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「いいね」と「買いたい」の間にある壁を超えるには?商品をゼロから作って売るプログラム・774が組織に与えた1つの視点

2021.03.22 

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「やってみませんか?」。

 

2020年10月、株式会社YUIDEAが取り組んだ一つの挑戦。それは、専務執行役員CDXO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)の菅野 晶仁(すがの・あきひと)さんがプランナー・クリエイティブディレクターの宮坂 剛史(みやさか・たけし)さんにかけた言葉から始まりました。

 

YUIDEA(ユイディア)は、ダイレクトマーケティング領域での売り場設計・販促支援・ファンづくり、企業広報・CSRを中心としたコーポレートコミュニケーション領域でのコンサルティング・コンテンツ制作、そして生活者視点・ステークホルダー視点・コミュニティ視点を掛け合わせたサステナブルブランディングを得意とする企業です。

 

そんなYUIDEAでは以前から一つの課題を感じていました。パートナー企業の事業を支える中で、共感者としてだけではなく、実践者としての目線を持ち、事業推進を実現したい。今回、その課題に向き合うため、社員がチームを組んで「商品をゼロから作って売る」経験に初めてチャレンジしました。

 

その場に選んだのは、NPO法人ETIC.がMTA  JAPAN※とともにプロデュースする「774(NANASHI) -Field Learning-」。「Doing without knowing」(まずはやってみること)、「Learning by Doing」(実践しながら学ぶ。学びを実践に活かすこと)といった価値観のもと、参加者が商品・顧客・チームを0から作り、一定の売上をあげていく「ラーニングジャーニー」がメインカリキュラムの実践型プログラムです。

 

「774」の参加者は、実践を後押しする学習コンテンツをオンラインで受け、また、実践に伴走するコーディネーターの支援を受けながら商品を作り、3ヶ月間で20万円の売上を目指します。

 

今回、実際に3人1組のチームでこのプログラムに参加した宮坂さん、そのきっかけをつくった菅野さんに、ゼロからイチを生み出す経験から得たこと、宮坂さん自身や組織の変化についてうかがいました。

※MTA JAPAN(Mondragon Team Academy Japan):スペイン・バスクに拠点を置くモンドラゴン大学ビジネス学部における起業家的人材育成プロジェクト。個人よりもチームで大きなインパクトを生み出せる人材「チームアントレプレナー」の育成に注力し、設立から10年、世界8ヵ国で500名を超える人材を輩出している。

 

聞き手:関根 純(NPO法人ETIC. 774コーディネーター)

社内アンケートで関心を探りながら商品を絞り込む

 

――最初に、お二人の普段の仕事内容を教えてください。

 

宮坂さん(以下、敬称略):プランナーとしてサステナビリティの視点で企業様や事業、商品・サービスのプロモーションやブランディング、新しいブランド立ち上げにかかわるコミュニケーション設計などを行っています。クリエイティブディレクターとしてはサイトやグラフィックに関わる制作に携わっています。

 

菅野さん(以下、敬称略):4年前、YUIDEAに参画してから、デジタル領域とグローバル展開の立ち上げ等に関わってきました。YUIDEA は紙版カタログづくりの歴史が長いこともあって、伝統を大切にする文化があります。その中で時代の流れを読んだデジタルベースの新しい提案を推進しています。

 

――では、今回の新たな挑戦について詳しく教えてください。「774」は最初、菅野さんが宮坂さんに勧めたそうですが、宮坂さんはそれに対してどう感じましたか?

 

宮坂:ワクワクしましたね。普段はお客様の事業をサポートすることがメインなので、自分たちの商品やサービスを考えて作り、販売するという経験がなかったんです。

 

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宮坂さん

 

――「774」では3人でチームを作りますが、宮坂さんのチームはどんな方とどんなふうに組まれたのでしょうか。

 

宮坂:まず各部門でメンバーを募集した時、「興味はあるけれど、本業との調整が難しい」という声が大半でした。その中で、最終的に手を挙げてくれたのが仲丸です。彼女はダイレクトマーケティンググループのリーダーで、お客様の販促面をサポートしています。「自分が実際にものを作って販売する立場にならないと、お客様に本当に寄り添っているとは言えない」という課題感のもと、参加を決めてくれました。もう一人は、デザイナーの羽土です。彼は自分で本を作ったり、個店を開いたりと個人活動もしています。また物おじせず突き進む性格にも可能性を感じてスカウトしました。

それぞれに仕事で関わることはありましたが、3人そろって取り組んだのは今回が初めてでした。

 

――宮坂さんたちは2期生として10月からのプログラムに参加しました。「774」は、ケーススタディを通じた実践の準備、チームビルディングなどを行うキックオフデイからスタートします。キックオフデイ後、チームで商品を生み出し、売っていくまでどんなふうに進んでいきましたか?

