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自社の「すべての人に平等に」への違和感が出発点。海外の支援団体の一言で動き始めた新たな挑戦―ETIC.30周年ギャザリングレポート(2)

2024.02.13 

1993年の創業以来、「起業家精神あふれる人材を育む」をミッションに活動してきたNPO法人ETIC.(エティック)。30周年を迎え、昨年、インターナショナルな新しい挑戦として、「アジアの女性リーダー支援を通じた新たな挑戦」を本格始動させました。

 

今回の挑戦は、エティック自らが示す方向性の一つとして、「なぜ女性の起業家を支援することがダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)につながるのか」を、実践とともに解明していく大きな試みにもなります。

 

今回の挑戦とDEIへの取り組みについて、昨年12月に開催された「ETIC.30周年ギャザリング」で、エティック インターナショナルチームの川島菜穂(かわしま なほ)が語りました。テーマは、「アジアのソーシャルリーダーをつなぐインターナショナルチームのチャレンジ」です。こちらでは、新たなプログラムに参加した伊藤 枝里子(いとう えりこ)さんも自身の体験を話すとともに、エクイティの探究に取り組む藤村隆(ふじむら たかし)さんと、起業家支援におけるDEIの重要性について対話しました。今回、トークの内容を一部お届けします。

 

<登壇者>

モデレーター  :  藤村隆さん(フリーランス・SVP東京 前代表理事)

伊藤 枝里子さん(特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパン フェロー)

川島菜穂(NPO法人ETIC. インターナショナルチーム)

「これまで語られなかった女性リーダーたちの葛藤に耳を傾ける」セルフマネジメントの開催から

 

川島 : エティックでは、2022年、新たにインターナショナルチームを立ち上げました。それまでも時折行われていた海外連携をより意識的に、戦略的に行っていくことで海外連携のエコシステムの輪を広げていこうと取り組みを進めています。

 

活動の一つとして、昨年、「アジア太平洋地域の女性リーダーのためのセルフマネジメントセッション(全編英語)」を開催しました。

 

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DEIとは、「あらゆる個人が持ち合わせている能力や力を発揮しながら社会により参画できるようにしていこう」といった考え方です。さらに、人によっては社会の構造的な不均衡、制約などからそもそも平等に参画できる土壌がないといった状況にも働きかけていこうと、近年、国際社会で議論が活発に行われています。

 

エティックでは、2022年から国際連携を進めていくなかで、特にDEIの観点に触れる機会や海外の方たちとの対話が増え、DEIへの感受性を高める必要があると強く感じるようになりました。DEIに取り組むことは、エティックの国際連携にとって戦略的に重要であるとともに、エティックが目指す「あらゆる人の起業家精神」のミッションにも重要だと感じたのです。こうした経緯から、新たなパイロットプロジェクトとして、アジアの女性リーダーのためのセルフマネジメントを行いました。

 

藤村さん : 昨年、エティックが開催した女性リーダーのためのセルフマネジメントは、海外を含む女性リーダーたちが集まり、同じプログラムを受けるという画期的で新しい機会だったと思います。実際、プログラムに参加した伊藤さんは、最初にこのプログラムを開催すると聞いた時はどんな印象を持ちましたか?

 

伊藤さん : 私は2011年から2017年までエティックのローカルイノベーション事業部のスタッフの一人でした。そのため、その当時のエティックに対する印象を持っていたため、このプログラムの趣旨を聞いた時は、最初はとても驚きました。なぜなら、私がエティックのスタッフだった当時とプログラム対象像が大きく違うように感じたからです。

 

私は現在、マレーシア在住で子どもが一人います。出産前までは仕事一筋の生活で、長時間働き続けても問題ない身体とメンタルの両方を持ち合わせていましたし、そうした働き方が性に合っていると思っていました。エティックの後に働いた職場もジェンダー関係なく評価される職場環境であり、女性だからといって差別や冷遇を受けた経験も少なく、ジェンダーイシューに問題意識を感じる機会があまりありませんでした。

 

IMG_2389トリミング後

女性リーダーのためのセルフマネジメントへの参加で得た体験を語る伊藤さん(中央左)、

モデレーターの藤村さん(中央)と川島(右)

 

でも、出産後、夫が育児や家事に協力的だったのにもかかわらず、出産前と同じようには働けない状態が数年ほど続きました。可処分労働時間が減り、出産前と同じように仕事ができなかったり、初めての育児の中で理由も分からず気分が落ち込み、仕事でのミスが重なって自信を失い、働き続けることに悩んだり。「出産という多くの人に起こり得るライフイベントを経ることで、こんなにも社会に戻ることが難しくなるのだ」と衝撃を受けました。

 

