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インターンシップを支えるコーディネーターに求められる2つの要素とは?「長期実践型インターンシップ入門」出版記念イベントレポート【2】

2024.05.20 

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NPO法人ETIC.(エティック)は、1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」プログラムをスタートし、2003年に発足した「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト(以下、チャレコミ)」のメンバーである全国の中間支援組織と一緒に、各地の中小企業を受け入れ先としてインターンシップを行ってきました。

このたび、その実践知のエッセンスを詰め込んだ書籍『長期実践型インターンシップ入門』が出版されました。

 

前編の記事では、「長期実践型インターンシッププログラム」の誕生と地域での取り組みについて紹介しました。 後編では、「長期実践型インターンシッププログラム」に欠かせないコーディネーターについて紹介します。

 

<登壇者>

モデレーター:今永典秀(いまなが・のりひで)さん/名古屋産業大学

伊藤淳司(いとう・じゅんじ)/NPO法人ETIC.

南田修司(みなみだ・しゅうじ)さん/NPO法人G-net

木村亮介(きむら・りょうすけ)さん/NPO法人G-net

市川大祐(いちかわ・だいすけ)さん/岐阜協立大学

桑畑夏生(くわはた・なつき)さん/宮崎大学

松林康博(まつばやし・やすひろ)さん/名古屋産業大学

篠田啓介(しのだ・けいすけ)さん/NPO法人 Teach For Japan

 

コーディネーターは大学生と企業に寄り添いながら伴走する双方の調律師

 

伊藤: コーディネーターの役割は、インターンシップでいうと、そもそも違う考えを持っている人たち同士(学生・企業・大学)が何か新たなことをチャレンジする時に、第三者として客観的に、どちらの味方でもなく双方に寄り添いながら伴走していくことです。学生も、受け入れ企業も、インターンの目的が何なのかをすり合わせながら進めていくという点でコーディネーターは非常に重要です。

 

南田さん: 会社は会社のため、学生は自分のためにと思うことが出発点なので、双方の考えがずれることがあります。重要なのは、どちらも間違っていない、どちらも正しいということを前提に、お互いにとって納得できる正解を一緒に作ることです。いつも傍にコーディネーターが第三者としていてくれることの安心感はすごくあります。

 

また、聞き役、問いかけ役としてだけでなく、お互いの合意形成を図る、プロジェクトの成果を出す、さらに学びとしてのパフォーマンスを上げるなど、全体を見渡しながら調整し調律するのが大きな役目だと思います。

 

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ETIC.伊藤淳司の発表資料より

 

伊藤: コーディネーターに求められることは大きく2つあります。

1つ目はコミュニケーション能力。インターンシップでは企業と大学生という異なる主体を、つないでいくためにコミュニケーションが非常に大切な仕事になってきます。

 

もう1つはコーディネーター自身に、誰にも負けない何か=武器(強み)があるということです。

これまでの経験やスキル、能力から、これが自分の得意分野(長所)と言えるものがあると、コーディネートしていく時に非常に大きな寄りどころになることが多いです。

逆に言うと、この2つさえあれば、どんな方でもチャレンジできると思います。

 

南田さん: コーディネーターは、能力だけではなく、スタンスが大事です。どういうスタンスで若者や企業と関わるのか。それによって結果に差が出ると感じます。

 

主体者である学生や企業から舵取りを奪わない姿勢や、あくまで”学生と企業の”取り組みだと少し引いた視点と、自分もそのチームの一員だと踏み込む視点を両立するスタンスがあってこそ、コーディネーターの力が生きてくると思います。

企業は本気でやりたいことをプロジェクトにする。自分ゴトとして学生を受け入れられるかがポイント

 

今永さん:受け入れ側企業にとって大事な視点はどういものですか?