 

宮坂:キックオフデイではチーム憲章づくりに取り組みましたが、事業を進める中で迷いが出ても立ち戻れるように、内容に納得感があるかどうかをキックオフデイ後にも3人でしっかりと話し合うところからスタートしました。また、実践をスムーズに進められるように、実はキックオフデイ前から、チーム目標やスケジューリングなどもしていました。

 

ただ、それでも自分たちが思ったようには進まなかったです。キックオフの後、3人で商品やサービスのアイデアを出し合ったと同時に、会社でも、自分の身の回りで解決したいことを社内アンケートで募ったんです。50人くらいの回答があったのですが、その中で動物愛護の課題が目立ちました。アイデア段階では、この動物愛護系と、写真以外のコンテンツも織り込むBook型の思い出アルバム、そして自己肯定感を高めるカードゲームの3種が残りました。

 

その後、菅野も含めた経営層とのブレストもして、アイデアをブラッシュアップさせ、「商品になったら買いますか?」と社員に投げかけたんです。最も社員から関心を集めていた動物愛護系は「いいね」は多いけれど、「買いますか?」と問われると「買いません」。「774」の期限的にも一番実現性の高かった自己肯定感を高めるカードは、この段階では評判が悪かったですね。対象を具体的にして、商品が具体的にどう役立つかがわかりやすく伝わるよう改善する必要がありました。それから4日間で改善を重ね、就活生のための自己分析カード「POJICO(ポジコ)」の商品化を決めました。

 

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自己分析カードゲーム「POJICO(ポジコ)」

 

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「774」に参加した宮坂さん(左)、仲丸さん(中央)、羽土(右)さん。開発した「POJICO」を持って

 

「誰かが買ってくれた」。経験したことのない喜びを感じた

 

――キックオフデイから約1か月後。商品を実際に一般の方々に売ってみるオンラインマーケットデイはいかがでしたか?

 

宮坂:あの日を通じ、やはり、「いいね」の先の、「買うか買わないか」の選択は想像していた以上に大きなハードルだと感じました。

 

――ハードルを乗り越えるための工夫は何かしましたか?また、限られた期間の中で商品化、物販まで進めたことから学んだことを教えてください。

 

宮坂:マーケットデイでは、興味関心を持ってくださった方も多かったのですが、カードのおもしろさ、必要性がもっと踏み込んだところで感じられないと買ってくれないと実感しました。その気づきを踏まえて、商品については就活生の方などに実際に使ってもらって、課題を改善しました。

 

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また、我々はお客様の事業パートナーとして販促活動のお手伝いをしてきましたが、自分たち自身で「物販」を行う経験はほとんどありませんでした。顧客に販売する上でのプライバシーポリシーや個人情報保護一つとっても、いざ当事者になってみると理解が足りていない部分があることを痛感しました。法律や商標なども含め、会社として販売する前にやらなければならない調整、準備がすごく大変でしたが、同時に、学びの多い機会となりました。

 

――苦労して販売までつなげた「POJICO」ですが、その後の販売実績はいかがですか?また、今後はどんなふうに展開していきたいですか?

 

宮坂:まだ黙っていても売れ続ける状態ではないのですが、最初の1個が売れた時は、「売れた!」と大喜びでした。実は上司だったのですけれど(笑)。その後、知人でも関係者でもない第三者の方が買ってくださった時はすごくうれしかったですね。これまで経験したことのない喜びを感じました。お会いして感想を聞きたいと思いました。

 

今後については、会社として「774」で得た経験をどう本業に活かしていくか、が重要になると思います。そういう意味でも、「POJICO」を会社に認められた形で長く続けていきたいですね。本業で効果が生まれると証明するためにも、販促活動、プロモーションをやりきることが今の課題です。

 

商品の内容的には、YUIDEAならではの観点、たとえばサステナビリティなどを盛り込むなど、より質を高めて、就活生だけでなく多くの人に使ってもらえる機会を作りたいです。まずは、ボードゲームカフェさんともお話ししていて、商品やチラシを置かせてもらいました。また、ワークショップを共同開催するという話もあり、前向きに進めたいと考えています。経営的に継続できると判断されるためにも、そういった展開が鍵だと思っています。

なぜ、うちではイノベーションが生まれにくいのだろう

 

――「774」の経験は3ヶ月間で終わらず、今もなお続いているんですね。では、今回の参加で得たことやご自身が変化したと思われることはありますか?

