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旅をしながら作品をつくる画家・田中 紗樹さんの「ご縁」が拡がる制作スタイルとは?

2021.12.24 

アートを通して各地域の文化を耕している人々の取り組みを届ける特集が、「アートをひらく、地域をつくる」です。

 

第2回目は、日本国内だけでなく世界各地を旅しながら、その土地の文化や生活を感じながら作品をつくる「滞在制作」をされている画家・田中 紗樹(たなか・さき)さん。彼女は旅先に2週間ほど滞在して土地の人たちと交流し、その中で感じた土地のカラー、リズム、温度を感じ絵を残す「stay & work」プロジェクトを継続的に行っています。今まで訪れた国はイギリス・インドネシア・インド・スロベニア・イタリア・アメリカなど20カ国ほど。

 

そんな田中さんに、土地と文化について、またこれからのアートの可能性についてお話を伺いました。

 

(聞き手 : NPO法人ETIC. 芳賀千尋・桐田理恵)

さきちゃんトリミング後

田中 紗樹

1984年 サンフランシスコ生まれ。女子美術大学 油画 首席卒業。東京在住。

アメリカで生まれ香港に住んだ経験から様々な土地や文化に興味をもつ。アトリエ制作の他、旅先に絵を残す「stay&work」プロジェクトにより国内外で制作を続ける。主な仕事にライオン株式会社/NONIOラベル、「星野リゾート 界 仙石原」客室絵画制作、tokyobikeとの企画等。

感動して心が動く瞬間を、日常の違いのなかに探し続ける

 

――こんにちは。本日はどうぞよろしくお願いします。田中さんは旅が好きで、国内外問わず旅しながら滞在制作をされています。現地の人と交流するうえで大事にされている「土地との対話」について教えてください。

 

田中 : 私の場合「旅」イコール「日常を移動させる」という感覚です。自分を別の場所におき、自分の日常を思い起こしながらその土地の日常に染まっていく。その工程の中で生まれる作品がすごく貴重なんです。

そして寝食をともにする土地の人たちの考え方や生活スタイルのなかで、自分の日常にはない部分にインスピレーションを受けます。感動して心が動く瞬間は自分にないものを発見した時で、そんな瞬間を探し続けています。

 

――感動する瞬間は、人だけでなく土地そのものに触れたときもありますか?

 

はい。人だけに限らずそこにある素材や空気を感じて生まれる作品は、自分と土地との対話になっています。

 

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中央ヨーロッパにあるスロベニアは山や湖、スキーリゾートで知られる国。田中さんが滞在制作をした村の風景

 

――とくに印象的な土地、現地の人との交流はありますか?

 

スロベニアに行った時は、最初の1週間は彼らの日常に染まり信頼関係を深め、どんな制作が良いか一緒に考えました。

その結果、家の食糧庫に壁画を描くことにしました。彼らにとっては日常から作品が生まれていく体験が新鮮だったようで、完成したときに「ここに何か足りないと思っていたけど、やっとこの場所が、私たちの日常が完成した」と涙ぐみ喜んでくれたのが印象に残っています。

 

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ホームステイ先のご家族。滞在先は農業体験と交流のNGO「WWOOF」(1971年ロンドンで設立)で田中さんが探して声をかけた。田中さんは農作業を手伝う代わりにホストに絵を提供。スロベニアにて食糧庫の入口やゲストハウスの扉など様々な場所に描き残す

 

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こちらはイタリアにて漆喰で描いた壁画。滞在制作後も交流は続いている

どんな国、立場、組織でも、個人とのご縁が制作の財産

 

――田中さんは地域で滞在制作する場合でも、企業と仕事をする場合でも、まず個人とのご縁をとても大切にされているのが印象的です。

 

田中 : 実は「ご縁帖」というのをつけています(笑)。出会いを生んでくれた人とその関係性を図で描いているのですが、素晴らしいご縁はまた新しい繋がりを生んでくれて、どんどん拡がっていきます。ご縁は制作活動の財産で、どの国、立場、組織であろうと個人とのご縁を入り口にしたいという気持ちは同じです。

