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地域の「点」が「面」に育つように、多様な関係づくりと伴走で変化を生み出す。NPO法人底上げ・成宮崇史さん

2021.05.28 

本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。

 

縁もゆかりも無い気仙沼で、復興ボランティア活動を始めた成宮崇史さん。その後は仲間とNPO法人を設立し、子どもや若者を支援してきました。現在は多様な年代と分野と組織をつなぐ日々の成宮崇史さんにお話を伺いました。

 

0.成宮さん写真1

成宮 崇史(なるみや たかふみ)さん

認定特定非営利活動法人底上げ 理事・事務局長、気仙沼まち大学運営協議会 チーフコーディネーター

立教大学コミュニティ福祉学部卒業。卒業後、児童養護施設や飲食店での勤務を経て、2011年8月に東京から気仙沼に入る。2ヶ月半テント生活をしながらボランティア活動を行う。その後、気仙沼に残ることを決意し、仲間と共に2011年10月に任意団体NPO底上げを立ち上げ、2012年5月にNPO法人化。

現在は高校生の主体的なプロジェクトのサポートを中心に、小中学校の探究学習コーディネーターや、市内人材育成のプラットフォーム事業にも携わっている。自分と関わる全ての人の人生が少しでも豊かになるように、いつも近い距離で思いに寄り添う伴走を通じて、ワクワクを持って取り組むチャレンジが広がっていくことを心がけている。

気仙沼のためにもっと自分にできることはないか?

 

――成宮さんが気仙沼に来てから約10年。どんな活動をされてきましたか。

 

気仙沼にまったく縁は無かったのですが、最低3ヶ月間は活動しようと思いテント生活をしながら被災者支援のボランティア活動をしていました。毎晩のように他のボランティアや地元の方と飲みながら、泣き語りましたね。そうするうちに「気仙沼のためにもっと自分にできることはないか?」という気持ちがどんどん高まりました。そんな中で他のNPOから子ども達の学習支援の現場スタッフをしないか、と声をかけていただき活動を開始。その後は、小中高校生のサポートをするNPO法人底上げを仲間と設立し、活動を仕事にしていきたいこともあり法人化しました。

 

――子どもと若者のサポートが柱ですね。では、この10年で特に印象に残っていることはどんなことですか。

 

僕も関わっている人材育成に関する動きがとても興味深いです。気仙沼市では、2013年頃から地元で活躍している人の話を聞く「ぬま塾」という若者向けの事業を実施しています。また同年、次世代の企業経営者を対象にした「東北未来創造イニシアティブ・経営未来塾」が始まりました。その後、若者が学んでマイプランをつくる「ぬま大学」が2015年頃から実施され大きなきっかけになったと思います。そして2016年に市長の人材育成への強い思いから「気仙沼まち大学構想」が始まりました。

 

――この構想のねらいや目的は何ですか。

 

この目的は「対話から共創・協働が生まれる仕組みを作り、新しい挑戦やイノベーションが次々起こる、市民が主役のまちづくりを実現する」というものです。この構想の実現を目指すための組織として「気仙沼まち大学運営協議会」が設立され、事業がはじまりました。市役所と商工会議所、信用金庫と民間チームの4者がコアメンバーです。

 

――4者間の協働で事業を展開してきたのですね。では「ぬま塾」はどのように始まったのですか。

 

「ぬま塾」の企画は、僕と同じ移住者でもある友人らが市の地域づくり推進課の嘱託スタッフをしていた時に、地域の若者を集め地元の先輩方から話を聞いたら面白いのでは、という思いから実施していました。後に彼らは一般社団法人まるオフィスを立ち上げ「ぬま大学」などの受託をすることになりました。自分はぬま塾には参加者として関わって皆勤賞でした(笑)。その後「ぬま大学」ではコーディネーターとして関わり若者を伴走支援しています。

 

4.webより

ぬま塾、ぬま大学などの事業が連携し、若者向けプログラムを行なっている(webより)http://numa-ninaite.com/

 

――では、成宮さんが気仙沼まち大学運営協議会に参画することになったのはどんな経緯からですか。

 

