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人口3,000人の北海道下川町で、頑張っている女性が自分を労われる場所をつくる―アロマセラピスト・塚本あずささん

2023.11.29 

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田舎で暮らしていると、近くに女性向けのリラクゼーション施設がないというケースも多いのではないでしょうか。今回ご紹介する塚本あずささんは、東京から北海道の道北エリアに位置する人口3,000人程の下川町に移住し、アロマセラピーのサロンを経営しています。

起業型地域おこし協力隊「シモカワベアーズ」として着任し、ご自分のサロンを開くまでの道のりを伺いました。

 

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塚本あずさ(つかもと・あずさ)さん アロマセラピスト/ローカルベンチャーラボ3期生

大学卒業後、化粧品の販売員を経て、1年間イギリスに留学しアロマセラピーの資格を取得。帰国後、リラクゼーションサロンでの勤務を経て、2019年12月に起業型の地域おこし協力隊「シモカワベアーズ」第3期生として東京から北海道下川町に移住。任期中に築90年の納屋を改装し、「薬草庵」をオープン。2022年4月には「二十日-はつか-」としてリニューアルオープンし、アロマセラピーの実施や薬膳茶の製造・販売を行う。

地域に女性がセルフケアできる場所を一つでも多くつくりたい。「好き」を後押ししてくれる下川町での挑戦

 

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2019年12月に、地域おこし協力隊として都内から北海道下川町に移住した塚本さん。現在は、「お茶からはじめるセルフケア」をコンセプトに、アロマセラピーと薬膳茶のお店「二十日-はつか-」を経営しています。店名は、塚本さんの誕生日が4月20日であることと、春分など暦の上の季節の変わり目が20日前後に当たることに由来しているそう。

 

「店名には、節目を大切にしながら、日々頑張っているお母さんや女性が自分を労われる場をつくりたいという思いを込めました。『二十日-はつか-』では、アロマトリートメントの提供の他、ブレンドした薬膳茶の販売などを行っています。

 

最近は、不定期で中国茶器を使ったお茶会や手作りお菓子の販売もやっています。私が興味のあることをやってみて、おもしろかったらお客さんもつくかな、と実験しています」

 

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「二十日-はつか-」施術スペース

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店内で販売されている薬膳茶

 

塚本さんが下川町の存在を知ったのは、移住先の検索サービスがきっかけでした。木工作家兼ネイチャーガイド、学童保育指導員兼ヨガのインストラクターなどなど、下川町は、複業やパラレルキャリアとして好きなことや興味があることに挑戦している人が多くいる地域です。

 

ちょっとしたスキルや経験、“好き”や“得意”が、町で必要とされているのを感じられるからこそ磨きがかかり、結果的に仕事に結びついていく……下川町の起業型地域おこし協力隊・シモカワベアーズでは、こういった考えのもと、隊員の募集を行っています。

 

「社会に出て働いてみると、人にキャリアを左右されたり、定年や働く時間も誰かに決められていたりという側面が見えてきて、雇われるのは性に合わないなと感じたんです。勤務スタイルや中身を自分で決められるような働き方がしたいという思いから、アロマセラピーの資格を取るために会社を辞めてイギリスに1年間留学しました。

 

帰国後はリラクゼーションサロンに勤めて、『3年くらい働いたし、そろそろ独立しようかな』と考えていたときにシモカワベアーズのことを知ったんです。〆切も近かったんですが、ダメ元で応募したら採用してもらえて。協力隊卒業後の起業を見据えて、報酬とは別に活動費も使えるというのは魅力的でした」

卒業後の独立を目指して動いた、シモカワベアーズ時代

 

シモカワベアーズの活動期間は3年間です。塚本さんが1年目で重視したのは、町のイベントに出店したり、イベントを手伝ったり、とにかくいろいろな場に顔を出して人と会うことでした。ベアーズメンバーから「〇〇さんに会うんだけど一緒に行く?」という誘いがあれば必ずついて行くようにしていたそうです。

 

「元々そんなに外に出たくない引きこもりタイプなんですが、協力隊期間中は頑張って出て行くようにしていました(笑)。 飲食店など行く先々で新しい方と会うので、プライベートとの境なく、自己紹介をしてやりたいことを伝えて……ということを繰り返した結果、まちの皆さんに存在を知ってもらえたと思います。振り返ると、事業的にもそれが一番大事なことだったのかもしれません。

 

町内の様々な業種の方とも知り合えたので、友達感覚で『困ったらこの人に聞こう』と思い浮かぶ相手が増えました。1年目のつながり作りが生きた面は多々あるので、ちょっと無理をしてでもやってよかったなと思っています。元の性格は段々知られてきて、今は『あいつは家から出てこないからな』と納得してもらってるので、だいぶ楽になりました(笑)」

 

1年目は移住から間もなくコロナ禍に突入しましたが、移動が制限されている時期だからこそ、トリートメントの場づくりに注力。築90年の納屋をリノベーションし、2020年8月に、アロマセラピーと漢方のリラクゼーションサロン「薬草庵」をオープンしました。

 

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「薬草庵」外観

 

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DIY中の塚本さんとベアーズ2期生

 

