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大人は「遊びリーダー」になろう!連続起業家・孫泰蔵さんが考えるAI時代の学びや仕事とは?─ETIC.30周年ギャザリングレポート(6)

2024.03.26 

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当メディアを運営しているNPO法人ETIC.(エティック)は2023年、設立30周年を迎えました。12月には、記念イベントとして、「ETIC.30周年ギャザリング〜つながろう、語ろう〜」を開催しました。

 

本記事では、イベント当日のコンテンツの中から、“「世界は自分で変えられる」AI時代の学びと仕事を考える”というトークセッションの様子をお届けいたします。

 

このセッションでは、「冒険の書 AI時代のアンラーニング」の著者で、エティックの創業期からの理事でもあった孫泰蔵さんに、これからの時代の教育や仕事についてお話いただきました。

 

※掲載情報はイベント開催当時のものです。

※トークセッションの内容を再構成し、発言は一部加筆修正しております。

 

<登壇者>

孫泰蔵さん / 連続起業家

1996年、大学在学中に起業して以来、一貫してインターネット関連のテック・スタートアップの立ち上げに従事。2009年に「アジアにシリコンバレーのようなスタートアップのエコシステムをつくる」というビジョンを掲げ、スタートアップ・アクセラレーターであるMOVIDA JAPANを創業。2014年にはソーシャル・インパクトの創出を使命とするMistletoeをスタートさせ、世界の社会課題を解決しうるスタートアップの支援を通じて後進起業家の育成とエコシステムの発展に尽力。そして2016年、子どもに創造的な学びの環境を提供するグローバル・コミュニティであるVIVITAを創業し、良い未来をつくり出すための社会的なミッションを持つ事業を手がけるなど、その活動は多岐にわたり広がりを見せている。

 

<モデレーター>

齊藤 涼太郎さん / FULMA株式会社・代表取締役

1996年生まれ 北海道旭川市出身 慶應義塾大学卒 2016年FULMA株式会社創業、代表取締役 ForbesJapan"新しいイノベーション!日本の担い手99選"選出 子供たちのやりたいこと、夢を応援しています。100年企業をつくります。

「とにかくなんでもできる」「好きなことをやっていい」という心理的な安全が担保された場所を提供したい、という想いからできたVIVITA

 

齊藤 : 本日はよろしくお願いします。泰蔵さんは、ご自身の考えを書籍『冒険の書 AI時代のアンラーニング』にまとめながら、フィールドとして、「VIVITA」(*)もつくっていらっしゃいますが、ぜひVIVITAのご説明をいただいてもよろしいでしょうか?

 

(*) 孫泰蔵さんは、2016年、子どもに創造的な学びの環境を提供するグローバル・コミュニティであるVIVITAを創業し、良い未来をつくり出すための社会的なミッションを持つ事業を手がけています。

 

孫泰蔵 : VIVITAは、一言で言うと、「誰でも無料で来れて、つくりたいものがなんでもつくれる場所をつくろう」ということで、千葉の柏の葉からスタートしまして、現在7か国、15〜16ヶ所ぐらいに拠点があります。VIVITAでは、特に立ち上がり期は、“大人は入っちゃいけない”ということにしていて、“子どもしか入れない”場所になっています。すでに1万人ぐらいの子どもたちがVIVITAで“つくっている”と思います。

 

齊藤 : 当時ぼくらも柏の葉で教室を運営していて、お隣がVIVITAさんでした。いろいろな廃材やマテリアルなどが置いてあって、それらを使って子どもたちが自分たちでいろいろなものをつくって、ロボットの大会なども開催されてましたよね。

 

孫泰蔵 : そうですね。廃材を処理再生している産廃事業者さんと提携して、「これ、面白そう」という廃材を毎週持ってきていただき、それらを使ってみんなどんどんつくっていますね。

 

というのも、ぼくらが小さい頃は空き地もたくさんあって、秘密基地を勝手につくったりして遊んでいました。そういった経験がじぶんの大事な部分を培ったと思っています。けれど、いまはたとえば、子どもたちが公園に行って遊ぼうと思っても禁止事項だらけです。

 

「とにかくなんでもできる」「好きなことをやっていい」という心理的な安全が担保された場所を提供したいというのが、VIVITAの最初のシンプルな考え方でした。

 

エストニアで盛んになっているVIVITA

 

孫泰蔵 : エストニアという国では、VIVITAがいま非常に盛んになっています。

 

