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このコンテストは勝ち残るだけじゃない。TOKYO STARTUP GATEWAYが今年初めて立ち上げたオンラインコミュニティとは?

2024.12.26 

NPO法人ETIC.(以下、エティック)が運営事務局を務め、東京都が主催する400字から世界を変えるスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY (以下、TSG)」。11回目を迎えた今年のエントリー数は、過去最高の3,317名でした。

 

しかし、一次・二次選考を経てセミファイナリストまで進むのは30名とごく一部です。「せっかく集まったアイデアや一歩踏み出した勇気から、新しい価値を創造したい」。そんな思いをもとに、TSGでは、今年、新しくオンラインコミュニティを開始しました。

 

参加したのは、全国の高校生から30代まで250名以上。では、実際どんな場となっているのか、プログラム担当の一人である関根純(せきね じゅん)、コミュニティマネージャーの大坪洋祐(おおつぼ ようすけ)、参加者3名にお話を聞きました。

TSG応募者の全員が次のステージへ進める「機会」と「土壌」をつくりたい

TSGオンラインコミュニティにつながる問いが生まれたのは3年前。TSGがコンテストとして成長を遂げる中、「新しい可能性を形にしたかった」と関根は振り返ります。

 

関根純 (プログラム担当の一人)

 

「コンテストの審査を通過していく参加者は、決勝大会までに各種プログラムに参加し、ブラッシュアップの機会を得ます。また、参加者たちにとって、TSGの場は、会場へと足を運ぶことで『相互に支援し合う仲間』や『事業を後押しする応援団』など、起業に関するつながりを得る機会にもなっています。そんな中、TSGをより進化させるために向き合ったのは、コンテストの通過や不通過に関係なく、すべての人が、次のステップへと進める『機会』と『土壌』をつくるには? という問いでした」

 

「もっと応募者全員の可能性をひらく方法があるはず。どうすれば形にできるのか」。こう模索していた運営側にとって、オンラインコミュニティをつくるヒントとなったのが、TSGや起業家との仕事を通して、関根自身が得た一つの気づきでした。

 

「一般的に起業というと、ビジョンを実現するためにはお金や特別な環境が必要で、これらがないと事業化のプロセスを進めることができないと、無意識に捉える人が多いように思います。

 

しかし、必ずしもそうではないと思っています。そのことをTSGのOBOGや起業家の皆さんが確信させてくれました。

 

僕は、最初は何も持ち得ていなかったところからスタートした人が、その後、必ずしもお金を介してではなく、自ら起こしたアクションの積み重ねによって、事業をつくるために必要な資源や機会を得ていく様子を目にしました。何かをつくり上げていくのに必要なリソースは社会に存在していて、『共感』や『信頼』などから生まれる『応援』や『共創』をベースとしながら、パートナーシップを結んでいくことが大切なのだと思います。

 

必ずしもお金を前提とせず、さまざまな人たちのボランタリーな気持ちによる応援を受け、共創関係を築きながら想いを実現していく人たちを見てきたからこそ、TSGエントリー者全員が想いを実現できる可能性があると、よりいっそう強く思うことができます」

 

関根たちがコミュニティづくりで最も重視したのは、「参加者自身から関係性が広がっていくこと。挑戦への火が消えることなく、燃え続ける場であること」でした。

 

「特定の分野に詳しい人や色々な考え方を持つ人たちと、想いや個性を互いに面白がりながらつながり、切磋琢磨していく。そこで生まれた熱気が周囲にも広がっていく。その好循環をどうつくるかが大切だと思いました。TSGでは、コンテストの通過・不通過に関係なく参加できる機会として、ビジネススクール部門を試行錯誤しながら提供していますが、それに加えて現在は、TSGオンラインコミュニティも新設し、コミュニティマネージャーの大坪や参加者たちが中心となって、新しい挑戦の『機会』と『土壌』を醸成しているところです」