 

宮坂:二つあります。一つは、普段、お客様の事業のサポートをしている中で、よりお客様に寄り添った提案ができるようになったことです。商品を売ることに対して、実際に自分たちが経験したことでお客様の現状や課題が具体的にイメージできるようになりました。

 

もう一つは、「いいね」と「買いたい」の壁をどう超えていくか、の差は大きなハードルだけれど、様々な方法が考えられることを学びました。各企業で販促などの部門が試行錯誤しながら臨んでいることに当事者として体験できたのは大きかったですね。

 

――ここまで宮坂さんにお話いただきましたが、菅野さんは、経営者としてどんな感想を持ちましたか?

 

菅野:今回、自分たちでまずやってみることの気づきを明確に得られた場だったと思います。完全に当事者の立場で、周囲が何と言っても決めるのは自分達、という経験ができたことは、今後、本業でも活かされていくと思います。

 

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菅野さん

 

――菅野さんが宮坂さんに「774」への参加を勧めたのは、具体的にどんな理由からだったのでしょうか。

 

菅野:お客様からの受託仕事を受託者マインドではなく、当事者意識を持って仕事をしていく必要性を感じていました。頭では分かっていても、お客さんを前にするとできない。どうしても受託者としてのマインドが体に沁みついていたりするから。なので、今回はその沁みついたものを外す経験ができる機会だと思って参加を決めました。明確な目標金額に向かって、自分たちが当事者になってモノを売ったり、サービスを提供したりする場所であるという点、結果を出すかどうかは自分たち次第だという点が求めているものにピッタリでした。

 

――今回のチャレンジで、会社に何か新しい価値は生まれたと思いますか?

 

菅野:会社としては昔、物販をやっていた時期もあったようで、役員の中に物販やEC事業をやりたいという人もいます。なので、今回はそれを実際にやってみたことで、今の時代にやってみるとそういうことになるのか、ということを学んだ役員もいたのではないかと思っています。

 

また、通常、商品やサービスを市場に送り出す場合、利益をいかに出すかが大事ですが、今回、社会貢献的な意味合いも込めた事業に取り組めたことは大きかったですね。「774」への取り組みを進める中で、役員の一人が言ったんです。「うちの会社はイノベーションが生まれにくいのはなぜだろう」と。それに対し、僕はシンプルに「イノベーションを生み出すアクションをしていないから生まれないだけじゃないか」と言いました。そういった意味で「774」への参加は役員陣への波及効果もあったと思います。また違うメンバーで連続的に「774」への参加は続けていきたいという声が出ていますから。

 

――最後に、菅野さんは宮坂さんたち参加したメンバーに、宮坂さんは菅野さんにメッセージをお願いします。

 

菅野:チームで苦しいことも含めて挑戦を楽しむことを忘れないでほしいし、それをメンバー一人ひとりがそう実感してもらえるとうれしいですね。

 

宮坂:未経験者たちが限られた期間で商品をつくり出したことを思うと、菅野さんにはもっと褒めてほしいですが(笑)、この取り組みは続けることで確実に目線が変わってくると感じています。ただ、3人では心細い。知らないことすらわからないこともあるので、経営層をはじめ会社を巻き込んでいきたいですね。

 


 

今回ご紹介した、株式会社YUIDEAの自己分析カードゲーム「POJICO(ポジコ)」について、ご興味いただけた方は、Amazonで購入が可能です。Twitterでは最新情報を発信していますので、ぜひご覧ください。

 

ゼロからツクルを学ぶ、「774-FIELD LEARNING-(オンライン型)」は、第3期が2021年4月24日(土)から始まります。ただ今、一般参加、法人参加、共に参加者を募集中です(募集〆切:3月29日(月))。効果的な実践と経験からの学びを促進するオンデマンド学習動画の提供など、カリキュラムをさらに充実させています。ご興味ある方はこちらをご覧ください。

https://www.774-nanashi.com/

 

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たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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