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「風の人」と「土の人」の二人三脚で雪国の魅力を発信!岩手県西和賀町「ユキノチカラ」プロジェクト

2023.01.18 

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各地から降雪のニュースが届き、冬の深まりを感じさせる季節になってきました。日々の除雪の大変さから、豪雪地帯では厄介な存在だと思われがちなこの「雪」を「宝物」ととらえ、まちの力に変えようとしているのが岩手県西和賀町(にしわがまち)です。

 

今回、西和賀デザインプロジェクト「ユキノチカラ」事務局の加藤紗栄さん、加藤さんと一緒に同プロジェクトを進めてきた西和賀産業公社の藤原朝子さんにお話を伺いました(会話文中敬称略)。

 

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藤原朝子(ふじわら・あさこ)さん

西和賀産業公社/ローカルベンチャーラボ1期生

岩手県西和賀町出身。2015年3月に地域おこし協力隊として西和賀町にUターン。同年9月から西和賀デザインプロジェクトユキノチカラのサポートを担当、町の事業から西和賀産業公社に事業が引き継がれるタイミングで同社に就職し、現在は西和賀産業公社にて営業とユキノチカラを担当している。

加藤さんトリミング後2

加藤紗栄(かとう・さえ)さん

ユキノチカラプロジェクト協議会 事務局・ブランドマネージャー/ローカルベンチャーラボ1期生

東京都世田谷区出身。公益財団法人日本デザイン振興会にてグッドデザイン賞事務局や広報を担当の後、地域振興事業を担当。2015年から開始した地域ブランドづくり「ユキノチカラ」プロジェクトをきっかけに岩手県西和賀町と関わる。退職後、西和賀町へ移住し2020年5月よりユキノチカラプロジェクト事務局に復帰。

パッケージだけじゃない! 販売戦略までトータルでデザインする仕組み

 

ユキノチカラとは、冬の活動の妨げとなる雪を、西和賀町の豊かな食文化や雪遊びなどのアクティビティを生み出す大切な資源としてとらえ直し、魅力発信の旗印とした取り組みです。ユキノチカラブランドの商品開発や、販促・広報活動などを展開しています。

 

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ユキノチカラブランドのもと開発された商品たち

 

また、ビジネス面をサポートする金融機関の北上信用金庫、デザイン面をサポートする県内在住のデザイナー、実際の商品づくりを担う地元事業者と行政といった、複数のステークホルダーが協働して商品開発に取り組んでいるのがその特徴。特にデザイナーは、パッケージ等のデザインだけを担うのではなく、販売戦略までトータルで設計しています。

 

1.立ち上げ時スキーム図

複数のステークホルダーが協働して商品開発に取り組むユキノチカラプロジェクト

 

現在は、西和賀町に移住して事務局を担っている加藤さんですが、元々は日本デザイン振興会の一員としてプロジェクトの立ち上げに関わっていました。まずはこのプロジェクトが誕生した背景について教えていただきました。

 

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北上信用金庫、町の事業者の方々と。右から二番目が加藤さん

 

加藤 : 金融機関の中でも地域密着型の信用金庫には、地域事業者の活性化を促す役割が特に求められています。ただ、融資だけでは解決できないことがある、デザインの力が必要だということで、信金中央金庫から日本デザイン振興会の方に相談をいただきました。

 

そうしたことをきっかけに、地域資源を生かした商品開発とプロモーションの企画を提案し、全国の信用金庫に参加を呼びかけたところ、最初に手を上げてくれたのが西和賀町と北上信用金庫だったんです。

 

***

 

こうして2015年9月に地方創生推進交付金事業を活用してスタートしたユキノチカラですが、3年間の助成期間を終えて自治体主体から事業者主体の事業へと移行し、2019年には13の参加事業者で構成された協議会による運営へと、プロジェクトは形を変えながら続いています。組織体制に変化がありながらも、プロジェクトを続けてこられた理由を、加藤さんはこう語ります。

 

***

 

加藤 : どこの地域でもできるというわけではなく、たくさんの幸運が重なって8年続いていると感じます。

 

まずは、質の高い商品づくりができる事業者さんの存在です。昔、西和賀町(旧湯田町)には土畑鉱山があって、最盛期の1950~60年代には住民や人の出入りも多く、温泉街として栄えていました。その温泉街のお菓子屋さんが今も何軒か残っているんですけど、それがびっくりするくらいおいしいんです。

 

