2024年11月28日、「NEC社会起業家フォーラム2024」が開催されました。NECは、2002年にNPO法人ETIC.(以下、エティック)とともに、社会課題に取り組む若手起業家を育成するプログラム「NEC社会起業塾」をスタート。22年間、社会起業家支援を続けてきました。
当日はリアルでの参加者に加え、オンラインで150名以上もの社員が参加。冒頭挨拶では、NECコーポレートコミュニケーション部シニアディレクターの岡部一志さんから、「会場には10年以上関係を続けてきた社会起業家の方々がいらしていて、またここ数年『NEC社会起業塾』を卒業したという方との出会いが増えている。長く、現在に至るまでこうした社会価値創造の取り組みが継続しているのはとても誇らしいこと」という言葉が語られ、これまで積み上げてきた価値を見つめ直し23年目以降の共創を考える機会として本会はスタートしました。
知恵とネットワークを駆使する社会起業家との共創は、社員一人ひとりの競争力を高める
第1部の基調講演では、「社会起業家と企業との共創」というテーマで、NECグループの独立シンクタンクである「国際社会経済研究所」理事長の藤沢久美さんにお話しいただきました。
藤沢さんは、NECが社会起業塾を始めた翌年の2003年に「社会起業家フォーラム」の立ち上げに携わって以来、社会起業家支援を続けてこられました。当時と比べると「社会起業家」の存在が当たり前になった一方で、社会起業家と企業の間には、未だ「社会課題を解決する人」と「社会課題解決をするけれどお金を儲けなきゃいけない企業」といった2項対立が存在すると語ります。
その上で、人工知能(AI)の技術が進歩してデジタル革命が起きると警告がなされている現在、企業が社会起業家といかに共創するのか考えたとき、「まずは一人ひとりの個人としてどうコラボレーションしてみるか考えることが重要」だと藤沢さんは語ります。
「AIの活用は皆できるわけですから、これからの企業の競争力というのは、そこで働く一人ひとりが持つ知恵にあると私は思っています。
いろんな経営者やリーダーと出会ってきて、世の中を変えているリーダーと変えてないリーダーの違いは何かと考えると、視野の広さだと感じます。どれくらい多様なことにアクセスしているか、どれほど時間軸長くものを捉えているか、高邁(まい)な精神を持ちつつ、どれほど綺麗ごとだけではない世界を知っているか。そうした立体的な視野の広い人が、たとえ事業規模は小さかったとしても、結果として世界を変えています。
そのように考えたとき、社会起業家と企業の方々がコラボレーションをするのは、とても価値あることです。社会起業家は、予算がなくても、人がいなくても、技術がなくても立ち止まる人はほぼいません。『どうしたらこの課題を解決できるのか?』と、あらゆる知恵とあらゆるネットワークを使って前に進もうとしている人たちなんです。
そうした人たちと一緒に動いた瞬間に、『こんなやり方もあったか!』と気づくと同時に、企業で身につけたことが社会の中でとても役に立つという実感が訪れますし、逆に企業の中では難しかったことを身に付けることができるかもしれません。
また、投資のリターンは経済価値だと思われがちですが、実は究極の投資リターンは知恵です。さらに築いたネットワークは減ることがなく、複利効果で増えていきます。失敗も、そこから学べば知恵になります。そうした意味では最も損をしない投資が、時間や汗をかくという投資で、そこで得た学びやスキルや価値観を言語化することが、成果の高い投資を招くと思っています。
特に大企業グループにいると、『人口減少問題に取り組む』など、社内で取り組む社会課題はどうしても手触り感のないものになってしまいます。一方で社会起業家の多くは、目の前で起きている手触り感のある課題にチャレンジしていらっしゃる。そこにご一緒させていただくことで、本当に社会を変えていくということはどういうことなのか、身体知として身につけさせていただいてはじめて、大きな社会の課題を解決するための知恵が磨かれるのではないかと思います。
逆に社会起業家の皆さんは、大企業の人たちとコラボをすることで、レバレッジをかけてより多くの人たちのためになるヒントを得ることができます。営利企業と社会的企業の違いがなくなっていく社会になっていくための一歩を、NECの皆さんからスタートできたらと思っています」
まずは互いを知り、互いの良さを言語化するところから
第2部では、第1部のテーマ「社会起業家と企業との共創」をゲストの皆さんと考えるパネルトークが行われました。
ゲストは、第1部から引き続いて藤沢さん、「NEC社会起業塾」卒塾生の川添高志さん(ケアプロ株式会社 代表取締役社長)、髙瀬憲児さん(NECテレコムサービスBU支配人)、永久千尋さん(公益社団法人経済同友会)。そしてエティックから、「NEC社会起業塾」の運営を長らく担ってきたシニアコーディネーターの番野智行がファシリテーターとして参加しました。