子どもがコンサルタントの、コンサルティング会社が誕生しました。おそらく世界初です。たとえば、博物館や美術館などの公共施設の入場者が少ないという悩みに対して、子どもたちが提案をして、実際に観客動員が2.5倍になりました。それから依頼がどんどんきているようです。

 

ほかにも、とあるスーパーマーケットに対しては、「子どもたちにも優しいスーパーマーケット」という提案をして、具体的には“子どもの背の高さに合わせたレジ”や“棚割りも子どもたち目線から取りやすいように”といった発想が子どもたちから出てきました。その後、そのスーパーマーケットはガラッと変わって、ファミリーフレンドリーになり、子どもたちと一緒に来店するお客さんが増えて、売上が上がったそうです。

 

本当に価値提供するコンサルティング会社になってきています。

 

齊藤 : すごいですね。実際にそういった成功事例が出てくると、周りの見方も変わりますよね。

 

孫泰蔵 : そうですね。

 

齊藤 : ちなみにそのコンサルティングは無料ですか?それとも有料ですか?

 

孫泰蔵 : ちゃんと有料でやっています。ヨーロッパでも、子どもを正式に雇用するというのは難しいので、そこは仕組みをつくりながら、監査などもちゃんと入っています。立派なコンサルティングファームです。

 

トークセッションの様子(左:孫泰蔵さん、右:齊藤涼太郎さん)

トークセッションの様子(左:孫泰蔵さん、右:齊藤涼太郎さん)

「子ども」という概念自体を見つめ直してみる──

 

齊藤 : 書籍の中で、“「子ども」が「大人」と区別されるようになったことも大きな問題”と書かれていらっしゃいましたが、解説いただいてもよろしいでしょうか?

 

孫泰蔵 : 子どもに関しては、『子どもは保護すべき存在だから』という建前のもと、たとえば投票権もありませんし、就労する機会もないですし、いろいろと制限されていると思います。

 

そのことを特に強く感じる場面があります。たとえば自治体で、「未来の街をどうつくろうか」というテーマの話し合いが開催されたとして、そこに子どもは一人も参加していないわけですよ。街づくりって10年や20年ぐらいかかって取り組んでいくもので、将来その新しい街に暮らすのはいまの若い子たちなはずなのに、その子どもたちの声が反映されない状況というのは、一体どういうことなんだと思っています。

 

齊藤 : たしかにそうですね。

 

孫泰蔵 : 書籍にも書きましたが、本来は、「子ども」と「大人」の区別はなかったんですね。「子ども」という概念は、太古の昔から存在していた概念だと自分自身も思っていましたので、近代になってからつくられた概念だということを知ったときは衝撃を受けました。

 

一方で、アップデートするべきなのに、相変わらず、「子どもはただ保護するべき存在」として区別しているところに、ぼくはいろいろな問題があると思っています。

 

齊藤 : いまってやはり、子どもは守られるべき対象で、子ども自身で選べる範囲も狭まってしまっていると感じるのですが、子どもが自分の権利を拡大していこうと考えたときに、子ども自身や周りの大人たちができることって、たとえばどのようなことが考えられるのでしょうか?

 

孫泰蔵 : 子どもたちの場合は、「やっちゃえばいい」と思います。そしてその姿を見て、「いいね」って言ってどんどん背中を押してあげるのが、わたしたち大人がやれることです。まさにこのセッションの一つ前の、MAKERS UNIVERSITY U-18のようなもの(*)をどんどん応援してあげるのが一番だと思います。

 

(*) このトークセッションの一つ前に、同会場で、「U18イノベーターによるショートピッチ」が開催されており、孫泰蔵さんもU-18世代のピッチを聞いていらっしゃいました。そのショートピッチの開催レポートはこちら

みんなで一緒に、「遊びリーダー」でやっていきましょう!

 

齊藤 : 「教育を良くしたい」と考えている方はたくさんいらっしゃると思います。特に教育関係の方に向けて、泰蔵さんからメッセージはありますか?もしあればぜひお伺いできればと思います。

 

孫泰蔵 : あります。教育を変えようという場合にはどうしても、「“学校”をどう変えたらいいんだろう」という話になってしまいます。そこには、「教育のことは、すべて学校に任せる」という前提が含まれていると思います。

 

齊藤 : たしかに。

 

孫泰蔵 : しかし、そもそも学校は学びの中の“ほんの一部”であって、“社会全体”が学びの場なはずです。

 

社会全体を学びの場として捉えた上で、「子どもたちにどのような学びの場や機会を提供するべきか」ということを考え、そういった場や機会をつくっていくと良いと思います。

 

また、AIは世の中を本当にガラッと変え、いままでの常識が本当に逆転するぐらい変わってしまうと考えています。そのときに当然、「教える」という行為自体も変わっていきます。もちろんAIの方が上手に素晴らしく教えてくれます。

 

そう考えると、書籍でも“遊びと学びはもともとシームレスにつながっている”とも書いたのですが、いまの先生のみなさんにはぜひ、「遊びリーダー」に変わってほしいです。

 

齊藤 : 遊びリーダー?