プログラムに対して最初に驚いた理由は、私は、エティックが開催するプログラムに対して、「社会課題解決に対する強い志を持った人」を対象者とすることが多いイメージを持っていたからです。当時、私は先述のような状態でしたし、まったく対象者像ではないと思っていたので、セルフマネジメントのプログラムに声がけされた時は、私のような社会から外れつつある人にも未来を開く後押しをしてくれるのかと新鮮に感じ、すごく驚きました

 

実際、セルフマネジメントのプログラムに参加したことで前向きな気持ちが生まれ、私がいま住んでいるマレーシアの社会課題解決に関わっていきたいという思いも芽生えてきました。また、プログラムではグローバルに活躍中の方々と交流でき、多くの新たな視点や学びを得られ、自分自身がエンパワメントされたことを実感しました。何より、プログラムコーディネーターである菜穂さんが作るコミュニティが温かく、DEIの不均衡の是正(エクイティ)そのものにエティックが取り組んでいこうとする強い意志が反映されているのを感じました

 

Little children holding their hands together on light background. Unity concept

 

川島 : 私たちはこれまでも起業家の伴走支援のなかで女性リーダーたちからこんな声を聴いていました。「本当は子どもが3人以上ほしいけれど、ほかの男性メンバーにそんなことは言えない」「自分と夫が共同代表なのに、地域の人が話しかけるのはいつも夫。私はいないような気がする」「嫁なのに起業して家にお金を入れられていないことに対してもすごく肩身が狭い」 といったことです。

 

もしかしたらただの思い込みに感じるような声かもしれません。しかし、女性を取り巻く生物的条件や社会的環境により、「起業家を本当にやっていていいのだろうか」「自分はリーダーにふさわしくないのでは?」と自信を失う女性がたくさんいることを知りました。「女性起業家たちの自身喪失は、社会的にも大きな損失になっているのではないか」「これまであまり語られてこなかった女性リーダーたちの声に耳を傾けてみよう」との思いから、女性リーダーのセルフマネジメントを開催しました。

 

藤村さん : 一般に、家事や育児の分担や関係性について議論になることがありますが、伊藤さんのように、夫と協力的なパートナーシップを築けているのにも関わらず、社会に対して疎外感を持つようになる点について、とても根が深く、複雑な理由があることを感じさせます。

エティックがあえて言語化しなかった「すべての人に平等に」を発信する必要性を感じた

 

藤村さん : そもそもエティックがDEIを意識した取り組みを始めようとした背景を教えてください。

 

川島 : 取り組みの背景に、きっかけとなった大きな経験があります。海外の支援団体との連携を進めるなかで、2022年、DEIに関するグローバルワークショップに、エティックから複数人がオンラインで参加した時のことです。ワークショップでは、「そもそもDEIとは何か」といった知識的な定義以外にも、「エティックがDEIを体現するとはどういうことなのか」、という自分たちなりの考えを深めていきました。

 

参加メンバーにとって大きな衝撃だったのが、支援団体の方から「あなたたちは、これまで支援してきた方々のジェンダー内訳をどのように把握していますか?」という質問でした。

 

これまで各プロジェクトで参加者のジェンダー内訳についてアンケートを取り、支援元のドナーに報告することはありましたが、エティック全体で支援対象者のジェンダー内訳を把握することはあまりしていませんでした。なぜなら、エティックでは、あえて違いを取り上げないことで、起業家や個人の方に対して「あらゆる人と常に平等に接している」というメッセージを発信しているつもりだったからです。

 

Socially diverse multicultural and multiracial people on an isolated white background. Happy old and young women and men with children, as well as people with disabilities standing together. Vector

 

しかし、実際、国際社会で活動をする方々と対話するなかで、平等に向き合うというメッセージは、むしろその違いによる障壁を曖昧にしているとも受け取られる恐れがあると感じました。「エティックは女性リーダーたちが抱える特有の問題を認知せず、その問題に取り組んでいないというメッセージにもなりかねない」と、大きなリスクを感じたのです。(次の記事へ続きます)

 

このほかの記事はこちらでお読みいただけます。

>>【特集】ETIC.30周年ギャザリングレポート

 


 

エティックのDEIへの取り組みに関しては下記の記事も参考にしてみてください。

>> なぜ今、ETIC.が女性起業家・リーダー支援に乗り出すのか

>> 組織や事業に多様な変化を起こすには?D&Iコンサルタント・寶納弘奈さんに聞く社内を巻き込む2つのポイント―ETIC.のD&I推進【1】

>> 根っこから公平な組織文化をつくり、社会を変えていくために。D&Iコンサルタント・寶納弘奈さんに聞く持続可能な価値づくり―ETIC.のD&I推進【2】

 

 

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。