参加者が「こうしたい」を声に出せ、行動を起こせる空間づくりを工夫

「僕は参加者の一人として、カルティベーター(文化を耕す人)の役割を意識しながら運営に携わっています」と話すのは、コミュニティマネージャーの大坪洋祐です。TSGオンラインコミュニティでは、現在、コミュニケーションアプリを活用。大坪は、参加者の個性を見つけて紹介し、質問に答え、人や情報とつなげるなど運営全般を担っています。

 

大坪洋祐 (コミュニティマネージャー)

 

「コンテストが終わってもコミュニティは続く」。参加者たちがそう認識でき、安心して発言や行動ができるように、「誰もが動きたいと思ったときにすぐ動ける自由な環境づくり」を試行錯誤してきたと大坪は話します。

 

「最も重視したのは、音声、テキスト、イラスト、写真など得意に合わせてコミュニケーションに参加できる仕掛けづくりです。コミュニティの輪が参加者の間に広がり、挑戦が伝播していくように、誰かが『こうしたい』と発言したときにはすぐ行動できるようなサポートを心掛けています」

 

いくつかあるチャンネルの中でも、日常的に活用する参加者が多い「つぶやきチャンネル」は、予想以上の可能性が感じられる場所となっているそう。

 

「今日も頑張った」、「疲れたからもう寝よう」といった小さなつぶやき、やりとりが、誰かの「明日も頑張る」エネルギーの源になっているとのこと。さらには、起業に有効な情報や支援につながることもあると言います。「TSGオンラインコミュニティは、印象的なエピソードばかりなんです」と、大坪は笑顔を見せます。

 

大坪が最もうれしそうに語ってくれたのが、今年8月下旬にTSGが都内で開催した、一次選考の通過者たちが集う「FIRST STAGE GATHERING」での出来事です。

 

「当日は、先着50名がアイデアを発表できる場がありました。でも、台風の影響で交通機関が一部止まり、会場に行けなくなった人たちがいたんです。そんな状況に対して、オンラインコミュニティの参加者から『オンラインでプレゼン大会をしよう』と呼びかけがあり、その後はスピーディに準備が進み、参加者たちが自主的に開催する形で1週間後に実現しました。

 

ハプニングもありましたが(笑)、遠方の方、小さなお子さんがいる方など、会場に行きたくても行けなかった方たちも参加できて、そのときは大きな価値を生んだと思いました。今後も、選考の結果に関係なくみんなが盛り上がれる場所づくりが必要だと思っています。自分も参加できたらうれしいですね」

3,317名全員がファイナリストだったと信じている。一人ずつ長所が語れるくらい大切な場―くまざわ れなさん(折り紙プロダクション運営)

折り紙で町おこしをする地域の活動に参加したことがきっかけで、「折り紙プロダクション」という起業プランを始めた、くまざわ れなさん。折り紙作家の存在がもっと知られてほしいなど、折り紙の課題感をもとにしたビジネスアイデアで、今年、TSGにエントリーしました。

 

くまざわさん

 

「最初に『全員の自己紹介にコメントをする』とマイルールを決めました。自分の中でも一人ひとりの人柄やアイデアを記憶に残したかったんです。そうして、毎日、全員の自己紹介を読んでコメントをしていたら、誰よりも参加者全員のことに詳しくなりました。誰かの自己紹介を見て、『そういえば、〇〇さんがこんなアイデアを形にしようとされていますよ』と、人と人とをつなげられるようにもなりました。

 

私はみんなのアイデアや生き方を尊敬しています。毎日、自分のためになる新しい発見もありました。全員の挑戦が選考で選ばれないとわかってはいました。でも、一人ひとりの良さを誰よりも知っているから、すごく悔しかった。個人的には応募者全員がファイナリストだと信じています」

行きつけのラーメン屋みたいな場。得意の引き出しを増やすきっかけに―山本 惣大さん(高校生・昆虫観察の道具制作)

SF映画の名シーンを疑似体感できる昆虫観察の道具でTSGにエントリーした高校生の山本 惣大(やまもと そうた)さん。幼児から小学生までを対象にした昆虫教室で講師も任されているそうです。

 

山本さん。子どもたちに観察の面白さを体感してほしいという

 

