地域に興味がある大学生や都市部の社会人等と、外部の力を借りながら新たな挑戦をしたいと考えている地域の組織(企業・自治体・NPO等)をつなぎ、サポートする……そんな役割を担うのが「地域コーディネーター」です。
今回は、20年以上会社員として働いてきた経験を活かし、まずは副業として地域コーディネーターを始めた小森竜樹さんにお話を伺います。地域の企業と出会ったことで、小森さんの人生にどのような変化が訪れたのか、熱く語っていただきました。
小森 竜樹(こもり・たつき)さん
1977年生まれ。長崎県出身。岐阜大学大学院農学研究科専攻修士課程修了後、関西の大手化学メーカーに就職。半導体業界でB to Bの最前線に立ち、営業、マーケティング、プロモーションをマネジメントする。コロナ禍で生まれた余暇で副業コーディネーターを学ぶうちに、21年間勤務したメーカーの退職を決意。2024年5月より長崎に戻りB to B経験を活かした地域プロジェクトに関わる(予定)。夢は「世のため人のため地域のため」の企業を設立すること。
副業で長崎の酒蔵の海外展開戦略を立案。立て続けにコーディネーター業にも声がかかる
小森さんは、長崎へのUターンを検討する過程で「副業として地域と関わる」という働き方に出会いました。
「長崎県の移住促進関係の仕事をされている方から、『営業やってるしできるんじゃない?』と紹介されたのが、長崎県諫早市の酒蔵・杵の川(きのかわ)の海外販路開拓プロジェクトです。振られたものに対しては興味しかもたないという性格なので、すぐに応募して、純米酒『純忠(すみただ)』の海外展開に向けた戦略立案に関わることになりました。
純忠は、JALの国内線ファーストクラスでも提供されるようなすごくいいお酒なんです。日本初のキリシタン大名・大村純忠にちなんで名付けられたということで、社長は『いつかローマ法王に飲んでもらいたい』という想いをお持ちでした。
とは言えいきなりローマ法王は無理なので、まずは日本からも比較的近い東アジアもしくは東南アジアから展開していくことを提案しました。さらに、キリスト教伝来の逆ルートを辿りながらローマに近づいていくというコンセプトで、親日家の富裕層が多いシンガポールが最初の販路として適当なのではないかという仮説を立てました。それがうまくはまり、現地の展示会でも上々の成果があったようです」
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杵の川酒蔵のみなさん
その流れで、杵の川酒蔵のプロジェクトをコーディネートしていたNPO法人ETIC.(エティック)から、「地域人材コーディネーター養成講座」にも参加してみないかと声がかかりました。
「僕自身、杵の川酒蔵のプロジェクトでは伴走してもらう立場だったので、コーディネーターがどんな動きをするのか、大体のイメージはつかんでいました。コーディネートする側も楽しそうだなと、こちらのお誘いにもすぐ手を上げました。なので2022年の秋頃は、副業として『純忠』の海外販路開拓に関わりつつ、養成講座にも参加して、本業もやって……と充実していました。
当時は半導体メーカーの営業職だったので、昼間は本業に集中し、杵の川の業務は終業後に取り組んでいました。報酬は酒払いというシステムでしたので、日本酒欲しさに励んでいた面もあります(笑)。飲みきれないほどいただいたので、取引先のお客様に手土産で持って行く等、まさに話を進めやすくする武器にもできて、いい経験になりました」
衝撃の連続だったコーディネート業務。相手の思いを引き出すことの大切さに気付く
就職以来ビジネス1本でやってきた小森さんにとって、コーディネート業務は衝撃の連続でした。
「当初は、事業者と副業人材をつなげるなんて、ホームページに募集を出しておけばそれでいいじゃないかと思っていたんですけど、全然違いました(笑)。マッチングできるかは、事業家と応募者、双方の思いをどれだけ汲み取れるかにかかっています。20年営業をやってきて、傾聴が大事だとわかってはいたものの、また違う視点からその大切さがわかりました」
小森さんがコーディネーターとして初めて伴走したのが、千葉市のフラワーバルーン専門店・MK Balloonの販路拡大プロジェクトです。小森さんの長男の高校の卒業式に、MK Balloonが会場を装飾する業者として入っていたというご縁が、コーディネートにつながったといいます。
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ギフトとして人気のフラワーバルーン
「本当に全てが新鮮でした。B to Bだとどうしても利益ありきなので、会社の顔として、自社の利益になるかどうかを考えて動くというのが基本です。顧客との取引条件が合わなければ取引をしないという選択肢もあるわけですが、コーディネート業務はそういうわけにもいきません。顔見知りの事業者さんであればなおさらです。
普段ならこの仕事をしたらいくらになるか勘定してしまうところですが、まず相手が何に困っているのかを考えるのがコーディネーターなんだと思います。B to Bにおいてもないことはないですが、極端なくらいこちらの利益は後回しで、相手の利益が先という感覚です。副業人材の力を借りて、事業家として本当にやってみたいことに挑戦する気になってもらうために、何をどう聞き出して対応したらいいかというのは相当考えました」
