#ローカルベンチャー
「地域の子どもは地域で見守り育てる」。石巻市でプレーパークやフリースクールを通じた子どもの居場所づくり、周囲の大人も巻き込んだ地域づくりを続ける田中雅子さんに聞く
2021.05.25
本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。
大震災後の宮城県石巻市で、地域と連携して精力的に子ども支援活動を続けるNPO法人こども∞感ぱにー(こどもむげんかんぱにー)通称こどぱにー代表理事、田中雅子さんのお話をお届けします。
■田中雅子氏プロフィール■
東京都出身。保育士。PADIダイブマスター。東京の母子生活支援施設、児童養護施設で8年間勤務後、きれいな海を未来の子ども達に残すためNPO団体にて活動。石巻と出会う前まで、寄宿制のフリースクールで子どもたちと自給自足しながら生活を共にする。東日本大震災の9日後に石巻に入り、子ども支援を中心に活動。現在は石巻市内のプレーパークやフリースクールの運営とともに、地域と連携して子どもの社会的擁護と居場所の必要性を伝える活動に力を注いでいる。
■石巻における田中さんの主な活動履歴■
2011年9月 当時参加していたNPOの活動の中で、石巻市渡波(わたのは)地区に「黄金浜ちびっこあそび場」を開設(現在の「プレーパークわたのは」)
2013年1月 自身の任意団体「こども∞感ぱにー」を設立
2013年7月 「未就学の遊び場」活動開始
2015年8月 NPO法人化
2016年10月 不登校児など生きづらさを抱える子どもたちのための「フリースクールぼはっく」運営開始
2017年6月「石巻のプレーパークと子どもの遊びを考える会」(略称:石の会)活動開始
2019年4月 地域活動グループ「渡中学区WWI(わっしょい渡波委員会)」活動開始
さらに、不登校率が全国で最も多い宮城県の不登校課題に取り組むために、2019年4月「多様な学びをともにつくる・みやぎネットワーク」をフリースクール団体と共に設立。2020年12月には宮城県知事に向けて不登校対応に関する要望書を提出した。他にも地域のプレーヤーたちとの連携多数。
一貫して「子どもの居場所づくり」に取り組む
――こどぱにーの事業の柱のひとつ「プレーパーク」は、普通の公園とどう違うのでしょう?
プレーパークに明確な定義はないのですが、一言でいえば「自分の責任で自由に遊べる場」ということ。ブランコや滑り台など、一般的な遊具が設置された公園と違って、自然の素材である「火・木・水・土」を使い、子どもたちが自分で遊びをつくり出すことができます。木材と工具を使って工作するのもよし、火を起こすのもよし、ただただ穴を掘るのもよし。普通の公園では経験できない「遊び」がここではできるのが特徴です。最近は、ボール遊びを禁止している公園がありますが、ここでは、ボールの使い方を子どもと話し合って決めています。自分で遊び方やルールを考えるからこそ、主体性が育ち、創造性を発揮し、協調性や相手への思いやりといった「非認知能力」も培われるのです。
――でも、そういう環境だと逆にうまく遊べない子もいたりしませんか?トンカチを使ったり火を起こしたりというと危険も伴うのでは?