「高校生が少ないTSGコミュニティは、僕にとって通い詰めるラーメン屋のようで、毎晩、大人の方々と話しています。コミュニティに参加したばかりのとき、大坪さんが僕に質問を重ね、みなさんに紹介してくれたことで、そのうちみなさんから『ツノゼミ』と呼ばれるようにもなりました。

 

それからは、『ツノゼミくんにぴったりのコンテストがあるから応募してみたら?』、『こういう情報があるよ』と、様々な知識を得る機会になっているので助かっています。

 

僕は、バイオミメティクス(生物模倣)の分野がすごく好きで、パイオニアになることを目指しています。今後、この分野に興味を持つ子どもが増えるはずだとも思っていますが、興味を深めるためには観察力が重要です。そのため、子どもたちが楽しみながら観察する力を身につけられる道具を制作中です。これから10年、15年くらいかけて目標を実現したいです」

積極的な発言が、新しい仲間とのプロジェクトにつなげた― 菊池 令二さん(人間関係を円滑にするアプリ開発)

価値観や選択肢の多様化によって人間関係が希薄化しているとSNSアプリを開発し、TSGにエントリーした菊池令二さん。TSGオンラインコミュニティで最も活用しているチャンネルは、「アクションコミュニティ」だそうです。

 

「全員のつぶやきにコメントするうち、気の合う人が現れたのですが、偶然、TSGのリアルイベントでその人と席が隣同士になったんです。普段、オンラインでコミュニケーションしていたからこそ、実際会えたときにもっと仲良くなれることも実感しました。

 

右奥で左腕を上げているのが菊池さん。オンラインとリアル、両方のよさを実感したと話す

 

また、オンラインコミュニティでは、自分の名前と顔をみんなが覚えてくれるようになって、「一緒に何かやりませんか?」との誘いも増えました。今度、そうやってつながった人と、心拍数を計りながら映画を観るリアルイベントを開催予定です。

 

TSGにエントリーしたSNSアプリでも、心拍数や感情の情報を活かしてコミュニケーションのハードルを下げるサービス作りを試行錯誤していましたが、現在、面白い展開になっています。ちょうど自分が欲しいと思っていた技術を持つ方と出会えたんです。まさに今、コミュニティで、自分と誰かの『やりたいこと』がつながる可能性を感じているところです」

TSGコミュニティは世界を変える

今回、くまざわさんは、TSGオンラインコミュニティを「帰るのが楽しみなシェアハウスのような場所」と表現しました。「みんなの個性が集まったら世界は変わる」とも。山本さんはこう続けます。「『コミュニティがTSGの大きな価値』だと話す人もいます。次に活かせることが多いんです」。

 

くまざわさん(右)と山本さん

 

最後に、菊池さんはTSGに対する課題感にも触れてくれました。

 

「自分の挑戦が前進できているのは、TSGのオンラインとリアルの場、両方あるからだと思っています。これから、応募者全員が自由に参加でき、みんなで応援し合えるコミュニティが広がっていくことを楽しみにしています」

 

菊池さん(左)。TSGを通して知り合った仲間と

 

3年の構想を経て、今年から始まったTSGオンラインコミュニティ。今後も参加者たちと一緒に場をつくりながら進化を遂げていきます。ご注目ください。

 

(追記 2025年1月7日)

2025年1月、TOKYO STARTUP GATEWAYが運営する「TSGビジネススクール」にて起業コミュニティが始動しました。詳細はWEBサイトをご覧ください。

 


 

<参考>

●くまざわ れなさん関連サイト

https://lit.link/RenaKumazawa

●山本 惣大さんプロフィールサイト

https://sites.google.com/view/tunozemi/home

●菊池 令二さんが開発している「希薄化しがちな現代の絆を涵養するためのプラットフォーム」

iOSアプリ : https://apps.apple.com/jp/app/2dimesmiles/id6480381660

Androidアプリ : https://play.google.com/store/apps/details?id=com.twodimesmiles.android

Webサイト : https://2dimesmiles.com/

 


 

TOKYO STARTUP GATEWAY公式サイト

https://tsg.metro.tokyo.lg.jp/

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https://drive.media/search-result?sw=TSG

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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