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かゆいところに手が届く“まごの手”のような存在を目指して。佐賀県武雄市で「まごのてサービス」が描く地域包括ケアサービス

2024.02.26 

高齢化が進む日本。 総務省統計局の人口推計によると、総人口に占める65歳以上の割合を示す高齢化率は2023年9月時点で29.1%を記録し、過去最高となりました。そんな高齢化が特に進む地域で今まさに求められており、今後もニーズの増加が見込まれている事業が、佐賀県武雄市を中心に展開する「まごのてサービス」です。

 

日常のちょっとした困りごとの解決をサポートする「まごのてサービス」は、U-35世代を対象とした、地域社会における課題解決の可能性・収益性に優れた事業を表彰する「Futuremakersアワード2023」でも最優秀賞を受賞しました。この記事では、代表の馬場潤希さんにお話を伺いました。

 

この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

 

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馬場潤希(ばば・じゅんき)さん まごのてサービス代表/ローカルベンチャーラボ7期生

1994年生まれ。東京都出身。高校卒業後海上自衛隊に入隊し、​航空電子整備員として約5年間勤務後退職。2018年6月、祖父の住む佐賀県武雄市へ東京から自転車で20日間かけ移住した。同年から「まごのてサービス」の前身となる事業に従事。2021年1月に独立し、「まごのてサービス」事業を開始。介護福祉士実務者研修修了、福祉住環境コーディネーター2級等の資格を活かし、事業に取り組む。

海上自衛隊を退職し、20日間の自転車旅を経て祖父の住む武雄市へ

 

「まごのてサービス」では、エアコンクリーニングのような専門性の高い清掃から、草刈り・剪定などの庭仕事、さらには湿布貼りや猫の救出まで、これまで70種類以上の困りごとに対応してきました。2021年の開業時に250人程だった利用者数は年々増加し、現在は約500人が利用登録しています。

 

そんな「まごのてサービス」代表の馬場さんが東京から佐賀県武雄市に移住してきたのは、2018年のことでした。

 

「理由はいろいろありますが、一番は武雄市に住む祖父と一緒に暮らしたかったからです。海上自衛隊の中にあるサッカーの実業団チームに入るために入隊して、元々は定年まで務めるつもりでしたが、働く中で『このままでいいのかな……』という違和感が出てきて、丸5年経ったタイミングで退職しました。

 

若手社会人にはよくあることだと思いますが、僕の場合は高卒だったので、それがちょっと早めの20代前半で起きたんだと思います。当時は移住するという感覚はあまりなくて、次にやりたいことも特に決まっていないし、時間もあるからとりあえず行ってみようか、という感じでした」

 

今しかできないということで、馬場さんが選んだ移動手段はなんと自転車。クロスバイクを貸すという友人の後押しもあり、20日間かけて武雄市を目指します。

 

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自転車旅行中の写真

 

「当時はキャンプにはまっていたので、祖父が山を持っているという話を聞いて、武雄にキャンプ場を作れないかと考えていました。道中キャンプ場に泊まりながら向かえば視察もできて一石二鳥だと思ったんですが、最初に向かった富士山のふもとのキャンプ場までの上り坂が無茶苦茶しんどくて……!

 

なんとかたどり着いたものの、キャンプ場って大体山の上にありますし、毎日こんな坂を登るのかと考えたら憂鬱になっちゃって、初日で挫折です(笑) 。 『早く着きたい‼』という思いが勝る自転車旅でしたね」

歓迎会での出会いが天職につながる。日々「ありがとう」を受け取れるお手伝い業

 

そんな自転車での道中を日々Facebookで発信していた馬場さん。それを既に武雄市にUターンしていた馬場さんのお母さんが地元の方々にシェアしたことで、到着する頃には歓迎会が催されるまでになっていました。

 

その歓迎会に来てくれていたのが、「まごのてサービス」の前身となる事業を始めたばかりの新聞配達会社の方でした。聞けば新聞配達業のセカンドビジネスとして立ち上げたもので、当時はまだ利用者も10人程。その事業を拡大し、メインスタッフとして従事してくれる人材を探していたのです。

 

「都会の感覚で祖父は山を丸ごと持ってるものだと思っていたんですが、所有しているのは山のほんの一部だったんです。キャンプ場作りでは、広い土地の確保や地域の方の理解が必要になるので、高齢者のお手伝いを通じて処分に困っている土地の情報を集めたり、理解者を増やしたりといったことにもつながるのではというのが、スタッフとして参画したきっかけです。 困りごとは日々発生するので、大金を稼げるわけではないけど安定しているという点も魅力でした」

 

そんな風に始めたお手伝い業でしたが、いつしかキャンプ場作りよりもこちらの方が天職だと思えるまでになっていきます。

 

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庭の剪定中の一枚

 

「最初に受けたお手伝いはやっぱり印象深いですね。ハガキを出したいというご依頼だったんですけど、それが配達屋さんのすぐ近くのお家の方で、しかも宛先も僕が務めている配達屋さんなんです。その場で『もらいますよ』と言っても、どうしても切手を買ってきてくれと言うのでその通りにしたら、すっごく喜んでくれて……。

 

一見無駄なようにも思える行為に対してこんなに感謝されて、『なにこれ!?』っていうくらいの衝撃でした。人のために働く仕事だった前職でも、直接ありがとうと言われることはほとんどなかったのが、いきなり個人対個人の世界になって、場合によっては存在しているだけで感謝されるようなこともあります。

 

重たいものを運ぶといった些細なことをやるだけで、『本当に助かった。ありがとう』と言ってくださるのはとてもうれしくて、今までにない感情でした」

 

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見守りを兼ねた夕食同席サービスも

Futuremakersアワード2023で最優秀賞受賞。一人一人にパーソナライズされた新しい地域包括支援サービス構想とは?

