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レジリエンスのある社会をめざして。3.11の教訓を振り返る~カタリバ今村さん&マインドフルネス研究者・ハンターさん対談~

2021.04.23 

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10年の節目を迎えた2021年3月、3.11以降に14億円以上の寄付を米国および世界から集め、東北の復興支援に貢献したジャパン・ソサエティー(NY)と、NPO法人ETIC.(エティック)の共催で、「東日本大震災10年日米シンポジウム:レジリエンスと復興」を開催しました。

 

新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中が長期に渡って苦しい状況と向き合い続けています。今回のシンポジウムには、そんな今だからこそ見つめ直したい、「危機的状況から立ち直る上で大切なこと」について考えるヒントがたくさん詰まっていました。

 

本記事では、「レジリエンス 3.11からの教訓 」と題してお届けした基調対談の内容をお届けします。

 

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【基調対談】

モデレーター:ジョシュア・ウォーカー博士(ジャパン・ソサエティー理事長)※写真左

日本側登壇者:今村久美氏(認定NPO法人カタリバ 代表理事)※写真中央

アメリカ側登壇者:ジェレミー・ハンター 博士(クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー・スクール准教授)※写真右

他者のために行動を起こすことがトラウマ経験の克服につながる

 

――東日本大震災を契機として自身も3年間東北に居を移し、被災地の子ども達と向き合ってきた、認定NPO法人カタリバ代表の今村久美さん。家族や家をなくした子ども達が、震災の経験をとらえ直すために必要なのは、一方的に支援を受けるだけではなく、少しでも企画する側に回ることだったといいます。

 

ウォーカー:災害にあった子どもたちのレジリエンスを育むために、カタリバではどのような支援をしているんでしょうか?

 

今村:何かをやってみて、できた、できなかったというのを子どもたちが経験するということ。そして、適正にフィードバックをもらいながら自分自身を見つめていくこと。3.11以降の活動を通じて、そういった経験を子どもたちに届けていくことが、何よりも子どもたちのトラウマ経験のとらえ直しになるんだなという方法論を見つけました。

 

前半①

 

ウォーカー:具体的な事例があれば、お聞かせいただけますか?

 

今村:震災当時小学2年生だったF君の事例を紹介させてください。F君は高校生になり、なぜ家族が津波から逃げ切れなかったのか向き合いたいと、防災無線放送のあり方について研究を始めました。その中で、ただ避難を呼びかけるのではなく、津波の規模や到着予想時間といった、行動を促すような具体的事実を盛り込むことを行政に提案します。F君の提案は実証実験にも取り入れられ、町の防災無線放送のあり方が変わりつつあります。

 

スモールアクションを繰り返す中でプロトタイプを作り、実験する。私達は伴走者として、教えるというよりは一緒に考え、振り返って、どんな学びがあったのか確認します。自分の家族が亡くなったことをただの悲しい死として終わるんじゃなくて、子ども達の未来につながるものとして経験のとらえ直しをしていくんです。ポスト・トラウマティック・グロース(PTG:心的外傷後成長)という考え方にもつながっていると実感しています。

 

――セルフマネジメント研究の第一人者であるジェレミー・ハンターさんは、この「トラウマの克服」についてこう語っています。

 

ハンター:子ども達を被害者にしないという点に感銘を受けました。実は、自分に起こった辛いできごとを義務的に何度もいろんな人に語り継ぐというようなことは、トラウマを克服する上ではあまり効果的でないことがわかっています。

それよりも、自分だけではなく他者にとっても有意義なことに転換していくところに、トラウマからの癒しがあるんです。

 

前半②

 

ハンター:神経系に即して話すと、通常はグリーンゾーンと呼ばれるエリア内で対応しているのが、そのキャパシティを越えるとレッドゾーンに入ります。これはお湯が沸騰したような状況で、外部の大変な状況から身を守ろうと自己防衛機能が働きます。ですが、これが長期間続くとエネルギーがなくなるブラックゾーンに陥ってしまいます。自分の中に閉じこもってしまう、鬱やバーンアウトと言われるような状態です。

