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「まちにドアを増やしたい」豊岡市に民間の図書館を生み出した医師の守本陽一さんが、10代のための「ユースセンター」に込めた想い

2023.12.22 

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総合診療医として、兵庫県豊岡市のまちの人の診療にあたる守本陽一(もりもと よういち)さんは、医学生時代、仲間たちと移動式屋台カフェ「YATAI CAFE」を始めました。

 

4年後の2020年には、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立し、まちの図書館「だいかい文庫」をスタート。医師や保健師、理学療法士、心理士など医療職・福祉職が活動に関わりながら、まちの人たちが同じ場でたまたま一緒になった人と過ごし、日常生活や身体など気になったことを相談できる場をつくってきました。

 

守本さんたちがつくる場の特徴は、対象者の設定がオープンなところ。「誰でもおいでよ」と扉が大きく開かれています。

 

そう感じられる場づくりで、今回、新たに10代のための「ユースセンター(※)」を立ち上げると聞き、そのきっかけや、「なぜ、あえて対象者を10代と決めたのか」など守本さんにインタビューしました。守本さんたちが提唱する「社会的処方」への思いもあわせて話をお聞きました。

 

聞き手 : 腰塚 志乃(NPO法人ETIC.)

たかなしまき(NPO法人ETIC. &フリーライター)

※ユースセンター : 家でも学校でもない、子どもたちのための第三の居場所。子どもたちの意欲と創造性を伸ばす関わりが行われる。一般社団法人ケアと暮らしの編集社は、認定NPO法人カタリバとNPO法人ETIC.が協働で立ち上げた、10代のための場づくりに携わりたい団体を応援するインキュベーションプログラム「ユースセンター起業塾」において、全国22団体のうちの一つに採択され、事業作りを進めてきました。

<参考> 認定NPO法人カタリバ プレスリリース

https://www.katariba.or.jp/news/2023/05/17/40936/

社会とつながる入口になるドア

 

守本さん曰く、“民間のシェア型図書館”「だいかい文庫」があるのは、豊岡駅から延びる商店街のカバンストリート沿いです。

 

まちの人たちが共同出資した10数坪ほどの場所には大きな茶色の本棚が置かれ、人々は「箱」と呼ばれる自分専用のコーナーを借りておすすめ本を並べることができます。お店番は交代で。ふらりと文庫を訪れた人が読みたい本を借りていく、そんな日常をまちにつくっています。

 

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「だいかい文庫」の外観。ふわっと町に灯りがともる

 

「だいかい文庫をきっかけに、お互いを気にかけあうようなほど良い距離感のつながりが生まれたり、誰かに相談してみようかなと思えたり。今、理想に思っているのは、そういった地域に対する信頼性が生まれていって、『一歩を踏み出してみようかな』と思える感覚が地域の中に広がっていくことでしょうか」

 

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ある日の「だいかい文庫」。親子で絵本の世界に夢中になる姿も

 

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ある日の「だいかい文庫」。たまたま出会った人と話が弾むことも

 

守本さんは、「だいかい文庫」や移動式屋台カフェのことを「小規模多機能な公共空間」と呼んでいます。

 

「だいかい文庫は、図書館だけれど、日によって保健師さんがいたり、本をきっかけに誰かとつながる居場所にもなったり。最近は市民大学も始めたので学べたり、教えることもできたり、お店番ができるなど役割もあります。

 

小さな空間に機能がたくさんあって、自分にとって始めやすい関わり方ができることが多機能の良さだと思っています。偶然一緒になった人同士でつながるうちにケア的なものも生まれるのかなとも思っていて。『社会とつながる入口になるドア的な場所』ですよね。そういう場は、地域の中に必要なんじゃないかなと思います

 

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守本さんたちの移動式屋台カフェ「YATAI CAFÉ」。なんだかうれしそう

 

YATAI CAFEの様子

守本さん(中央)たちの移動式屋台カフェに集まってくる人たち

 

 

「ドア」とは、京都大学の近藤尚己(こんどう なおき)主任教授をはじめとした研究班による「地域とつくる『どこでもドア』型ハイブリッド・ケアネットワーク」の取り組みのことを指します。

 

「いろいろなドアが地域の中にあって、ドアたちはみんなつながっていて、どこのドアから入ってもいいよね、といったことを近藤先生たちは提唱されているのですが、本当に大事なことだと思っています」と守本さん。

 

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「だいかい文庫」にはいろいろなジャンルのおすすめ本が並んでいる

 

守本さんがドア的な場所をつくる時に大切にしたいと思っているのは、「楽しそうなこと」。

 

楽しそうだからと入ったドアが、実はいろいろな世界につながっていて。これまでの居場所づくりや支え合いといった考え方とは異なるかもしれませんが、閉じ切った場所ではない、正しさや支援を強制されることもない、新しい社会の価値が生まれていくといいのかなと思っています。健康教室や支援センターという名前の場に、自分だったら行きたいと思わない。もちろんそれも大事な取り組みですが」

