「はじめてばこ」WEBより抜粋
働き方が多様化する中、組織や領域を越えて、新しいイノベーションが生まれる──
その兆しが横浜市にあります。
同市は、2019年1月に「イノベーション都市・横浜」を宣言。その理念の下、副業・兼業を活用した人材交流によりスキルを持った人材が関わりあうことで、自社の経営課題の解決や組織の垣根を超えた人材の交流・成長機会の獲得を支援するための事業──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」が、昨年度に続き、2020年度もスタートしました。
DRIVEでは前回、この事業を担当されている横浜市経済局の方々を取材。
今回は、この事業を通じて副業・兼業人材を受け入れた株式会社テレビ神奈川より、経営戦略室次長・小松 慎吾さん(以下敬称略)にお話をお伺いしました。副業・兼業の導入を検討している経営者のみなさんのみならず、新しい働き方に興味がある方々にもお楽しみいただける内容です。
地域のため、社会のために──
──本日はよろしくお願いいたします。はじめに、「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を知った経緯や、副業・兼業を導入する決め手などをお聞かせください。
小松 : 横浜市からご紹介いただきこの事業を知りました。我々はテレビ局ですので、外部の方々が常に流動的にいる状態で、業務委託契約で番組が制作されることは日常的です。しかし、副業・兼業という発想は今までなく、当時私ともう一人の担当者とで話が盛り上がりました。
副業・兼業──外部の人の力を借りるという発想──が、今我々が実施している「はじめてばこ」(*)という事業にマッチするのではと考えました。副業・兼業を受け入れることは初めてのことでしたが、「活用できる可能性があるのであれば、やってみよう」ということで、導入を決めました。
(*)神奈川県内にお住まいのお子さま(2020年1月1日以降生まれ、生後6か月まで)に、神奈川県の風物に彩られたオリジナルデザインの「はじめてばこ」が届くというもの。
副業・兼業を募集した際のバナー画像
──募集ポジションは「新規事業戦略プロデューサー」「新規事業プロダクトマネージャー」の2種類だったと伺っていますが、すんなりと決まったのでしょうか?
小松 : 「はじめてばこ」の事業──「かながわMIRAI」キャンペーンとも呼んでいますが──を大きくしようという明確な方針がありました。しかし、この事業の企画やシステムの部分に課題を感じていたこともあり、この事業に対して副業・兼業人材を募集することは社内的にもスムーズに決まりました。
──募集要項を作成する上で、大切にしたことや気をつけたことはありますでしょうか?
小松 : 単なる一つの事業ではなく、「会社としてちゃんとした取り組みである」という発信を丁寧に行ないました。神奈川に地盤を置いた企業として、「地域貢献していくこと」を日々大切にしています。「はじめてばこ」という事業自体がそういう要素を含んだものであり、「地域のため、社会のために、一緒に取り組みませんか?」という打ち出し方を意識しました。
はじめてばこ
はじめてばこの中身
取り組む事業の本来の目的から、議論を一緒に。
──今回の募集で3名マッチングしたと伺っています。選考時に印象的だったことなども含め、詳細をお聞かせください。
小松 : 多数のエントリーをいただき正直驚きました。応募の理由も人それぞれでしたが、「地域貢献や社会貢献に対して感度が高い方」「仕事はお金だけじゃないという発想の方」が多い印象を受けました。「はじめてばこ」の内容が地域貢献や社会貢献を含むものだったからという背景もあるかと思いますが、この時代だからこそ関心が高かったのかもしれません。
マッチングした3名は、「都内のIT企業に勤務している方」や「フリーでプロデューサー的なお仕事をしている方」です。みなさん以前から副業・兼業を実践し、二つ三つ掛け持ちしながらお仕事されているので、今回も柔軟に参画いただくことができました。
──マッチングしてから現在までどのような動きがあったのでしょうか?
