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世界とつながる人口3800人の東北の町「秋保」。“面白い”大人たちはなぜ集まり、仕掛けを続けるのか

2022.08.26 

「“いい歳”をした大人たちが目をキラキラ輝かせて、面白がりながらいろんな仕掛けをしている」

 

こんな誉め言葉をかけられる小さな町が、今、東北地方で注目を集めています。

 

宮城県仙台市の中心街から南西へ車で30分ほど、温泉や豊かな自然で知られる秋保(あきう)地区。人口約3800人のこのエリアでは、個性の尖ったカフェや工房がオープンするなど若い起業家たちの移住が増え、世界ともつながりを広げようとしています。

 

高齢化で町の賑わいをなくしていた秋保地区が「まちづくりの成功事例」と言われるまでに、一体、何があったのでしょうか。

 

2016年、“面白いまちづくり”が本格化してから、常にその中心で動いてきた株式会社アキウツーリズムファクトリーの千葉大貴(ちば・だいき)さんに、大人たちの熱い仕掛けや今見ている未来をお聞きしました。

 

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千葉大貴さん/株式会社アキウツーリズムファクトリー代表取締役

仙台市出身。2002年、有限会社マイティー千葉重を事業承継。父親が営む1952年創業の酒店をもとに、地域×IT×食を柱にした地域ブランド開発や農産物の販売などを手掛ける。2002年に渡米し、兄とともに日本食の食品製造・販売事業を開始。2008年に経済産業省「にっぽんe物産市 全国地域プロデューサー30社」に選ばれるなど活動を深める。

2011年、東日本大震災発災後、キリン「絆プロジェクト」の運営委員 兼 講師に就任。その後、食と復興をかけあわせた事業で各方面から高い評価を得る。2017年、株式会社アキウツーリズムファクトリー設立、代表取締役に就任。2017年には「サイクルツーリズム」を事業化、2018年、築160年以上の古民家を丁寧に改修した古民家カフェレストラン「アキウ舎」をオープンするほか、秋保地区を中心に地域の魅力を伝える地域プロジェクトを積極的に開発、運営している。

 

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過疎化が進む町のために10人の大人が動いた

 

秋保地区は、年間100万人が訪れると言われる秋保温泉、また「日本の滝百選」にも選出されている秋保大滝など、自然に囲まれた観光スポットで知られています。しかし一方で、人口減少が続き、町から姿を消す店舗が増えるなど課題を抱えていました。

 

「秋保を面白くしよう」。こう切り出した最初のキーパーソンは、10人の大人たちでした。

 

まず一人は、今回お話を伺ったアキウツーリズムファクトリー代表の千葉さんです。生まれも育ちも仙台市の千葉さんは、自身が経営するIT企業で農産物の販売など地域のプロジェクト企画・運営を行うほか、東日本大震災後は地域おこし事業を各地で進めていました。

 

「震災から5年目の2016年を境に、地域のプレイヤーたちの間で『復興を市外の人たちだけに頼るのではなく、自分たちが中心となって盛り上げていこう』という声が上がるようになりました。

 

私自身、仙台市を見直した時、過疎化や人口減少で商店街が消える現状を知るようになったのですが、その最たる地域が秋保地区だったんです。

 

秋保に対する課題感を持ち始めた頃、地元の方から『秋保を盛り上げるために一緒に活動してくれないか』と声をかけてもらい、秋保地区の事業者さんたちと一緒に、数ヶ月に1回、意見交換することを始めました」

 

インバウンドをはじめ宿泊客が伸び悩む現状など、悩みや課題を出し合った結果、秋保地区のために事業者同士が連携しながらプロジェクトを起こす必要性が見えてきました。そうして設立されたのが、千葉さんが代表を務めるアキウツーリズムファクトリーです。

1社では難しいことも、みんなで協力すればできる

 

千葉さんが会社設立を決めた大きな動機の一つとして挙げたのは、現在、アキウツーリズムファクトリーの取締役でもある毛利親房(もうり・ちかふさ)さんの存在です。意見交換を重ねた10人のうちの一人で、千葉さんは毛利さんから熱烈な説得を受けたと話します。

 

「毛利さんは、シアトル出身で、建設会社勤務時代には設計に携わっていました。2015年には、秋保温泉郷の中心部にワイン醸造所『アキウワイナリー』をオープンさせた実績があります。

 

