現代の日本は、ストレス社会だと言われます。
なぜ、お金や仕事がストレスの原因となってしまうのか。これらとどう付き合えば、わたしたちは幸せに近づくことができるのか……。そんな疑問から、それぞれ仙台と鎌倉を拠点に“いい会社”を増やすことに取り組む、一般社団法人MAKOTOの竹井智宏さん、鎌倉投信株式会社の新井和宏さんに、話を聞くことにしました。
2人の対談から見えてきたのは、“地方で働く”“いい会社をふやす”“幸せのものさしを見つける”といったことが、仕事を通して幸せになるための鍵になる、ということ。そんな対談の内容を、5回に分けてお届けします。
最終回となる第5回は、“人生の有限性”についてです。
※これまでの記事も合わせてご覧ください。
- “いい会社”の条件とは?-鎌倉投信新井和宏さん×MAKOTO竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」vol.1-
- “幸せのものさし”を見つけよう-鎌倉投信新井和宏さん×MAKOTO竹井智宏さん対談 「会社と地方の幸福論」vol.2-
- 地方で“いい会社“が生まれる理由-鎌倉投信新井和宏さん×MAKOTO竹井智宏さん対談 「会社と地方の幸福論」vol.3-
- 地方はゆたかで、めんどくさい-鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談 「会社と地方の幸福論」vol.4 -
一般社団法人MAKOTO 代表理事
1974年生まれ。東北大学生命科学研究科博士課程卒。仙台のベンチャーキャピタルにて、ベンチャー企業への投資に従事していた際に東日本大震災が発生。震災後の2011年7月に一般社団法人MAKOTOを設立し独立。日本初の再チャレンジ特化型ファンド「福活ファンド」を組成し、起業家の投資育成活動を展開。2015年、日本ベンチャーキャピタル協会より「地方創生賞」を受賞。起業家育成の環境作りにも力を入れ、東北最大のコワーキングスペース「cocolin」を仙台市内で運営。東北随一のクラウドファンディングサービス「CHALLENGE STAR(チャレンジスター)」も展開。2016年、日本財団「ソーシャルイノベーター支援制度」によりソーシャルイノベーターに選出。東北大学特任准教授(客員)。
鎌倉投信株式会社創業者・取締役資産運用部長・「結い2101」運用責任者
1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。現・三井住友信託銀行、ブラックロック・ジャパンに在籍し、ファンドマネージャーとして数兆円を運用する。2007年、大病を患ったこと、リーマン・ショックをきっかけに、10年近く信奉してきた金融市場・投資のあり方に疑問を持つ。2008年、同志と、鎌倉投信株式会社を創業、以降投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍。経済性だけでなく社会性も重視する投資哲学の下、「結い2101」は、個人投資家1万6千人以上、純資産総額240億円超(2016年10月時点)の支持を集め、2013年には第3者評価機関の最優秀ファンド賞も獲得。特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」理事も務める。
ドロップアウトすると、自分の価値観に気付ける
竹井:偏差値や給料といった数字のみを追う価値観から脱却するためには、ドロップアウトする経験がけっこう大事なんじゃないかなと思うんです。
わたしの場合、大学受験で浪人したことが大きかった。もしストレートで大学に入って、どこかに就職していたら、たぶんレールからはみ出すのが怖くなっていたと思うんですよね。でも一度ドロップアウトしたことによって、社会に押しつけられていた価値観ではなく、自分の価値観と向き合い始めたんです。
新井:ええ。ドロップアウトして逃げられない状態になると、人は変われるし、成長しますからね。その意味で、地方に移住するっていうのはいいことなんじゃないかなと思います。自分ひとりで知らない土地に住むことで、考えるんですよ。「ああ、自分ってなんなんだろう」って。だから、自分の価値観をもう1回見直す機会になるんです。
名刺に頼らない人生に転換するために
新井:僕も起業したときに思いましたけど、それまでは“名刺に人が付いてくる”状況だったんですよ。
--どういうことでしょうか。
新井:つまり、僕が何兆円とお金を動かしているから、その僕の”名刺”に人が付いていたわけであって、その人たちは僕自身には興味がなかったんです。起業した今、その人たちとは二度と会うことはないですね。
