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「やる」と決めるから仲間が集まる。釜石で地域と都市の橋渡しをするパソナ東北創生・戸塚絵梨子さん

2021.04.19 

本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。

2015年にパソナ東北創生を岩手県釜石市に設立し、地域で多様な生き方・働き方をつくり出す戸塚絵梨子さんにお話を伺いました。

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戸塚絵梨子氏プロフィール

株式会社パソナ東北創生 代表取締役社長

早稲田大学教育学部卒業後、新卒で2009年株式会社パソナに入社。都内企業に向けた人材サービスの営業に従事。2011年の東日本大震災発生から被災地でのボランティア活動に取り組む。2012年に休職し、NPO法人ETIC.右腕プログラムにより釜石市の一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校に入職。2013年にパソナに復職後、継続した地域との関わり方を模索するなかで社内起業制度を活用し、2015年にパソナ東北創生を岩手県釜石市に設立。都市と地域の関係性を見つめなおし、新たな生き方・働き方を創出することを目指して活動中。釜石と東京との2拠点生活7年目。

2009年 株式会社パソナに新卒で入社

2011年 東日本大震災発生後、宮城県、福島県などでボランティアを行う

2012年 「右腕プログラム」に参加し、岩手県釜石市で働く

2013年 派遣期間終了後東京に戻り、パソナで営業職として従事

2015年〜 社内ベンチャー制度を活用し、「パソナ東北創生」を設立

支援者ではなく、ともに挑戦する一員として

 

――まずは、戸塚さんが釜石とつながったきっかけを教えていただけますか?

 

東日本大震災後に参加したETIC.(エティック)の「右腕プログラム」で、岩手県釜石市の一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校に派遣されたことがきっかけです。そこで代表理事の伊藤聡さんや理事の柏崎未来さんに出会い、強く影響を受けたことが起業につながっています。

 

>> 伊藤聡さんの関連記事はこちら

大切なのは「一緒にすすめる」伴走意識。三陸ひとつなぎ自然学校・伊藤聡さんに聞く、地域で活躍するコーディネーターの育て方

 

釜石に行った直後は何も役に立てない感覚が強かったですが、自分と同世代の柏崎さんや伊藤さんがビジョンに向けて力強く活動している姿を見ているうちに考え方が変わりました。「いつかできるようになったら」「もう少し学んでから」ではなく、「やる」と決めるから仲間が集まるということ、自分ができないことは他にできる人を仲間にして巻き込んでいけば、できるようになることを知りました。これが「物事を動かす」ということなんだと学びました。

 

――派遣期間が終わったあと東京に戻られたそうですが、再び釜石に戻ったのはなぜですか?

 

釜石への派遣期間終了後、東京のパソナで2年間営業として働きました。その間、東北の復興のフェーズは少しずつ変わり、中長期的な目線で産業振興につながる息の長い活動がより必要となっていきました。外部のボランティアのような形で関われる余地が減ったことで、かつては釜石を復興させる一員だったのに何もできないことへの寂しさがありました。

 

今度は「支援者」ではなく、釜石のみなさんと共に挑戦する一員になりたいと考えていたとき、当時自分と同じようにパソナを休職し、釜石で活動していた同僚の石倉と相談し、一緒にパソナ東北創生を立ち上げることを決めました。はじめは釜石に住居もオフィスもなく、三陸自然ひとつなぎ学校で知り合った創作農家こすもすさんの倉庫をオフィスとして借り、居候までさせていただいていました。

地域で多様な生き方・働き方をつくり出す

 

――パソナ東北創生の事業内容を教えていただけますか?