小松 : 3名とは今年7月から正式に契約しましたが、取り組む事業が本格的に動き出したのは10月からでした。7月〜10月の期間は、「はじめてばこ」「かながわMIRAI」事業の本来の目的、事業構築やアクションプランなどを3名と一緒に議論しました。
議論の様子①
議論の様子②
事業が実際に動き始めてからは、チームを作って稼働しています。企画やアライアンス、事務局的な動きを私が担当し、営業やコンテンツ、システムなど4チームほど作り、3名の方にはそれぞれ「戦略プロデューサー」として参画いただいています。
はじめてばこ(*)を受け取った人に喜んでいただき、それを神奈川全体に広げていきたい──「はじめてばこ」の事業を通じてどれだけの方々に喜んでいただけるかということを、すべてのチームの最初の共通認識として持ち、3名の方もそれを達成するために動いています。
(*)ここでは事業の名称ではなく「神奈川県内にお住まいのお子さまが実際に受け取る、実物の箱」を指しています。
──副業・兼業を実際に導入してみて、手応えなどはいかがでしょうか?
小松 : 動き始めたばかりで、目に見えた成果はまだ出ていないですが、「動き出している雰囲気」は確かに生まれています。我々はテレビ番組を毎日制作し、その企画を発想することは日々の業務として行なっています。しかし新規事業などテレビ以外のことを行なう経験値は正直あまりないのかなと感じています。
副業・兼業で参画いただいている3名は、ゼロから事業を始めることを経験されてきた方々ですので、「新しく事業を始めるとは?」というそもそもの発想が強みとして活かされています。
“とりあえずやってみよう”という「全員の理念や共通の認識がない状態」だと、いずれ行き詰まることをすでに経験されてきた3名だったからこそ、7月〜10月の「事業自体のそもそも」についての議論に時間を費やすことができました。その感覚は、新規事業を日々の業務としてされてきた3名だったからこそ、だと思います。
副業・兼業人材を受け入れる魅力は?
──副業・兼業について、人材側の魅力は何だとお考えでしょうか?
小松 : ご自身が知らない世界の会社での経験は、いわゆるセミナーや勉強などで知識をつけるより──それらも確かに大切ですが──ご自身の力になると思います。しかも、報酬をもらいながら実践できるということで、やりがいもプラスアルファになってくるのではないでしょうか。副業・兼業の働き方は、リモートも可能になってきた今の時代だからこそ、個人的にはもっと世の中に広がって欲しいです。
──副業・兼業について、導入する企業側の魅力やアドバイスなどもお聞かせください。
小松 : どういう方とご一緒するのかにもよりますが、「外部の考え方」「今までにない発想や方法」が社内に入ってくることで、取り組む事業の可能性が広がります。
また仕事を報酬ではなく、「事業の内容」「どういうことをしたいのか」という部分に対して共感される方が圧倒的に多いと思います。お金は本業で稼いでいるわけで、「お金ではないこと」を、こういう時代だからこそ求めている気がします。私自身、今回そのことに気付きました。副業・兼業の募集は、「専門的なことをやって欲しい」ということでも確かにいいかもしれませんが、「地域のため、社会のために、一緒にやりましょう」というプロジェクトの方が、みなさんの共感を生み、人は集まってくるのではと思います。
「働く」ということの認識が今、「貢献」の方に向いていると感じています。
【案内】2020年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について
以上、小松さんのお話はいかがでしたでしょうか?
◆
さて今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施します。
副業・兼業に関する相談窓口(企業・人材向け)がWEBに設置されています。ぜひ詳細をご覧ください。
◆
※本記事の掲載情報は、2020年12月現在のものです。
【連載・第1回】
160年前の開港から、物語はずっと続いている―横浜から新たなイノベーションを
【連載・第2回】
本記事
【連載・第3回】
新規事業の立ち上げは副業人材と。中小企業にとって副業の受け入れはチャンス。【株式会社太陽住建の事例紹介】
【連載・第4回】
【連載・第5回】
誕生したのはオンラインコミュニティ!採用・不採用ではない副業人材との関わり方とは?【株式会社plan-Aの事例紹介】
【連載・第6回】
「プロに徹する」「自分の価値観を再認識できる」―副業経験者のリアルな声
【連載・第7回(最終回)】
副業人材の受け入れにより、見えてきた可能性とは?【太陽住建・ユニキャスト2社の事例紹介】
株式会社テレビ神奈川 経営戦略室次長/小松 慎吾さん
2008年株式会社横浜銀行に入行。10年間法人、個人営業として従事。2018年に辞令にて株式会社テレビ神奈川に出向。経営戦略室にて新規事業開拓の命を受け、企画段階にあった「かながわMIRAIプロジェクト」事業の担当者となる。副業人材の力も借りながら、これまでの放送事業とはまったく違った形の事業構築を目指し活動している。
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