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農業の担い手作りは、まず知ってもらうところから。地域で子育てをしながら、持続可能な農業の仕組み作りを目指す橋本葵さん

2024.09.26 

「農業」と言われると、どのようなイメージが浮かびますか? 消費者としての目線だけだと、高齢化や後継者不足といった農業をとりまく様々な課題は、どこか自分とは遠いものとして感じられるかもしれません。

 

広島県三次(みよし)市を拠点に、ゆるやかなつながりをつくるというアプローチからこうした課題に取り組んでいるのが、今回ご紹介する橋本葵さんです。「農家の嫁」として地域に入り、試行錯誤を繰り返している途上だという橋本さんのストーリーを伺いました。

 

この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

 

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橋本 葵(はしもと あおい)さん

三良(みよし)ファーム / ローカルベンチャーラボ7期生

京都市出身、二児の母。帯広畜産大学を経て広島県の肉牛生産企業に就職。2018年、結婚を機に夫の実家である三次(みよし)市に移住し、夫とその両親と共に和牛繁殖農家として働く。集落の加工所や近隣の農家のお手伝いなど、農業アルバイトに従事する傍ら、農でつながるコミュニティ「ミヨシのミカタ」を運営。2022年からは、農業の担い手が子育てしながら安心して働ける持続可能な仕組みと環境を地域の中でつくりたいと、「三良(みよし)ファーム」として活動している。

note 橋本葵@三良(ミヨシ)ファーム|note

Instagram https://www.instagram.com/triwin.farm/

facebook https://www.facebook.com/triwinfarm/

 

「命をいただく」体験が畜産を志すことにつながった

高校生までは京都市内で暮らしており、農業とはあまり縁がない生活をしていたという橋本さん。そういった状況下で畜産系の大学へ進学したのは、幼少期の経験が根幹にあるそうです。

 

「小学校のとき、京都市青少年科学センターにひよこが卵から孵化(ふか)する様子を観察できるコーナーがあったんです。孵卵器に置かれた卵からひよこが出てくる瞬間を目の当たりにして、生命の誕生に感動したというよりも、『かわいい!ペットにしたい!』という気持ちの方が強くて、3羽のひよこを飼い始めました。

 

でもそれがあっという間に鶏になってしまって、そのうち2羽のオスがしょっちゅうケンカをするようになりました。どうしようかと思っていたある日、母が突然鶏の足に紐をかけて絞め始めたんです。それでクリスマスのチキンとして食卓に上がって食べることになったんですけど、これがまたおいしくなくて……。

 

ペットとして飼っていただけなので当然と言えば当然なんですけど、そのとき初めておいしいものにはちゃんと理由があるんだと気付きました。命としていただいているのにおいしくなかったというのは本当にショックで、おいしいと思えるものを食卓に届けるために必要なことを学びたいと、畜産を志すようになりました。

 

母も鶏を絞めた経験はなかったと思うんですけど、チャレンジャーだったのでそういうチャレンジ精神は受け継いでいるかもしれませんね」

 

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堆肥を運ぶのも畜産農家の仕事の1つ

子育ても仕事と地続きでがんばれる、農家という働き方

帯広畜産大学卒業後は、広島県福山市で肉牛の飼育、加工、販売まで手がける株式会社なかやま牧場に就職。その後、職場の同僚だった夫の実家がある広島県三次市に、結婚を機に移住しました。

 

「夫の実家が和牛繁殖農家をしていたので、家業を手伝うかたちで一緒に働くようになりました。合同会社井田川ファーム橋本という、法人化もしている比較的規模が大きい農家です。私が嫁いできたときは40頭程の親牛がいて、私達夫婦と夫の両親の他にパートの方も雇っていたので、人手が余るときもありました。

 

それで、周辺の農家のお仕事にお誘いいただいたり、集落にある加工所で働かせていただいたり、『農家の嫁』として自然と根付かせていただきました。

 

