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#ローカルベンチャー

環境を守ることが競争力につながる!一次産業イノベーション〜ローカルベンチャーリレーピッチvol.5〜

2021.11.02 

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地域課題の最前線にいるローカルベンチャーの担い手たちは、どんな課題に挑み、どんな未来を描いているのでしょうか。

地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021〜地域と企業の共創を考える〜」のDAY3・4として、10月26~27日にローカルベンチャーリレーピッチが開催されました。モデレーターはジャーナリストの浜田敬子さん、DAY4のコメンテーターは日南市マーケティング専門官の田鹿倫基さんです。全国各地の担い手によるリレーピッチの模様を6回の連載でお届けします。

 

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今回のテーマは、「一次産業イノベーション」です。生産者自らが製造・加工や販売にまで取り組む6次化の動きが広がりを見せている他、3Kを脱しカッコいい・新しい働き方や稼げる仕組みづくりを目指すなど、これまでもさまざまな取組が進められてきました。

 

一次産業と言えば、農林業・畜産業・水産業など自然資源を活用した産業体です。一方で自然環境の変化は加速し、日本だけではなく世界中でその影響が表れ始めています。今や一次産業には、いかに豊かな海や山を守り続けるかといった課題も突きつけられているのです。

そんな中、資源の循環やそもそもの環境、そして人との関係性の在り方まで変えていこうという動きが始まっています。資源を切り売りするだけではない、新しい共生の在り方を前提とした環境配慮型一次産業に競争力を見出そうとしている、時代を感じさせる取組みについてご紹介します。(会話文中敬称略)

「木のシアワセ視点」で再構築する、新しい林業のかたちづくり

 

まずは愛媛県久万高原町(くまこうげんちょう)から、久万造林株式会社の井部 健太郎(いべ・けんたろう)さんです。「木のシアワセ」を考えることで人も幸せになることを目指す、「黄金の森プロジェクト」について教えていただきます。

 

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井部さんプロフィール

 

井部 : 黄金の森プロジェクトは、建築用材として山から木を切り出す従来の林業とは全く違う形を目指しています。一番大切な考え方は、自然環境を優先するということです。元気な木が継続的に生えてこなければ、山が50年100年と続いていくことはできません。山が健全な状態であることを前提とした上で、人もなんらかの形で利益を得られればと考えています。

 

そのために大切なことの1つが、樹種の多様性です。スギ・ヒノキだけでなく、本来この地方には様々な木が自生しています。このプロジェクトでは、針葉樹と広葉樹の割合が半分程度になるような山づくりを目指しています。

 

木だけでなく人の多様性も重要です。木も人も幸せになる林業を実現するためには、木材業界の枠を越えてあらゆる分野の人々に、それぞれ違った視点から協力してもらうことが必要となります。多様な人々との関わりの中で、100年続く山を作っていこうというのがこのプロジェクトです。

 

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今は造園屋さんと協力して、自然環境を整えながら人の居場所も作っていくための実証実験を行っています。景観がよくなるよう間伐を進めつつ、人のためのスペースを確保して、「ここで過ごしてみたい」と思えるような森を育てていきたいと思っています。利用料を取って管理費に回せるようになれば、プロジェクトの第一段階はひとまず達成です。

 

情報発信することでいろいろな方に見てもらい、楽しんで、興味をもってもらえるような山を一緒に作っていけたらと考えています。

IoT技術を自然資本の管理に活用。市場から支援される畜産を目指す

 

2人目の登壇者は、GOODGOOD株式会社の野々宮秀樹(ののみや・ひでき)さんです。金融業界から畜産業に転身という異色の経歴をもつ野々宮さんに、IoT技術を活用した畜産について語っていただきました。

 

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野々宮さんプロフィール

 

野々宮 : 元々は大学在学中に起業して金融関係の仕事をしていましたが、5年程前に牧場を取得し、現在は管理放牧で和牛を育てる畜産業に取り組んでいます。日本にいるとあまりピンとこないかもしれませんが、世界的には人口が爆発的に増加しています。こういった状況の中で、日本人として優位性をもって展開できる事業は何かと考えてたどり着いたのが、和牛の遺伝子を活用する畜産業で食料供給していくことでした。

 

家畜から排出される温室効果ガスや資源消費などの問題もあり、肉の消費に対しては様々な意見があると思いますが、肉を食べる層は今後も世界中で一定数存在していくのではないでしょうか。世界の中でも特異な甘みの強い和牛の遺伝子を活用して、富裕層だけではなく貧困層向けにも、おいしい和牛を提供していきたいと考えています。

 

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GOODGOOD株式会社WEBサイトより

 

僕達のやり方で特徴的なのは、自然の力を借りながら、再現性も継続性も高い和牛生産の仕組みを作っていることです。自然の力を借りるというと、これまでは管理しにくいという欠点がありましたが、これに関してはIoTを積極的に活用することで解消しています。例えば牛の首にセンサーをつけてバイタルの記録を取ったり、GPSで位置を把握したりできるんです。異常があればドローンでその個体の動画を取得し、獣医さんがリアルタイムで画像診断するという仕組みも構築中です。