他にも、ブランド山菜の西わらびや乳製品など、「一度手に取ってもらえたら絶対にリピーターがつくのに、全然知られていなくてもったいない!」と思えるものがいくつもありました。そういった商品や農産物を、どうすればもっとPRできるだろう? というところが、ユキノチカラの出発点です。

 

あとは、連携する各部署に想いを持った人がいて、ずっと関わり続けてくれていることがすごく大きいですね。西和賀町のふるさと振興課、北上信用金庫、それぞれの場所から関係を盛り上げてくださっている方がいます。

 

そして何より、(藤原)朝子さんが地域の中から事務局として支えてくれていました。私は当時外から関わっていましたが、朝子さんが関係者をつないでくださったことでプロジェクトを進める地盤ができてきて、このユキノチカラを絶対に続けたいなという気持ちになりました。1人でも欠けていたら続いていなかったと思います。

 

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町役場のふるさと振興課の方々と

「ディスカバー農山漁村の宝」にも選定!北欧ファンタジーな雪国・西和賀町の魅力とは?

 

こうした取り組みが評価され、2022年11月にユキノチカラプロジェクト協議会は、地域活性化の優良事例として「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」第9回に選ばれました。特に評価されたのは、6次産業化と交流人口の創出に継続して取り組んでいることだったと言います。

 

***

 

加藤 : コロナ禍前には、雪の中を歩いたり、雪灯りを作ったり、西和賀町の冬を体験できる「ユキノチカラツアー」を実施していました。東京で暮らしている身からすると、雪って特別なもので、憧れがあったんです。雪深い西和賀町は、まるで北欧のような、ファンタジーな世界に映りました。

 

そこで、「私みたいな人が都会には少なからずいるのでは?」と考えて企画したのが、雪にまみれてもらうこのツアーです(笑)。毎回、首都圏や仙台、盛岡から30~40人が集まる人気ツアーでした。寒さで滝が凍る光景はスケール感がすごいし、ガイドの方しか知らない場所に連れて行ってもらえるのは、まるで「秘密の花園」を教えてもらったみたいな気分で……。言い換えれば、私自身の感動を共有するツアーですね。

 

他には、どぶろくや大根の一本漬け、寿司漬け、納豆汁といった発酵食をテーマにしたツアーも実施しました。西和賀の納豆汁は、生の大根をすりこぎのように使って味噌に納豆をすり込んで作るんです。大根の汁が混ざるのでいい味になるんだとか。

 

西和賀町にはこれ以外にも、雪室に熱々の納豆を埋め、発酵させて作る雪納豆など、雪国で家から出られない状況だからこそ生まれた、珍しい食文化がたくさんあります。都会から来た私にとっては、まさに発酵ワンダーランドでした!

今は休止中ですが、来年度くらいから再開できたらいいなと思っています。

 

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ツアーでは、「かんじき」と呼ばれる雪上を歩くための民具を履いてトレッキングする時間も

 

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圧巻の氷瀑をみることもできる

 

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生の大根をすりこぎのように使って味噌に納豆をすり込んで作る西和賀の納豆汁

 

加藤さんと二人三脚でユキノチカラを支えてきた、西和賀町育ちの藤原さんにとっても、ツアーの開発は自分の地域を見つめ直すきっかけとなったようです。

 

***

 

藤原 : 私は高校を卒業してからはずっと岩手を離れていて、2015年に地域おこし協力隊として戻ってきました。子どもの頃は郷土食にそこまで興味があったわけでもなく、雪納豆も戻ってきてから初めて知ったくらいです。西和賀出身ですが、この仕事を通じて新鮮な目で地域を再発見できました。

 

「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」の選定地区に選ばれたのは、私が育休中の時期なんですが、その間も(加藤)紗栄さんがブランドマネージャーや事務局を担ってくれていたからこその選定だと思います。ずっと西和賀にいると考え方が狭まってしまうけど、紗栄さんはそれを広げてくれる存在です。

 

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西和賀町で生まれ育った藤原さん(写真左)。地元の「土の人」として、

移住者「風の人」である加藤さん(写真右)と二人三脚でプロジェクトを進めてきました

 

「外」の視点と「中」のつながり。両者が軸を共有することで、プロジェクトが回りだす

 

加藤さんと藤原さんは、NPO法人ETIC.(エティック)が運営する、地域に根ざした6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」の1期生でもあります。ラボではどのような変化や学びがあったのでしょうか。

 

***

 

