「多様な人材が協働する社会を創る」をビジョンに掲げる株式会社An-Nahal(アンナハル)。主に企業に向けて、ダイバーシティ&インクルージョン推進のための研修やコンサルティングを展開しています。代表取締役社長の品川優さんは、平成生まれの31歳。ミレニアル世代の目線から、今の日本のダイバーシティの課題やこれからの展望について伺いました。
品川優さん
2019年企業のダイバーシティ&インクルージョン推進を人材・組織開発の面から支援する株式会社An-Nahalを設立。 創業前はグローバル人材育成分野における制度・研修の設計、新規事業開発、フリーランスコンサルタントとして世界銀行や国際機関との教育関連プロジェクト、またNPOにて難民申請者の就労支援にも携わる。
世界経済フォーラム(ダボス会議)任命のGlobal Shaperとして横浜を拠点に、気候変動、ジェンダー、多文化共生、教育など幅広いテーマでプロジェクトに取り組む。ボストン拠点のフィッシュファミリー財団Japanese Women’s Leadership Initiativeのフェロー。ETIC. 社会起業塾 2020年度NEC社会起業塾生
原点は、「多文化楽しい!」という気持ち
――ダイバーシティへの関心は、何をきっかけに生まれたのですか?
品川さん: 『世界青年の船』という内閣府の国際交流事業に19歳のときに参加したのが、本当に大きな体験でした。国、宗教、言葉、見た目もみんな違いすぎるから、周りの人に合わせる必要がない。自分らしくいるしかないんです。世界各国からきた個性溢れる優秀な若者たちとも出会い、「いろんな国の人と何かを一緒にするのはめちゃくちゃ面白い!多文化楽しい!」と思った最初の経験でした。
『世界青年の船』に参加したときの品川さん(右端)
――「多文化楽しい!」(笑)。でも、海外で働く、という道もあったと思います。起業を選んだのはなぜでしょう?
品川さん : 前職でも近しい事業はしていたのですが、会社の戦略とは合わずこれ以上スケールすることは難しいと感じました。そのタイミングで自分が本当に携わりたい領域やキャリアに向き合いたいと思い独立しました。
1年間フリーランスとして活動していた中で、国連難民高等弁務官駐日事務所(UNHCR)の後援で「R-School(アールスクール)」という未来共創ワークショップを自主開催したんです。日本でも多様性が活かされたコラボレーションの場が作れるんだ、と感動しました。留学や海外で働くことも考えましたが、「こういう場づくりを続けていきたい!」と思ったのが、起業の一番大きな理由です。
押し付けない。ふとした瞬間に見える配慮
――「R-School」のどんな所が、品川さんを突き動かしたのですか?
品川さん : 「R-School」の参加者には、研究者、学生、経営者クリエイター、外国出身の方……本当に幅広くいろんな方がいました。それぞれが持つリソースやアイデアを組み合わせながら、「10年後の新しい仕事」をテーマに、2日間みっちり対話を重ねて。
「R-School」で真剣に対話する参加者たち
この場では、本当に、参加者みんなが違いを活かすことを楽しんでいたんです。
これが日本のスタンダードになったら、どれだけ面白いことが起こるんだろう、とワクワクして。自分自身がそんな環境に身を置きたいし、こういう場は日本にはまだまだ少ない。増やしていきたい!と強く思いました。
――何で「R-School」では、そんな良い化学反応が起きたのでしょうか?
品川さん : 参加者の「心理的安全性」を守れるように、ということは意識していました。押し付けられるというよりは、ふとした瞬間に見えてくるような配慮ができるように、言葉選びや場の設計を考えていました。
――例えば、どんなことですか?
品川さん : 環境面では、ビーガンやハラル対応の食事を用意したり、お祈りのための簡易的な部屋を設けたり。ファシリテーションも、日本語と英語の両方で対応しました。
プログラムの内容面では、工夫した点はたくさんありますが、一つに、「ストーリーテリング」の時間をつくったことがあります。専門性だけではなくて、個人のストーリーに触れ合う時間です。人としての価値観、その背景にある経験、どういう人生を経てきたのか、などを参加者同士で話し合ってもらいました。
――専門性だけじゃない、というのが、興味深いです。
「R-School」には多様な価値観の人たちが集まった
考えを表現できなきゃ、多様性を活かしているとは言えない
――各々の専門性を活かして貢献する、というのは分かりやすいです。でも、個人の価値観やストーリーの共有に焦点を当てたのはなぜですか?