この辺りはぶどうの栽培も盛んで、季節によっていろいろなお仕事を体験できるのはすごく楽しかったですね。子育てを始めたのも同時期なんですが、私自身だけでなく子どものことも知ってくださっているので、目の届くところで子どもを遊ばせながら作業したり、思いやりある働き方ができます。

 

家族だけに閉じることなく、仕事を通じていろいろな方とお話しできるところも、暮らしやすいなと感じています。私にとっては、仕事も子育ても一緒にがんばれる環境なんです」

 

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加工所で地域の女性グループのみなさんと。マーマレードや味噌に使う柚子の下処理中

 

こういった働き方がもっと広まればと始めたのが、農でつながるコミュニティ「ミヨシのミカタ」の運営です。地域内のコミュニティづくりを重視しており、三次市内を中心として、人づての紹介をベースに現在のメンバーは45人程。LINEのオープンチャットを活用した情報共有を行っています。

 

「『ミヨシのミカタ』は、いろんな人といろんなことをやっていきたいと思って始めました。農家さんだけではなく、消費者や家庭菜園をがんばりたいという方など、地域の人なら誰でも参加OKの幅広いコミュニティです」

 

「ミヨシのミカタ」の運営をベースに、農業の担い手が子育てをしながら、安心して働ける持続可能な仕組みと環境を地域の中につくっていくのが、橋本さんが主催する「三良(みよし)ファーム」の活動です。親子での農業体験プログラムの企画や、「農でつながるフェス」の開催など、様々な活動を行っています。

 

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実家の井田川ファーム橋本で開催した、親子での牧場体験会の様子

農業へのマイナスイメージを変えていくために。ゆるやかなコミュニティ作りが第一歩

当初は農家の人手不足解消のために若い世代を巻き込んでいきたいと考えていた橋本さんですが、三良ファームがメインターゲットとしている、子育て世帯のニーズとバランスをとるのが難しかったと振り返ります。

 

「私の世代にとって、農業は稼げない、大変そうというイメージが強いようで、働き手として巻き込んでいくのはハードルが高いと感じました。一方で自分自身は農業を体験したことがないという人や、食育の一環として子どもに農業を体験させたいという親御さんはすごく多かったんです。

 

子育て世帯のニーズに寄り添うと、働き手がほしいという農家のニーズに応えることは難しくなってしまいます。その点は悩んだのですが、同世代の方が話しやすいですし、気持ちがわかりやすいという側面がありました。子育て世帯のニーズに合わせる方がうまく事が進みそうだと感じたので、現在は食育にプラスして農業に関する知識や体験を提供することで、親子で『共に』学び豊かさを『育む』、『食農共育』に力を入れています。

 

これまでつながりのなかった人達が農と関わる機会をつくることで、結果として地域の農業のためにできることも増えていくと考えています。三良ファームの活動は、近隣の農家さんも『若い人が頑張ってるな』と見守ってくれている印象です」

 

また、自身も農業の担い手として働き、農業に関心のあるゆるいコミュニティづくりを仕掛けることが、様々な年代や立場の人と対話をするきっかけになっているといいます。

 

「農業というのは、幅広い年代に刺さる、多くの人が親身になってお話ししてくれるきっかけになるようなキーワードだと感じています。アルバイトという立場ではありますが、農業者として関わることで農家の方と対等に話せる機会が増えて、これまであまり関わりがなかった年配の男性とも普通にお話しできるようになってきました。

 

三良ファームの活動を通じて同世代と話す機会も増えましたし、幅広い年代の方との対話を通じて、地域としてどんな未来を作りたいか、少しずつみなさんと描けているように感じます」

数々の起業支援プログラムへの参加で広がる、視野とつながり

「三良ファーム」がまだ形になっていなかった2021年末、橋本さんはアシスタlab.という三次市の女性活躍推進プラットフォームを訪れます。これを機に、「ひろしま『ひと・夢』未来塾」や「ひろしまCamps-アクセラレーションプログラム-」といった県が主催する起業支援プログラムに次々と参加し、思いや事業案を固めていきました。

 

