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「靴のインクルーシブデザイン」で新たな市場を開拓。副業人材に見出した地域での取り組みを超えた可能性とは──株式会社シューマート【NAGA KNOCK! (3)】

2025.07.23 

靴履物の販売業として、長野県中心に新潟、山梨、群馬、栃木、茨城で30店舗を展開する株式会社シューマート。2023年に半年間、副業人材をはじめて採用し、ずっと温めていたインクルーシブプロダクト開発の取り組みをスタートしました。

 

今回、副業人材として、大手文具メーカーでCSVサステナビリティ推進の役割を担う責任者が参画。靴の量販店として地域に根ざしてきた企業のプロジェクトを副業人材がどう支えたのか、また、副業人材との事業推進からどんな可能性が見出せたのか、シューマートの代表取締役・霜田清(しもだ きよし)さんにお話を伺いました。

 

本記事は、首都圏等で働く人が、副業として半年間、長野市の経営者と一緒に、社会課題解決に向けた新規事業を起こすプログラム「NAGA KNOCK! (ナガノック)」を紹介する連載記事(全4回)です。長野市での挑戦をきっかけに、地方で次のキャリアや人生のトビラを開いた人や、副業人材の活用で新たなビジネスの可能性を感じている経営者へのインタビューをお届けします。

 

霜田 清(しもだ きよし)さん

株式会社シューマート 代表取締役、株式会社サンドリームファクトリー 代表取締役社長

1967年、長野市生まれ。長野県長野高等学校・早稲田大学法学部卒業後、1996年株式会社シューマート入社。2000年社員全員が株主となって設立した株式会社サンドリームファクトリーの初代社長に就任。その後、2007年に株式会社シューマート社長に就任する。2017年株式会社シューマート会長となり、2020年株式会社サンドリームファクトリー社長に復帰。2021年株式会社シューマートの社長兼務となり、現在、新しい事業や価値開拓への挑戦を推進している。

聞き手 : 湯川卓海(NPO法人エティック「NAGA KNOCK! (ナガノック)」プロジェクトマネジャー)

※インタビューは2025年5月に実施しました

 

企業の役割を徹底的に見直し、「足と靴の困りごと」解決へ

──株式会社シューマートが展開する事業の特徴と、今回、副業人材が新規プロジェクトに参画するまでの経緯を教えてください。

 

事業の大きな特徴は、足と靴の専門資格「シューフィッター」を保持したスタッフが約80名在籍していることです。お客様に対して足の計測から丁寧に接客し、足と靴の困りごと解決に取り組むことに力を入れています。

 

創業から50年以上、多種多様な商品をそろえた地域最大店舗(平均店舗面積300坪)としてのポジションを維持してきました。しかし、大量生産、大量消費の時代が終わり、人口減少や少子高齢化が進む中、既存のビジネスモデルで苦戦し、一時期は事業の危機も経験しています。

 

その際、もう一度、お客様に対する自分たちの役割を徹底的に見直し、行きついたのが、「足と靴の困りごと解決」を主軸にした事業展開でした。

 

株式会社シューマートのウェブサイトより

 

しかし、ネット販売が靴の分野でも当たり前のいま、その中でも、スポーツのグローバルブランドではBtoCが加速しています。そうなるとシューマートのような「仕入れ販売」を中心とした業者自体は消滅していくことが避けられない状態になるだろうと、大きな危機感を抱いていました。

 

そこで考えたのが、新事業「インクルーシブデザインプロダクト」です。これは、自社の「ものづくり」機能を強化することで、課題解決できる可能性の幅を広げるもの。会社の念願だった自社ブランドをここから育てる方針です。

 

そこで、社外から専門知識とスキルを持った副業人材を迎え入れることになりました。企画の立案・運営面から力を貸してもらえると心強いと思っていたのです。

 

──靴履物事業を持続可能にするために、社会課題解決を大きな視野に入れた「ものづくり」機能の強化に着目されたのですね。副業人材を迎え入れるまでにはどんなステップがあったのでしょうか。

 

最初に、2023年、長野県が公募をかけた「県民参加型予算(提案・共創型)」の「共生社会の実現に向けた体験機会の創出」にシューマートの企画が採択されました。企画のテーマは、「障がい者の方が考え、健常者と共にそれを形にし、すべての人の快適な生活を実現する」で、具体的には、次の3つがポイントになります。

 

  1. 障がい者の方が感じている「不便さ」を解決するモノ・サービスを障がい者の方がデザインする
  2. 障がい者の方がデザインしたモノを企画・開発・製造し、販売する
  3. 障がい者の方が構想したサービスを実現する店舗運営をする(カフェなど)

 

2023年は、プロジェクトの準備期間として、長野県と、共に採択された長野朝日放送株式会社とタッグを組んで、県内の障がい者の方たちとの関係性作りを目的としたワークショップなどを開催しました。2025年までの準備期間を経て、具体的なモノ・サービスの企画開発をし、リアルの店舗やネットでの販売につなげていきたいと考えています。

 

店員に相談しやすい雰囲気など、シューマートの店舗は地域の人にとって身近な存在になっている

 

若手の新たな気づきが会社全体の成長を後押し

──シューマートの「インクルーシブデザインプロダクト」は、どんな特徴があるのでしょうか。

 

「障がい者の方にとって良いデザインは、健常者の方にとっても良い」といった考え方を前面に出した「インクルーシブデザイン」です。現在、新商品開発を進めています。「インクルーシブデザイン」は、私自身が、何年か前に出会って以来、ずっと実現したいと温めてきたものでした。