10代のための場をつくりたかった理由

 

今回、10代のための「ユースセンター」は、「だいかい文庫」と、同じく豊岡駅から徒歩15分の場所にあるミニシアター「豊岡劇場」が拠点になります。

 

「『10代の彼らが中心の場』をつくりたかったんです

守本さんに「ユースセンター」を立ち上げる理由を聞くと、こう話してくれました。

 

「だいかい文庫に中高生がたくさん来るわけではなくて、子どもたちって、大人がめちゃくちゃ多い場所に行くかというと、かえってハードル高く感じることもあるんじゃないかなと思ったんです。では、10代や中高生でなければ行けないのかというと、そういう場でもない方がいいと思いますが、『10代の彼らが中心の場所だよ』という場を、映画や本を切り口に作ったほうが、彼らにも届きやすく、一つのドアにもなり得るんじゃないかと思いました

 

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目指すのは、10代の子たちが物語とつながるようなドアになること 資料提供 : ケアと暮らしの編集社

 

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「あなたたちが中心の場だよ」と伝わるように

 

「情報や将来の選択肢が少ないように感じてしまう状況にある」という地域課題についても、守本さんは触れます。サードプレイスを含めた学校の選択肢も少なく、「こうでなければならない」と考える子どもも多いように感じるそう。

 

限られた選択肢の中では、場合によっては生きづらさに生きづらさが重なることもあるのではないか――。いろいろな子どもと話すという守本さんは、「やっぱりドアがもう1個増えるといいですよね」と話します。

 

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「だいかい文庫」ではご飯も特別においしく感じそう

 

「ドアを開けたその先に『いろいろな人たちがいるんだな』とか、『こんなことをやってみてもいいんだな』とか、小さな一歩を踏み出せる可能性を感じられることで社会への信頼性みたいなものにつながる場所があるといいんじゃないかと思います。

 

ドアって、まちのいろんなところにあっていいと思うんです。ドアを増やすチャレンジができたらいいですよね

ワクワクしながら入口を丁寧に設計する医師たちに惹かれて

 

医師を志す前から、「地域の中でも責任のある立場で誰かの役に立てるといいなあ」という思いをもっていたという守本さん。兵庫県養父市出身と、地方在住だったことでなかなかなりたい職業が思い浮かばなかった中、医師の仕事について、メディアなどで見聞きするうちに「人の役に立てるし、地元を超えて社会に貢献できる。かっこいいかもしれない」と感じるようになったと言います。

 

医学生時代は、最初に救急医療を目指したものの、公衆衛生や社会づくりに関心があったことで、地域医療や臨床医療もできて、公衆衛生やまちづくりのようなものにも関わっている医師たちに惹かれていったそう。地域との関りのようなものを考えながら医療を提供すること、また病院を受診する前のアプローチの重要性もいろいろな現場を見る中で知り、地域医療への想いがだんだんと強くなっていったと守本さんは話します。

 

「以前、自分たちが開いた健康教室に人が全然来てくれなかったことがあるのですが、そういった時に、RPGゲームを作ることが健康教育に結びつくみたいなゲームを作る医師に出会ったり、ワクワクした心をもちながら入口を丁寧に設計されているお医者さんたちの姿を見たりして、『これだったら僕もやりたいと思うかも』と思えたんです。想いは真面目じゃないといけないけれど、入口はやっぱり楽しくしたいよねと

この10年でめちゃくちゃ面白く変化した「豊岡市」

 

自治医科大学を卒業後、守本さんは、9年間、出身地の診療にあたるという大学のルールに沿って、兵庫県豊岡市の保健センターに家庭医療専攻医として勤務しています。

 

「学生時代に東京のにぎやかさを体験していたので、正直、『地元に帰りたくないなあ』と思ったりもしたのですが、大学3年か4年の時、偶然、渋谷ヒカリエで『豊岡エキシビション』が開催されたんです。当時、移住して間もなかった著名な劇作家さんが、『自分が関わった世界中の劇作家たちが豊岡に遊びに来ているよ』とお話されていて。

 

東京で僕が『かっこいいな』『面白いな』と思っていた活動や取り組みが、さらに尖った形で、地元で行われているのを知ったりして、すごくうれしくて、面白いと思ったんです」

 

医学生時代には、豊岡市の活動にすでに関わっていた守本さん。渋谷でのイベントをきっかけに“ワクワクできる豊岡市”と出会ってからの豊岡市のことを、「あれから10年近く経ちますが、めちゃくちゃ面白く変わったと思います」と語ります。

 

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ある日の豊岡市のワンシーン。なんだかいい雰囲気

 

「移住で有名なまちの一つになったり、当時集まってきた人たちがアートセンターを作ったり、大学を作ったり、アーティストの方もすごく増えています。地元の面白い人たちも、ゲストハウスを始めたり、ご飯屋さんを始めたり。いろいろな取り組みが豊岡劇場を中心に広がって、人口8万人くらいですが、いろんなプレイヤーがどこかで何かを仕掛けている、そんな面白さが感じられるまちになっていると思います」

