“極まっている状態とは、自然体であることだと思う──”
そう語るのは、クリエイティブディレクター/アーティストの五味春佳さん。
武蔵野美術大学後、フリーのデザイナーを経て、ウェディング事業を展開する株式会社CRAZYに入社した五味さん。アートディレクターとして100件以上の結婚式の装飾・演出を手掛け、2020年に独立。
最近は、日本最大のグローバル旗艦店「UNIQLO TOKYO」の展示スペースでディスプレイ装飾のアートディレクションを担当。プライベートでは「自宅の本気DIY」のツイートに11万いいねがつき、話題に。
「何かを目指すとか、何者かになろうとか頑張ろうと思うと、つい周りの目を気にしたり、奇をてらったり、無理をしてしまう──そんなエゴのようなものを超えた表現者に憧れる。だからこそ、自分らしい形での極め方を探っていきたい」と語る五味さんにお話を伺いました。
「自分がいいと思うものを、自分がちゃんと知る」
──「自宅の本気DIY」をやろうと思ったきっかけや理由をお聞かせください。
五味 : リノベーション可能な物件への引っ越しが決まり、「自分にとって気持ちがいい空間」をつくろうと思いました。
社会に出てから、自分のためのものづくりをしていない期間が長くなっていたこともあり、利益が出るものでもなくクライアントがいるわけでもない、何をしてもよい誰の目も気にしないものづくりをする事で「無心になれる時間」が欲しかったというのが一番の理由かもしれません。
Before
After
──人に見られるからこそ手が抜けなかったり、反対に自分のことだからこそ手を抜いてしまったりということは往々にしてあるかと思います。しかし今回、ここまで本気でやりきることができたモチベーションはどこにありましたか?
五味 : やりきったというより、自分の「心地よさ」と「嫌悪感」に素直になっただけかもしれません。
実はDIYをスタートする前は、「食べるものも何でもいいし、服も何でもいいし、見に行きたい展示もない」と感覚が鈍っていた状態だったので、「自分がいいと思うものは、そもそも何なんだ?」という問いを自分自身に投げかけながら作ろうと思ったんです。
「自分は何色が心地よいと感じるのか?」「素材は何を選ぼうか?」「家でどう過ごしたいか?」。逆に「何は嫌なのか?」など、おざなりにしてきた自分の感覚も無視しないように意識しました。
その結果、心地よいと思える愛着の湧いた部屋ができて、家に招いた友人に「ガチじゃんw」と言われた事をきっかけにツイッターに呟いてみたら、ありがたいことに反響をいただきました。DIYを発信しようとか、ただ家を素敵にしよう、という動機だけではやりきれなかったかもしれません(笑)
──「自分がいいと思うものを、自分がちゃんと知る」ということに素直に向き合い、それが結果として反響にも繋がったんですね。
五味 : 「どっちでもいい」「どうでもいい」「何でもいい」っていう思考は、考えなくて済むので、一見楽で便利です。しかし積み重ねすぎると、自分を見失ったり、感性が鈍ってきたりするので気をつけたいと思っています。
ひとつ買い物するにも「愛着のある選択」はできます。『お金がないからいいものは買えない』ではなく『今ある中でどうするか』と考えてみると、「オリジナルの素敵さ」だって生まれるかもしれません。
「どうでもいい」で終わらせないことは、確かに面倒なことも多いです。しかし、自分がいいと思う選択を積み重ねていくことで「人生って豊かになっていくのかな」とも思います──
ヤフオクで2万円で購入したソファ、古道具屋さんで見つけた戦前の洋館にあったという机は4万円《写真左》 / 物件解体を手伝っていただいた古材を洗って棚に《写真右》
壁を徹底的に塗り、明るいキッチンに。食器棚兼カウンターは実家で眠っていたカラーボックスを塗装して板を乗せて作成。
アートとデザイン。表現しながら得た価値観。
──さて続いては、五味さんの価値観がどのように作られてきたのか、学生時代についてもお話をお伺いできればと思います。事前の打ち合わせで「アートとデザインの間」というワードがとても興味深かったので、ぜひそのあたりを詳しくお聞かせください。
五味 : まず、私がアートに触れ始めたのは小学生の頃でした。当時から油絵や生け花を習い、大学は油絵学科出身──1人で黙々と自分が考えていることや感じている事を形にしていく時間が多かった10代でした。
五味さんの高校時代の作品。(左 : 卒業制作「木水水水木」2010 油彩F100 / 右 : 鉛筆デッサン 2010 B0)
一方で、人を喜ばせるサプライズが物心ついた頃から好きだったこともあり、就職活動のタイミングで人に伝わる表現を模索し始め、今のデザインや企画の仕事をしています。
「アートとデザインの間」ということですが、私にとって「伝えたいことは何か」「伝わるために何ができるか」を考える時の大切な「問い」なんだと思います。
最初は、どっちつかずであることに、アートの世界で作家になる友人にも、デザインをバリバリ学んできた友人にも、両方に劣等感を持っていました。ですが、大学卒業制作の時に「自分なりの極め方を見つけていかなければ」と思い、考え尽くして作品にできたことがアートとデザインの「間」を模索する原点になっています。