 

地域で豊かな生き方・働き方をつくることをミッションとし、二つの軸で事業を展開しています。ひとつは都市部と地域の人材交流の接点をつくる活動です。企業の研修ツアーや大学のスタディツアー、インターンシップのマッチングをしています。それによって、釜石の交流人口、関係人口を増加させることを目指しています。

 

二つめは、地域内での多様な働き方や生き方を実践するための人材マッチングや採用サポートです。経営者の右腕になり得る人材のマッチング、副業のコーディネート、限られた時間でも働きやすいように業務を切り出した「プチ勤務」の創出など、一人一人に合った働き方をするためのコーディネートをしています。1月からは釜石市の委託で、ショッピングセンターの中で就労支援を行う暮らし「しごと・くらしサポートセンター/ジョブカフェ かまいし」を運営しています。

 

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――地域内外、どちらにもアプローチする事業内容なのですね。

 

当初は、地域の外に向けたアプローチのみを考えていました。三陸ひとつなぎ自然学校でのボランティア・ツーリズムのコーディネート経験を通して、バックグラウンドの異なる人同士が出会い、全く予期しないものが生まれる可能性を感じていたからです。

 

しかし、いざ始めてみると、外部からの研修ツアーを成功させるにはかなり丁寧なコーディネートが必要になり、人件費などを考えると経営的には大赤字でした。また、企業の方には、たった数日のツアーのために、わざわざお休みの日に工場を稼働させるなどの負担をおかけしたこともありました。

 

パソナ東北創生が目指したいビジョン実現のためには本当にこのやり方でいいのだろうか?と考え直し、改めて企業の方々の声も聞きながら、より本質的な地域企業の課題解決を目指して進めているのが地域内へのアプローチ事業です。ツアーで地域外の方が訪れることでプラスになる企業さんももちろんいらっしゃいますが、多くの企業さんは数日間のツアーだけではなく、中長期的な関わりを求めています。地域に人材が不足しているのであれば、より多様な働き方を提案することで、もっと多くの人が関わり、企業もプラスになるような仕組みを整えたいと考えました。地域外の人たちへの釜石の魅力の発信活動は続けつつも、就労サポートの事業を並行して進めています。

地域と都市の橋渡し役として

 

――起業をしたことで、釜石の方々との関わりに変化はありましたか?

 

「来てくれてありがとう」と地域に歓迎されるボランティアとしての間柄とは異なり、「仕事」としての関わりは、いい意味で緊張感があります。例えば、これまで一緒に仕事をしてきた、釜石オープンシティ推進室の元室長、石井重成さんの描くビジョンはどんなことだろう?と自分なりに想像した提案や調整をより意識するようになりました。また、地域企業の方とは、それまではお祭りやイベントなど地域活動で顔を合わせるような関係性でしたが、仕事のクライアントになることもあります。自分たちの存在価値は何だろうか、サービスを通して貢献できているだろうか、とより自問するようになりました。

 

パソナ東北創生は人と人をマッチングする事業なので、インターンシップのエントリーが来ないなど結果に結び付けられなかったこともあります。「本気じゃないなら東京に帰れ」など、時に厳しい言葉もいただくこともありましたが、様々なプロセスを経て、深い関係性を築けていると思います。

 

――仕事を通して釜石の皆さんと連携する際、大切にしていることはありますか?

 

私が起業したのは、震災後のボランティアで影響を受けた柏崎さんや伊藤さんなどと一緒に釜石で挑戦することが前提なので、自己完結することをやっても意味がありません。なので、地域と様々な連携を図ることを意識した上で、私の役割は翻訳すること、橋渡しをすることだと考えています。

 

釜石に来たことで、地域と都市が何の悪気もなく自然に分断してしまっていることに気づきました。普段接する機会がないので、お互いに距離感があることにすら無自覚なときもあります。

 

都市部の人にはもっと釜石の魅力を知ってほしいし、釜石の人には都市部の良さをもっと知ってほしい。東京で生まれ育った私は、東京も釜石も好きだし愛着があります。だからこそ地域と都市をつなげる上でやれることがあるのだと考えています。

 

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写真提供:パソナ東北創生

 

――釜石の既存のコミュニティと関わりを持つ際、どんなことを意識していましたか?

 

釜石の方々が大切にしているお祭りなどの文化や風習への敬意を持ち、大切にすることは大前提として、パソナ東北創生の事業やサービスを通して地域に認めてもらうことを重要視しています。それこそ今の私はボランティアではなく、ひとりの事業者です。ならば自分たちの取り組みを通して認めてもらい、対価をいただく流れをつくっていきたいのです。

 

その姿勢を学んだのはNEXT KAMAISHIです。「釜石よいさ」というお祭りを復活させた団体でもあり、本当に格好良い経営者の皆さんが集まっています。それぞれの事業を通じて地域や社会に責任を果たした上で、業種を超えたつながりを持ちながら活動しているみなさんです。

企業の「心臓」としてしなやかに生きる、釜石の魅力

 

――地域内外から様々な人を釜石の企業につなげている中で、挑戦したい人にとっての釜石の魅力はどんなことだと考えていますか?

