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震災から10年。次の10年、20年へ向けて何を考え、どう動くか―東北で活動してきた4人の実践者が語る

2021.03.23 

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東日本大震災から10年となる今年。みちのく復興事業パートナーズ*1 は、これまでの東北復興の実践を通じてこれからの社会を考える「第9回みちのく復興事業シンポジウム」を開催しました。

 

今年のテーマは「東北から問い直す。働く、暮らす、生きる。」。新型コロナウィルスの影響で加速した働き方や暮らし方の転換が問われる今、東北でこの10年間で積み重ねられた実践を再定義することが、先の見えないこれからの社会の羅針盤になるのではないか。そのような認識に立ち、これからの社会と人の在り方を考察しようと試みました。

 

本記事では、前半後半に分けて行われた二つの対談を経て、登壇者全員で行われたトークの様子をお届けします。(文中敬称略)

 

(登壇者)

高橋博之氏(株式会社ポケットマルシェ代表取締役、NPO法人東北開墾 代表理事)

今村久美氏(認定NPO法人カタリバ 代表理事)

渡邊 享子氏(合同会社巻組 代表)

津田大介氏(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト、ポリタス編集長)

 

モデレーター 宮城治男(NPO法人ETIC.代表理事)

 

*1 東北で活動する起業家、NPO・団体とその活動を企業が連携して支えるプラットフォーム。2020年度は、花王株式会社、株式会社ジェーシービー、株式会社電通、株式会社ベネッセホールディングスの4社が参画。

垣根を超えたつながりが生まれた10年間

 

宮城:まず4名のみなさんに改めて伺いたいのは、東日本大震災が発生してからの10年間は、社会にどのような変化をもたらしたかということです。まず高橋さん、いかがでしょうか?

 

高橋: 僕の携わる食の分野で一番変わったのは、コロナによるステイホームの影響で、インターネット等で生産者か ら直接食材を購入する消費スタイルが普及したことです。

 

震災で見えた日本全体の課題のひとつは、中央集権型の流通システムは、硬直的で想定外に弱いということでした。そこで分散型流通の仕組みの必要性を感じて始めたのが東北食べる通信でした。コロナ禍でポケットマルシェのユーザー数が一気に増えましたが、今でも東北の生産者に思いを寄せてくれる消費者が多いのはとても希望です。流通が止まり、飲食店が閉じる「想定外」の事態に対して、震災後からの取り組みが生かされたと感じています。

 

一方、変化しきれなかった部分もあります。震災を機に、大量生産、大量消費、大量廃棄という従来の人類の歩み方にみんなが危機意識を持ちましたよね。ですが、今はどうでしょうか?変わっていると言えるでしょうか。これからの10年でより一層取り組んでいきたいことのひとつです。

 

宮城:震災時に「想定外」と盛んに叫ばれましたが、コロナ禍という想定外の事態でも、東北の皆さんの取り組みにはやはりパワーを感じました。教育分野も大きな変化がありましたが、今村さんはいかがですか?

 

今村:コロナの前後で日本の教育はガラッと変わりました。学校だけで教育を担うのではなく、地域も家庭も「みんなでやっていこう」という空気に変化したように思います。

 

学校の内と外すら分けず、地域や外部のプレイヤーが混ざり合える場所として徐々に変わってきていると感じます。カタリバでも元教員の方が働いていますが、都市と地方をつなげているのが高橋さんだとしたら、わたしたちは学校の外と中をつなげている存在という認識です。学校という仮想敵を攻撃するのではなく、コロナによって「じゃあどう変える?」という議論になったのが本当に良かったです。

持続可能なコミュニティベースの取り組みへ

 

宮城:おっしゃる通り、いろいろな対立の構造が混ざり合った10年でしたね。渡邊さんはいかがですか?

 

渡邊:逆に、建設や不動産業の分野はあまり変化がなく、危機を覚えています。ハード投資は政治的な問題でもあることをまざまざ見せつけられている日々です。阪神・淡路大震災や中越沖地震で課題になった住宅供給問題は、東北の震災復興の過程でも解決に至りませんでした。復興自体もリニア型ではなくサーキュラー型に移行しなければいけません。私たちの世代が、次の10年で強く考えていくべきことです。

 

一方、この10年で、次世代にとってのロールモデルの多様性が生まれました。石巻にはフリーランスや起業家など、いろいろな生き方をしている大人がたくさんいます。そんな環境で育った震災当時はまだ小さかった若者が「自分も自由でいいんだ!」と思えているのは希望ですね。

 

宮城:東北では自由に生きている人たちがたくさんいるので、きっと選択肢が増えてきているのでしょうね。

 

渡邊:新卒一括採用などのこれまでの選択肢にしがみつく必要はない、という人が増えていると感じます。地域に新たな役割が生まれるという意味で震災とコロナ禍は大きなきっかけでしたね。

 

宮城:資本主義など従来の価値観に異議を唱えるイノベーターの生き方が、新しい働き方や暮らし方の発信につながっていますよね。津田さんはいかがでしょうか?

