突然降り出した雨を見て、仕方なく購入するビニール傘。しかしこうした傘は、雨があがると不要なものとして捨てられる場合も多くあります。
そこに目をつけたのが、遊休スペースを活用した傘のシェアリングサービス「アイカサ」。「使い捨て傘をゼロに」「雨の日を快適にハッピーに」をミッションに掲げる株式会社Nature Innovation Group アイカサ 代表取締役の丸川 照司さんにお話を聞きました。
この記事は、現在エントリー受付中の東京都主催・400文字からエントリーできるブラッシュアップ型ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」出身の起業家を紹介するWEBサイト「TSG STORIES」からの転載です。エティックは、TOKYO STARTUP GATEWAYの運営事務局をしています。
丸川 照司さん
株式会社Nature Innovation Group アイカサ 代表取締役/TOKYO STARTUP GATEWAY2018コンテスト部門メンバー
シンガポールなど東南アジアで育ち、中国語と英語を話せるトリリンガル。18歳のときにソーシャルビジネスに興味を持ち、社会のためになるビジネスをしたいと社会起業家を志す。日本の大学に進学したが、興味を感じられず中退し、「新興国の勢いをこの目で見たい」とマレーシア大学に留学。車、タクシー、自転車など、さまざまなジャンルでシェアリングビジネスが浸透していることに衝撃を受ける。もともと、「社会のために何かをしたい」という想いがあったことから、傘のシェアリングを事業化しようと思い立ち、2018年に傘のシェアリングサービス「アイカサ」をスタート。
聞き手:栗原吏紗(NPO法人ETIC.)
常識に囚われず、自分の感覚を信じて、調べて、考えて、できると確信した傘のシェアリングサービス
ー今取り組んでいるプロジェクト・事業について教えてください。
使い捨て傘を無くすことを目指した傘のシェアリングサービスです。関東の駅や商業施設などを中心に1,300か所に設置しています。1,300か所ある設置場所なら、どこでも借りられ、どこでも返せるので、雨の日や、移動中の突発的な雨にも役立ちます。24時間140円で使え、ビニール傘を買うより安く済むので、都度購入で廃棄されやすいビニール傘の代替にもなります。環境負荷を低くしながら、快適に利用できる、サステナブルなライフスタイルを提案する事業です。
アイカサの紹介動画
現在はアプリ登録者数30万人を超え、首都圏をはじめ、関西、愛知、福岡、佐賀などでも展開しています。2021年には環境省主催のグッドライフアワードの環境大臣賞ユース部門を受賞しました。
ービジネスアイデアを思いついたきっかけは?
元々海外のシェアリングサービスが大好きで、大学生の時に住んでいたマレーシアでは、かなり普及していたので、よく利用していました。
その頃、日本では自転車のシェアリングは複数社あったのですが、都内では自転車で移動するより徒歩なので、私は「傘のシェアリングサービスが欲しい」と思ったんです。そこで調べると1社も傘のサービスをやっていない。比較的ライトに実現できる方法も思いついていたので、これはできるんじゃないかと確信しました。
ーアイデアを思い付いた時、最初に誰に話しましたか?
あまり覚えていないですね。知り合いには話した気がします。あとは、VCやファンドで働いた経験がある日本人の起業家がマレーシアで活動していたので、相談に行きました。
ー事業推進のために、照準を絞って会いに行った人はいましたか?
実は、この事業を始める10年前に、「シブカサ」という渋谷で傘のシェアリングサービスがありました。スマートフォンがなかったため、スタンプカード式で傘を返したらスタンプがもらえるというアナログな仕組みです。サービス自体は現在終わっていますが、関係者や当時の協力店に積極的に会いに行ってお話を聞きました。
参考になることもありましたし、やっぱり難しいんじゃないかとも言われました。
ー色々な意見がある中で、推進できた理由は何だったのでしょう?
できると勘違いできていたからだと思います。
当時日本では、シェアリングは高単価のものが安くなるから受け入れられるというのが常識でした。他にもいくつも厳しい指摘を受けましたが、いろいろ検討をしていく中で、それら全て私の中では、クリアできるイメージが持てており、問題ないと捉えていました。
うまくいかなくて当たり前。落ち込まずに足を運び続ける中で見つけた社会的価値
ーどのようなプロトタイプを作りましたか?
ビニール傘を使ってベータ版を作ってみたのが最初です。
ビニール傘を集めてロゴが付いたステッカーを貼ってQRコードをつけて。メールアドレスがあればウェブにログインできて決済もクレカだけで登録できる。コードを読み取ると時間カウントが始まるという形です。 無料で、渋谷に10カ所くらい置いてもらいました。
ー何がきっかけで、自分の心に火が付きましたか?
