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エリアブランディング、観光交流ビジネスから拡張家族まで―― あらゆる地域へのあらゆる関わり方を可視化する、「ローカルベンチャー・ラボ」を紐解く

2018.03.16 549view 

東京・永田町。土曜の昼下がりに行われたそのイベント会場は、なにかを仕掛けたい人たちの熱気であふれていた。

イベント名は「ローカルベンチャー・イニシアティブ」。主催は、全国10自治体が参画しているローカルベンチャー推進協議会(事務局:NPO法人ETIC.。以下LV協議会)だ。その案内には、「全国各地ですでに活躍中の起業家や、ベンチャー育成・支援に積極的な自治体が一堂に会し、その経験を共有しビジネスプランを公開議論することで、次の担い手の発掘・育成を目指す」とある。

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当日は、セイノーホールディングス株式会社が主催する29歳以下対象ビジネスプラン・コンテスト『カンガルー』の最終選考会も同時開催され、若いコンテスタントの挑戦者マインドも会場を熱くした。

また、ここで刺激を受けて一歩を踏み出す決心をした人のために、ローカルベンチャー・ラボという研修プログラムも紹介された。これは事業テーマによって8コースに分かれ、半年間かけて事業構想を磨いていくもので、会場ではコース・ファシリテーターと呼ばれる人たちと来場者との交流にも熱が入っていた。

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しかし、少々カタカナが多い印象である。そもそも気になるのは、「ローカルベンチャー」という言葉だ。単に都会を離れて地方で起業しようという話ならば、「地方起業」と言えばよいはずだ。「ラボ」にしても、もっとわかりやすく塾や講座と言わないのはなぜだろう。

日本人がカタカナを使うのは、日本にないモノが海外から入ってきたとき。そして、既存の日本語ではまだ表現できない新しい概念に名前を付けたいときだ。LV協議会は敢えてカタカナを使うことで、どんな新しい考え方を表現しようとしているのか、イベント会場でその理由を探った。

>第2期ローカルベンチャー・ラボ(2018年6月開講)の詳細はこちら

>ローカルベンチャー推進協議会についての詳細はこちら

東京vs地方、会社員vs起業家… 二項対立はもう古い

ローカルベンチャー・イニシアティブの第二部「ローカルベンチャー公開戦略会議」。15ものテーマによる分科会形式だったが、各分科会のゲストは必ずしも、「地方で起業した経営者」あるいは「起業支援に熱心な地方自治体の担当者」ばかりではなかった。テーマ自体も、林業、農業、観光、医療福祉といった業種ごとに明確に設定されたわけでもない。

たとえば、「SDGsでつながる自治体x企業」という分科会だ。SDGsはSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年9月の国連サミットで採択されたもの。加盟各国が2030年までに達成すべき17の目標(および、より具体的な下位の指標)が掲げられ、日本政府も2016年末にSDGs実施指針を決定した。当然、産業界でもSDGsへの関心は高まっているが、具体策はまだまだ手探りの企業も多いといわれる。

そんな背景の中セットされたこの分科会は、ゲストに第1回ジャパンSDGsアワードで総理大臣賞を受賞した北海道下川町で活動する麻生翼氏(NPO法人森の生活代表理事)と、「世界に開かれたSDGs未来都市」を目指す岩手県釜石市の石井重成氏(釜石市オープンシティ推進室長)を迎え、民と官の観点から現状を共有する有意義なセッションとなった。そして、その参加者のほとんどを占めた現役サラリーマンは、「地方で起業」というモチベーションではなく、いまの職務の中でSDGsを介した地域社会との関わり方を模索しているのだった。

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また、「人生100年時代、地域でつくる働きかたのポートフォリオ」という分科会では、「ポートフォリオワーカー」という働き方を取り上げていた。ここでは、大手食品メーカーに勤めながら人材開発研修の一環として石川県七尾市に「留職」し、現地のまちづくり会社で約3ヶ月活動したのち、終了後も現地との積極的な関わりを続けている酒井可奈子氏の経験などが紹介された。複数の仕事を持つこと自体は、昔からそれほど珍しいことではない。しかし、敢えてポートフォリオワーカーというカタカナを使うのは、そうした働き方を積極的に選び取る人が増える時代に、「掛け持ち」あるいは「副業」という日本語の持つニュアンスが追い付かないからだろう。

ところで、この分科会タイトルにある「地域」という言葉。他にも、「地域の人材力があがる仕組みづくり」、「地域との新たな関わり方を考える」など、15テーマのうち5つで使われている。そう、イベント全体を通じて頻繁に聞かれたのが、この「地域との関わり方」というフレーズだった。