 

もちろん一人一人の適性や企業の状況にもよりますが、釜石の企業では、組織の「心臓」として働ける可能性が高いです。「右腕」というより、もはや「心臓」レベルでの重要なポジションで働くことができます。これは業務が細分化され、効率化されていることの多い大企業にはなかなかできないことかもしれません。決められたルールや枠組みもない場合が多いので、自分で一つ一つ考えることができます。

 

また、釜石では「レジリエンス」という言葉を至るところで聞きます。シンポジウムやイベントのアジェンダだったり、行政と企業の包括協定のテーマだったり、「レジリエンス」は震災後の釜石を表すひとつのキーワードなのかなと感じています。

 

釜石では東日本大震災以前にも大きな津波被害があり、第二次世界大戦では艦砲射撃、企業城下町としての栄枯盛衰など、様々な変化や困難がありました。そのような歴史の上に、東日本大震災が発生したので、今の延長線上やこれまでの常識で進めてもうまくいかないことをポジティブに捉え、状況に合わせてしなやかに生きている方が多いです。不確実なことが当たり前で、困難な状況であっても失敗を恐れず前向きに挑戦する空気感があります。人間がすべてをコントロールできるわけがない、というおおらかさ、強さ、余裕や落ち着きがあるように感じます。

 

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写真提供:パソナ東北創生

 

――起業してからの5年間での手応えはありますか?

 

最近ようやく、続けてきてよかったと感じることが増えてきました。3年前、ある佐賀県出身の学生が1ヶ月ほどインターンシップにやってきました。卒業後は、Iターンで釜石に戻って来てくれて、今は元々のインターンシップ先の企業で働いて2年目になります。彼は東京で企業の内定をもらっていたのに釜石に来ました。周りからは反対されたそうですが、経営者のもとで働きたい思いがとても強かったのです。彼は入社前に、会社の改善ポイントをリストにして渡しています。会社側もリストを受け入れた上で、彼に改めてオファーしています。その会社は新卒を受け入れるのも初めてだったので、パソナ東北創生で研修制度や就業規則の設計をサポートさせていただきました。今でも彼とは毎月1回メンタリングをしています。

 

その会社では彼がきっかけとなって、継続的にインターンシップを受け入れています。パソナ東北創生で副業人材もマッチングさせていただき、今は彼らがハブとなり、複業人材と共に新規事業を主導しています。

 

当初はインターンシップ、研修ツーリズム、複業・・・それぞれ単独のプログラムを実施している感覚でしたが、その過程で地域のいろいろな広がりやつながりが見えてきて、ようやく「地域のエコシステムってこういうことか!」と実感することができました。

 

企業への営業時も「インターンシップを受け入れてください」というスタンスではなく、地域内外のリソースを活かしながら、一つのサービスにこだわらず、企業の課題を解決するには自分たちはどんなことができるだろうか、という視点で行えるようになりました。

 

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写真提供:パソナ東北創生

 

――これからの釜石にどのように関わって行きたいですか?

 

釜石の人たちが口を揃えて課題意識を持っているのは人材不足です。人口がどんどん減少する中で、事業をどう継続、成長させられるか。人材をどう採用するか。そのような課題に企業と向き合う中で、私にできることは、多様な働き方や生き方を提案、発信することだと思っています。

 

私自身、釜石に来たことで、もっと生き方は柔軟でいいと思えるようになったのです。暮らし方や働き方はもっともっと多様にできるし、キャリアステップもたくさんの広がりがあります。釜石の人の持つ「失敗はつきもの」「うまくいかないことも当たり前」という挑戦に対する前向きな空気感を活かして、自由に働けるっていうのを釜石から発信していきたいです。

 


 

※東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。

調査の詳細はこちらをご覧ください。

 

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