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なぜ女性リーダーの支援が「DEI」を加速させるのか? あえて課題の真ん中に切り込む理由―ETIC.30周年ギャザリングレポート(3)

2024.02.14 

There are eucalyptus leaves and a burlap bag on a wooden table. On top of it is a sketchbook with an illustration of the earth and a speech bubble-shaped sticky note that has "What's SDGs" written on

 

NPO法人ETIC.(エティック)は、創業から30周年を迎え、昨年、インターナショナルな新しい挑戦として「アジアの女性リーダー支援を通じた新たな挑戦」を本格始動させました。

 

前記事では、活動を始めたきっかけや概要などをお届けしました。こちらの記事では、後編として引き続き昨年12月に開催された「ETIC.30周年ギャザリング」でのトークセッションをもとに、なぜエティックが女性起業家を対象にした支援を行うのか、その理由からエティックが目指したい未来までを語った様子をご紹介します。

 

<登壇者>

モデレーター  :  藤村隆さん(フリーランス・SVP東京 前代表理事)

伊藤 枝里子さん(特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパン フェロー)

川島菜穂(NPO法人ETIC. インターナショナルチーム)

なぜ、DEIの取り組みで女性の支援に焦点を当てるのか?

 

藤村さん : これまで長い間、男女の機会を平等にするといわれるなかで、同一の機会を与えることがよしとされる社会的な背景や変化がありました。一方で、ジェンダーに関しては、根本的な構造の問題にもっと目を向けなければ本質的な是正は図れないのではないかという議論があがっています。ただ単に同じ機会を与える、同じステップを用意するだけでは乗り越えられないものがあるのではないか、と。そういった背景があって出てきたのが構造的不均衡の是正(エクイティ)という議論なのです。

 

エクイティについて、既存の構造を変えていかなければならないといったことは、何かこれまでのようにアウトプットやアウトカムの方向性を決めて、プログラムを実施すること以上の行動を必要としています。価値観についての対話や変化までのプロセスにもとても注意が払われています。

 

川島さんは、エティックとして始めたダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)の取り組みについて、将来的なことも含めたプロセスについてどう考えていますか?

 

IMG_2388トリミング後

当日の会場の様子。中央のプロジェクターに写るのはマレーシアからリモート出演した伊藤さん。

DEIの取り組みは組織や社会、自分自身にどんな影響や学びを与えるか、関心が集まっている

 

川島 : DEIの取り組みの対象者としては、女性だけでなく、ジェンダーマイノリティや障がいのある方、移民難民の方、性の役割や構造に対して疑問を持っている方も支援の対象になり得ると思っています。

 

では、「なぜ女性支援なのか」については、社内でもたくさん議論が起こり、インターナショナルチームでも何度も対話を重ねました。

 

同時に、国際社会や海外の支援機関などの動向を見ると、知識層や経営者は、これまで歴史上の表舞台で声を聴くことのなかった黒人の方々、先住民族の方々の経験にもっと耳を傾けようと真摯な態度で行動していることに気づきました

 

Tell us your story symbol. Concept words Tell us your story on white puzzle. Beautiful pink background. Business and Tell us your story concept. Copy space.

 

私たちは、女性を支援することは、人権やヒューマニティに直結することだと考えています。不均衡の是正(エクイティ)の課題は、性別、国籍、肌の色に関係なく、あらゆる人が特定の形で関係している課題だと認識しています。しかし、既存の社会構造において、自分の力だけではどうにもならない無力感を感じている人たちのなかでも、最も多い人口層が女性だとしたときに、女性リーダーたちが抱えている不均衡の是正(エクイティ)に取り組むことは、その先にいる既存の男性的役割に疑問を持つ男性、ジェンダーマイノリティ、それ以外の多くの人たちも生きやすくなる社会をつくっていくことにつながるという結論に至りました。

 

そういった考えを社内でも伝え、対話を積み重ねているのがエティックのDEIへの取り組みの現在地です。

DEIの課題の真ん中に切り込んでいく。エティックならリードできると信じられる力を活かして

 

藤村さん : 伊藤さんは、エティックの女性リーダーたちに向けたDEIの対話や取り組みが広がっていくことは、日本や海外にどんな意味や価値を持つと考えますか?

 

伊藤さん : 私が参加したプログラムでは、プログラムを通じて同じ境遇の人たちと語り合えることがとてもよかったです。お互いが抱える課題に共感し合い、気づきを得ることができました。特になるほどと思ったのは、自分が直面したジェンダーの課題について、国をまたぐことで日本特有の問題ではなく、地域性に関わらずあらゆる女性に起こり得ることだと気づけたことです。

 

出産前の私は、「社会で頑張ることは当たり前」「自分の課題は自分で解決することが当たり前」という価値観に縛られていて、出産後、自分に起こった違和感も個人の課題だと思っていました。でも、プログラムを通じていろいろな人と話すことでそれらは社会の課題として位置づけられるのだということ、また解決に向けて一歩を踏み出したいと勇気が湧いてきたのを感じました。それは私が感じたプログラムの大きな価値だと思っています。