 

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「豊岡劇場」で地元の人たちとピースサインをする守本さん(前列中央)

 

最近、守本さんはよく思っていることがあるそうです。それは、「『かっこいい』って大事だな」ということ。

 

「僕自身、年齢を重ねるにつれて、ついついロジックで物事を考えがちなのですが、小さい頃に感じていた『かっこいい』ってやっぱり大事だよなと思って。それに、入口の設計の『楽しそう』とか『おしゃれだよね』とか、空間の中にいる人たちがちゃんと楽しんでいることが大事だなと思っています。

 

今は、『やるべきことをやらなければ』と頭で考えて動くことよりも、『直感的に動いた先にいい結果が待っている。そういう地域社会のほうが絶対にいいよな』と思っていて。そのためにも、僕は『かっこいい』という感覚を意識し続けていくんじゃないかなと思います」

まちにドアがたくさんあること

 

守本さんにとって、今のような社会につながるドアをつくる入口となったのは、「社会的処方」という考え方でした。

 

イギリスでは、『お薬ではなく、つながりを処方する』といった、医療機関を起点にいろんな地域のつながりにつなげていく取り組みがあります。『医療機関がつながりの入り口のドアになってもいいよね』という考え方で、僕たちの取り組みについても、『映画館や図書館が一つの入り口になってもいいよね』ということかなと思っています」

 

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今日はどんなドアを開けてみようかな?

 

「一つひとつのドアをきっかけに本人が自分らしさを発揮していったり、場に対する信頼性が増していったりする中で、何かやりたいことをやっていったり、本人が望めば支援を受けられたり、そういう入口が増えるまちになっていくといいなあと思っています」

 

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まちの中を押して歩く移動式屋台カフェも、「ドア」になる

 

医学生時代からすでに豊岡市での活動を始めていた守本さんですが、意欲的な行動力にますます大きなエネルギーを感じさせます。その源を聞くと、守本さんはこう答えてくれました。

 

「いろんな臨床の中で、孤独だという人を何度も見ました。自分もいろいろあって、大学6年生の時に母親が他界したのですが、その時、父親と僕が離れて暮らす時期があって、『あの時、誰に救われたんだろう』と振り返った時に、やっぱりいろいろなつながりがあったと思えたんです。いろんなコミュニティの中でいつも通り過ごせていること自体が回復へのプロセスだったと僕自身は思っていて。そういう場があるのは本当にありがたいとすごく思えたことは一つの大きな原体験だったと思います」

 

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移動式屋台カフェから何か大作が生まれる予感

 

「自分が体験したような何かとつながれる場所やコミュニティが、まちのみんなにあることはすごく大事だと思っています」と守本さん。

 

「それに、あの時、人間いつ死ぬかわからないなと思ったし、医師になってからもすごく思いました。どちらかというと、以前の僕は計画的にキャリアを築きたいタイプだったのですが、その時生きているかどうかもわからないし、やりたいことはやろうと思ったうちにやろうと思って。それでこんな感じになっているのかもしれません」

 

楽しそうかも、入ってみようかなと思えるドアがまちにたくさんあること。それも、守本さんも「好きなのは間違いなく好きで」と話す本や映画を軸にした場の良さについて、最後にこう話してくれました。

 

「最初は『一人でもいい』ということだと思うんです。最初は一人でもいいけれど、面白いと思ったことをきっかけに誰かと話してみることもできるよねと。そういう良さがあると思っています」

 

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最初は一人でもいい。ただ、「面白そう」から何かが始まるかも

 

 

写真提供 : 守本 陽一


 

「だいかい文庫」では本棚のひと箱を借りてくれるオーナーの方を募集中です。豊岡市外の遠方の方でもOK。

興味のある方はこちらをご覧ください。

https://carekura.thebase.in/

 


 

一般社団法人ケアと暮らしの編集社では一緒に働く仲間を募集中です。ご関心ある方は求人記事をご覧ください。

一般社団法人ケアと暮らしの編集社の人材募集の詳細はこちら!

 

医師 ・ 修士(芸術)/守本 陽一(もりもと よういち)

1993年、神奈川県生まれ、兵庫県出身。自治医科大学在学時から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFEや地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。総合診療医として働く傍ら、2020年11月に、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立。社会的処方の拠点として、商店街の空き店舗を改修し、シェア型図書館、本と暮らしのあるところだいかい文庫をオープンし、運営している。また、医療・介護・福祉・デザイン・アートとまちづくりを掛け合わせた「ケアとまちづくり未来会議」の開催など、まちづくりとケアの橋渡し活動を行う。現在は、保健所で、医療政策および重層的支援体制整備事業、在宅医療介護連携、総合事業、認知症政策、社会的処方モデル事業等の市町村支援に従事。まちづくり功労者国土交通大臣表彰。グッドデザイン賞審査員賞受賞。共著に『ケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)』『社会的処方(学芸出版社)』など。

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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