 

南田さん: 受け入れ先という観点で見ると、企業規模の大小というよりは、いかに企業も当事者として関わる自覚を持って学生を受け入れられるかが非常にポイントになります。

 

伊藤: 企業にとっては、プロジェクトが学生と一緒に本気でやりたいと思えるものでないと、時間を割いてまで学生の面倒を見る気になれません。

 

コーディネーターは、地域や経営者に、採用目線や片手間の受け入れでなく、企業(社長)が本当にやりたいことは何ですか?ということをいかに本音で聞けるかが非常に大事だと思います。

 

インターンシップ経験者の追跡調査から見えた「何のために働くのか」

 

今永さん:本書で一番印象に残ったのは何ですか?

 

伊藤: 面白かったのは、「長期実践型インターンシップ」を学生時代に経験した人たちがその後(現在)、どうなっているかの追跡調査です。

インターンシップの体験談は溢れていますが、目的と役割、効能、どういうことが大事なのか、結果的に社会で生かされているのかどうか、という調査は非常に貴重です。

 

南田さん: 僕もこの追跡調査が1番のポイントだと思います。

自分がなぜ仕事をするのか、何のために働くのか、どんなことを大事にするかがフィードバックされたのはすごく印象的でした。

 

企業の大小に関係なく、誰かの困りごとに向き合う中で、課題やニーズが可視化され、そこに自分の持っている武器や資源を活用して、仕事の構造の全体感を体感できる。そうした仕事を目の前で背中を見せてリードしてくれる師匠や仲間や先輩がいる。こうした醍醐味を体験しやすい取り組みだから、熱量を持って続けていけると感じました。

 

今永さん:ここからは共著者の皆さんにも一言ずついただきたいと思います。

 

木村亮介(きむら・りょうすけ)さん/NPO法人G-net コーディネーター

NPO法人JAE、和歌山大学の教員を経て現職。キャリア教育や実践型インターンシップ、地域志向キャリア教育カリキュラムの運営。

 

木村さん: 長期実践型インターンシップは日本ではまだ一般的ではありません。海外では短期インターンシップは無く、長期のインターンシップで経験を積みます。しかし、日本では長期の事例が少なく、学生や大学教員、企業側もイメージしにくい状況です。

 

そのため、実際の事例を知り、イメージを持つことが重要です。そうしなければ、私が和歌山大学で長期実践型インターンシップを始めた時のように、学生は受身で、参加希望者も限られてしまうでしょう。

 

PBL型(Project Based Learning型・課題解決型学習)の授業や、高校での探求学習の増加もあり、長期のインターンシップに挑戦できる環境が整う中、具体的な事例や経験談が多数掲載され、長期実践型インターンシップのイメージを高めるのに本書は役立ちます。

確かめる機会を得ながらインターンシップをすることに意義がある

 

市川大祐(いちかわ・だいすけ)さん/岐阜協立大学経営学部専任講師

民間企業(情報システム会社)、専門学校での教員を経て現職。

岐阜県DX 推進コンソーシアム DX 事例研究会委員など。

 

市川さん: 社会経験が無い学生からすると、大学で学ぶことがどう社会で活かされるかイメージできないまま大学の4年間が過ぎてしまいます。

 

ですが、インターンシップを通じて一度社会に出ることで、大学の先生に言われたことやテキストに書いてあることを確かめる機会となります。これは学生にとても意義があると感じています。

インターンシップを通じて変化する学生たち

 

桑畑夏生(くわはた・なつき)さん/宮崎大学地域資源創成学部講師、NPO法人グローカルアカデミー代表理事

大学卒業後、NPO法人ETIC.にてインターンシップのコーディネーターとして5年間の修行を積んだ後、地元宮崎へUターン。

高校生・大学生向けのキャリア教育プログラムの企画・運営も行う

 

桑畑さん: 私は宮崎大学地域資源創成学部で1ヶ月間のインターンシップのコーディネーターをしています。

 

最初は学内の理解を得るのが難しかったですが、実績を積む中で徐々に理解が深まりました。毎年約70~80人の学生が参加し、インターンシップを通じて変化する学生たちを見るのはとても感動的です。インターンシップが学生に与える影響は非常に価値が高く、卒業生アンケートでもそれは示されています。