 

テクノロジーを活用しつつ、志をもつ個人や企業のみなさまと力を合わせて、ローカルの自然資本を活かした価値創造ができればと思っています。

課題をチャンスに!海を守りながら収益を生み出す新ビジネス

 

本テーマ最後のスピーカーは、宮城県気仙沼市を拠点とする、株式会社さんりくみらいの藤田純一(ふじた・じゅんいち)さんです。海洋環境を改善しながら、新たな収益も生み出しているビジネスモデルについてご紹介いただきます。

 

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藤田さんプロフィール

 

藤田 : 私は気仙沼でわかめ養殖を中心とした漁師をしています。10年前の大震災によって1度は全てを失いましたが、震災後事業を再開し、2016年に気仙沼市の経営未来塾に参加しました。未来塾の同期2人と2017年に設立したのがさんりくみらいです。

三陸の作り手と食卓を笑顔で結ぶことを理念に、水産業に関わる全ての人がいきいきと生活できる土壌をつくりたいという思いで活動しています。

 

現在、世界では温暖化の影響もあり、「磯焼け」が進行しています。海藻がなくなることで海が酸性化して栄養が減り、魚の産卵場所が失われてしまう現象です。これは大量繁殖したウニの食害により、海藻が育たなくなってしまうことが原因です。その対策として行政が補助金を出し、漁師やダイバーにウニの駆除を依頼していたのですが、駆除したウニは廃棄されており、限りある補助金額では定期的・長期的な活動ができないという課題もありました。

 

このまま海洋環境が悪化すれば、子や孫の世代まで豊かな海を残せなくなってしまいますし、三陸のおいしい海の幸で食べる人を笑顔にしたいという思いも実現できません。そこでこの状況を改善するため、ウニノミクス株式会社というベンチャー企業と一緒に始めたのが、ウニの畜養事業です。これまで廃棄されていた実入りの悪いウニを工場に集め、昆布の養殖で出る切れ端などをペレット状にしたえさを与え、約2ヶ月で出荷できるレベルまで育てます。さらに閉鎖型の施設で海水をろ過し、水温を管理することで通年での流通が可能です。

 

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ウニの実入りを促進して流通させることで、消費者にも漁業者にも喜ばれる新しいビジネスモデルが生まれました。日本や世界の海の環境をよくすることができる事業だと思っています。また、地域の子ども達への海洋教育の場としての可能性や、地元の飲食店と提携したウニ祭、施設見学やウニの殻むき体験といった観光コンテンツにもつながり、この事業を軸として気仙沼に次々と産業が生まれていくかもしれません。夏場に収入が減る漁師にとっても、新たな収入源として期待できる取組だと考えています。

 

今後はウニノミクスを通じてNTT東日本やENEOSホールディングスとも連携し、最新のICTを水温やウニの状態管理に活用する共同実験や、CO2削減事業なども予定しています。収益の一部を地域や海洋環境改善のために還元できる取組にしていきたいです。

一次産業における環境負荷への配慮は、今後世界的な課題に

 

浜田 : 田鹿さんのいらっしゃる日南市も一次産業がさかんですが、登壇者のお話を聞いていかがでしたか?

 

田鹿 : 一次産業では人手不足・後継者不足ということはよく言われていますが、最近指摘されるようになったのが環境資源との兼ね合いです。農林水産業全てに共通して言えることですが、従来のやり方では自然に負荷をかけているという見方も増えてきています。それに対して持続可能性の高い一次産業のあり方を模索するというのは、これから全世界的に取り組んでいかなければならない課題だと思います。

 

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浜田 : 自分達が生きていくための食糧生産だけではなく、資源管理に配慮しながら環境との共存も考えていかなければならないというのは大変な課題ですよね。

 

田鹿 : 資本主義という仕組み自体が、どうしても環境に負荷をかけやすい構造になってしまっています。だからこそ規制をかけて、環境負荷の低いビジネスに転換していこうとしてはいますが、今回ご報告いただいたのはその5歩くらい先を行くような取組です。今やっているのはマネタイズするために環境不可を減らそうというものですが、逆に自然を守ることで経済を生んでいこうというのは本当にすばらしい取組だと感じました。

 

浜田 : テクノロジーを活用している点も共通していました。

 

田鹿 : テクノロジーの進化で、これまでやりたくてもできなかったことが少しずつ実現できるようになってきています。投資に見合うリターンが得られる見通しが立てば、一次産業でもテクノロジーの活用がより加速するのではないでしょうか。

 

浜田 : テクノロジーの分野でも今後ビジネスチャンスがありそうですね。

 

***

 

以上、ローカルベンチャーリレーピッチ5テーマ目の様子をお届けしました。

また現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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