 

Teamwork, mentorship and cooperation concept. Employees giving h

 

藤村さん : エティックがDEIの真ん中にある課題に切り込んでいくことは、社会にとっての変化を促進していくことにもつながると思います。同時に、エティックの組織の内部を変えていくインパクトがあり、30年目にしてエティックがDEIに取り組む意義があると思っています。

 

川島 : 意義はとても大きいと思っています。私はエティックに入社して4年未満ですが、エティックが30年培ってきたことはもっと国際社会に発信されるべき価値のあることだと思っているし、貢献度も大きいと思っています。

 

今回のトークセッションを企画するにあたって、不均衡の是正(エクイティ)について藤井さんから学びを得るなかで、「ジェンダーやDEIの話はやっぱりしづらい」と改めて思いました。なぜかというと、「これができた」「あれができていない」といったDoing(活動・実績)の話に焦点を当てることが多いと感じたからです。

 

でも、世界を見渡すと、DEIに取り組む団体でも、全てを完璧にできている団体は多くないと思います。それでも国際社会の先駆者たちは、「私たちはDEIに取り組む価値を大事にしているし、体現します」というメッセージを続けていくことを大事にしています。そういった意味で、DEIへの取り組みの本質は、DoingではなくBeing(あり方)にあると思います。

 

エティックはまさにこの30年の間、起業家のDoingではなくBeingを支援してきたからこそ、いまの自発的なエコシステムが醸成されてきたと思っています。エクイティの本質がBeingにあるとしたら、エティックがDEIの本質を国際社会で追求していくうえで、リーダーシップを取れる幅はとても大きいのではないかと思っています。だからこそ、私は30年かけてエティックが支援し続けてきたBeingの力を信じてDEIに関する発信し続けていきたいですし、仲間になってくださる方とつながりたいです。

DEIへの取り組みで海外と肩を並べられるように

 

伊藤さん : エティックのDEIへの取り組みに対して、2つの期待があります。

 

一つは、エティックが持つコーディネーションの力です。ジェンダーの課題で女性支援というと、「女性優遇」「女性だけを支えよう」と捉えられがちだと思います。一方だけを優遇して見えるものには、他方との分断を生み出していく構造にもなりやすいのも事実です。

 

でも、ジェンダーの課題そのものについて、多くの人が話し合うことは全員のウェルビーイングにつながるのではないでしょうか誰もが「幸せに暮らせる社会」を目指しているはずです。そのため、そうした分断を乗り越えていく必要があるし、それをやり切るカギは、エティックが持つコーディネーションの力にあると思っています。つまり、異なる人たちが対話をしたりお互いの価値観を理解し合ったりしていくプロセスをコーディネーションしていくのです。エティックの30年間のコーディネーションの力を発揮してほしいと思っています。

 

もう一つ、エティックはこれまで個人課題だと思われていたことを社会構造のなかで定義し直したうえで「社会課題である」とし、「社会全体でどう解決していくか」と働きかけることを得意としてきたと感じています。ジェンダーの課題についても、「個人課題ではない・社会の課題だ」と発信しながら、みんなで解決していくための取り組みやすいアプローチが生まれそうだと思っていますし、私自身も挑戦していきたいです。

 

There is a piece of paper with the word "Sustainable Development Goals" on wood stump.

 

川島 : DEIへの取り組みは、必ずしも海外がやっているから私たちもやろうといった単純な話ではないと思っています。

 

ただ、これからエティックが国際社会で活躍していく上で、DEIに関して世界の支援団体と肩を並べられるようになることはとても重要だと思いますし、そこにもっと注力していきたいです。

 

藤村さん : エティックが30年間の活動を経てDEIの取り組みに舵を切ったことは、僕にとってもすごくうれしいことです。社会課題を解決するとなると、当事者の方がいて、解決すべき人と支援される人がいるというマインドセットになりがちですが、ビーイング(ありかた)からのアプローチでは必ずしもそれだけではないと思います。

 

特にジェンダーの課題では、「女性のほうに課題があるなら男性側が助けるべき」ともなりがちですが、一度立ち止まってみれば、男性側も自分のジェンダー、例えば男性性とリーダーシップについての課題に気づくことができます。男性も、男性性によって傷ついたり、「何かおかしい」と思っても声を上げられないということはないだろうか、といったことです。だから、男性同士で対話することから不均衡の是正(エクイティ)の活動をはじめることができると思います。

 

このほかの記事はこちらでお読みいただけます。

>>【特集】ETIC.30周年ギャザリングレポート

 


 

エティックのDEIへの取り組みに関しては下記の記事も参考にしてみてください。

>> なぜ今、ETIC.が女性起業家・リーダー支援に乗り出すのか

>> 組織や事業に多様な変化を起こすには?D&Iコンサルタント・寶納弘奈さんに聞く社内を巻き込む2つのポイント―ETIC.のD&I推進【1】

>> 根っこから公平な組織文化をつくり、社会を変えていくために。D&Iコンサルタント・寶納弘奈さんに聞く持続可能な価値づくり―ETIC.のD&I推進【2】

 

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。