断られることはもちろん多かったですが、一方で、共感して受け入れてもらえると、「人の共感が生まれる=必要とされている」と解釈をして、それは励みになりました。あとは反骨精神なのか、断られるたびにむしろ「やってやる」とやる気になっていきました。
大人の意見を聞きすぎて迷子に。ロールモデルを手掛かりに、進むべき道を見定める
ーチームを作り始めたのはいつ頃ですか?
営業や運営、アプリ開発などを含めて、必然と私一人ではできないことが多く、最初から興味のある方に手伝っていただいていました。その中から、比較的コミットしていただける方と自然に一緒にフルタイムでやっていこうとなりました。
創業期のチームメンバーとの写真
ー創業期チームを作るときに苦労したことやターニングポイントはありましたか?
何が正解かわからない中で、学生で社会人経験がないので、色々な社長や大人の話を聞いてまわりました。学生から見たら社長=すごい人、正解を知っている人みたいな感覚だったのですが、社長毎に正解が違い、そうすると自分が採るべき道が何十通りにも思えてきて、その分遠回りしたり止まったりしてしまいました。
途中からは、資金調達するのであれば資金調達に成功した先輩といった感じで、自分自身がありたい姿を考え、、本当に自分がやろうとしていることを成功させた人、ロールモデルとする人の意見を参考にすることを心がけました。
ー自分を奮い立たせてくれる座右の銘はありますか?
「不可能は結構少ない」です。不可能と思われている大体のものは不可能と勘違いされていることが多いのかなと思っています。
ソーシャル領域って難しい、儲からないという認識が強いかもしれないのですが、だからこそ誰もやっていないし、チャンスもあり、実はできる領域がたくさん残されていると思います。
何も知らない、何もできない学生ができること。とにかく目の前のことを一つ一つ
ー起業を考え始めた時、何から始められましたか?
何も知らないただの学生からの起業だったので、何もできなかったと言ってよいと思います。リソースもスキルも無かったです。人脈も無かったですが、それはまだなんとかなるものでしたし、学びを得るため、積極的にいろいろなところに足を運びました。
何が今に繋がったかは具体的にはわかりませんが、特に当時はそうしないと前進しにくいと思っていました。
ー必要なスキルがないことをどのように改善していったのですか?
最初は、もう何が分からないかも分からない状態でした。半年後、1年後といった先のことは分からないので、今目の前のこと、事業の成功に繋がることについて考えました。例えば、資金調達が必要と思えば、資金調達について検索すれば何をすればよいか見えてきます。寄り道もかなりしてしまいますが、結構目の前のことは分解しやすいと思います。
ー資金調達でも、たくさん足を運ばれたのですか?
VCは50社くらい回りました。それは今でも一緒で、スタートアップの世界では普通です。面談してOKもらえるとしても2〜3%くらいです。
最初はプランの完成度が低いのですが、ある意味プロに毎回指摘してもらいながら改善できるので、だんだんと完成度が上がっていきます。そうしてやりながら学習するという部分が非常にありました。
まさに手探りですが、やりながら模索して解を見つけていくしかないと思います。
丸川さんのプレゼンの写真
ー今の自分から見て、駆け出しの時にこうすればよかったと思うことは?
誰の言うことを信じるのか。それを決めることで、時間も失敗ももう少し減らすことができたかなと思います。
起業する時、やるビジネスそのもの、ファイナンス、創業メンバー、市場選び、カテゴリー選びも含めて、後戻りしにくい選択を、実は最初に多くしています。
こういったところはロールモデルに近い人に参考意見を言ってもらいながら、一考してみたり、調べたりする。
勉強している時間は多少焦る部分もあるとは思いますが、とても大事だと思っています。結果的に変わらず、かなり無駄に思えるかもしれないですが、一応知っておくというのは大事です。
参加しやすいTSG。選考に残ればもちろん、たとえ一次選考で落選しても、多くの学びや恩恵がある
ーTSGで起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。
私は一次選考で落選しているんです。たまにこういう取材を何人かで受けると、みんなの肩書きがファイナリストやセミファイナリストなんです。私だけ一次で落ちているんだけど、こうして取材されているのはすごく面白いと思っています。
バーチャルタレントのキズナアイさんとの共演
ーこれからTSGにエントリーする方・起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
400文字書くだけなので、どのアクセラレーションプログラムよりも参加しやすく、自分の弱点を無くすという意味では、一つの手段として申し込むのはよいと思います。
もちろん、残ればその分得られるものも大きいですし、たとえ私のように1次で落ちても、学ぶ機会があり、イベントに呼んでもらうなど、恩恵を受けていて、申し込みしてよかったと思っています。
「TOKYO STARTUP GATEWAY」に関する記事はこちらからもお読みいただけます。
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>> 特集「夢みるために、生まれてきた。~世界を変える起業家たちの挑戦~」
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