 

――滞在制作をするときも、まず交流から始めるのはそういったことからなんですね。

 

はい。その地域全体を捉えるところから入るのではなく、相手の日常を観察し交流することから入ります。そしてじょじょに地域や国へと視野を拡げていきながら制作のイメージを膨らませることが多いです。

 

――それは相手が企業であっても同じですか。

 

そうですね。例えば三菱地所さんから依頼された壁画制作も、最初は私の絵を好きでいてくださった社員の方との交流があり生まれた企画です。

企業が期待するアートのこれからの可能性

 

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2020年2月に東京の中心・有楽町の駅前に誕生した、新しいビジネスを起こすためのインキュベーションオフィス「有楽町『SAAI』Wonder Working Community」。この施設には多様な人が集い、想いを持ち込み、さまざまな事業化支援プログラムや新しい感性に触れられるイベントで人と人とをつなぐ取り組みが行われている

 

――企業に依頼された制作やワークショップについても聞かせてください。

 

田中 : 会社が運営するコワーキングスペース「SAAI」の壁画を担当しました。私の制作風景を社員である会員の人が自由に見たり、交流できる滞在型の公開制作です。

 

――会社としてはどんなねらいで田中さんに依頼したのでしょうか。

 

社員さんや会員の方に「この会社ってこんなおもしろいことやっているんだ」と事業へのモチベーションを上げることに繋げられたようです。

 

――イノベーションにアートシンキングが必要、などと近年言われていますが田中さんはどう考えますか。

 

絵を描くことは答えがないものに挑む上ですごく重要な手段です。数字を追うことで、正解が出るものもあるけれど、一見掴みどころのない抽象画で色やかたちを追ったり、制作したものを破壊したりすることは創造力を働かせる機会に繋がり、仕事の突破口として解決の糸口に繋がることもあると思います。

 

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雰囲気をかえるだけでなく、会員の新しいひらめきや気づきに繋げて欲しいという会社の想いから壁画を制作。

写真は田中さんの絵でカラフルに彩られたキッチン

 

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ワークショップの様子

 

――ワークショップに参加した社員の反応はどうでしたか?

 

SAAIと老舗文具店とのコラボで開催したオンラインワークショップでも感性を磨く時間を共有出来、更に会員同士が交流する機会にもなったと聞いて嬉しかったです。

行ったことのない土地ならどこでも行って制作をしてみたい

 

――最後に、これからやってみたいことを教えてください。

 

田中 : 国内なら、岩手、大分、金沢、海外ならメキシコ、アラスカ、アイスランドなど行ったことのない土地ならどこでも行って制作をしてみたいです。土地からインスピレーションを受けて制作した作品が、その土地の空間に配置されることに興味があるんです。

 

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星野リゾートが運営する「界 仙石原」では「仙石原」をテーマに客室の作品を制作。遊覧船からみた水のきらめきや風の気持ち良さにインスピレーションを受け、空間に流動性を持たせる作品づくりをした

 

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滞在制作作家による同施設内サロンでのグループ展「stay」展示風景。制作後も施設と作家の繋がりが続いている

 

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星野リゾートでの滞在制作は世界中から集まった作家たちと一緒に対話をし、互いに切磋琢磨しながら制作を行った

 

ほかには、ファッションのテキスタイルや、パッケージデザインなど、自分の絵が二次利用され、まちや家の風景になることにも興味があるので今後もチャレンジしていきたいです。

 

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田中さんがデザインを手がけた雑貨や飲料

 

――これからも全国でたくさんの人たちとご縁を拡げながら制作を続ける田中さんの作品を楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。

 


 

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芳賀千尋

1984年東京生まれ。日本大学芸術学部卒。 20代は地元と銭湯好きがこうじ商店街での銭湯ライブを開催。 1000人以上の老若男女に日常空間で非日常を満喫してもらう身もこころもぽかぽか企画を継続開催。2018年からETIC.に参画。