「地方」ではなく「地域」。つまり、東京(中央)と地方を対置しているのではない。もちろん物理的な行政区を指すのでもない。ここで言う「地域」とは、人々の生活が根差すコミュニティとしての「地域社会」の意に近いようだ。

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ここでLV協議会自身によるローカルベンチャーの定義を見てみると、「地域資源を活用した新しいビジネス」とある。とすれば、これに対置されるのは「資源を主に(事業所所在地の)地域社会の外から調達しているビジネス」である。おそらく都市部の企業の大部分がこれに当てはまるであろう反面、都心であっても地域社会に関わり、その資源を活用した新しいコトを興せば、それはローカルベンチャーだというわけだ。

別の見方をしてみよう。地域社会という土地でつながったコミュニティが地縁ならば、会社組織というコミュニティを「社縁」という。都市部のサラリーマンは、生活の大部分をこの社縁が占めているのが現状だろう。この文脈で「地域に関わる」とはすなわち、個人の生活に占める社縁と地縁の割合を見直すことではなかろうか。

そして、その地縁は必ずしも自分がいま住んでいる土地に限られない。新しい土地へ赴き、そこの資源を生かして起業するという選択肢もある一方、社縁を通じた地縁の拡大(例えばSDGsを通じた持続可能な地域づくりへの貢献)もあり得る。

そうした「ビジネスという共通項を介して創発される地域社会との多様な関わり方」、という新しい概念を表すのに、「ローカルベンチャー」という造語が必要だったのだ。

考えているだけでは始まらない。何らかのアウトプットができる場を

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そうなると、ローカルベンチャー・ラボとは、単に「地方で起業するためのノウハウを教えてくれる研修」ではなさそうだ。パンフレットには、「8つのテーマ、各10名定員の少数精鋭で事業構想を磨く半年間のプログラム」とある。巷にたくさんある起業塾や創業セミナーの類とはどう違うのか。関係者の話をまとめてみた。

>第2期ローカルベンチャー・ラボ(2018年6月開講)の詳細はこちら

まずはラボの主催者であるLV協議会の事務局を務めるNPO法人ETIC.から、代表理事の宮城治男氏に聞いた。

「『出口』は起業だけでなく何でもいいのです。このラボは、事業を興した先輩とこれから何かにチャレンジしたい人が、セクターや地域を超えてつながる場。そこに先生・生徒の関係はなく、全員が主体的に関わるのが特徴です。いわば互いが互いの先生となり、対話を通じて各自が地域との関わり方を紡ぎ出し、取組みを深化させるのが目的です」

とはいえ、対話をうまくリードする人がいなければただの交流会になってしまいそうだが、ここで鍵を握るのが、「ファシリテーター」と「メンター」という伴走者の存在だ。ファシリテーターは、各コースの進行・セッティングを担当し、半年間にわたって受講生をきめ細かくサポートする。また、メンターはより深い知見をもって対話をリードし、助言を行う。

2017年度の第1期「ローカルベンチャー・ラボ」に続き第2期でもファシリテーターを務める、前出の麻生翼氏はこう語る。

「メンターやファシリテーターの存在そのものが大きな特徴ですが、彼ら自身が(研究者や教授ではなく)実践者だというのが決定的なポイントです。実践者が一緒に走ってくれるというのは、全然違います。小さくてもいいからアウトプットしてみようよ、やればできるよ、という空気が出せるのは実践者だからこそ。自分でやっている人たちだから、説得力のあるサポートが得られると思います。ラボのスタート時点では、事業構想が漠然としていても大丈夫。回を重ねるごとに具体化し、アクションにつなげていきます。結果として移住してもしなくても、起業してもしなくてもいいのですが、いずれにせよ考えているだけでは始まりません。こういう形のアウトプットができる場は少ないので、ぜひ活用してほしい」

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>第1期のローカルベンチャー・ラボ修了生による最終報告会(ブラッシュアップ&デモDay)の内容はこちら

さらに、ETIC.の事業統括ディレクター山内幸治氏に補足してもらう。

「具体的に起業・移住を考えているわけではないけど、地方で働くことや地域社会との関わりに興味を持つ人は増えています。そういう人たちにとって、たとえば1泊2日のフィールドワークのような機会は広がってきています。ただ、その次のアクションとなると、もう地域おこし協力隊に応募するといった飛躍した選択肢しかありませんでした。その中でこのラボを始めたのは、自分の中に生まれたアイデアのタネを具体的な構想の形として描き出す機会を提供するためです。半年間じっくり、メンターやファシリテーター、他の仲間たちと対話を重ね、存分に揺らぎながらそれを目指してほしい。一方的に知識を詰め込む講座ではなく、全員参加型のラボ形式。対話を重視するから少人数制なのです。そして、最終的には会社を辞める必要も移住する必要もありません」