ここには必ずプレイワーカーという私たちスタッフが常駐しています。プレイワーカーは子どもが安心して過ごせる環境づくりや遊びの仕掛け、道具の使い方を教えるほか、リスク管理などやることは多岐にわたります。
子どもの遊びにケガはつきものです。そしてそれは大事な経験だと思っています。ただ、ケガには2種類あり、子ども自身が「予知できるケガ」と「予知できないケガ」です。
トンカチで指をたたけば痛いですよね。火に触れば熱い…。子どもはこれらを一度経験すると、次はケガをしないように注意します。これが「予知できるケガ」です。この経験から、「危険」を回避する力を身に着けていくんですね。このことは、保護者や地域の方々にも伝えるようにしています。
もう一つは、遊んでいていきなり手すりが取れて転落したり、釘が刺さった木片が落ちていて踏み抜いたりなど「予知できないケガ」です。これは、私たちが回避しなければならないため、日々の遊具チェックや環境整備はもちろん、危険な箇所や遊び方を見つけたら、その場で修理や制止するなど、随時対応しています。
――地域の理解を得るためにも地道な努力を続けられていますね。
以前、子どもの蹴ったボールが近所のお宅のフェンスを壊してしまったことがありました。最初は「通報するぞ!」ととても怒っていたんですが、その子と一緒に謝罪に伺い、私たちの活動の主旨を丁寧に説明したことがあります。今ではその人は、プレーパークの良き理解者で力強い味方です(笑)。地域との調整や子どもと地域を繋ぐコーディネートをするのも私たちプレイワーカーの役割です。
現在、常設と移動式のプレーパークを2か所で運営しています。利用者数は年間延べ8千人ほどで、そのうち2~3割が大人でしょうか。10年間の活動の結果、このプレーパークは、地域の大人や高齢者の方も集う多世代交流の場になりました。
――こどぱにーが運営するプレーパークとフリースクールでは、子どもが来たい時に来れる、安心して過ごせる「居場所づくり」をおこなっています。
こどぱにーの出発点は、東日本大震災で「遊び場」を失った子どものために、公園を復活させたいという住民の声でした。
震災直後の石巻にボランティアで入った当初、以前から子どもに関わる仕事をしていた私は、町中で子どもをほとんど見かけないことに違和感を抱いていました。そんな時、あるアーティスト集団と『子どもと一緒に「〇〇」をつくる』という企画をし、各所に広報しました。すると、どこにこんなに隠れていたのかというくらい子どもが集まり、みんなで「〇〇」を考え、約1週間かけて映画館を作り上げました。
上映会当日、約50名の子どもが訪れ、映画館の周りは遊び場となり、みんな楽しそうに過ごしました。その時私は、「子どもの本来あるべき姿を取り戻した」そんな風に感じました。その笑顔を見た地域の大人たちが「子どもがこうして笑っていると、俺たちも元気になる。だからけろちゃん(私の愛称)、公園をつくろう」と言いました。この言葉が、今の活動の原点となりました。
ブレない軸を持つ。時間をかけて「住みたい地域」づくりに関わっていく
――それから10年、さまざまな事業を展開してこられましたが、環境の変化は感じられますか?
こどぱにーの活動は、遊び場から始まり、子育てサポートやフリースクールへと発展していきました。これは、それだけ地域に課題があった裏返しだと思います。
最初の頃は震災に直接起因する「あそび場がない」「子育ての相談窓口がない」という課題を解決するために、「場をつくる」ことが活動の中心だったかもしれません。それが時間と共に変化し、ここ数年は震災前から存在していた社会課題が混在してきています。
▲こどぱにーの活動の柱
例えば、宮城県は不登校児が多く、2019年度の不登校率は4年連続で全国最多。石巻も不登校数が多いのに対し、民間のフリースクールが2軒しかありません。以前からも多い傾向にありました。(文科省「児童生徒問題行動・不登校調査」)。また、子どもの居場所である児童館やプレーパークといった公共の施設がとても少ないです。他市には、人口約2万人に1施設の割合で児童館がありますが、石巻市は15万人に対し1つしかありません。
不登校の課題も、子どもの居場所への課題も、こどぱにーだけでは解決できないほど大きな課題です。ですから、ここ数年は、地域の人や子ども支援団体と一緒に任意団体を立ち上げて、その課題への取り組みを行っています。
不登校の子どもにとって、学校以外の多様な学びの場が必要であること。子どもの健やかな成長に外遊びがいかに大切かなど、始めはなかなか理解されず時間がかかるものだと思っています。
最近は、子どもにとって親や学校だけでない多世代の人とつながることが大切と理解され始めましたがまだまだ課題はてんこ盛り(笑)。これからも時間をかけて仲間と共に伝えていくつもりです。
▲「多様な学びをともにつくる・みやぎネットワーク」に参画し、2020年12月、宮城県知事に向けて、不登校対応に関する要望書を提出
――連携の例としては、「石巻のプレーパークと子どもの遊びを考える会」(略称「石の会」)や「渡中学区WWI(わっしょい渡波委員会)」などを立ち上げておられますが、こうした連携がうまく機能する秘訣は何でしょうか?
