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「儲かったらESG」では遅い。持続可能な社会で企業と地域に求められるパートナーシップとは

2021.11.22 

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地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021」が、10月19日から11月5日にかけて断続的に5日間、開催されました。本記事では、その初日に行われたセッション、「ESG経営と地方創生 ~企業・自治体・ローカルベンチャーのこれからの進化」より、株式会社エンパブリック代表、広石拓司氏による話題提供部分を抄録してお届けします。

 

SDGsやESG、カーボンニュートラル、DX化などの世界の潮流の中で、企業が地域課題と向き合うことの意味とは何か?本フォーラム主催者「ローカルベンチャー協議会」にも立ち上げ当初から関わってきた広石氏は、世界的なビジネス環境の変化、その下での企業と地域の関係の変容について、わかりやすくまとめてくださいました。

 

広石拓司(ひろいしたくじ)

広石拓司氏/株式会社エンパブリック 代表取締役

東京大学大学院薬学系修士課程修了。シンクタンク、NPO法人ETIC.を経て、2008年株式会社エンパブリックを創業。「思いのある誰もが動き出せ、新しい仕事を生み出せる社会」を目指し、ソーシャル・プロジェクト・プロデューサーとして、地域・企業・行政など多様な主体の協働による社会課題解決型事業の企画・立ち上げ・担い手育成・実行支援に多数携わる。近著に「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ ~ ~ 持続可能な世界に向けて好循環を生み出す人のあり方・学び方・働き方」。東京都生涯学習審議会委員、慶應義塾大学総合政策学部、立教大学大学院などの非常勤講師も務める。

「世界の潮流からローカルイノベーションを考える」

 

私は20年以上、社会起業家育成に携わってきた。「思いのある誰もが新しい仕事を作り出せる社会へ」というビジョンを掲げるエンパブリックは、「地域・組織の人が、周りの人たちと新しい仕事を作り出すプロセス」を「エンパブリックサイクル」と呼び、それぞれのステージの場づくりや必要なツールを提供している。

 

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社会課題の解決に対していくら強い「思い」を持っていても、一人ではなかなかうまくいかない。周囲と問いを分かち合い、仲間を作り、仕事を創出する。それによって社会に変化が生まれ、さらに新たなアイデア・動きにつながる。そういうサイクルを回しながら個人と地域コミュニティの相乗効果を生むことが大切だ。

 

SDGsやESG経営についても同様に、これまで行政と民間、都市と地方、一般ビジネスとソーシャルビジネスなど、それぞれに進めてきたものを、分野を超えて共有し、関係性をつくる。そこから新しい事業が生まれ、新たな価値が生まれ、それを定着させていこうというステージに入りつつあると思う。

 

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ご存じのように、SDGsの目標年は2030年。パリ協定で採択されたCO2排出ゼロの目標年は2050年。そうした大きな目標に向かって私たちはいま、持続可能性においてもデジタルにおいても、大きな変化の時代を迎えている(SX:サステナビリティ・トランスフォーメーション、DX:デジタル・トランスフォーメーション)。単に「社会や環境に良いことをしよう」というのは20世紀型パラダイムの発想だ。目指すべき新しいパラダイムでは、持続可能性もデジタルも経済社会構造そのものに深く組み込まれていなければならない。

 

例えれば、20世紀型は芋虫だ。芋虫は自分が成長するために周囲の植物を食い散らかし、ダメージを与えながら大きくなる。でもひとたび蝶になれば、こんどは授粉を手伝うことで植物の繁栄に寄与する。いまはちょうどサナギの時期で、2つのパラダイムが混在し、分断と混乱が起きている。

 

さらに世界はいま、気候変動、食料危機、森林破壊、水問題、感染症、貧困、差別・偏見、等々、多くの危機を抱え、不安定さを増している。この状況下、企業の在り方、経済と環境・社会の関係も根本から変わってきている。

 

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20世紀の考え方では、企業(経済)と社会・環境は切り離されていた。企業にとって社会や環境は「外部」であり、行政やNGOがケアする領域だった。経済学に「外部不経済」という言葉があるが、これは企業の経済活動が「外部」に不利益をもたらすことを言う(公害などが代表例)。こうやって企業は社会や環境に負荷を与えているから、ちゃんと社会貢献しようというのがCSRという考え方だった。「貢献」という時点で、すでに内と外が別物になってしまっているのだ。

 

それに対してこれからの経済は、SDGsの概念を表わす、いわゆる「ウェディングケーキモデル」に象徴される。自然界がいちばん底辺にあり、その上に社会が築かれ、さらにその上に経済が乗っている。感染症パンデミックや気候変動による水害多発など、自然界のできごとによって社会基盤が揺るげば、経済活動も成り立たない。経済活動自体が環境・社会に深く組み込まれている。考えてみれば当たり前のことで、昔からそうだったのだが、いま改めて認識する必要があるということだ。

 

こうした変化の中で企業が信頼を勝ち得るには何が必要か。それを下表にまとめた。

 

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これがとりもなおさずESG経営である。

Environment:環境保護のために〇〇をする、のではなく自らの環境との関わり方を考える。

Social inclusion:人間を中心において社会をデザインし直す。だれひとり取り残さない。

Governance:そのための目標を明確に定め、嘘をつかず、確実に実行する。

 

