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小さくても多様な事業を生み出し続けることこそ自立した地域づくり。旧避難区域・南相馬市小高の可能性を実績で証明してきた和田智行さんに聞く

2021.04.15 

本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。

 

原発事故で一度は人口ゼロになった南相馬市小高区(おだかく)で、避難指示が解除される前から様々な事業を立ち上げてきた小高ワーカーズベースの和田智行さんのお話をお届けします。

 

1和田さんプロフィールトリミング後

■和田智行(わだ・ともゆき)氏プロフィール■

株式会社小高ワーカーズベース 代表取締役。南相馬市小高区(旧小高町)出身。大学入学を機に上京しITベンチャーに就職。2005年、東京でIT企業を創業、同時に自身は小高にUターンしてリモートワークを開始。東日本大震災の原発事故で自宅が避難区域となり、会津若松市に避難。その後、小高区で活動を開始し、2014年5月に避難区域初のシェアオフィス「小高ワーカーズベース」を開設。以来、数々の事業を立ち上げる。2017年からは創業支援にも注力。

 

■小高ワーカーズベース沿革■

2014年2月 創業

2014年5月 コワーキングスペース「小高ワーカーズベース」オープン

2014年12月 食堂「おだかのひるごはん」オープン(2016年3月終了)

2015年9月 「東町エンガワ商店」オープン(2018年12月終了)

2016年6月 「HARIOランプワークファクトリー」(ガラス細工)工房オープン

(2016年7月 小高区の避難指示解除)

2017年6月 南相馬市の起業型地域おこし協力隊制度を活用した創業支援プロジェクト、「ネクストコモンズラボ(NCL)南相馬」受託・事業開始

2018年10月 マチ・ヒト・シゴトの結び場「NARU」オープン

2019年3月 簡易宿所付コワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」オープン

2021年5月 16~29歳に特化した創業支援事業「Next Action→ Social Academia Project」スタート

言い出しっぺの地元のおかあさんを巻き込んで始めた食堂

 

――小高で様々な事業を立ち上げてこられましたが、最も「産みの苦しみ」の大きかったものを挙げるとすれば何でしょうか?

 

敢えて選ぶなら、やはり最初の「おだかのひるごはん」でしょうか。まだ完全に避難区域でしたから、「人のいない場所で食堂なんて」と誰も本気にしてくれなかった。行政にとっても、そんなところで商売をしたい奴がいるなんて想定外で、協力体制はゼロ。もちろん補助金も無し。自分で勝手にやるしかありませんでした。

 

2おだかのひるごはん1

2014年12月、避難指示区域内に初めて誕生した食堂「おだかのひるごはん」。小高区は2012年4月に「避難指示解除準備区域」に指定され、昼間の立ち入りは可能となっていた

 

――でも、そこに商機があるという自信はお持ちでしたか?

 

はい。競争の激しいITの世界で創業したときから、誰でも考えつくようなところで勝負するのではなく、常に“みんながダメだと思ってるところ”を探す発想をしていました。その視点で小高を見たら、誰もやりたがらない、誰も手を付けたことのない世界が広がっていたわけです。この食堂も、やれば絶対稼げるという見込みはありました。

 

――そもそも、なぜ食堂だったのですか?

 

実は、言い出しっぺは地域のおかあさんたちなんです。僕は当時、地元の主婦の方3人が2013年に立ち上げたNPO法人で事務局をしていました。そこでは毎月住民が集まって対話する会を催していて、そこで出会った一人のおかあさんから話が出たんです。最初はごくシンプルに、寒空の下で冷たいご飯を食べている作業員の人たちに100円で豚汁を提供したら喜ばれるんじゃないか、というようなアイデアでした。もともと小高で事業づくりをしたかった僕は「それなら食堂をやりましょうよ」と、言い出したご本人を巻き込んで始めたというのが経緯です。だから、もしもあのときその方から話が出ていなければ、「おだかのひるごはん」は生まれてなかったかもしれませんね。

 

――もともと地域活動には関心があったのですか?