だからそうした関係性から早い段階で抜けださないと、残念なことが起こるんですよ。リタイアしてその名刺を持たなくなった瞬間、自分の価値が見いだせなくなる。
--誰も周りにいなくなって。
新井:そうです。人はその名刺に付いてきていただけですからね。名刺がなくなった瞬間に、「誰があいつなんか相手にするんだ」ってなりますから。
竹井:一生は一度しかないから、名刺の肩書きに頼る人生じゃなくて、自分の人生を歩んでほしいですよね。たとえ収入が減ろうと、苦しい経験をしようと、本人の価値観に沿っていれば全然いいと思うんです。でも、そのような生き方に思い切って転換できる人は、まだまだ多くはありませんね。
新井:できればその転換は早いほうがいいと思います。家族を持つと、転換はつらくなるから。一人だったら自由ですからね。だから、若い人たちには早い段階で自分の価値観に気付いて欲しい。たくさん稼ぎたいとか、日本で一番になってみたいと思う人は、やってみたらいいですよ。やって「これは自分の価値観ではなかったな」と気付くことができるかもしれない。ただ、できればやらないうちに気付いてほしいですね。先に生まれた人間として、若い人には自分の価値観に早く気付くことの大切さを少しでも伝えたいと思っています。
“人生の有限性”と向き合うと、生き方が変わる
竹井:自分の価値観への気付きって、“人生の有限性”に向き合ったときに起こると思うんですよね。起業家と話すと、多くの人が自分が大病を患ったり、身近な人が亡くなったりといった経験をしている方が多いんですよ。
人生の有限性、つまり死と直面した時に、「あぁ、人生って永遠じゃないんだ」と気付いてしまって、「どうしたら、明日人生が終わっても悔いなく生きられるんだろう」と考え出すんです。
新井:「人生は有限である」という感覚が生まれると、
--東日本大震災は、多くの方にとって”人生の有限性”に気付くきっかけになったのではと思います。
竹井:そうですね。だからこそ東北では、震災の後に起業する人が増えた。地域で頑張るのは、やっぱり「自分も一歩間違えたら死んでいたかもしれない」という思いが背景となっていることがあるんですよね。だからこそ、生かされた命を何に使おうかと考えて、起業に至る人が多いんじゃないでしょうか。
新井:“人生の有限性”の感覚があると、くだらないことはやらないです。
竹井:えぇ、ほんとに。くだらないプランは出てこない。
新井:そうなりますよね。だから、“人生の有限性”に早い段階で気付くのは非常に難しいことなのかもしれないけれども、気付けるタイミングがあれば早く気付いて、行動したほうがいい。それが、自分の幸福に近づく方法なのではないでしょうか。
==========
5回にわたってお届けしてきた、会社と地方の幸福論。出発点となったのは、「なぜ、お金や仕事がストレスの原因となってしまうのか。これらとどう付き合えば、わたしたちは幸せに近づくことができるのか」という疑問でした。
新井さんと竹井さんの対談から見えてきたのは、お金を多く稼いだり、より有名な会社に入社したりといった価値観に自分を合わせるのではなく、自分自身の価値観と向き合い、行動することが、幸福につながるのではないか、ということでした。
そう考えると、勤める会社は必ずしも大企業でなくてもいいかもしれません。住む地域は必ずしも東京のような大都市でなくてもいいかもしれません。もしお金や仕事がストレスの原因になってしまっていたら、自分にとって大切にしたい価値観は何なのか、それを実現できる会社や地域はどこにあるのか、立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
(おわり)
この連載の他の記事はこちら
>> “いい会社”の条件とは?―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.1
>> “幸せのものさし”を見つけよう―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.2
>> 地方で“いい会社”が生まれる理由―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.3
>> 地方はゆたかで、めんどくさい―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.4
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