「本当に思いだけをもって参加したのですが、県という規模感で、普段は接点のない方々と出会う機会をもてたのは大きかったですし、たくさんの人と話をして勇気をもらえました」

 

そのような中で、もっと全国で活動している人達とつながりたいと参加したのが、「ローカルベンチャーラボ」(以下LVラボ)でした。

 

「自分がどうしたいかだけではなく、地域として何が必要か、どうなってほしいかという視点で話せる人に出会えたらと参加しました。職業柄なかなか家を空けられないのですが、特にフィールドワークに関心があったので、参加できる機会があったのはありがたかったです」

 

橋本さんは昨年の岡山県西粟倉村へのフィールドワークの他、今年も修了生として島根県雲南市でのフィールドワークに参加されています。

 

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島根県雲南市フィールドワークでは、LVラボ修了生の事業も取材。前列左から3人目が橋本さん

 

「LVラボのフィールドワークのいいところは、1泊2日程度の短期間で地域の様々なプレイヤーから事業や地域づくりについてのお話を聞かせていただけるところです。関係性のない中単身で行っても、こんなに効率的にはいかないと思います。

 

本も出ているくらいローカルベンチャー先進地として有名な西粟倉村では、実際に関係者の方からお話を聞いて、現場を自分の目で見てというのがとても勉強になりました。特に地域として百年の森林構想というビジョンを打ち出しているのは衝撃的でしたね。

 

とはいえ、どの地域でもできるかと言われるとそれは難しい。その点、雲南市は規模感も三次市と近く、自分の地域でも取り入れることができそうだなと感じる部分が多くありました。フィールドワークを通じて三次では何ができるのか改めて深く考えたのですが、2つの地域を訪問できたからこそ、モデルを見つけられた気がします」

 

LVラボのプログラムの一環として実施されたフィールドワーク以外にも、橋本さんは同期生の馬場美帆(ばば みほ)さんが島根県江津(ごうつ)市で実施している「SPRING SCHOOLつくしんぼう」に、三次市のママ友を誘って親子で参加されています。子ども達が自然体で自分らしくいられる場づくりを体感することで、多くの学びがあったようです。

 

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SPRING SCHOOL つくしんぼうの様子。産まれたばかりの馬場さんの赤ちゃんをみんなで見守る一幕も

 

「LVラボはメンターのみなさんがすごいというのはもちろんですが、同期とも切磋琢磨できる関係です。同期生の視座が高いので、目線そのものが勉強になりますね。つながりができたことがありがたいです」

挑戦することで見えてくる新たなビジョン。農を通じて地域に幸せと豊かさを育みたい

最後に、今後の展望についてお伺いしました。

 

「今年の1月に開催した『農でつながるフェス』(以下農フェス)は、『百姓の百の声』というドキュメンタリー映画を上映したり、私と同じように子育てをしながら農業をされている女性達とのトークショーをやったりと、私にとってはこれまでにない大規模なイベントだったのですが、幅広く農業に関わる可能性が見えたように思います。

 

農フェスを主催したことで、全体の構成やチラシづくり、企画など、農業分野以外の方にも役割分担をお願いできるような関わりしろがあるなと気付けました。『ミヨシのミカタ』に参加されている方をスタッフとして巻き込むことができたので、コミュニティ内の交流にもなりました。

 

農家さんからも『手伝うから言ってね!』、『もっとこういうことをやってみたい』というお声がけをいただいて、広がりを感じました。

 

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三良ファームが目指すビジョン

 

「三良ファームの活動は、今後も食農共育を中心とした事業に育てていきたいです。このイラストの周りに書いてあるのがまさに私のやりたいことですね。様々な立場の人をつないで、農業に誇りを持って楽しむ地域の人の背中を見せていくことで、持続可能な仕組みをつくっていけたらと思っています」

 


橋本さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3~4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

 

ローカルベンチャーラボ公式サイト

>> https://localventures.jp/localventurelab

X(旧Twitter)

>> https://twitter.com/LvSummit2020

Facebook

>> https://www.facebook.com/localventurelab

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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