「地域社会との関わり方」は起業や移住に限らない――。ということは、東京でサラリーマンを続けながらできることを探りたい人も、ローカルベンチャー・ラボではウェルカムだという。

「むしろ、そういう会社員の方こそ来てほしいですね。例えばSDGsのようなきっかけがあって、地方との連携を模索したいけれども、どこと組めばいいか、何から始めていいかわからない、という企業も多いでしょう。このラボは、そうした企業と地方がwin-win の関係をお互いに探る場としても魅力的だと思います」(麻生氏)

とはいえ、ラボを主宰するLV協議会のメンバー自治体にしてみれば、自分のまちにたくさんの人が移住して起業してくれるに越したことはないはずだ。しかし、人材をメンバー間で取り合いするほど彼らの懐は狭くない。むしろ、正しい競争と協働を通じて人材という資源のパイ自体を拡大しようというのが、ローカルベンチャー推進事業の構想なのである。

ローカルベンチャーから世界平和へ!

最後に、この度のイベントの第一部「ローカルベンチャー連続ピッチ」で登壇した、株式会社prsm(プリズム)代表の藤代健介氏の話を少しご紹介しよう。他の登壇者が九州、東北、四国など地方をフィールドとし、地域社会に密着して展開する事業内容を紹介したのに対し、「拡張家族」をテーマとした藤代氏のプレゼンテーションはかなり異色だった。

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>藤代氏のプロフィールはこちら

藤代氏は2017年5月、自ら創設した「Cift」というコミュニティの住民となり、SHIBUYA CAST.という複合施設13Fの住居フロアで約40人と共同生活を送っている。藤代氏自身を含め、住民の多くは多拠点居住者であり総拠点数は100以上。ほとんどの住民が自営業で、多種多様な職業の総数も100を超える。

Ciftのやっていることは「平和活動」であり、そのためには「意識家族」が大切なのだという。それは、昔のような血縁・地縁に依存した支え合いに戻るのではなく、成熟・自立した個人が、敢えて家族・全体(社会)に帰っていくことなのだと。近代史は、ムラや家族という軛からの解放を求めて個別化を追求してきたが、その行きつく先はどこなのか?藤代氏はそこに疑問を抱き、「拡張家族」と表現する新しい概念のコミュニティを広げようとしている。別の言い方をすれば、自助・共助・公助をリバランスする試みだ。発起したCiftは、その「拡張家族」の実験現場でもある。

「3年で1,000人の深い意識で繋がった家族になりたい。それはもう、クニと同じ。世界の全員が家族になれば、それが世界平和ということ。そのきっかけになる社会実験体になる」

地域社会が抱える課題との関係については、こう語る。「まずは個人が自立すること。家族を離れて東京に出てくるというだけではなく、精神的な自立も含めてです。そうして主体的な意識と態度を持ち、一人でも生きていける力を持った人が、愛を持って家族へ、社会へ戻ってくる。そうすれば地域は変わる」

そして、こうした自分の信じる価値観を共有し、共感を呼び、意識を変容させることが「市民」の仕事だという。全体最適を追求する「行政」、一定範囲の課題やニーズに応える「企業」に対して、この「市民」という仕事を作っていきたいのだ、とも。

「大事なのは、makeではなくbe。未来を作るのではなく、未来になること」

その藤代氏は、第2期ローカルベンチャー・ラボで新設される「拡張家族」というコースのメンターを務める。どんな人に参加してほしいかを聞いてみた。

「他者を変えようとするのではなく、自分を変えたい人。ただし、全体(社会)を変えるために自分が変わりたいという人に来てほしい。(ベンチャーやビジネスという文脈で言うと)より豊かに生きようとすれば、結果としてそれがビジネスになるという考え方。もちろんそのために必要な条件はありますが。ラボではCiftの中で培っている価値観や経験を共有したいと思います」

「ローカルベンチャー」という新しいコンセプトの追求は、日本という国の地方創生だけでなく、世界平和にもつながっていた。関わるすべての人と地域の変化が楽しみだ。

この記事を書いたユーザー

中川雅美

中川雅美

神奈川県川崎市出身。東京の外資系企業数社で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わったのち、2014年初から福島県へ。復興庁からの派遣職員として、当時全町避難中だった浪江町役場の広報支援に入る。任期終了後も福島県に残り、現在は福島市を拠点にフリーのライター&広報アドバイザーとして複数の団体を支援中。 ブログ「Life in Fukushima 50歳からの単身地方移住日記」https://lifeinfukushima.blog

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