コーディネーターの仕事は、経営者へのヒアリングから始まります。募集要綱案や副業人材を募集するためのプロジェクトページ作成に向け、事業の魅力や経営課題、プロジェクトを通じてどのような状態を目指したいのか、時には経営者自身が気付いていないことまで引き出す必要があります。
「ボランティア精神で臨もうと思ってはいましたが、それ以上に心の底から相手のことを先に考えるという姿勢がベースにあると感じます。目の前の事業者さんが本当にやりたいこと、必要としていることをなんとか引き出したいと、祈り込むような気持ちで対峙していました」
人事分野の経験がなかった小森さんは、応募者との面談にも一苦労だったそうです。
「営業マンだったので、人を見る目はある方だと思っていたんですけど、全くわかりませんでしたね(笑)。元々人が好きなので、どの応募者もよく見えてしまって……応募者の方を知るということにものすごくエネルギーを使いました。
こんな風に、初めてのコーディネート案件は大変なことだらけでした。ですが、それまで営業活動はしたことがなかったという社長さんがご自身で売り込みをされるようになる等、プロジェクト終了後も続くような変化が生まれたので、伴走できてよかったと思っています」
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MK Balloonの北畠社長が作成した営業資料の一部
長崎だからやりたい。がんをきっかけに考えた、これからの人生の使い方
小森さんの人生は、副業でのコーディネーター活動を経て大きな転機を迎えます。
「去年がんを患ってしばらくお休みをいただいたことで、自分の人生を本気で考えました。僕の父は7年前にすい臓がんで亡くなったので、どうしてもそのことが頭をよぎります。まだ65歳でした。精神保健福祉士だった父は、60歳のときに退職金をはたいて、心の病を持った方の社会復帰をサポートする職業訓練のNPO法人を立ち上げたんですが、せっかくやりたいことがあったのに病気に阻まれてしまったんです。
父と同じ年で亡くなるとしたら、あと20年弱しかありません。これからどんな働き方をするべきか考えたときに、まずは長崎に帰りたいという思いがありました。そして、『好きで充実している半導体材料の営業の仕事』と、『都市部と比べて給料が低い長崎の賃金を引き上げ、地域の人材が潤う雇用を生み出すために伴走支援をする仕事』のどちらをしたいか、突き詰めたところ後者だったのです。
稼げる企業をつくることは、賃金格差の是正や人口流出を少しでも防ぐことにつながります。長崎のためにという本気の熱意で動ける人間が必要ですし、じゃあそれは僕がやらずに誰がやるんだ、という思いがありました。
現役の内に長崎に戻るチャンスは年齢的にこれが最後かもしれないと、1年間散々悩んだ結果、この春退職して長崎にUターンすることを決意しました。今、いろいろな方に退職のご挨拶をしている最中ですが、みなさんから『小森さんならできる』、『小森さんしかできない』、『小森さんらしい』と言っていただいています。スリリングでチャレンジングな環境に身を置く、不退転の覚悟が芽生えてきました。 他の地域だったらここまでの気持ちにはなれなかったんじゃないでしょうか。やっぱり長崎だからやりたいですね。自分だからこそやれたという仕事になればうれしいです」
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佐世保の精霊流しにて親戚との一枚。麦わら帽子が小森さん、黄色いシャツがお父様
地域に関わることで人とつながり、点から線へ、線から面へ、そして新しい人生へ
夫婦ともに長崎出身だったこともあり、家族は小森さんの決断を尊重してくれました。これまで培った営業スキルを活かし、自分自身を行政に売り込んでいった小森さん。5月からは、長崎で新たな地域プロジェクトに関わる予定です。最後に、副業での人材コーディネーターに関心がある方へのメッセージをいただきました。
「杵の川酒蔵のプロジェクトが掲載されていた『YOSOMON!』で募集しているような副業人材や、僕達のようなコーディネーター、いずれの立場でも、地域に関わっていくことで人との関係が点と点から線になり、面になってつながっていきます。僕も当初はここまでつながるとは思っていませんでしたし、B to Bの営業しか経験がないことに少々後めたさがあリました。しかし、地域ではB to B営業の経験を持っている人が少ないので意外に重宝され、いつの間にか目の前に道が広がっていたという感覚です。少しでも興味があるなら、まずはやってみてください。
副業はエネルギーも必要ですし大変ですが、40代から始めた僕が地域コーディネーターになっているんだから、きっとなれます。それに、いわゆる管理職にあたる人材が、それなりの給料を捨ててまで地域に飛び込むというインパクトは大きいのではないでしょうか。20年近く社会経験を積んだ人が来るからこそ得られる信頼もあると思います。
僕の場合、より大変な方に挑戦するというのが性に合っているんですよね。今の仕事もワクワクするけど、これから入る世界の方がもっとワクワクする。そんな感じです」
2024年は、副業として地域コーディネーターに挑戦したいという方向けの「地域人材コーディネーター養成講座」を開催予定です。興味のある方はぜひご応募ください。
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