ケアプロ株式会社は、看護師・保健師の川添さんが2007年に設立したヘルスケア企業です。フリーターや主婦や自営業者など、全国に約3600万人いると推定される健康診断を1年以上受けていない人々を主な対象に、1項目500円から受けられる「ワンコイン健診」を開発。2023年9月現在、利用者は延べ52万人を超えています。「ワンコイン健診」開発当時、保健所から苦情を受ける逆風の中で、NECがプレスリリースに協力したことで社会的信頼を築いていけたと川添さんは語ります。
高瀬さんは、2022年にNEC入社。それまではNTTで技術開発と新規事業開発に携わりながら、「SVP東京」の理事として社会起業家、NPOなどの経営支援を続けてこられました。さらに、社会的養護施設の職員の確保と定着をサポートする「NPO法人チャイボラ」理事、障害者も活き活き働ける社会を目指す花屋を経営する「株式会社ローランズ」で監事をされています。
永久さんは、公益社団法人経済同友会の政策調査部でマネージャーをされながら、共助資本主義の実現委員会、人材活性化委員会を担当されています。現在は、大企業経営者に向け、企業においてソーシャルセクターとの連携が単なる社会貢献活動で終わらずに、経営戦略の一つとして位置づけられ、社会課題解決とそれを通じた企業価値向上の実現を目指す共助資本主義の考えを企業経営で実践する「共助経営」のあり方や、企業がソーシャルセクターと連携して社会課題解決に取り組む上での要点を執筆されています(2025年1月公表予定)。
それぞれのゲストの活動紹介を経て、パネルトークでは、ファシリテーターの番野から「ソーシャルセクターだけで企業との共創について提言しても進めるのに難しさがあった中で、企業の皆さまから可能性を見出しいただけるようになったこと自体が心強く、社会の前進を感じると同時に、今はまだ共創が広がる前の挑戦や試行錯誤の時期なのだろうと感じる」という言葉が投げかけられ、改めてどうすれば「社会起業家と企業との共創」が活性化していくのか、下記のようなトークがなされました。
藤沢「関わることでお互いの良さが言語化できるので、まずはこのプロセスが大事だと考えています。大企業にとって具体的な動きにまでつなげることはまだまだハードルが高いですが、例えばNECグループでは現在一人ひとりがどう能力を上げていくかにチャレンジをしているので、社会起業家と関わることでこれだけ能力を上げられると体現することが一歩目かなと感じます」
高瀬「逆説的かもしれませんが、最初は『共創』を意識しなくてもいいのではないかと思います。NPO側に参画してみて思ったのは、企業文脈で企業が動きにくい理由を理解できていないケースも多いということです。企業の人は関わるだけで、まずその視点を提供することができますし、そこまで明確な目的意識がなくても関われるチャンスがあればいいなと感じていて、まずはお互いを知ることからはじめてみるのがいいかもしれません」
永久「関わり方によってポイントが違ってくるとは思うのですが、例えばプロボノの方ですと、下図の4つを意識することで共創が進んでいくなど様々な事例を伺って感じています。
また、社会貢献活動にデジタルが加わると、社会価値だけでなく企業価値を高める戦略的な活用がより期待できますし、そうした時代になってきていると感じます。例えば、開発したシステムの使い勝手をソーシャルセクターとの活動の中で検証して、社会貢献もしながら自社サービスの品質向上につなげることは具体的に期待できると思いますし、海外ではそうした事例が見られます。日本企業でもそうした動きが生まれることを期待しています」
川添「共感の輪をどれだけ広げられるかが鍵だなと思いました。例えばNECさんだけが頑張って共創していてもなかなか続かないけれど、それをメディア、自治体など、社会全体が評価していくことで、直接的な取り組み以上の企業価値が出てくると思います。小さいレベルから大きいレベルまで、いかにして共感の輪をつくっていくかが絶対必要条件だなと感じました」
目の前の課題をどう解決するか、必死に取り組む目線を社会起業家から学ぶ
第3部では、6名の「NEC社会起業塾」の卒塾生とNEC社員による、社会起業家の問いを共に考えるテーブルトークが行われました。
参加した社会起業家は、第2部から引き続き川添さん、後藤学さん(株式会社Helte 代表取締役)、金子萌さん(株式会社想ひ人 代表取締役)、田上愛さん(株式会社mairu tech 共同創業者・CSO)、北橋玲実さん(株式会社Estlaughtive 代表取締役)、武田勇さん(オヤシル株式会社 代表取締役)です。
テーブルトークに参加したNEC社員の方からは、「社会起業家の皆さんは、目の前の課題をどう解決するかに必死に取り組まれていると感じました。一方でNECのような大企業に勤めていると、どうしても日々の課題が流されていってしまう感覚があって、少しでも社会起業家のような目線を学べたらNECとしても発展するし、社会起業家の皆さんとの新たな事業も生まれるのかなと感じました」といった振り返りがありました。
「NEC社会起業家フォーラム」は今年も開催予定です。「社会起業家と企業との共創」の今後にも、どうぞご期待ください。
あわせて読みたいオススメの記事
#ワークスタイル
NPOのプロフェッショナルを目指して。桜の花で震災の記録を後世に伝える桜ライン311の現場に密着
#ワークスタイル
#ワークスタイル
#ワークスタイル