 

インターンシップには、新たなキャリアの道が開ける可能性があります。そのマインドを伝える一助となることを期待して、この本と共にインターンシップをどんどん広めていきたいと思います。

インターンシップの重要な点は、全員が同じ熱量で関わること

 

松林康博(まつばやし・やすひろ)さん/名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科准教授

大学卒業後、食品通販でエンジニアから人事へと異動。

2013年4月にインターンシップ専業のNPO法人を創設し事務局長。2022年4月より現職。

 

松林さん: 私は、大学教員として長期実践型インターンシップのコーディネーターをしています。

インターンシップの満足度や成果は、学生のやる気、企業や大学の協力など各要素が掛け合わさって初めて生まれます。その時に重要なのは、全員が同じ熱量で関わること、そして、学生の心の内を理解し、その思いを叶えるための取り組みを行うことです。

 

そうしたインターンシップに関する理解を深め、そのエッセンスを共有することができる点で、この本は企業、学生、そして大学教員やコーディネーターの方々全員に読む価値があると思います。

コミュニケーションを工夫して学生と企業とバランス取るのが大事

 

篠田啓介(しのだ・けいすけ)さん/NPO法人 Teach For Japan にて大学生向けのインターンシッププログラム及びキャリア教育プログラムの企画・運営を担当。

プログラムを通じて、教育分野に進む大学生・大学院生のキャリア支援を行う。

 

篠田さん: 私は受け入れ企業側で、インターンシップの企画から学生の集め方、運営まで行ってきました。

その時に直面したのが、学生の気持ちを理解しきれず、コミュニケーション不足から不信感を招くなど、インターンシップでは学生と企業双方のバランスを取るのが非常に難しいことです。 その点、

 

この本には、インターンシップの仕組みや運営方法、学生との関わり方が分かりやすく記されています。インターンシップを始める企業や組織の方々にとって非常に有益な情報だと思います。

進化を続けるインターンシップにゴールはない

 

今永さん: 最後に南田さんと伊藤さんに一言ずつお願いします。

 

南田さん: 「長期実践型インターンシップ入門」は、今永先生と共に議論を積み重なてきた視点やノウハウを入門書としてまとめた一冊です。多くの学生たちに手に取ってほしいと思っています。ただ、これからは、学生が社会での実践を通じてどう学び、そして社会での学びがその後の生き方にどう繋がっていくかだけでなく、社会に出たあとも、大学で学び直す機会や、様々な立場を越えた越境機会を持つことが重要になると考えています。

 

インターンシップとは学生だけのものではなく、挑戦し学びを求める全ての方にとって身近なものになっていくと考えています。そういう意味では、社会人になった方にも手に取ってもらえるとうれしいです。

 

伊藤: インターンシップを実施する際には、目的を常に考えながら進めていくことが重要です。その目的に応じて、コーディネーターが中心的な役割を果たし、関係者の皆さんと連携しながら進めていくことが大切です。 この本はその一助になると思いますので、皆さんに読んでいただき、広めていただきたいです。

 

今永さん: 最後になりますが、この本は非常に長い時間をかけて、様々な方々と議論を重ね、調査に協力していただき、あらゆる関係者の皆様には、本当に感謝しています。皆様のご協力や助言のおかげで、より良いものを作ることができました。

 

この本は、わかりやすくどなたにも読んでいただける内容になっています。私自身も大学の中での展開や研究活動、そして多くの方々にインターンシップを取り組んでもらうために普及・発展させていくことにもコミットしたいと思っています。

 

日本の未来のために、皆さんと協力しながら様々な形で活動していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。 ありがとうございました。

 

この記事を書いたユーザー
中島久美子

中島久美子

1979年宮崎県生まれ。結婚を機に広島に移住。広島で就いた起業家支援施設での受付業務を経て自らシェアオフィス・コワーキングスペースを立ち上げ現在に至る。チャレンジする人たちの話を聞いてわくわくしたり、応援することにやりがいを感じている。

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