──卒業制作のお話もぜひお願いします。
五味 : アートとデザインどちらにも興味がある人として、「自分の表現」だけに留まらず「人にどう鑑賞されるのか」「記憶の中にどう残るのか」まで設計したいと考えました。
自分が手を動かして作品をつくるのは得意でしたが、「人にどう届くのか」を極めるとしたら、自分が手を動かさずに作品をつくろうと、「外注」と「誰でもできる作業」だけで完成させようとしました。
何を作るかという部分では「アートの敷居を下げたい」「老若男女・リテラシーの高さに関係なく鑑賞体験ができるように」と考え、多くの人が共通で気になるものという観点から「銀色でキラキラした100円玉」というモチーフを選択し、持ち帰り自由の作品にしました。
一万枚作ったコインも最後はすべてお持ち帰りいただいたので、今もどこかに展示され続けてます。
2018 『月の欠片』1万枚の少しだけ曲げられたコインをtakefreeにて展示。学内展では自動販売機の側や、展示室までの導線にもちりばめられ、部屋の外でも鑑賞できるように作成された。
この作品は特に賞をとった訳ではないですが、人が集ってなんだかわからないものにワクワクして拾っていったり、子どもが「月で使えるお金なのかな!」と話してくれたり、批評家の方から紙幣へのアンチテーゼなのかと説いてくれたり、それぞれの文脈で意味を見出してくれる姿を見れたことが嬉しくて、今でも勇気になっている大切な作品です。
そのままの“あなた”の素敵さをカタチに──
武蔵野美術大学後、五味さんはフリーランスの期間を経て、「IWAI OMOTESANDO」を中心にウェディング事業を展開する株式会社CRAZYに入社。アートディレクターとして100件以上の結婚式の装飾・演出を手掛けていた当時についても振り返っていただきました。
◆
──ご自身が手掛けられた結婚式の中で、印象的だったものについてお話をお聞かせください。
五味 : 印象的だったものはたくさんありますが、最後に手掛けた結婚式についてお話したいと思います。
私が所属していたCRAZYWEDDINGでは「人生を変えるほどの結婚式」を届けていました。見た目が素敵なだけでは終わらせない「人生の背中を押すような体験として、新郎新婦のおふたりにしかつくれないもの」をつくる仕事です。
最後に担当した新郎新婦のおふたりは、地球環境について日頃から関心が強い方でした。ヒアリングをする中で「サスティナブルな結婚式とは何か」「おふたりにしかできないことは何か」「結婚式を通して何を伝えたいか」を深めていき、「何をつくるか」ではなくて、「何でつくるか」を大事にしたいと考えました。
──具体的にどんな結婚式をつくったのでしょうか。
五味 : すべて「捨てられてしまうはずだったもの」でつくられた結婚式です。
CRAZYWEDDING@MOKICHI concept「NEW STANDARD」
メインは廃棄予定の紙を使いました。印刷会社や工場を回って、カットでミスしたものやB級品で売ることができなかった紙をいただけませんかと交渉し、その紙を型抜き業者の方に葉っぱの形にしていただき、大きな木のインスタレーションへと生まれ変わらせました。
おふたりが座る席も、捨てると言われていたベンチを直し、お花もフラワーサイクリスト(株式会社RIN / 河島春佳さん)とのコラボレーションで、廃棄されてしまうはずだったお花を使用。意義を体現するためにチームで実現させた結婚式でした。
──実際につくってみて、いかがでしたか。
五味 : とても喜んでいただけて、チーム一同で胸を張れる結婚式になりました。
おふたりに限らず「できるだけ環境や人に優しいモノを使いたい」「1回だけで使い捨てるよりは長く使える方がいい」と思っていても、なかなか難しかったり、「環境問題って、いくら自分ひとりで取り組んでいても意味があるのかな」と感じることもあるかと思います。
しかし今回、「捨てられてしまうはずだったものだけでつくった」という意思が込められているからこそ、「私たちこういう考えを持っていて、だから、この結婚式を挙げたんです」と、これからの人生でおふたりがより自信を持って言える──そのような仕事ができて嬉しかったです。
一番根本にある「おふたりの人生を飾る」というのは、ひとりでは実現し得なかったことを、「パートナーとなら、仲間となら、実現できる」と実体験を持っておふたりが確信することだと、私は信じています。
※今回ご紹介した結婚式について、新婦さん執筆のnoteはこちら。ご本人たちの想いがご本人たちの言葉で綴られ、当日の写真や動画も紹介されており、とても素敵な記事です。ぜひあわせてお楽しみください。
おふたりの想いがなければ、全ては廃棄されていて見ることができなかった景色。
装飾のご提案時に装飾に込めた思いをストーリーにしてお渡ししたそうです。
みえるように、気づけるように、つくる人──
最後に、五味さんの「現在の活動」についてもお話を伺いました。
◆
──独立後、どんな活動をされていらっしゃいますか?