品川さん : そうですね。例えば、女性だから、という理由で女性向けの商品開発にアサインされたとします。「私、全然ピンク好きじゃないし、興味ない」と内心では思いつつ、その場の空気を読んでピンクを推したとしたら、強みを活かしているとは言えないと思うんです。
“多様性”を考えた時に、その場にただ多種多様な人が“いる”ということではなくて……。そこにいる人全員が、自分の意見を言う権利があり、自分の強みや想いを受け容れてもらえることを実感できる状態が大事だと思うので、個人に焦点を当てようと考えました。
――なるほど。
品川さん : 最近では、包摂性を高める一連の取り組みのことを、DEIB(デイブ)って言い方をするんです。DEIBとは、Diversity(ダイバーシティ・多様性)、Equity(イクイティ・公平性)、Inclusion(インクルージョン・包括)、Belonging(ビロンギング・帰属)の頭文字をとったものです。
Diversity(多様性)とは、年齢、性別、民族、宗教……などの一人ひとりの違いを尊重すること。Equity(公平性)とは、一人ひとり異なることを踏まえて、個人に合ったサポートを行うこと。(「平等」と「公平」を分かりやすく描いた、こんなイラストがあります)
Inclusion(包括)とは、誰もがありのままで受け入れら
今の日本では、役員や管理職の女性登用や障害者雇用など目にみえる多様性の確保という施策が多いと思います。それも大事ですが、数を重視するあまり、数値目標が達成したらそれで終わりというケースもある。その人だからできる事や、その人の強みや個性を発揮することが、価値を生み出すプロセスにしっかり貢献する。そういう風になるといいなって思います。
――その人の強みや個性は目に見えない。だから、「人となり」をお互いに分かちあうような、対話の時間が必要なんですね。
日本の課題は、どこにある?
――そんな未来をつくっていく上で、今の日本における一番の課題って何でしょうか?
品川さん : 一番は、自分の言葉で、ダイバーシティの価値や重要性を語れる人が少ないこと。日本の日常だと多様性の価値を感じるような体験を得る場面が少なく、多くの人に伝わりにくいのが現状です。たとえば留学を経験して、「異文化環境って面白いし、日本人以外の人も活躍できるような組織にしたい」と思った人が一人いたとしても、サポートしてくれる人が少ないんですよね。
「大変なんじゃない?」「日本語ネイティブの方がいいんじゃない?」「宗教とか配慮できないかもしれないから、本人がかわいそうじゃない?」「ハードワークだから女性にお願いするのは気の毒じゃない?」とか、悪気なく遠ざけてしまったり……。
ダイバーシティが活かされた環境を知らない人が多いので、ダイバーシティに関して試行錯誤しても未来が明るくなるとなかなか思えないのだと思います。
An-Nahalでのワークショップの様子
――その会話、「あるある」ですね。「似た人同士で集まった方が、コミュニケーションが楽。面倒くさいことをやりたくない」という声が背後にありそうです。そんな人たちに、ダイバーシティの効果をどう説明しますか?
品川さん : ダイバーシティのメリットは、明確にデータとして出ています。分かりやすいところで言えば、いろんな視点を取り込むことで、ひとつの視点では気づけなかった盲点に気づきやすいといったことが挙げられます。
――たしかに。配慮に欠いた発言や制作物で物議を醸す例は、たくさんあります。
品川さん : また、自分と異なる人と働くことは、自己理解につながると思います。自分の得意・不得意は、自分と違う人と働くことで見えてきます。各々の強みにフォーカスしたチームづくりができると、メンバーのモチベーションが高まって結果につながるとされています。
ダイバーシティが活かされるメンバー同士の関係性や、チームのマネージメントがあることが大前提ですが、多様性が高い組織の方が、確実に生産性は高いし、アイデアの幅も広がります。
一人ひとりが、自分の可能性を最大限ひらくために、多様性は不可欠
――品川さんは、ダイバーシティ&インクルージョンが進んだ先に何を見ていますか?
