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孤育てをなくしたい、オンラインでママを支える助産師の想い―じょさんしonline

2020.12.09 

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※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

 

「みてね基金」では、子どもや家族の幸せのために活動している団体を支援しています。2020年4月より募集をした第一期では、新型コロナウイルスの影響で困っている子どもや家庭を支援する52団体を選定。国外で行った活動を合わせると、67団体を支援してきました。

 

その中で、助産師のサポートをオンラインで気軽に受けられるサービスを展開しているのが「じょさんしonline」です。目指すのは、「世界のいつどこにいても安心して妊娠出産育児できる社会」の実現。「みてね基金」では、コロナ禍の中でも妊産婦さんと助産師がつながる場をつくり続けるその実行力に未来への希望を強く感じ、採択しました。

 

今回、代表の杉浦加菜子さんにインタビュー。新型コロナウイルスの影響が広がる中、妊産婦さんのために起こした行動、また妊産婦さんたちへの想いについてお話を伺いました。

世界にいる妊産婦さんとつながって、一緒に考える

 

「上手に離乳食を作れなくて、どうすればいいかわからない。」

 

これは、「じょさんしonline」に寄せられる相談の一つ。代表の杉浦加菜子さんによると、特にSNSで離乳食の画像を見たママたちが個人相談や育児講座を利用することが多いそうです。杉浦さんは言います。

 

「離乳食の作り方を調べたくて検索をしたら、出てくるのは見栄えの良い離乳食の画像ばかり。それに充実した妊婦生活や育児生活の画像。『あんなふうにできない私はダメな母親です』というお話をよく聴きます。」

 

「じょさんしonline」は今、日本からサービスを展開していますが、オンラインという特性からドイツやシンガポールなど海外に住む日本人の妊産婦さんからの利用も多いそう。「子どもが離乳食を食べてくれない」、「理想の育児ができない」。そんな相談に対して、13人の助産師たちが一人ひとりに寄り添い、その人に合った方法を一緒に考えていきます。

 

「個人相談では、約1時間、ゆったりとした雰囲気の中でお話を聴きます。普段、助産師が病院で妊産婦さんと接する場合、他の業務があるのでどうしてもゆっくりお話できないんですね。でも、オンラインなら時間をかけて11で向き合うことができるし、妊産婦さん自身、病院では話せないこともお話できるようです。」

 

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200人の助産師が集まって、無料のオンライン両親学級を開催

 

「新型コロナウイルスの問題が広がってからは、『イライラして赤ちゃんに手をあげてしまいそうになる自分がいやになります』というご相談もありました。妊産婦さんたちのことが心配でした。以前から社会問題になっている産後うつや虐待が増えてしまうのではないかと思いました。でも、それは避けたいんです。」

 

そう話す杉浦さんは、まだ緊急事態宣言が発令される前に行動を起こします。4月4日(土)から4月19日(日)までの2週間、助産師200人と一緒に「じょさんしonline緊急企画~オンライン両親学級&児童館」を無料で開催したのです。

 

「行政による両親学級が3月下旬にかけて次々と中止になっていきました。子育て支援の場や児童館も閉鎖されました。病院での出産環境も含めて、それまで『当たり前』に受けられるものがなくなったことに、妊産婦さんたちは大きな不安を抱えていたんです。」

 

杉浦さんがSNSで妊産婦さんに投げかけた「今の悩みは何ですか?」という質問には、「里帰りができなくて不安」など1日20件ほどのコメントが寄せられたそう。それらを見て、「助産師の自分たちにできることがあるのでは」と思った杉浦さんはSNSに「ママたちのために一緒に動いてくれませんか?」と投稿。すると、その約5時間後には70人ほど、結果的に約200人の助産師が杉浦さんのもとに集まったそうです。その後、両親学級が開催されたのは、杉浦さんが想いを抱いてから1週間後。驚異的なスピードで実現した両親学級では1,445組の家庭とつながり、産前産後の情報を提供し、相談に応えていきました。

 

悩みの多くは「新型コロナウイルス感染防止で夫が出産に立ち会えなかった」、「実家に頼れなくなって、夫婦2人だけで産後を迎えるのが不安」など、新型コロナウイルスの影響によって環境が変わってしまったことへの不安でした。先が見えない中、出産や産後、育児生活をどう迎えればいいのかわからず、とまどっている妊産婦さんたちからの心の叫びが聞こえてきたのです。

 

「まずは、行政の両親学級など当たり前だったものがなくなったことを補って、『大丈夫なんだよ』と伝えたかったんです。『何があっても私たちが応援しているし、絶対に一人じゃない』と多くの妊産婦さんに届けたいと思っていました。」

 

2週間の「オンライン両親学級&児童館」を終えた杉浦さんたち。「じょさんしonline」のアンケート調査によると、受講前には64.2%の人が「不安が強い」と答えていたのが、受講後には1.8%まで減少したそう。一方、「安心した」と答えた人が88.3%になるなど、杉浦さん自身、「オンラインでも安心できると思ってもらえたのではないか」と手ごたえを感じる結果を得られたと言います。

 

また「オンライン両親学級&児童館」では他の家族と触れ合えたこともあり、「自分は一人じゃないと感じることができた」、「いろんなところに住むママたちと一緒に頑張ろうと思えた」という声も聞かれたそうです。

 

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もやもやを吐き出して、自分を癒すことの大切さ

 

「じょさんしonline」では、両親学級、そして講座以外にも、妊産婦さんたちが出会える場をつくっています。有料の個人相談や育児講座などを利用した人を対象に、月1回ママサロンを開催。さらに妊産婦さんたちがいつでも自由に交流できるように、チャットツールを活用した場を提供しています。

 

