民の方々のヨソ者に対する寛容度が非常に高いと感じました。

雲南:住民からの支援のベースは地域自主組織

 

【村上】速水市長にお尋ねします。企業との連携を生かす秘訣はなんでしょうか?

 

【速水】 コロナ禍以前、雲南には多いときで月に約500人もの視察が来ていました。その方々に市の実態を見ていただく際の世話役をしてくれているのが、市内の公民館を拠点とした30の地域自主組織です。そのエリアの住民全員がメンバーとなり、幅広い活動に関わってくれています。

 

例えばコロナ禍が始まった時、行政が動き出す前に各組織でマスクを配布したり、子どもや独り住まいのお年寄りのケアをしたりなど、地域の皆さんが率先して動いている。そういう姿が共感を呼んで、雲南に行ってみたい、ということにつながっているのではないでしょうか。「大人チャレンジ」の姿であるこの地域自主組織が機能することで、企業のチャレンジを迎える体制ができていることを「見える化」してくれています。

 

【村上】 雲南市ではどんな事業を起こしてもベースには住民からの支援があるような印象を受けますね。

 

【速水】 2004年に6町が合併して雲南市が誕生しましたが、その時点で各町とも空き家の問題、独居高齢者の問題など、完全に「家庭の力」が落ちている状態でした。これ以上の地域力の低下を食い止めようということで、公民館単位のまちづくり組織立ち上げが始まりました。公民館は戦後、旧小学校区単位に設けられた施設です。つまり、地域自主組織は戦後の地域社会の再構築、「向こう三軒両隣」の世界を取り戻そう、ということです。根っこは相互扶助の精神です。

 

05雲南

 

【中澤】 (事業者側にとっては)地域の人たちと課題を共有しているか、協力して一緒に乗り越えられそうか、ということがポイントではないでしょうか。自分のやりたいこと、自分にとって大事なことはあっても、それは住民にとってどうなのか。地域に入って一緒に活動して、生活を共にしてみないと分かりません。地域の人たちと一緒に手を動かし汗を流すことで、初めてチャレンジは進んでいくのだと思いました。

 

上勝:先人が築いた町のブランドをさらに発展させる

 

【村上】 上勝町に来る事業者に望むことはありますか?

 

【花本】 望むことはありませんが、ひとつ言えるのは、(これまでの成功例は)町民自身も気づいていなかった地域資源を、外向けに発信したことで商売として成立している部分があるということです。人口1,500人ですから町の中だけで稼ぐのは難しい。やはり外向けの発信が大事だと思います。

 

また、多数の雇用を生む場を作っていただいたとしても、町民だけでその人員を確保するのは不可能です。人数的に大きな事業ではなく、ITを利用するとか、少量でも他にないものを作って外向けに発信していくというような事業のほうが、適しているのではないかと思います。

 

06上勝

 

実は上勝町に民間(賃貸)住宅は1戸もなく、公営住宅が100戸程度。そういう環境で、上勝でいきなり起業というのが難しければ、ゼロ・ウェイストセンター内のシェアオフィス部分を利用していただくこともできますし、現在計画中のコワーキングスペース「上勝ベンチャーHUBステーション」は既存の宿泊施設内に創設します。こうした施設を利用して、まずは見に来て上勝を体験していただきたいですね。

 

【野々山】 葉っぱビジネスもゼロ・ウェイストも、その時々のピンチをチャンスに変えて先人の方々が生み出し、築き上げてきたブランドであって、我々のような新しい事業者は「その上に乗っかっている」という表現が正しいと思います。「上勝起業塾」という創業支援も行っていますが、その参加者もこうした既存ブランドを新事業のコンセプトの軸にする方が多いです。ただ、ブランドだけで何でもできるわけではないので、ハード・ソフト両面でそれをいかに展開していくか、いかに今までにない形で見せるかが重要だし、またやりがいでもあります。

 

【村上】 人口減少と高齢化、一見困難な問題を抱える地域で、実は日本の先端を行く先進的な取り組みが生まれている様子を垣間見ることができました。ありがとうございました。

 


 

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この記事を書いたユーザー
中川雅美

中川雅美

神奈川県川崎市出身。東京の外資系企業数社で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わったのち、2014年初から福島県へ。復興庁からの派遣職員として、当時全町避難中だった浪江町役場の広報支援に入る。任期終了後も福島県に残り、現在は福島市を拠点にフリーのライター&広報アドバイザーとして活動中。 ブログ「Life in Fukushima 東京→福島 移住してフリーランスになった五十路の日々」https://lifeinfukushima.com/ 「良文工房」https://ryobunkobo.com/

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