「元々DIYの経験はありませんでしたが、ベアーズ2期生にDIYの事業を考えていた方がいて、建物をまるごと一戸扱いたいという話をしていたので、活動の一環として一緒にリノベーションしてもらえることになりました」

 

2年目は、下川町でリラクゼーション施設の需要がどの程度あるのか、リサーチに重点を置きました。モニター価格でトリートメントを実施して、どれくらい人が来るのかデータを集めたり、トリートメント以外にも収入源を作れないかと、漢方の資格を活かしてブレンド薬膳茶を試作・販売したりと、できることを模索する日々が続きます。

 

「トリートメントは最初はほぼ原価の3,000円くらいでやってみました。月に4回程度しか施術できなかったんですが、リピーターもいたので需要はあると感じました。下川町は都市部からの移住者も多く、独身時代はサロンに通っていたという方も結構いらっしゃったので、価格を6,000円程度に上げてもお手頃だと感じてもらえたみたいです。

 

整体や整骨だとマッサージの時間が少ないからと、意外と町内の60~70代の方も来てくれて、やってみたからこそわかったことはたくさんありました」

シモカワベアーズ卒業の年 ! 開業1年目の不安と向き合う

 

3年目は、いよいよ独立に向けて本格的に動き始めます。

 

「訪問型も考えたんですが、家に人を呼ぶとなると片付けないといけませんよね。リラックスしたいからトリートメントを受けるはずなのに、片付けで疲れてしまったら意味がないですし、日常とは違う空間に行くことで気持ちを切り替えられると思うので、実店舗を構えることにしました。それに、私自身も自由に使える場所がほしいという思いがありました」

 

そこで店舗兼自宅として使えるような空き家を探したところ、人づてで良い物件に巡り合うことができました。

 

「そもそも賃貸物件がほとんどないので、お店をやろうと思ったら購入しかなかったんです。修繕が必要なところもありましたし、サロンやカフェ用に改築しなければならない箇所もあったので、リフォームは必須でした。

 

引退しようとしていた知り合いの工務店の社長さんに、『最後に私と一緒に仕事しませんか?』とお声かけして、一緒に作業できたおかげで費用を抑えられました」

 

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物件の取得とリフォーム費用は総額700万円程度かかりましたが、起業型地域おこし協力隊のルールに則って交渉した結果、半分は補助金と活動費でまかなうことができました。

約半年のリフォームと準備期間を経て、2022年4月に「二十日-はつか-」の営業が始まります。

 

「開業した時点でベアーズの任期が半年残っていたので、残りは事業として成立するかどうか、いろいろと試す期間になりました。開業1年目は予約が入らなかったらどうしようという怖さがあって、がむしゃらにイベントや施術をやっていたんです。休んだら収入ゼロなので、月に1~2回はイベント出店もしていました。

 

ただ、そうするとへとへとになってしまって、このままだと長くはやれないなとしんどくなることもありました。持ちこたえられたのは、周りに話を聞いてくれる人がいたからです。起業仲間はみんな同じ道を通っているんだとわかってからは、大丈夫かもと思えるようになりました。

 

1年事業を回してみて、シーズンによる繁閑の波もわかりましたし、2年目からは下川町の森に生えているトドマツなどを原料にエッセンシャルオイルやコスメの製造販売を行っている株式会社フプの森でアルバイトもするようになって、これなら生きていけるだけの金額は稼げそうだなと思えました。

 

フプの森では実際にスタッフがその原料になるトドマツを山に採取しにいくのですが、そうしてできたオイルを施術でも使っています。自分が製造に関わったオイルをトリートメントに使えるというのは下川町ならではですね 」

 

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「フプの森」にてアルバイト中

 

やってみたいことがあるならやってみるという姿勢。動かなければわからないことがある

 

塚本さんは、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」の卒業生でもあります。最後に、ラボでの学びや地方での起業や事業づくりを目指す人へのメッセージを伺いました。

 

「ラボでは受講生同士でフィードバックし合う場面があったので、頭をフル回転させながら真剣に相手の話を聞くようにしていました。そもそも知識がなければ何を質問していいかもわからないし興味もわかないので、自分のことだけではなく幅広く勉強しようという意識をもてました。下川町でも他業種の方とのコミュニケーションに役立っているように思います。

 

今は私も下川町でなんとかやれていますが、都会だったら同じようなお店に埋もれてしまって、続けられなかったんじゃないかと感じています。下川町みたいな小さな町だと町内はほぼ知っている方ばかりなので、お客さんというよりも友達が来てくれているような感覚です。この町で、歩いて行けるような距離にあるからこそ成り立っている事業のかなと思います。

 

大規模で綿密な計画が必要な事業は別ですが、私みたいに小さな事業なら、やってみてダメだったらやめたらいいと思うんです。もしやってみたいことがあるなら、初めから完璧を求めすぎず、まずはやってみて考えたらいいんじゃないでしょうか」

 


 

塚本さんが受講した「ローカルベンチャーラボ」では、例年3~4月に受講生を募集しています。気になった方はぜひ公式サイトをご覧ください。

 

▽ローカルベンチャーラボ公式サイト▽

https://localventures.jp/localventurelab

▽X(旧Twitter)▽

https://twitter.com/LvSummit2020

▽Facebook▽

https://www.facebook.com/localventurelab

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。