市役所の方から「民間チームのリーダー、チーフコーディネーターをやってみないか」と声をかけていただいたことがきっかけです。はじめは恐れ多くて断りたかったですが、チャレンジの機会だなと思い直してお引き受けすることにしました。その時に「NPOなど移住者のみんながこのまちに居続けてほしい、だから仕事を一緒にやりたい」という声をいただいてとても嬉しかったことを覚えています。自分はビジョンを描いたり強いリーダーシップを持って周りを引っ張っていくタイプではないですが、地道に若者や地域の人と関係づくりをしてきた経緯から、ある程度の広いネットワークもあったので、協議会にも寄与できるのではと思いました。

点から線、そして面としてのまとまりへ

 

――気仙沼の特性とまち大学構想をどう見ていますか。

 

地元の人から多く聞いたのが「気仙沼は震災前からいろんなプロジェクトや団体がたくさん立ち上がる機運はあったが、ある意味カオスな状態で、点から線や面になりにくい地域特性がある」ということです。それであれば、一つの構想を元に市民が同じ感覚を持ちながらまとまりを持っていくために、この「まち大学構想」がキーになるのではないかと思いました。2016年から約5年間やってきて今は、市内でいろんなチャレンジや新しい取り組みが増えてきている、それが生まれやすい町なんだ、という共通の感覚を少しずつ市民に持っていただけるようになってきたと感じます。

 

――協議会ではどんなことに取り組んでいるのですか。

 

市内で実施されている人材育成のプログラムの横つなぎと、チャレンジャーの取り組みの発信です。取り組みには視点が4つあって、母集団と応援団を作ること、セクターを超えた縦横のつなぎをすること、実践の支援をすること、地域課題解決のプログラムを実施することです。

 

――つながりや出会いなど、どんなことがありましたか。

 

例えば、チャレンジャーズピッチとういうプログラムでは、市内のチャレンジャーが取り組んでいる新しい事業や活動をプレゼンする機会を作っています。参加者の中には、気仙沼まち大学運営協議会のメンバーでもある商工会議所や気仙沼信用金庫の方がおり、プレゼン内容に対して具体的なサポートを提案してくれることもありました。他にも、参加企業とチャレンジャーとの具体的な仕事が生まれるきっかけにもなりました。現在は、年に3回程度のペースで実施しています。

3.チャレンジャーズピッチ_デザイナー編

チャレンジャーズピッチ デザイナー編

 

――コーディネーターとして企画の時に工夫していることは何でしょう。

 

「今の気仙沼だとこれが熱いからやってみよう」「こんなつながりが生まれたら面白いよね」などとスタッフと話し合いながらターゲットやテーマを検討しています。つながりの設計ですね。協議会に参画しているメンバーが多様なので、企画会議の時はみんな自分の実践現場からアイデアや課題意識を持ち寄って可視化するようしています。自組織のことだけでなく、地域全体の利益を考えられるメンバーを協議会に集めている、とも言えますね。

 

――では、自分で何かしたい、という市民がいた場合はどうフォローされていますか。

 

高校生であれば「高校生MY PROJECT AWARD」につないだり、若者であれば「ぬま大学」に参加してもらったりしています。そこで仲間づくりができるので、チャレンジへのハードルが下がり実践につながりやすくなります。でも全員が実践者にならなくてもいいと思っていて、まずは市内の新しい活動を「いいね!」と言えるような応援し合える空気感の醸成も意識しています。他にも市内ではシニア向け、女性向けのプログラムなど様々な対象者向けの場や講座などがあるので、一人ひとりにとって何かしたいという思いを後押ししてくれる機会はとても広くあると思います。

1.高校生イベント_多世代交流民話の絵本作り

高校生イベント「多世代交流 民話の絵本作り」

 

――チャレンジのきっかけや思いを育む場を準備したり、紹介したりされているのですね。

 

あと、「まちづくりカフェ」とうイベントを実施しているのですが、プログラムを作る時に意識していることの一つとして、普段あまり講師として話したりする機会や、多くの方の前で活動を紹介する機会があまりない方にお声がけすることもあります。そうすることで「気仙沼って面白い人がいっぱいいて、自分たちでつくりだせるまちなんだ」という感覚が高まればいいなと思っています。