 

津田:この10年でハード面の整備は大きく進み、東北復興道路も開通して常磐線も復活して、取材がしやすくなりました。ですが、2021年3月にNHKが発表した岩手・宮城・福島の4000人を対象に行った調査での質問「当初、思い描いていた復興と比べて、今の復興の姿をどう考えるか」の回答では「思い描いていたより悪い」が53.1%にのぼりました。つまり、ハード面がされても、当事者の皆さん自身の気持ちはまだ復興できていないということです。

 

東北への取材を続ける中で、うまく活動が続いている方もいれば、あまりにも置かれた環境が大変すぎて途中で身を引く方もいました。結局、当然ですが個人で頑張り続けるのは限界があります。できる限りサステナブルな取り組みにする土台になるのが、地域コミュニティの力なのだと思います。

 

この10年間、外から来た人と元からいた人が関わり続けてきたコミュニティが東北各地にあります。混じり合うことが当たり前になっている今だからこそできることがある。これからの10年で、さらに創造的なコミュニティに発展する可能性が充分にあると思っています。

東北の実践を全国へ、次世代へつなげる

 

宮城:まさにみなさんは「人」の気持ちを復興させるコミュニティを育み、支える方々だと思います。こういう方々が東北各地にいたからこそ、いろいろな関係性を包括でき、交流人口も関係人口も増えたのではないでしょうか。

 

最後にもう一つ伺います。次の10年、20年、これからの私たちが考えるべきこと、取るべきアクションとはどんなことだと考えますか?

 

高橋:東北には、人口減少や担い手不足など、震災に関係なくそもそもたくさんの課題が存在していました。震災はある意味ではきっかけとしても機能していて、全国から東北にたくさんの支援が集まりました。本当はすべての地方に「復興」が必要です。

 

10年前に東北で起きた「かき混ざり」が日常で起こるきっかけづくりとして、ポケットマルシェでは食を通じて具体的に個人と個人がつながる方法を提案しています。曖昧な「農家さん」「漁師さん」というイメージではなく、どこの地域の◯◯◯さん同士が知り合うことは、お互いに何かできることはないか考えることが促される機会につながります。食を通じて都市と地方をつなげていくことに今後も集中していきたいですね。

 

今村:東北にいて感じるのは、当事者にこそ震災を振り返る機会が必要なのではないかということです。震災を経験した世代がまず向き合っていかなければ、次世代に大切なことが引き継がれないのではないでしょうか。

 

例えば石巻市立大川小学校で起きたことを語り続けることが重要だと思うのです。意図して続けていかないと、振り返る機会は無くなってしまいます。ひとりでも多くの人が「当事者」になり、私たちのすべての判断や実行は命に関わることだという自覚を促すことがとても大切に思います。そういう意味で、カタリバスタッフの佐藤さんを紹介させてください。

 

202103031730カタリバ佐藤さん

 

カタリバ・佐藤:カタリバで働いている元教員の佐藤です。娘は当時大川小学校の児童で、津波で亡くなりました。毎年大川小学校の講演に呼ばれています。現在の小学6年生は震災当時2、3歳なので、ほとんど震災の記憶がありません。僕も正直どのように当時のことを伝えればいいかわかりません。毎年探り探りですが、こどもたちからは「大川小学校のことを知りたかった」「教えてもらってありがとう」と言われます。

 

次世代への引き継ぎも学校だけに任せるのではなく、垣根を超えて、いろいろなプレイヤーが連携しあっていけるといいなと思います。

 

渡邊:これから生み出す価値は、10年、20年先に生まれるこどもたちがいかに持続可能に生きられるか強く意識しないといけないと思っています。私たちの世代で限られた価値や資産を使い尽くしちゃいけないし、これまで投資過多だったことを反省しないといけない。これから生まれてくる世代に対して、私たちが何を投資できるかが大切だと強く感じています。

 

それを踏まえて、わたし自身は手触りのある地域経済を取り戻すために、営利企業として地道な商売を続けていきたいですね。正解を求めず、一人一人の課題意識を育てるアートシンキングであることを大切にしながら、いいものをつくり、適切な価格で届けていくことを続けていきます。

 

津田:僕は2019年のあいちトリエンナーレで芸術監督を務めました。別にもともとアートには詳しくなく、なぜオファーを引き受けたかというと、震災の3ヶ月後に福島のいわきで「シェアふくしま」という音楽イベントを行なったことがきっかけでした。

 

「シェアふくしま」は、現地の方に被災地を案内してもらい、ゴミ拾いのボランティアをして、ライブを見て帰るという内容です。上がった収益は寄付に充てました。文化を通じて人を動員し、東北に関心を持つきっかけをつくり、偶然の出会いでコミュニティを活性化できた経験がすごく大きかったのです。それと同じ手法を愛知でも実践できるのではと思って挑戦することにしました。

 

これからもジャーナリストとして東北を訪れて取材をするのは続けていきたいですが、また東北で文化を通じたイベントを通して地域を豊かにするきっかけをつくりたいですね。

 

宮城:ありがとうございます。皆さんのパワーが、東北内外にたくさんの刺激を届けているのだと改めて感じています。リスクをとったからこそ見えた景色があり、自分からチャレンジすることで人や機会が集まってくる。

 

個人でも、企業や団体に属していても、新しい関係性に挑んでみることを通じてイノベーティブな未来が生まれます。むしろ、これからは新しいチャレンジの中でしか未来が見通せない時代でもあります。私たちエティックとしても、新しいチャレンジをする場所としての東北の動きの支援を広げ、未来へ向けた動きをさらに応援していければと思います。

 


 

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