 

いいえ、まったく。震災前、地域とのつながりといえば消防団に入っていたのと、あとは仲間とやっていたバンドでイベントに出演したり老人ホームを慰問したり、くらいでした。当時は仲間と創業したIT企業を小高からリモートで経営していたので、仕事相手はみんな東京でしたしね。後に一緒に食堂をやることになったおかあさんたちとも、震災前はお互い顔は知っている、という程度でした。なにより自分の食い扶持を稼ぐことに懸命で、地域の将来など深く考えたことはなかったです。

 

――それが今、「自立した地域づくり」を目指して活動しておられます。

 

たしかに、遠くのゴールとして「自立した地域」という言葉を使ってはいます。でもやはり、事業家としてまずやるべきことは自分たちの商売をきちんと形にしていくことです。小高ワーカーズベースのミッション、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」というのは、大企業の誘致に依存しない地域をつくるという意味でもあります。その1社が倒産・撤退したら共倒れするような状態は持続可能ではありません。小さくても多様な事業者がたくさんいて、新陳代謝を繰り返し、常に新しいビジネスが生み出される環境をつくる。それが、とりもなおさず持続可能な、自立した地域づくりだと思っています。この考え方を一所懸命周りに説明していた時期もありましたが、しょせん言葉で伝わることは限られているんですよね。だから、実際に自分で事業を形にして、結果を出して分かってもらうというスタンスでやっています。

ネクストコモンズラボ:地域おこし協力隊制度で若手起業家を誘致・支援

 

――ご自身で事業を立ち上げるだけでなく、2017年に起業家の誘致・創業支援をスタートしたのは?

 

僕を含めて数人のスタッフでコワーキング、食堂、仮設商店、ガラス事業とやってきて、もう自分たちだけで100のビジネスを作るのは無理だということが、否応なく明らかになってきたんですね。ちょうどその頃から、小高をフロンティアと捉える僕たちの価値観に共感してくれる人が地域内外に増えてきていました。それまでは、フクシマで商売なんてあり得ないという声が多かったのが、僕たちが実際に事業を立ち上げ、小高の可能性を目に見える形にしたことで、「それ面白いね」という反応へと変わってきたんです。その機をとらえて起業志望者の誘致・創業支援を始めることにしました。

 

――それが起業型地域おこし協力隊を活用したネクストコモンズラボ(NCL)南相馬というプロジェクトですね。

 

実際には南相馬市の方から、2016年7月の避難指示解除を受けて、小高の復興のために地域おこし協力隊を活用したいという相談をいただいていました。それに対して僕たちは、(既存の団体に所属して情報発信やコミュニティ支援などを手伝う)一般の協力隊ではなく、自らビジネスを興す人を呼び込む「起業型地域おこし協力隊」を提案しました。実際にそのスキームを使って岩手県遠野市で始まっていたNCL遠野を紹介し、2017年1月には副市長自ら遠野を視察していただいて、NCL南相馬が誕生したのです。

 

――その頃には行政とも良い関係が築けていたのですか?

 

市との関係は、2015年の東町エンガワ商店(市が設置した仮設商業施設)の運営受託がターニングポイントになりました。避難区域内で商店の経営を請け負うような事業者は他にいませんでしたからね。僕たちだってスーパーもコンビニもやったことなかったけど、「じゃあやってみます」といって引き受けたのは、関係を築くという意味では大きかったと思います。現在はNCL南相馬のカウンタパートである経済部観光交流課を中心に、いろいろなご相談をいただくようになっています。

 

3エンガワ商店(HPより借用)

南相馬市から運営受託した仮設商業施設「東町エンガワ商店」(2015年9月~2018年12月)

 

――NCL南相馬からは実際にどんな起業家が誕生していますか?

 

これまでに空き家活用、ソーシャルビジネス、酒、馬、海、アートなど10テーマで起業志望者(ラボメンバーと呼ぶ)を募集し、現在は8プロジェクト9人が活動中です(残り2枠は引き続き募集中)。協力隊任期の3年間のうちにビジネスモデルを確立できるようサポートしていますが、既に訪問型アロマセラピーや酒蔵兼バー、ローカルマーケティング、まちのIT屋さん、馬を活用したビジネスなどが誕生しつつあります。

 

――起業家サポートにおいて留意している点はありますか?