問われているのは、いま自分たちはどこにいてどこへ向かおうとしているのか(パーパス)であり、対話を通して周囲との関係をどう強化していくのか(エンゲージメント)だ。

パラダイムシフトでは「問い」そのものが変化

 

過渡期にあって混沌としている現在、古いパラダイムから新しいパラダイムへ、いつどこで「ジャンプ」するのかが問題だ。お金が儲かったらESGをやる、のでは遅い。どんな未来を考え、その未来で自分たちはどう役に立つ存在になるのか(パーパスの明確化)。これから縮小する市場と成長する市場、リスクと機会とどう向き合うのか。TCFD(気候関連情報開示)やRE100(再エネ100%)などの長期目標設定も大切だが、宣言することよりも、企業の「あり方」が問われている。

 

このとき、「問い」自体が変わっていることに留意したい。例えば、ハイブリッドカーから電気自動車(EV)へのシフトは、単なるパワーグリッドの変化に止まらない。ハイブリッドは、いかにガソリンの燃費を向上させて環境負荷を低くするか。それに対して、バッテリーとしても使えるEVは、家庭用蓄電池への応用も含めて脱炭素社会システムに深く組み込まれたツールとなりうる。実際、(EVメーカーとして知られる)テスラ社は、自らを自動車会社ではなく、脱炭素型社会システムをデザインする会社と位置付けている。

 

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もうひとつ、プラスチックごみの問題を考えてみよう。脱ペットボトルという場合、これまでは環境への配慮から、「不便でも水筒をつかうべき」という節制主義の考え方。だから、エコな暮らしは「意識の高い人」がやるものだった。しかし今後は、どこでも給水できて「ペットボトルなしで暮らせるのが普通」の経済社会システムへ移行していくだろう。そのなかで、企業も自社の飲料提供方法をリデザインしていく。

 

企業の中には、すでに「環境負荷の低減」からその先の「自然再生(regenerate)」に向かっているところもある。例えば、米国のタイル・カーペット製造会社Interface社は、1994年に「ミッション・ゼロ」という目標を掲げた。廃棄物をゼロにし、資源循環のループを完全に閉じ、再エネを進めるなどして、2020年までに環境負荷をゼロにする目標だ。これを2019年に達成したあと、同社は「ゼロの先」へ向かっている。すなわち、CO2を出さないだけでなく、それをビジネス資源としてどう活かすか。森林の再生を通じてカーボンネガティブ(吸収・定着)をどう拡大するか。工場自体を変革して気候変動対策の進歩の力とし、次の産業革命をリードすると謳っている。

企業と地方はビジョンの共有を

 

これまで見てきたように、いまビジネスを取り巻くマクロ環境は大転換期にあるが、変化の方向性はすでに見えている。起きてから対応する(react)のではなく先んじて動く(proact)姿勢が大切だ。

 

そこで企業に求められるのは、自らの役割を具体化しつつ、そのビジョンを地域と共有し、新しい社会を共に創っていくという視点だ。新事業開発においては、リビングラボ(ユーザーや市民も参加して研究実証を進める)という手法が重要性を増す。同時に、地域の側では新しい経済社会システムが求めること――再エネの調達のしやすさ、資源循環(サーキュラーエコノミー)や地産地消の充実度など――にどれだけ速やかに対応できるかも問われる。

 

この流れでは、地域と企業の関係の強化、すなわち地域と企業が同じ目標を持ち、一緒に価値をつくりあげていくことが重要になる。地域の側から言えば、国や企業よりも先んじて動けることが(企業から)選ばれる地域となるポイントだ。

 

20世紀の価値観とこれからの社会における価値観を、下記のようなキーワードで比較した。

 

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持続可能な社会の前提にあるこれらの価値観は、都市部よりも地方部(ローカル)のほうが実現しやすい。ローカルでは以前からこうした価値が大切にされてきたのだが、20世紀型の価値を引きずるビジネス界はそれを「お金にならない」といって無視するか、あるいは、みんなが東京のようになるべきと考えていた。しかし今後は、お金は共感できることに使いたいと考える価値観が浸透し、ローカルが見直されていくだろう。

 

そのなかで企業と地域はどう向き合い、パートナーシップを形成していくのかがテーマになっていく。そこで成功するには、早く始めて小さい失敗をいくつも経験することだ。その方が速く、たくさん学べる。2030年のSDGs達成、その先の社会における「普通」へ向かって、変化の後追いではなく自ら一歩先へいく姿勢が、企業にも地域にも問われている。

 

*****

 

<質疑応答>

―― 日本のローカルが有する資源に、地域の人自身が気づかないことも多い。

地域の資源や産業を本当に守りたいのはだれかと考えると、それは自治体や住民よりも、むしろ事業体かもしれない。おそらく、森を守ろうといちばん真剣に考えているのは林業会社ではないか。その意味で、企業によって地域の価値が再発見されていくといい。

 

―― 企業側の課題は何か?

これからの企業は、サプライチェーン全体に責任を問われるようになる。これまでは「信頼できるメーカーから仕入れています」でよかったのが、原材料の生産方法や産地の状況、さらに自社が排出するゴミがどう処理されるかまで、チェーン全体に責任を持たなければならない。そのためには関わる全員の顔が見える関係づくりが必要で、それをどうグローバルに構築するかが問われる時代だ。同時に、もっと身近にある地域、顔の見えるサプライヤーとの関係性をあらためて考え直すことも大事になってくる。

 

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com