「たとえば妊娠中につながって、産後に『生まれたよ』と報告し合ったり、妊産婦さん同士で情報交換や育児相談をしたりしています。参加する方たちはお互い励まされたりもするようです。」

 

自分の妊娠生活や出産を振り返る場も、杉浦さんは大切にしているそうです。

 

「理想のお産ができなかったり、まわりの人の一言が引っかかったままだったり、つらい思いを抱えた方たちのための場です。これは個人相談でもしていますが、3人ほど集まった場では一緒に涙を流すこともあります。そうしながら自分のお産と向き合い、自分のもやもやした気持ちや傷ついた気持ちを吐き出すことはとても大事だと思っています。」

 

「出産に悪い印象を持ったり、トラウマになったりすると、どうしても子どもに向いてしまう。」と杉浦さんは続けます。

 

「妊娠中にあんなことをしてしまったからこの子は離乳食を食べてくれないんだとか、出産がうまくいかなかったから授乳もうまくできないんだとか。そういった後悔は虐待に走ってしまう恐れがあります。

 

そうではなく、子育ての原点である妊娠中の生活や出産が自分で認められれば子どものことも認められるし、自分のことが信じられれば子どものことも信じられます。だから、私たちは話を丁寧に聴いて、妊産婦さん自身が『それでよかったんだ』と思っていただけるように寄り添っていくことを大事にしています。」

 

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心から安心して話せる場所をつくりたい

 

杉浦さんが「じょさんしonline」を立ち上げたのは2019年1月。きっかけは杉浦さん自身の妊娠、出産、育児経験にありました。夫の仕事の都合でオランダで出産をした杉浦さん、その時に文化や言語が異なる国で、育児の考え方が違うことへの不安、自分の想いを理解してもらえないことへの孤独感を覚えたと言います。

 

「自分が生まれ育った国の言語や文化を理解してくれる人がいたらどんなにいいだろうと思いました。また、私の目の前に育児で迷っているママたちがいたんですね。だからボランティアで育児相談やマタニティヨガの開催をしていたのですが、帰国が決まって、相談を受けられなくなったんです。そこで、私が日本に行ったらつながれなくなる環境って何だろうと疑問がわきました。」

 

「自分やママたちがどこにいてもつながれる、そんな場をつくりたい」。そう思った杉浦さんは帰国後、オンラインでママたちを支える活動を始めることを決意。最初は一人で個人相談からスタートさせました。

 

「当時はまだZoomもハードルが高かったから、LINEビデオでお話を聴いていました。」

 

その後、杉浦さんから助産師に声をかけたり、逆に杉浦さんのSNSを見た助産師から声がかかったりしながら、一緒に活動する仲間が増えていったそうです。今では予約をすれば基本的に24時間、いつでも助産師につながることが可能です。

 

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「心掛けているのは、助産師として専門知識を提供するだけではなくて、妊産婦さんたちが自分のことを考えるきっかけになるような場をつくることです。それに、気になったことは相談できて頼れる場所があるし、『ここでは何を話しても安全なんだよ』と妊産婦さんたちに知ってほしいです。」

 

こんなふうに妊産婦さんをオンラインで支えている「じょさんしonline」の活動。今回、みてね基金の採択を受けて、今後はよりたくさんの人にサービスを届けられるよう、予約システムをはじめ使いやすさを追求したいと杉浦さんは語ります。何かあった時には思い出してもらえるような、オンライン上の“マイ助産師”となるための仕組みも丁寧に育んでいきます。

 

「まだ構想段階なのですが、将来的には日本にいる外国人の妊産婦さんたちも支えられればと思っています。多言語に対応できる仕組みを作って実現したいです。あとはオンラインで出産の付き添いをすることも考えています。」

 

オンラインの可能性を次々に広げようとしている杉浦さん。妊婦さんやママたちにはこんなメッセージを送ってくれました。

 

「妊婦さんは自分のお腹の中で10か月もの間、一つの大切な命を育くむというとても大きな仕事をされています。どうぞ自信を持って、安心して出産してください。ママたちもやはり子どもを育てるという大きな仕事をされています。どうぞご自分に自信を持ってください。

 

そしてうまくいかない時や迷った時には、助産師だけでなく、それを何とかして一緒に考えようとする人がいます。だから、どんどん頼ってください。絶対に一人ではありません。物理的には一人かもしれない時も、心の面では一人ではないと言い切りたいです。」

 

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取材して感じたこと

 

ふんわりと柔らかい雰囲気ながら、力強く言葉を発する杉浦さんから「妊産婦さんたちを助けたい」というその覚悟を感じ取りました。杉浦さんによると、「じょさんしonline」では助産師として産前産後だけではなく、女性の一生に寄り添っていきたいのだそうです。何か気になることや不安なことが少しでもあったら、地域を超えて話を聴いてくれる「じょさんしonline」にアクセスしてみてください。

 


 

団体名

じょさんしonline

申請事業名

助産師による全世界の方への日本語のオンライン両親学級と相談会

申請事業概要

オンラインでの両親学級や妊産婦の相談の場を設け、産後うつや虐待防止につなげる

 


 

「すべての子どもやその家族が幸せに暮らせる世界の実現」に向けた取り組みを対象にした「みてね基金」では第二期の助成先公募を開始しました。

 

中長期的なインパクトが期待できる取り組みに最大1億円の支援をおこなう「イノベーション助成」のほか、子どもや家族に寄り添いながら地道に活動を続けている団体の成長資金を提供する「ステップアップ助成」があります。詳細はリンク先の募集ページをご覧ください。

2020年度 「みてね基金」第二期 「イノベーション助成」募集ページはこちら!

2020年度 「みてね基金」第二期 「ステップアップ助成」募集ページはこちら!

 

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新型コロナみてね基金
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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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