 

Uターン者も含めて彼らはみな域外からの移住者ですし、起業というのは本来孤独なものです。だから彼らの心理的な支えとなるコミュニティづくりは意識しています。ただ、地元の人との接続は、基本的にリクエストベースのみに止めています。正直、地域の人からNCLって何やってるのかわからない、と言われることもあるんですよ。でも、だからといって手当たり次第にラボメンバーを紹介しまくるようなことはしません。なぜなら、彼らはあくまでも自分のやりたいことを実現するために小高に来ているから。それなのに、ひたすら「地域を良くするために働く」ことを期待・要求され、疲弊してしまっては意味がありませんよね。その意味で、僕は彼らに「自分のやろうとしていることを地域の人全員に理解してもらおうとしなくていいよ」と伝えています。

 

4パイオニアヴィレッジ

NCL南相馬が拠点とする小高パイオニアヴィレッジは、2019年3月にオープンした簡易宿泊所付きコワーキングオフィス

 

企業連携による新プロジェクトで「100の事業作り」は次のステージへ

 

――ミッションにかかげる「100の事業創出」はいつ頃達成できそうですか?

 

このたびソフトバンク、ヤフーと連携して、起業に興味のある若者を支援する「Next Action→ Social Academia Project」を開始することになりました。これで一気にドライブがかかると思います。対象は16~29歳という「ゴールデンエイジ」。次の10年を担うリーダーを育成します。具体的なプログラムとしては、NCLと同じように小高に滞在し1年後を目途に起業を目指す「アポロ」、オンラインと現地研修を組み合わせて中・長期的に起業を考える「ロケット」、そしてアポロ・ロケットの乗組員、つまり起業志望者たちを支える「ブースター」の3クラスを準備しています。2030年までの10年間で、100の事業創出が達成できたらいいですね。

 

5next action キャプチャ

 

――ゴールデンエイジは震災当時の小・中・高校生ですね。

 

僕の会社にもNCLにもその世代が多いのですが、彼らの中には一度都会で就職した後にUターンIターンを考える人が結構いるんです。そういう層を掘り起こして適切なサポートを提供すれば、かなり面白いことができるのではないか?また今の子どもたちにも、挑戦する先輩の姿を見て“起業はカッコイイ”と思ってほしい。そういうプラットフォームを作ろうという計画を、以前からご縁のあった両社からのお声かけで構想し、実現したのが「Next Action→ Social Academia Project」です。震災10年を機に東北支援を終了する企業も多い中、両社からは本プロジェクトで今後10年間、講師派遣や運営資金などのサポートを受ける予定です。

 

――多くの人と接点を持つ和田さんですが、中でも恩師と言える方はいますか?

 

たくさんいすぎて一人には絞れませんが・・・。でもやはり、小高に戻ってきて最初のころ地元のおかあさんたちに助けてもらった恩は大きいですね。食堂を含めて事業立ち上げのフェーズでは本当にお世話になりました。もちろん怒られたこともあります。先述のNPO法人で僕は事務局として自分なりにがんばったつもりですけど、物事の運び方に配慮が足りないときなどもあったんですね。

ただ正直なところ、僕は地域に「稼げる商売」をつくりたかったので、NPOである団体の価値観とは相容れないと感じる部分もありました。もちろんどちらが正しいという話ではなく、おかあさんたちが集まる居場所は大切で、それは壊してはいけない。それで、自分は”卒業“させてもらって小高ワーカーズベースを立ち上げたのでした。いま、当時お世話になったおかあさんたちと直接の関係は薄くなっていますが、たまに顔を合わせれば常々気にかけてくれているのがわかります。離れても見守ってくれているのは、有難いことだと思います。

 

6おだかのひるごはん2(fbより借用)

「おだかのひるごはん」は2016年3月、その役割を終えて終了した

 

※写真はすべて小高ワーカーズベース提供


 

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東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。

調査の詳細はこちらをご覧ください。

 

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com