 

このレッドゾーンやブラックゾーンにいるのが、トラウマで苦しんでいる状態だと言えます。癒すというのはそこから脱出させて、グリーンゾーンに戻してあげるということなんですが、今村さんのプレゼンテーションからは、他者と関わる、他者のためになるということがとても重要だとわかりました。他者を助けることは、自分自身がグリーンゾーンに戻る上でも効果的なことなんですね。

3.11からパンデミックへの教訓

 

ウォーカー:現在はグローバルなパンデミックの真っただ中にあります。3.11は東北の人達が影響を受けましたが、今は世界中の人がコロナ禍の影響下にあります。レジリエンスを高めるために、3.11の教訓から言えることはありますか?

 

今村:コロナ禍を受け、昨年は全国的に臨時休校措置が取られました。家族との関係性がいい子どもばかりではありませんし、親のもつリソースや社会的なつながりは、家庭によって大きな差があります。学校という場所にアクセスできなくなることは、子どもたちが安心安全に他者とつながる機能を失うということです。

 

震災を経験しているからか、現在も私達が活動を続けているエリアでは、子ども達がリモートでも学習できるよう、パソコンのない家庭のために地域で確保に動いたり、公民館を使えるようにしたり、自分達で危機に対応するような動きが見られました。

 

常に対話的で協同的な関係性があるということ、つまりお互いを敵視して文句を言い合うのではなく、できないなら次はどうするかを考えられることが大切なんです。ポジティブなアクションを語り合える関係性にあるかどうかといった備えが、日常から重要なんだと今回のコロナ禍を経て感じています。それがレジリエンスのある社会を目指す上での、1つの答えなのかもしれません。

 

ハンター氏:このような逆境への直面は、よりよい変革のための触媒にすることもできると思うんです。これがまさに今村さんのメッセージだと思います。本当に痛みも伴いますし、困難だということはわかっていますが、やはり同時に一筋の光もあると感じます。地方の魅力に目を開くようになったという変化は、アメリカでも起こりつつあるのではないでしょうか。

 

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どんな変化が起こっても、歩みを止めない次世代を応援し続ける

 

ウォーカー:震災から10年経ちますが、次世代と共にレジリエンスのある社会を将来につなげていくために大切なことはなんでしょうか?

 

今村:被災した子ども達にとって、10年という区切りはないように思えます。人生はそんなにうまくいかないこともたくさんあるということを前提に、悩み続けること、語り合うこと、歩くのをやめないことが大事なのかなと思います。

 

これからどんな変化が起きるかわかりませんが、少しでもポジティブに、歩みを止めない子ども達であることを応援し続けたいし、私自身も震災の経験を通してそうありたいと強く思っています。

 

ウォーカー:お話を聞いていて、絆というコンセプトや生きがい、天命というような、日本的な概念が、今日の世界においても有益なのではないかと感じました。登壇者のみなさん、ありがとうございました。

 

――誰かのために動くことが自分自身の回復にもつながるという学びは、個々人が辛い経験を乗り越えていく上でも、レジリエンスのある社会をめざす上でも背中を押してくれるものだと思います。コロナ禍が長引く今だからこそ、小さくても自分にできることを考えてみませんか。

 

動画で見る「東日本大震災10年日米シンポジウム:レジリエンスと復興」はこちら

 

※本企画は、ジャパン・ソサエティーが震災翌日に設立した震災基金の支援を受けて実施しています。


 

【セミナー情報】

2021年4月29日(木・祝)、ジェレミー・ハンターさんを講師に【無料オンライン:通訳あり】ドラッカースクールMBAマインドフルネス講師に学ぶ トランジション(変容) ~逆境を味方につけ、その力を活かして 過去の延長線上ではない現実をうみだす~ が開催されます。

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。