 

今回、本格的な実現に向けて、自分と一緒に考えを整理し、企画開発に携わる役割として、大手文具メーカーでCSVサステナビリティ推進を担う責任者に参画してもらいました。主な業務は、半年の間、週1回のオンライン会議と月1回の対面での会議をもとに、事業推進をサポートすることです。

 

大きな目的は、副業人材がもつ、インクルーシブデザインの事業化と新商品開発の経験を活かして、シューマートの事業戦略をより実現性の高いかたちで加速させること。そのために重視したのは若手たちに対するインクルーシブデザインの教育で、知識を深める対話やワークショップの場を定期的に開きました。

 

今回、若手社員がインクルーシブデザインの良さや活用する意義、社会に新たな未来を感じさせる影響力など多くの気づきを得られたことは、会社全体の今後の成長を力強く後押ししたと確信しています。

 

独自のプラットフォーム「ソルデザイン」から新商品開発へ

──インクルーシブデザインを取り入れた新商品開発は進んでいますか?

 

はい。現在、進行中です。今回、新たに「Shape of LOVE =愛の形」をする意味プラットフォーム「ソルデザイン」をつくり、そこからしっかりお客様に対する新商品開発が可能となるように、ものづくりを進めています。

 

まず、障がいのある方に、商品開発したサンプルを実際に使ってもらい、それぞれ感じた課題を共有することをお願いしました。今後、課題を共有しながら、「ソルデザイン」のものづくりを本格化させていきます。

 

店舗で行ったワークショップの様子

 

5月には一般社団法人インクルーシブスタジオを立ち上げました。今後、店舗の一角に、障がいの有無に関係なくいろいろな人が集まれる場所を作りたいと考えています。そこでは、みんなでアイデアを出し合いながら、モノやサービスを作っていく予定です。

 

あわせて、障がいのある方のアートを商品化するプロジェクトを始めます。5月からは、長野駅前にあるデザイン学校の生徒たちと、障がいのある方たちが一緒になってフォントやパターンを決めるなどデザイン作りを進めています。

 

近い将来、長野市在住の障がいのある方のアート作品を商品化していく予定です。長野市から全国、世界へアートを発信するのです。

 

インクルーシブデザインの可能性が、確実な成果へつながっていく

──今回、外部の副業人材と一緒に新事業をつくったことで、シューマートにとってどんな成果が表れたと思いますか?

 

日本での、障がい者の方の割合は約7.4%といわれています(厚生労働省)。それでも、「インクルーシブデザイン」が持つ大きな可能性は大きいと感じています。

 

例えば、「障がいのある方にとって良いものは、健常者の方にとっても良い」ことで、さらに高齢者の方にとっても良い商品だと言えると考えれば、多様な市場を予想することができるからです。また、自分たちの新事業でも、大きな手ごたえのある成果を出せると信じています。

 

今振り返ると、これまでの地域密着の店舗だけの立ち位置だけでは、ここまで進化することは難しかったと思います。今回、社員のみんなと挑戦できて本当に良かったです。

 

副業人材を機に、一つの地域以上の可能性が生まれた

──地方の企業が副業人材を活かして事業をつくり、推進することの意味は何だと思いますか?

 

最も大きかったのは、机上の空論ではなく、実際にビジネスとして成立させている企業と一緒に事業づくりに取り組めたことです。

 

社会での立ち位置を意識できる大きなチャンスだったと思っています。何かやりたいことがあるとき、すでに実践し、多くの試行錯誤を経験している企業の人材が社内に入ってくれることで、一つの地域だけで取り組む以上の成果が生まれるのだと実感できました。

 

大企業の社会に対するアクションや世の中の大切な動きに気付けたことも、副業人材が参画してくれたおかげです。また、私一人で抱え込んでいたアイデアや想いも、今回、副業人材と何度も話すことで、自然と必要な情報が集まってきたように思います。今後も、重要な気づきを得ながら、自信をもって前に進めると確信しています。

 

すべての人が「履きやすさ」「心地よさ」を感じられる、新しい価値づくりが長野から発信されていく

 

──副業人材に関心を持っている地方の企業や個人の方に向けてアドバイスをお願いします。

 

地方は社会課題の先進地です。シューマートの本拠地である長野県は高齢化率が高く、社会課題解決を目的に事業を進めることで新たな市場が生まれる可能性も感じています。

 

また、地方は都会に比べてスモールステップで事業を始めることが可能なため、何か地域で挑戦したい社会課題解決の事業があったとき、一歩を踏み出しやすいのかもしれません。

 

その際、誰かに話し、自分から行動や変化の機会を見つけに行く。そうして得た新しい取り組みは、企業、副業として働く人、お互いにとってより良いプロセスや成果を生むのだろうと思っています。

 


 

>> NAGA KNOCK! 公式サイト

受け入れ企業・経営者の募集は例年4月頃に、参加者(副業人材)の募集は例年8月頃に行っています(2025年は8月上旬から募集開始予定です)。

 

>> その他の NAGA KNOCK! に関する記事はこちらからご覧ください

 

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たかなし まき

愛媛県出身。企業勤務を経て上京。初めて書いた西新宿のホームレスの方々への取材ルポが小学館雑誌「新人ライター賞」入賞。食品業界紙営業記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。主に子育て、教育、女性をテーマにした雑誌やウェブメディア等で企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在は、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターと兼業。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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