藤原 : 協力隊としてユキノチカラに関わっていた当初は、仕事のひとつ、という感覚があったのですが、ラボに参加する中で現実味が帯びてきたというか、どうすればプロジェクトを続けていけるか、2人で真剣に考えるようになりました。

 

加藤 : 私もラボに参加した当時は東京から出るつもりは全くなかったんですけど、ユキノチカラが地域に根付いたプロジェクトになっていくかが心配で、「一緒に勉強しなきゃ!」というつもりで参加しました。

 

結果的に私自身が西和賀町に根付くことになりましたが、高知県四万十町を拠点にした地域商社・株式会社四万十ドラマへのフィールドワークで、地域で事業を推進していくことの真髄を見たというか、地域で挑戦している人達と多く出会えたことが大きく影響していると思います。現地に根付いてやっていく以上に強いことはないな、と。

 

藤原 : ユキノチカラは当初町の事業として始まり、期限付きの事業だったので、継続するためにはどこかで民営化しなければいけなかったんです。ラボの期間中、二人で会社を立ち上げるという案も出たのですが、やっぱり事業者さんが活動のメインにならないと意味がないなと思って。

 

また、外への発信の方法がわからない中、うまくメディアを活用してくれたのが紗栄さんでした。ユキノチカラは自分たちが驚くほどに県外の方が知ってくれていることが多く、評価されていることを私含め、事業者さんたちも実感していたと思います。プロジェクトが始まる前は、自分たちがやっていることがどこまで受け入れてもらえるか心配していましたが、今はユキノチカラブランドに誇りをもって、事業者さん自身がSNSなどで西和賀を発信してくれています。初年度と比べて私もそうですが事業者さんもユキノチカラに対しての気持ちが変わってきているのがわかります。

 

メンターの高知県四万十町で地域商社「四万十ドラマ」を経営する畦地さんがおっしゃっていたように、地域外の人と中の人が交わってやることはすごく大事だし、ラボでは全国各地から同じように地域を元気にしたいという想いで参加している人達と出会えたのもよかったですね。とは言え、一番は紗栄さんがいてくれたことです。

 

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ラボ期間中、高知県四万十町にフィールドワークへ。写真は、四万十町でメンター、ファシリ、同期生と

ユキノチカラのこれからについて議論中の一枚

 

加藤 : こういった事業は地域で信頼されていないとできませんが、私は朝子さんが中の人としてつないでくれたからこそ続けてこられた事業だと思っています。最初の地盤づくりもですし、今でも知らないことがいっぱいなので、朝子さんに相談しながらやっています。

 

あとは、ラボで自分の深層に向き合うことでしか気付けなかった想いを整理できたことが、今の活動の軸になっています。こんなに素朴で美しい場所がまだ日本の中にあるというのは、奇跡だと思うんです。山奥の豪雪地帯だからこそ育まれた、岩手と秋田のハイブリッドのような不思議な文化をもつ、この西和賀という地域を守りたい、自律的に盛り上げていけるような機運をつくりたいという思いが根底にあるんだなというのは、突き詰めないと気付けなかった芯の部分だと思います。

 

 

最後に、お二人に今後の展望についてお伺いしました。

 

***

 

加藤 : 商品開発や販売戦略だけではなく、もっと幅広くまちづくりに関わっていきたいです。2022年4月からは、岩手県立西和賀高校とコラボした社会学習プログラム「魅力発見ラボ」がスタートしました。高校生と一緒に商品やサービスの開発に取り組むプロジェクトなんですが、教育や人材育成など、ユキノチカラが本質的な地域課題を解決していけるような仕組みになればいいなと思っています。

 

藤原 : ユキノチカラの活動を通じて、地域の内外が連携することで、私達では思いつかなかったことが実現し、喜んでくれる人達が大勢いるということがわかりました。新しいことをしようとすると最初は拒否反応を示す人もいますし、私自身も本当にできるのか不安に思うこともありますが、これからも紗栄さんがイメージしてくれたことを形にできるよう、最大限やっていきたいなと思っています。

 

***

 

地域外から来た人を「風の人」、その地域で生まれ育った人を「土の人」と表現することもありますが、お二人への取材から、独自の魅力をもった地域が持続可能なものであるためには、中と外、両方の力が大切だということが改めて伝わってきました。眺めているだけでも雪国の魅力が感じられるユキノチカラの品々、みなさんものぞいてみてはいかがでしょうか?

 

 

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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