 

孫泰蔵 : はい。ここでいう遊びリーダーとは、「学校の中で、一番遊んでいる人」であり、「学校の中で、一番新しい遊びを持ち込む人」のことです。

 

先生が“おもしろい”って言いながら遊んでいると、“なになに?”って生徒の好奇心も出てきて、先生の周りに生徒がおのずと集まってきます。そして、先生と生徒が一緒に遊んでいると、「結果的に」その子はとても学んでいる状態にもなる──遊びリーダーとはそんなイメージです。

 

齊藤 : なるほど。先生や大人自身も楽しんでる、というのもいいですね。

 

孫泰蔵 : いまは逆に、効率が求められ、息苦しささえ感じます。しかし、もしみんなが楽しんでいたら、たぶん雰囲気もどんどん良くなって、ピリピリしたことを言う人も少なくなって、社会全体がいい感じにゆるんでくると思います。

 

齊藤 : たしかにそうですね。生産性や効率化が進みすぎてしまったのが、いまの時代かもしれないですね。

 

孫泰蔵 : そうです、そうです。そういったことはAIが担ってくれます。わたしたちはみんなで一緒に、もっとゆるんで、「遊びリーダー」でやっていきましょう!

 

トークセッションの様子

トークセッションの様子

孫泰蔵さんのお話をもっとお読みになりたい方のために──

 

以上、“「世界は自分で変えられる」AI時代の学びと仕事を考える”というトークセッションの内容をWEB記事用に再構成した上で、みなさんにお届けいたしましたが、いかがでしたでしょうか。

 

最後に、書籍「冒険の書 AI時代のアンラーニング」の一節をみなさんにご紹介して、この記事をおわりにしたいと思います。最後までお読みくださりありがとうございました。

 

 

やりたくもない勉強なんかしなくても、しかめっ面して仕事しなくても、未来のことばっかり考えて不安にならなくても、ただ楽しい遊びをとことん追究すればいいじゃない。

 

なにが役に立つかわからないんだから、世の中で良いとされてるものに従わなくても、誰かが決めた評価軸に合わせなくてもいいじゃない。

 

自分の好きなことを追究したほうが結局、自分にとってもみんなにとっても役に立つかもしれないよ。子どもを子ども扱いせず、大人を大人扱いせず、なんでも一緒につくって、なんでも分かちあっていけば、きっとうまくいくはず。それで一生を楽しく送れたら、最高じゃない?

 

「冒険の書 AI時代のアンラーニング」(著者:孫泰蔵)より抜粋

 


 

孫泰蔵さんのお話をもっとお読みになりたい方のために、DRIVE過去記事のリンクも以下に掲載しております。示唆に富む内容ばかりですので、ぜひあわせてご覧くださいませ。

 

思考と事業を飛躍させる「Out-of-the-box thinking」とは?孫泰蔵氏SUSANOO特別講座レポート(2018年04月05日)

 

ワイルドなほうへ! ~孫泰蔵さんの10年後の未来を創るやりかた(2016年03月01日)

 

「SUSANOOが取り組む3つの社会テーマ」ソーシャル・スタートアップ・アクセラレーター・プログラム「SUSANOO」コーファウンダー・孫泰蔵さん(2014年04月07日)

 

「人々の生活を変える”ソーシャル・スタートアップ”を応援したい」ソーシャル・スタートアップ・アクセラレーター・プログラム「SUSANOO」コーファウンダー・孫泰蔵さん(2014年04月07日)

 

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この記事を書いたユーザー
Ryota Yasuda

Ryota Yasuda

1989年生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒業。執筆・編集する、アート作品をつくる、ハンドドリップでコーヒーを淹れる、DJする、など。「多趣味多才」をモットーに生きている。2015年よりETIC.参画(〜2023年5月末まで)。DRIVEでの執筆記事一覧 : https://drive.media/search-result?sw=Ryota+Yasuda

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