毛利さんは、常に先を見て、秋保地区にとどまらず、東北を盛り上げるために活動してきました。私には、ワイナリーを作る頃から『一緒にイベントをつくろう』など声をかけてくれていましたが、会社設立の話では、とても真剣に私をくどいてくれました。私自身、毛利さんから秋保の課題や未来像を聞くうちに必然的な流れだと受け止めて、代表を引き受けたのです」

 

2016年、10人のメンバーと初めて協働で企画した「サイクルツアー」は、仙台の奥座敷と呼ばれる秋保地区を自転車でまわりながら、町並みの美しさ、歴史、人との出会いを感じるという内容でした。経済効果も生んだことで、観光庁のインバウンド事業としても知られるようになったといいます。

 

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「サイクルツアー」に参加した人たち。子どもから大人まで思い思いにポーズ

 

「秋保地区にある19の町内会からは、『もっとツアーのエリアを広げてほしい』など歓迎の声を受けるようになりました。『何でもサポートするよ』と前向きな声も多くて、サイクルツアーで地元の機運が大きく高まったと感じています。

 

成功の要因は、秋保地区が仙台市の中心部から比較的近いなど地理的な条件もあると思います。

 

ただ、地域の事業者たちが『1社では難しくても、みんなで協力すればできる』ことを実感し、一致団結できたのも大きかったと思います。サイクルツアーは、2018年までの2年間、みんなで力を入れて広げていきました(サイクルツアーは現在、休止中)」

東北の食とお酒を楽しむ「テロワージュ東北」はパリでも開催

 

2016年に始めた「テロワージュ東北」は、毛利さんのアイデアが形になったもの。

 

『テロワージュ』とは“気候風土と人の営み”を表す「terroir -テロワール-」と“食とお酒のペアリング”“結婚”を意味する「mariage  -マリアージュ-」を掛け合わせた造語です。生産者や飲食店、酒造、観光関係者らが連携して東北の酒と食を産地で味わえるツアーや体験プログラム、飲食イベントを定期的に開催しています。

 

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2019年7月には、人のつながりをきっかけに、「ヒューマンレガシー・ダイニング〜テロワージュ東北 in パリ」として、フランス・パリを舞台にランチビュッフェが開催されました。

 

『テロワージュ東北』は、食事とお酒と土地、さらに人が加わることで、地域の魅力が最大化できるという考えで始まりました。

 

『テロワージュ東北』を仕掛けた毛利さんは、いつもたくさん人を連れて来るんです。南三陸の漁師さんや気仙沼の生産者さんなどを呼んで、まわりとつなげています。地域が連携することでもっと面白いことができると。『テロワージュ東北』は最初、沿岸部からスタートしましたが、その後は多様な分野の事業者が参画して、幅を広げています」

 

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「最近、秋保地区では、若い移住者の方々が増えています。デザイナー、カメラマン、雑貨を作る作家などクリエイターたちが秋保で自分たちのやりたいことを始めて、彼らに憧れた人たちが『自分もやってみたい』と秋保に来るという現象が起きています。

 

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アキウツーリズムファクトリーが手掛けた、秋保の“尖った”カフェを紹介した小冊子「AKIU BRAND MAKERS」。

千葉さんを中心に地域おこし協力隊達が取材・撮影を担当し、作り上げた。

 

秋保は、コミュニティの近さが魅力の一つですが、個性的な人たちが刺激し合ったり支え合ったりしながら、また地元の人たちもそれを面白がって応援したり、関わったりしています。私は仙台市街に住んでいますが、人付き合いに大切なお互いを認め合うことなどは秋保で身につけたように思います。2人の子どもたちもそうですね」

地域おこし協力隊は東北最大のプロジェクトを立ち上げ

 

2021年には、秋保地区に、年間1000kℓ生産を目標としたレストラン併設のクラフトビール醸造所「Great Dane Brewing(グレートデーンブリューイング)」を建設する計画が生まれました。立ち上げ役となったのは、まちづくり事業に参画した地域おこし協力隊の清沢さんです。現在はホップ試験栽培が開始され、2023年には醸造所をオープンする予定です。

 

「清沢さんは数年前から醸造所をつくるため、全米でトップに輝いた経歴を持つアメリカチームのメンバーとともに、全国各地を調査されていたそうです。そんなスケールの大きな話を聞いた私と毛利さんが、『ぜひ秋保に来てほしい』と彼にラブコールを送りました。

 