連携のスタイルによって秘訣も様々だと思います。たとえば「石の会」は、思いを同じくする子ども支援団体が集まったものです。ここでは「団体の目的と目標をとことん話し合い、ブレない軸を持つ」ことが大切だと、活動をしながら気づきました。
「石の会」は、「10年後までに、市内の中学校区に一つ、子どもの居場所(プレーパークや児童館など)をつくる」という目標を立てています。話し合いや活動をしていると、目の前のことにとらわれ、活動にズレが生じることがあります。そんな時、これが原点に立ち返る軸になります。常に「目的」と「目標」を持ち、最初に「自分たちの存在意義」をしっかり共有することが大事ではないでしょうか。
一方、渡中学区WWIは学校の先生やPTA、民生員、社会福祉協議会などと地域活動をおこなう団体です。
子どもの義務教育の9年間を、地域がつながりみんなで見守り育てるために、地区行事や学校行事のサポートなどをおこなっています。そして、地域活動は楽しいものだと地域の若い人たちに伝えたいとみんなで話しています。こうした地域活動は、住民が協力し合うのが当たり前のことなので連携や目標という言葉は必要ないと思っています。代わりに「地域の子どもは地域で見守り育てる」を合言葉に楽しみながら活動しています。
2020年はコロナの影響でお出掛けもできずにいる子ども達と「何ができるか」をメンバー達と考えました。そして、子どもも大人も一緒になって戦うスプラトゥーン大会(水鉄砲合戦)を実施し、大盛況でした。子どもを真ん中に、大人も一緒に楽しむ時間は、地域のみんながつながっていくのにとても大事なことだと思います。ちなみに私は、チームで一人生き残り、中学生と一騎打ちになり撃沈しました。もちろん、手は抜きはしませんでしたよ(笑)。
▲コロナ禍だからこそ地域活動を大切にしようとWWIが実施した水鉄砲大会は、人気ゲームにちなんで「スプラトゥーン大会」と命名。大人たちも気合が入る
――現在の課題感と今後の展望をお聞かせください。
先ほどもお話した通り、いろいろ取り組んでいますが、他に三つお話しますね。
一つ目は、こどぱにーの活動を持続するための、後継者育成を含めた体制づくり。
二つ目は、子どもにとって遊びや居場所がなぜ必要なのかを検証し、データ化すること。
三つ目は、多様な学びの必要性を実証することで、不登校の子どもが学校以外の居場所に出会えるしくみづくり。
二つ目と三つ目は、不登校を含めた多くの子どもの居場所づくりには欠かせない展望なので、力を入れていきたいと思っています。
大震災で壊れてしまった地域コミュニティの再構築は大きな課題ですが、これは人為的に再構築できるものでないと思っています。そこに住む人たちが長い時間をかけて少しずつ、つくり上げていくものです。だから私たちは、地域の一員としてプレーパークやフリースクールを開催し、これらを地域の人と一緒につくっていくだけですね。そして、自分が住んでて心地いい地域を、子どもや地域の人とあーだこーだ言いながら考えていきたいです。
資金面の課題ですか?復興予算に紐づいた助成金や寄付が減少したため、安定しているとは言えません。こどぱにーの事業は子どもからお金をとれませんから(笑)。
今後の活動資金は、個人や企業からの寄付を増やしたいと考えています。そのためにも、応援してくださる皆さんに恥ずかしくない、「ここに寄付してよかった」と思ってもらえる組織でありたいと思っています。NPOの活動は人々の「思い」で成り立っていると思います。今、こどぱにーは、認定NPO法人を取得し、もっと多くの「思い」を寄せてもらえるための準備をしています。
私は「必要なところにお金と人はやってくる」と信じています(笑)。こどぱにーの活動は、子どもにとって必要なものなので、これからもみなさんに支えられながら『子どもの笑顔が地域のなかで育まれるまちに』を理念に進んでいきますね。ちゃんと活動を継続しているか、たまにチェックしてみてください(笑)。
【イベント情報】6/25(金)、入山章栄さん(早稲田大学)、菅野拓さん(大阪市立大学)、高橋大就さん(一般社団法人東の食の会)によるオンラインセミナー『イノベーションと社会ネットワークとの関係を考える ~「東北リーダー社会ネットワーク調査」分析結果から~』を行います。参加は無料です。ぜひご参加ください。
※東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。
調査の詳細はこちらをご覧ください。
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