 

その後、新聞配達業のオーナーが定年で店をたたむことになったため、2021年1月には利用者を引き継いで「まごのてサービス」として独立します。順調に利用者数を伸ばす中で、武雄市の高齢者福祉における課題も見えてきました。現状の介護保健制度や地域包括ケアシステムには、適用できるサービスが限られていたり、公平性という観点から臨機応変な対応が難しかったりといった課題があったのです。

 

「例えば同じ地区に住む高齢者でも、ある方が送迎を求めている一方で、まだ運転できる方からは草刈りの要望があるなど、老いの度合いによってニーズは全く違います。ですが、行政が提供する福祉サービスは地区単位での提供となるため、内容は多数決で決まりがちです。

 

更に、送迎サービスといっても家の前まで来てくれるわけではなく、乗り合いの集合場所までが高齢者にとっては遠いといった話も耳にします。仕方がない面もあるとは思うのですが、もうちょっとかゆい所に手が届くようなサービスを提供できないかという思いがありました」

 

一方で、要介護者からの相談やケアプランの作成、サービス提供事業者との調整役等を担うケアマネージャーや、サービスを提供する側である介護施設で働く方からも、こういった「ちょっとした困りごと」への対応について悩みの声がありました。

 

「ケアマネージャーさんはボランティア精神が高い方が多いので、介護保険適用外のちょっとした頼み事などを、本来の業務を後回しにしてまで引き受けているケースがままあります。とは言え毎回全員に対応するのは難しいですし、本来の仕事も相当なボリュームなので、そちらが疎かになっては本末転倒です。

 

そこで、福祉サービスを利用する高齢者の方と支える方々、両方の現状を少しでもよくできたらという思いで提案したのが、『一人一人にパーソナライズされた新しい地域包括支援サービス構想』です」

 

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この構想は、これまで提供してきたお困りごと解決サービスを、高齢者だけではく、高齢者福祉を支える方々にも提供しようというものです。現在、武雄市のケアマネージャーと連携し、試験的にサービスの運用を行っています。

 

電球交換やスマートフォンの操作といった、依頼したい作業内容と所要時間、価格の目安を表にしたものを市のケアマネージャーに配布し、利用者からケアマネージャーへの相談があった場合にはその場で「まごのてサービス」に依頼することで、日常の困りごとの解消につなげます。

 

「このサービスは2023年10月から始めました。ケアマネージャーさんからの依頼はまだそれほど多くありませんが、心理的負担が減ったと聞いているので、こういった面も1つの成果かと思います」

 

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市のケアマネージャーに配布している対応可能な「困りごと」の一覧表

高齢化の進展とともに全国各地でニーズは増加。これからも高齢者の方の困りごとに寄り添っていきたい。

 

地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVラボ)の7期生でもある馬場さん。最後にLVラボでの学びと、今後の展望について伺いました。

 

「LVラボの参加者は、僕と同じような立場の方が多かった印象です。なんとかしたいことがあるけど、どうしていいかわからず1人でもがいているというか……地域で強い思いをもって活動している人と横のつながりができるというのは、ものすごくいい環境なのではないかと思います。

 

事業の価値や地域内での位置付けはなんとなくわかっていても、社会の中でどんなインパクトを出せそうかということは見えていなかったので、新たな視点に気付けたり、参加者から評価してもらえたりしたことは自信になりました。

 

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ローカルベンチャーラボのフィールドワークで岡山県西粟倉村を訪ねた際の一枚

 

今はキャンプ場作りのことは忘れちゃうくらいこの仕事にはまっていて、本当に楽しくやらせていただいています。お客さん達が年を重ねて弱っていく姿を目の当たりにすることには辛さや感慨深さもありますが、これからも高齢の方に寄り添っていけたらと思っています。

 

事業の広げ方については今まさに迷っているところですが、武雄市近辺に限らず、全国各地で僕達がやっているようなサービスを利用できるようになったらいいなという思いはあります。一歩一歩取り組んでいきたいです」

 


馬場さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3~4月に受講生を募集していますので、気になった方はぜひ公式サイトをご覧ください。

▽ローカルベンチャーラボ公式サイト▽

https://localventures.jp/localventurelab

▽X(旧Twitter)▽

https://twitter.com/LvSummit2020

▽Facebook▽

https://www.facebook.com/localventurelab

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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