「街を廃墟にしないために」。
日本各地の多くの地域で、”街の経営”を根本的に変えなくてはいけない時代が訪れています。経済が順調に伸びていた時代にできあがった事業のありかたや枠組みを作り直し、これからの時代に必要な資源を再構成して、生き残っていくこと。
全国の多くの地域が抱えているこの課題に、全く新しい、しかし考えてみたら至極まっとうなアプローチで取り組んでいるのが、有福温泉です。
それぞれの事業者が続けてきたビジネスを、これからの時代に合うかたちで効率化し、場合によっては思い切った廃業をする。あるいは分散している権利や責任のありかたを整理統合し、資産の管理運営を共同化し、地域を一つの事業体のようにして価値を提供していく場所になっていく…。
これからの日本の地域の重要な経営モデルとなるであろうこの「街まるごとホールディングス化」とでも言えるチャレンジを進めている、有福振興株式会社樋口忠成さんのお話をうかがいました。
コンパクトな温泉街で共有された危機感
有福の街を一通り歩いてみた最初の印象は「コンパクト」。
階段と建物の間のたくさんの細い道や坂をゆっくり歩いていくと、3つある外湯や5つの宿、センスのいいイタリアンのカフェレストランにすぐアクセスできる町並み。島根県江津市の山あいにある有福温泉は、聖徳太子の時代である1350年前に開湯した由緒ある湯の街です。
戦後の高度成長期には最盛期を迎え、1970年代には年間約30万人の来訪客があったが、90年代には年間10万人まで落ち込み、30軒近く存在した旅館は現在は5つ。商店の数も随分少なくなったそう。
「危機感を共有しましたね。「新たな出発点をつくらずにこのままだらだらやっていても終わってしまう」という強い危機感を、比較的若い3人の跡継ぎたちが共通認識としてもったのが、この取り組みのはじまりでした。それまでの有福を担ってきた私たちの親の世代、街の上の世代の人たちも「自由にしていいから、若手に任せたい」とバトンを渡すタイミングでもありました」。
樋口さんを含めた3人は30-40代のUターン組でした。みな商売人の家に育っていたこと、地元の先輩後輩で顔が見える関係だったこともあり、街の再生に向けた共同の事業がスタートします。
街の事業を全体を再構成すること
「ふつうにビジネスをする、個社で丁寧に商売をすればお客さんは来ます。けれどもたとえば、小さい旅館はあまり大きな投資はできません。とにかく自分の宿だけ生き残ってもダメ、温泉街全体で残っていかないとダメだという考えかたは共有していました。「あそこが潰れたらこっちに客が増える」というような発想ではだめだということ。10年後に自分のところだけ生き残っても、街の魅力が無ければお客さんは来ないですから。」
「だとしたら資源やサービス、運営を共有化すればいいということで、外湯の共同利用をできるようにしたり、食事は外でできるようにレストランを作ったり、といった流れを作っていきました。集客やマーケティング、駐車場や予約の管理などを一体で運営し、効率化していけば生き残っていける余地が十分ある、そういうふうに考えてやってきました。」
古い日本建築でいい雰囲気、でも経営体力は弱っていて、風呂を改装したり食に力をいれることが難しい宿。でもそこが残っていることで、お客さんの選択肢は増え、有福温泉全体としての価値はあがるでしょう。だとしたら、お湯は外湯を共同で使えるようにし、食事は外のレストランを利用してもらうようにすればいい。合理的だけれども、街の中の人間関係や利害関係などで、ふつうはなかなか着手できないアプローチ。有福ではどうしてそれができたのでしょう?
コンパクトな街をホールディングス化
「3人がある程度若かったことは大きいですね。50代とか60代になると思い切ったことはなかなかできなかったりしますし、何より金融機関がお金を貸しづらい。30代だったら、10年かかって返済するとしても40代で完済して、次の事業に取り組めるだろう、と判断されますよね。 あとはたまたま、街がコンパクトだったこと。路地や道に全部屋根をつけることも不可能じゃないくらいの大きさだったのがよかったというのはありますね。有福全体を一つのホテル、旅館のようなものとして構想することができた。有福温泉のホールディングス化と言ってもいいかもしれません。個社で競争したり客の取り合いをするよりも、街全体を大きな会社としてやるほうが経営的には安全ですし、お客さんにとっても利便性が高い」。
たしかに、街まるごとがホテルで、洋風の部屋もあればクラシックな部屋もあり、リーズナブルな部屋もハイエンドな部屋もある。貸切風呂もあれば共同湯もあって、食事もいくつかの選択肢から選べる、予約もワンストップで、となっていたら、嗜好が違う多くのお客さんを受け入れることができる。コンパクトな温泉街ならではの未来的なモデルが着々と出来上がりつつあるのが、有福温泉の”いま”である。
有福温泉、人材募集中!
全国の地域の未来にとっても、そして日本の未来にとっても大きな意味を持つこの有福温泉の挑戦に、新しい人材が求められています。これからの日本のいろいろな地域で引く手あまたになる、と言っても言い過ぎではないこの人材像について、樋口さんから出たキーワードは…?
“ベンチャーの空気感の中でトップを狙うような人”
「組織の中で詰将棋が上手にできる人ではなく、ベンチャーのようなコンパクトな舟に乗って、溺れずに自分で漕いでいけるような人を求めています。もう溺れない状況に地ならしはしてあるので危なくありません、大丈夫です(笑)。思う存分舟漕いで踊って、成果を出していただきたい」。
“潮目を変える役割に価値を見いだせる人”
「戦略的には突破口になる人です。定住は求めていません。上で話したような最終的なかたち、街全体のホールディングス化は長期的な取り組みになりますので、その最初の2-3年をがっつりやってもらうようなイメージですね」。
“地域を一つ再生してやったぞ、というのを名刺にしてこれから活躍していくような人”
「既存の事業を継承・整理して、効率化する仕事です。1-2億円くらいつかって地域をまるごとリモデル(再構成)する、それを面白いと思って飛び込んでくれるような人を求めています」。
チャレンジングな仕事ではあるけれども、だからこその面白さ、未来性があるこの人材募集。ピンと来るものがある方はぜひアクセスを!
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