彼らが秋保地区に決めた理由は、市場環境や水質はもちろん、観光・文化・自然といった資源と、そして何より『人の情熱』に心を動かされたからだと言います。

 

アメリカでは、ブルワリーが地域の核となり、コミュニティを形成している地域が多くあるそうです。私は彼らがこの地区の中心となり、地域のコミュニティを育てていってくれればうれしいと思っています」

東京を飛び越えて、世界とつながっていく

 

まちづくりというと、地域の魅力をまずは東京へどう届けるか、どう受け入れてもらうかが目標の一つとして挙げられるかもしれません。しかし、秋保地区では、「テロワージュ東北」、クラフトビール醸造所ともに、東京を越えて、世界を視野に入れて行動を起こす人が多いようです。それはなぜなのでしょうか。千葉さんはこう答えてくれました。

 

秋保で何かを仕掛けようとする人たちも、関心を持ってくれる人たちも、なぜか海外生活を経験した人や外国人の方ばかりなんです。地元の人たちも、子どもを海外留学させている家庭が多いように感じます。

 

伝統工芸の作家さんたちも海外の雰囲気がある方が多くて、カフェとギャラリーが楽しめるガラス工房でも、原材料はポートランドから輸入したものを使っています。海外との距離は近いかもしれませんね。仙台空港も面白がって秋保と一緒に観光ツアーなどを協働してくれているので、これからも海外を絡めた企画は増えていきそうです」

市内外の人達がもっと注目したくなる町にしたい

 

海外での展開も視野に入れた秋保地区のまちづくりについて、千葉さんはどんな未来を見ているのでしょうか。

 

「秋保地区は、今、人口約3800人ですが、全盛期に比べて半分ほどに減少しています。このまま過疎化が進むと、高齢者が大半の町になってしまうという危機感を私たちはもっています。そうすると町のインフラ機能が低下し、雇用も生まれなくなります。

 

まずは『住みたい町』に選ばれることを目指したいです。東北への移住を前向きに考えてくれる関係人口を増やしたい。

 

魅力的な生産者や思いをもって面白い事業を始める方など、いろいろな人が自分達の色を出し合う町になればいいなと思っています。そうやって東北の食や農業などを象徴するエリアとして日本中に知られるような町にしたいです」

 

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アキウツーリズムファクトリーが江戸時代後期の古民家をリノベーションし、

ギャラリー兼レストランとして運営している「アキウ舎」

 

今後について、千葉さんたちは、秋保地区での取り組みをモデルに、近隣の作並地区や泉地区についても大人たちの仕掛けを予定しているそうです。

 

「秋保は観光客も関係人口も増えていて、東北ではまちづくりの成功事例として見られるようになりました。これからは、秋保だけでなく、作並地区や泉地区を含めた西部エリアを面白くしていこうとアイデアを練っています。

 

中心的なコンテンツになるのは、自然、アウトドアです。西部エリアは森林や湖など自然の資源に恵まれています。これから自然や動物との共生が重要なキーワードになると思いますが、都市と自然資源の共生をどうコンテンツ化するか、観光、農業、まちづくりでもすごく大事な取り組みになっていくと予想しています。

 

市内外の人たちが注目したくなるような魅力を発信し、まちづくりに参画してくれる人を増やしたい。そのために、まずは私たちが面白いと思える仕掛けを見せていきたいです」

面白い事業を広げる地域おこし協力隊を募集!

 

現在、千葉さんが代表を務める株式会社アキウツーリズムファクトリーでは、一緒にまちづくりを盛り上げる仲間を募集しています。地域おこし協力隊をとして、仙台市の西部地区(秋保・作並・泉)の魅力を多様なアイデアで事業化し、実践していただきます。募集人数は6名。

 

任期中は、自分が西部地区で挑戦したいこと、また千葉さんたちが一緒に実現してほしいことのバランスを考慮しながらプロジェクト化していきます。

 

将来的に店舗を持ちたい、自立した事業を起こしたいという方などは相性が良いと思います。秋保の人たちの応援をたくさん受けられる環境を活かせるのではないでしょうか。

 

任期3年のうち、前半はまちづくりサポートを中心に、後半では自分がやりたい分野のイベントやアート展などを担当しながら、独立に向けて準備を進めてもらえればと思います。ぜひご相談ください。一緒に面白いことを仕掛けていきましょう」

 

 

※本記事は、求人サイト「DRIVEキャリア」に掲載された企業・団体様に、スタッフが取材して執筆しました。

 

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