品川さん : 自分が心から「やりたいこと」を実現するためには、ダイバーシティは不可欠です。なぜなら、自分が「気が進まないこと」や「苦手なこと」を楽しんでやる人や得意な人は確実に周りにいて、自分が「やりたいこと」「できること」にフォーカスできる。ダイバーシティは、自分がやりたいことや取り組みたいことに最大限の力を込めるための、環境整備の一つだと思います。
まわりの多様性に寛容になったり、それが生かされる空間をつくったりすることは、結局、自分の夢の実現に近づくんです。だから、特にリーダーの人は、組織が多様性を活かせる状態にないとしたら、本当にもったいないと思います。
An-Nahalのワークショップで対話する様子
若者がダイバーシティに敏感な理由
――コロナ・オリンピックを経て、ダイバーシティに対する世間の空気がガラっと変わったように思います。なぜこのような変化が起きたのだと思いますか?
品川さん : コロナ禍やオリンピック・パラリンピックも大きいですが、社会における価値観が大きく変わっていると思いますね。2000年生まれの人たちが20歳になって社会に出てきて、若者の声がどんどん広がるようになってきたのは大きい。この若い世代が求めているのが、ダイバーシティだと私は思っています。
――若者がダイバーシティに敏感なのは、なぜでしょう?品川さんの個人的な意見で良いので教えてください。
品川さん : 多様な情報に触れて育ってきた、デジタルネイティブであること。また、SNSなどから自分の好きなものを選んだり、見せたい自分を見せるといった「個人」に意識が向いている気がします。個を尊重するという意味でのダイバーシティですね。
あとは、未来は何も分からないということを感じていると思います。高度経済成長の時代ではないし、気候変動の問題もある。明日の未来も保証されていませんし、自分たちが今我慢していたら30年後地球が存在しているかも分からないという状態ですよね。
これからどうなるか分からないから、「今」「自分」にフォーカスする。「今」を一緒に生きる人が健やかでいてほしいし、自分も健やかでいたいと思います。
その上で、私が目指すのはダイバーシティの先にあるインクルージョンやビロンギング。個を尊重するダイバーシティから、相互作用し協働する先に価値が生まれるインクルージョンやビロンギングが土台にある社会を作りたいです。
An-Nahalでのワークショップの様子
――ありがとうございます。最後に、これからどんなことを目指していきたいかを教えてください。
品川さん : 収益モデルとしては、法人企業をクライアントとしているのですが、ダイバーシティ&インクルージョンの実現は一社単体でできることではありません。そのため、多様なセクターやコミュニティを巻き込みながら地域や社会で「多様な人材が活躍する仕組みづくり」をしていきたいです。そのためには、誰もが実践しやすいツールやモデルをつくることが大事だと思っています。
既に拠点のある神奈川・横浜で産官学連携の枠組みにAn-Nahalとして参加していたり、その可能性についていろんな人と考えている段階です。ここから数年はその連携から具体的な成果を出していきたいです。
そうする中で、「この地域では企業・大学・行政が連携して留学生をはじめ多様なキャリア形成が実現できている」とか、留学生にとっても「この地域の大学だと、キャリアを見据えた学生生活が送れる、ロールモデルとなる外国人留学生もいる」と言われるような事例をつくりたいです。
そのために、まずはAn-Nahalは何ができるのかを潜在的なパートナーに知ってもらうことに注力しています。その具体的なアプローチとして、①留学生と社会人のメンタリングプログラムMILEや②ダイバーシティの価値を肌で感じる体験プログラムSHIPを通じて、共感でつながる仲間作りに取り組んでいきたいです。
※本記事は、求人サイト「DRIVEキャリア」に掲載された企業・団体様に、スタッフが取材して執筆しました。
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「ダイバーシティの分野は、今が一番面白いフェーズ」と話す品川さん。株式会社An-nahalでは、ただいま人材募集中です。「社会を変える」手応えを感じながら働いてみたい方、活動に共感した方は、ぜひDRIVEキャリアのこちらの記事をのぞいてみてください。
※品川さんは、2020年度NEC社会起業塾の卒業生です。
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