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子ども・家族支援に新しい資金の流れをつくる―子ども・家族のための「みてね基金」運営の中の人に聞く(ETIC.編)

2020.12.25 

「すべての子どもやその家族が幸せに暮らせる世界を実現する」。

 

この想いのもと今年4月13日に設立された「みてね基金」。子どもと家族のために活動する団体を支援しています。原資は、家族のための画像・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」の企画・開発者で株式会社ミクシィ会長の笠原健治さんが提供した10億円です。

 

11月20日(金)にスタートした第二期の公募にあわせて、「みてね基金」を運営しているメンバーにインタビュー。前編ではミクシィの岨中さん、白岩さん、関さんの対談を紹介しました。後編の今回は、運営協力として参画しているNPO法人ETIC.(以下、エティック)マネージャーの番野智行、加勢雅善に話を聞きました。

 

前編はこちら

>> すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して。「みてね基金」運営の中の人に聞く(ミクシィ編)

2020年度「みてね基金」第二期募集ページはこちら!

>> イノベーション助成

>> ステップアップ助成

 

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左から、番野・加勢

 

一刻を争う中でのスタート。柔軟であることにこだわった

 

――「みてね基金」の存在は、今年は特に新型コロナウイルスの感染拡大により子どもや家族の状況が大きく変化するなかで注目を集めています。まず、エティックが「みてね基金」の運営に関わるようになったきっかけを教えてください。

 

番野:ミクシィさんは、もともとエティックのインターンシップの受け入れ先でした。まだミクシィも創業期で、20年ほど前のことです。その後も、笠原会長と私たちの代表の宮城を中心に時折接点があったのですが、今年2月に「子どもと家族を支援しているNPO向けの助成プログラムをつくりたい」というご相談をいただきました。

 

ミクシィの担当の方々と検討をスタートしたところ、3月に入って新型コロナウイルス感染症が急拡大しました。

 

「多くの子どもとその家族が影響を受けることになるかもしれない」。そう考えた笠原さんから、助成金の総額を10億円に増やし、スピード感を持って取り組みたいと重ねて依頼を頂きました。それから急ピッチで企画を進めていきました。

 

――「みてね基金」の運営を始める際に大事にしたことはありますか?

 

番野:まず、スピードを重視しました。東日本大震災の時もそうでしたが、行政からNPOにお金が届くには時間がかかるだろうと考えました。ただ、現場ではまさに今、緊急支援のためのお金が必要です。初めての助成金プログラムにも関わらず数週間で全てを整え、第一期では4月13日に公募開始。その後、200を超える応募団体を丁寧に審査しました。急にベンチャーを立ち上げた感じの毎日です。

 

もう一つ重視したのは、採択した団体を信頼することです。新型コロナウイルス感染拡大という未知の状況に対する緊急支援。現場の当事者に一番近いところで向き合っている団体のみなさんが、本当に必要だと思うことに助成金を使える形が良いと思いました。使途への制限も最低限にして柔軟性を高くすることにこだわりました。

 

――スピードと団体への信頼を軸に進められたのですね。その他にこの「みてね基金」で大切にされていることはありますか?

 

番野:組織を超えて一つのチームとして運営していることも大きな特徴です。エティックが丸ごと引き受けるのでなく、笠原さんやミクシィのみなさんと一緒に企画や運営、審査を行っています。皆さん情熱を持って取り組んでくださるので、急造チームですが雰囲気は良いです。Slackのチャンネルを共有し、まるで同じ組織の人間であるかのように日々やり取りが行われています。このご時世なので、まだZoom上でしかお会いしたことがない人も多いのですが(笑)。

第二期公募に向けて。誰も取り残さない社会を実現するために

 

――11月20日からは第二期の公募も始まりました。中長期的に大きな社会的インパクトが期待できる事業に対する「イノベーション助成」と、地域で草の根的な活動を行っている事業に向けた「ステップアップ助成」(12月15日より公募)となりますが、公募の背景と今の考えを聞かせてください。

 

番野:夏から秋にかけて、徐々に休眠預金や他の民間企業の助成プログラムや行政の動きも出始めて、少しずつ現場のNPOの支援の流れができてきました。そうした状況を踏まえて、9月頃から次をどうするかミクシィのみなさんと検討を始めました。

 

第一期では、地域に密着して、困難な状況にいる人たちにとても真摯に向き合っている団体が日本全国に多くあることを改めて知ることができました。同時に、そういう団体は自分たちの組織や体制を整える時間もノウハウもなく、組織基盤が脆弱なところも多い。一時的な助成金バブルで団体が潰れるリスクもあります。

 

だから、新型コロナウイルスとの戦いが長引くのであれば、緊急支援的な資金提供は他の助成金や民間からの寄付に任せて、みてね基金はあえて組織基盤・事業基盤の部分に資金提供をした方がより中長期的なインパクトとが大きく、持続的ではないかと思いました。

これが「ステップアップ助成」です。

 

資金支援に加えて、エティックのコーディネーターが伴走しながら、他団体の良い取り組みを地域を超えて学べる機会を作っていきます。

 

「イノベーション助成」は最大1億円とチャレンジングな金額ではありますが、このお金をしっかりと活用してくれる団体はあると思っています。

 

NPOの面白さは、たとえ儲からなくても大事なことを、知恵を絞り、工夫を凝らしてまわりの協力を得ながら実現することだと思っています。日々現場と向き合う団体は、ニーズと構造への確かな理解と、解決に向けた革新的なアイデアを持っていることが多い。一方で、投資的な資金の余裕は無いことが多いし、そこに大規模に助成するプログラムは日本では少ないんですね。そこで、実力と実績がある団体に対しては「イノベーション助成」として、大きな投資的資金を提供することにしました。