 

――人材育成で気仙沼に変化が起こり出した背景をどう見ていますか。

 

市長が人材育成に強い思いを持たれていて、点を面にしようという構想を作られたことが大きいと思います。そして、その政策を市役所の担当部署の方たちが、現場に目を向け声を聞きながらしっかり実践してくださったからではないでしょうか。

ある部長は、気仙沼に来てくれた若者達にまちのビジョンを熱く、そしてわかりやすく語ってくれました。また、僕たちの活動がメディアで報道された時には、その映像をDVDに録画して市長や商工会議所に配って市内で起こっている変化を伝えてくれました。そういった一つひとつの細やかな心遣いに本当に感謝しています。

気仙沼の持続可能性を語り合い、アクションへ

 

――トップのビジョンと担当部署のアクションですね。他にも気仙沼には多様なプレーヤーがいると思いますが、この10年でどう変化してきましたか。

 

自分がボランティア活動を始めた頃からの友人らは法人を設立し、今ではやりたいことがシャープになってきたと感じます。もちろん資金調達も含めてです。背景には市役所が委託を出してくれたり、民間の協議会を設立したりなどサポートしてくれた部分がありました。

本当に気仙沼に育てていただいた、という感覚がありますね。企業の方々を見ても、震災後に新規事業をどんどん立ち上げているリーダーがいたり、自社の利益だけでなくまちの持続可能性をしっかり見据えて協働しているリーダーもいて、心から尊敬すると同時にいい刺激をもらっています。

 

――まちの持続可能性について話すことも多いのですか。

 

はい、よく話します。協議会の中にローカルベンチャー事業というのがあり、起業支援をしています。そこでは、一事業者の支援にとどまらず、起業家や事業体が生まれやすい土壌づくりとは何なのか、どうしたら意識が醸成されるのか考えています。この時に根本的な話に戻ったり、気仙沼全体の持続可能性について話したり。メンバー内で、それぞれの根底にある思いと気仙沼のありたい未来のビジョンを共有した後に、打ち手をシャープに決めるようにしています。

 

――では、現在感じている気仙沼の課題や、これから取り組みたいことはどんなことでしょうか。

 

これからはまちづくりの活動を精力的にされている方々と、他の要素を持つような方とを混ぜ合わせることを意識して実践したいと考えています。気仙沼の課題である「点で動く」を「面の取り組み」にしていきたいからです。

 

2.まちづくりカフェ_階上の歴史を知ろう

まちづくりカフェ「階上(はしかみ)地区の歴史を知ろう」

 

――異分野の活動を「混ぜ合わせる」ですね。

 

はい。以前、気仙沼駅前に新しくできた災害公営住宅と駅前商店会の方々との自治会が組織される時に、どう連携していくか考える機会がありました。そこに地元の若者が設立したまちづくり会社がコーディネートとして入り、ぬま大学のOBOGや経営人材育成塾の卒業生も関わって、一緒に駅前活性化のアイデアを考えましたね。小さな一つの例ではありますが、こういった協働をもっと市内で増やせればと思っています。

 

――ありがとうございました!

 


 

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【イベント情報】6/25(金)、入山章栄さん(早稲田大学)、菅野拓さん(大阪市立大学)、高橋大就さん(一般社団法人東の食の会)によるオンラインセミナー『イノベーションと社会ネットワークとの関係を考える ~「東北リーダー社会ネットワーク調査」分析結果から~』を行います。参加は無料です。ぜひご参加ください。

 

※東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。

調査の詳細はこちらをご覧ください。

 

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この記事を書いたユーザー
遠藤智栄

遠藤智栄

まちづくりアドバイザー、ファシリテーター。 仙台市在住。大学卒業後、雑誌の企画編集、農山漁村の活性化のコンサルティング、NPOの中間支援等の仕事や活動を経て独立。現在は、共創でのソーシャル・デザイン、地域づくり、組織開発、人材育成などの支援と実践を手掛けている。地域社会デザイン・ラボ代表、株式会社ばとん代表取締役。好きなのは景観散歩とクラフトビール、野菜づくり。

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