五味 : 空間や体験に特化したクリエイティブディレクターとして活動しています。
「人の想い、空間、材料、機会を、どれだけ活かすことができるのか」ということを軸に、シンプルに「応援したい価値観」を存在証明するように、自分のものづくりの力を使いたいと考えています。
ちょうど、6月17日より銀座「UNIQLO TOKYO」にてアートディレクションを担当したディスプレイを展示しています。 先程weddingでご一緒したフラワーサイクリストの方と共に、ロスになったドライフラワーとサンプルで店舗に出ることのない服で装飾を作成しました。9月頃まで展示されているのでお立ち寄りの際は是非ご覧ください。
UNIQLO TOKYO 1階入り口入って正面にアーチ状に広がる装飾。洋服を編むように花を生け、花を生けるように服を使用するというコンセプトで制作したそうです。
空間演出、コミュニケーション、環境問題、衣食住、地域と都市、アートとデザイン。今後も範囲を絞らず、素敵な人や価値観との出会いを大事にしながら、自分にできることを表現していきたいです。
──本日はありがとうございました!引き続き、心から応援しています!
取材後記
以上、五味さんのお話はいかがでしたか?
◆
豊かさとは、「持っている選択肢の幅の広さ」だと考えることもできると思います。
消費社会の中で、ともすると「与えられた選択肢の中でどう選ぶのか」という購買行動にのみ制限させてしまっているように感じる(=思い込んでいる)ことも正直あります。しかし、「自分でも作れる」という選択肢を持っていること自体がとても大切であることを、本気DIYのお話から学ばせていただきました。
五味さんの場合、小さい頃から作ることに慣れ親しみ、仕事でも実際にアウトプットし続けてこられたからこそ、「カタチにできる」という側面は確かにあると思います。
しかし、そこまで本格的に実現できなくても、本質的に大事なのは、「自分がいいと思うものを、自分がちゃんと知ろう」とするプロセスであり、一つ一つの選択に「こだわり」を持つというマインドではないかとも感じました。
◆
新型コロナウイルスのパンデミックの中、どうしても閉塞感や制約を感じやすい今日この頃ですが、ご自身の身の回りの小さなことからでも──たとえば、デスクの上を「自分がいいと思うもの」で揃えてみるとか、ちょっとした家具を「自分の好きな色」に塗ってみるとか──ぜひ実践してみるのはいかがでしょうか?
自分がいいと思う選択を積み重ね、みなさんの人生がより豊かになりますように──
最後までお読みくださりありがとうございました!
※本記事の掲載情報は、2021年6月現在のものです。
五味春佳さん(Creative Director / Artist)
1993年3月東京生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業後、フリーのデザイナーとして活動。2016年株式会社CRAZY入社し、アートディレクターとして100件以上の結婚式の装飾・演出を全て異なる表現で手掛けた。2020年11月独立。イベントやプロモーションなどの空間設計、体験設計、企画、制作、ディレクションの他、事業のブランディングなどを行う。2020.12 銀座UNIQLO TOKYO×ロスフラワーディスプレイ アートディレクション | 2020.6 山川咲Exhibition "Close Contact" 空間設計 | 株式会社moi ロゴ | 無人古本書店 ほん、と店舗デザイン・ロゴ など
あわせて読みたいオススメの記事
#ワークスタイル
地域で、そして全国へ飛び出して駆けまわる。住む人たちのやりたいことを舞台裏で支える下川町役場の現場に密着
#ワークスタイル
なりゆきの未来から、意志ある未来へ。持続可能な社会をつくる、離島・海士町に吹く「新たな風」とは
#ワークスタイル
#ワークスタイル