 

エティックの経験でいうと、東日本大震災の時には、震災復興リーダー支援プロジェクトとして、リーダーの右腕となる若者たちを東北に派遣しました(「右腕プログラム」)。その時、1年目は2億円弱、5年間で総額10億円近くの寄付や助成金を頂きました。それによって私たちは持てるネットワークやノウハウを総動員し、東北の復興の現場に300人以上のリーダーを半年~1年間派遣しました。プログラムは既に一区切りしましたが、今も多くの人たちが東北に残ったり、東北と縁を持ちながら活動しています。全体として、緊急支援でもありながら、その後の復興にも活かされる良い取り組みができたと思います。私たちの団体にとっても多くの学びや新しいネットワークが残りました。

 

地域で地道な活動を続ける団体と、社会に大きなイノベーションを起こそうとする団体、その2つが「すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界」という、みてね基金の理念の実現に近づくためには重要だと考えています。

よい緊張関係で、現場の団体と一緒に助成金をつくっていく

 

――今後の「みてね基金」について、どう育てていきたいですか?

 

加勢:現場にとって使いやすいお金にしていきたいです。

 

今は助成金を「出す側」と「もらう側」という関係性になりやすい構造になっています。エティックは実は、「もらう側」であることが多いのですが、この関係性になっているのは双方に問題があると思っています。まずは「もらう側」のNPO法人が積極的に意見を出していかないと変わりません。提案していける組織人になりたいし、なってほしい、良い助成金をつくる鍵を握っているのは現場で動くNPO法人のみなさんだと思います。

 

「みてね基金」では新しい資金の流れを笠原さんやミクシィのみなさんと一緒につくっている感覚が強いです。助成金への問題意識をぜひ提案してほしいです。そして、助成金を得たらNPO法人のみなさんには現場で価値を創ることを続けてほしいです。

 

番野:我々がしたいのはそこですよね。エティックも一度に10億円のお金が集まったわけではありません。頂いた資金でしっかり活動をし、成功も失敗も丁寧に共有していく中で信頼関係がつくられていって、多くの寄付者の方々と長期的な関係が続いたんですね。ゴールに向かってお互いができることをやっていこうという健全な緊張関係があることの大切さを学びました。だから、「みてね基金」はこちらが管理しすぎず、良い結果を出すためにお互いがエネルギーを出し合いたいという姿勢でつくっています。

 

加勢:アメリカでは助成財団等の資金提供者との関係性の管理を DRM ( Donor Relationship Management )と呼び重視しているそうです。エティックは普段、外資系の助成金を頂戴することが多いのですが、そのDRMはドライに管理しているわけではありません。これまで数えきれないほど交流を重ねてきて、人としての信頼関係が構築されています。だから、不正はしないと確信できるんですね。レポートを書いて、その先に深いコミュニケーションがあります。「みてね基金」でもそんな経験ができたらと思っています。その経験の有無は災害などが起こった時に差が出てくるんですよ。その関係性がある団体は必ず周囲から声がかかってくるし、そういった関係性は地域においても重要だと思います。

 

番野:最近、組織づくりの文脈で「心理的安全性」という概念があります。基本的には仲間として、でも時には異なる意見も率直に対話しながら衝突しながら高いパフォーマンスを目指す、発揮できる、そんな関係を目指したいと思っています。

 

加勢:「みてね基金」は柔軟性にこだわっていますが、その分シビアなんですよね。成果を実現するためにどう適応するかを、追い続けますから。

 

――最後に「みてね基金」第二期への応募を検討している団体の方へ一言お願いします。

 

番野:エティックもたくさん助成金を受けてきました。その時に役立ったのは、目の前の人に結果をきちんと出しながら助成金が終わった後も資本、資産が残るようにしたことです。私たちにとっては、それがノウハウや関係性でした。助成金を使いながら、何を社会に残していくかを考えてみてほしいです。

 

加勢:その資本や資産も最初から意識しておけるといいですよね。それは活動をしながら変わっていくでしょう。重要なのは、目の前の困っている人を継続的・持続的に助けられる仕組みをどうつくるかです。新しい支援が生まれるかもしれないし、当事者の方が進化・変化する場合もあります。制度をつくってもいい。この機会にそういったことを意識するのもいいのではないでしょうか。

 

「みてね基金」と、たとえば5年、10年付き合うことも想像して応募していただきたいです。助成金を提供している期間だけの付き合いではなく、これはあくまでも出会いのきっかけです。よい関係ができれば、関係性はその後も続きうるものだと思います。

 

番野:審査基準や対象事業など詳しいことは公募要領にあります。まずは公募要領をお読みいただければと思います。

 


 

「すべての子どもやその家族が幸せに暮らせる世界の実現」に向けた取り組みを対象にした「みてね基金」では第二期の助成先公募を開始しました。

 

中長期的なインパクトが期待できる取り組みに最大1億円の支援をおこなう「イノベーション助成」のほか、子どもや家族に寄り添いながら地道に活動を続けている団体の成長資金を提供する「ステップアップ助成」があります。詳細はリンク先の募集ページをご覧ください。

2020年度 「みてね基金」第二期 「イノベーション助成」募集ページはこちら!

2020年度 「みてね基金」第二期 「ステップアップ助成」募集ページはこちら!

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。