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一人前のNPOマネージャーになる3つのステップ【SOCIAL CAREER WEEK 2024レポート(2)】

2024.06.18 

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NPOで働くことを考えたとき、気になるのが、年収、キャリアの積み重ね方、成長していけるかどうか、ではないでしょうか。「人材育成の体制や環境が、企業よりも整っていないのでは?」といった声もよく聞かれます。

 

NPO入職後に、どんな力をつけ、裁量と年収をあげていくと良いのか、今回、NPOでのキャリアステップについて、NPOでの経験豊富な方々にお話をお聞きしました。そこから、経営側・人材育成の視点の3つのポイントと具体的なキャリアステップの方法をご紹介します。

 

自分の能力を発揮しながらマネージャーを目指したい方、自分らしくキャリアを積みたい方など興味がある方の参考になれば幸いです。

 

※本記事は、NPO法人ETIC.(エティック)が運営する求人サイト「DRIVEキャリア」開催のオンラインイベント『SOCIAL CAREER WEEK 2024』の一部を紹介するレポートです(全7回連載の2回)。

 

<登壇者>

宮崎真理子さん コモンライト合同会社 代表

町 浩一郎さん 特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン/コミュニケーション部マネージャー

<ファシリテーター>

腰塚志乃 NPO法人ETIC. コーディネーター

NPOのキャリア 3つのステップ

第1ステップ「プレイヤーとして一人前になる」ために必要なこと

●ソーシャルビジネスの3つの特徴

――コモンライト合同会社の宮崎さんは、主に人材育成や組織開発をサポートする事業を展開されています。様々なNPOの経営に触れた経験から、株式会社とNPOの違いについて感じていることを教えてください。

 

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宮崎真理子さん/コモンライト合同会社 代表

大学卒業後、大手アパレルメーカー入社。その後、ベンチャー企業に転じ、2008年保育福祉の認定NPO法人フローレンスに参画。事務局長、副代表理事として、社会性と経済性の両立を目指し経営の舵取りを行う。在職12年間で、1つだった事業は8へ、スタッフ数700名へと成長した。組織のさらなる進化のためには新陳代謝が必要と考え、2020年に独立。フリーランスとして活動後、コモンライト合同会社を設立。営利/非営利を問わず、経営チームに伴走し、未来にとって最良のインパクト創出に取り組んでいる。

 

宮崎さん : 自分自身の子育て経験の原体験を元に、ビジネスからソーシャルセクターに飛び込んで、約15年になります。最初は、創業したばかりの保育のNPOで課題解決に向けた事業や組織作りを経験してきました。現在は、コモンライト合同会社の代表として、介護や看護に関連した事業を作ろうとしている企業の仲間を応援しています。

 

宮崎さん_コモンライトHP

宮崎さんが代表を務めるコモンライト合同会社のWEBサイトより

 

最初に、ソーシャルビジネスには大きな特徴が3つあると考えています。

 

【1】同じ事業をする団体・企業は、事業や市場での競争相手ではなく、ともに創る「共創」仲間。自団体だけで社会の課題解決は難しいため、仲間が増えてほしいとの想いがある。

【2】利益や市場を自団体だけで独占するのではなく、多様な支援者、サービスを提供するために同じ業界の団体・企業とともに栄える「共栄」を目指す。エコシステム全体が繁栄するように。

【3】ビジネスはユーザーの課題解決や利益になることを目的にする一方で、ソーシャルビジネスは、受益者にとって助けになることを一番の目的に事業展開する。受益者に「寄り添う」。ユーザーの関係者も受益者に含まれるため、課題は複雑で個別性は高くなる。

 

ソーシャルビジネスは、一般的なビジネスとは、働く人たちの行動原理や価値観、組織のOSが大きく異なります。

 

プレイヤーとして課題解決に貢献するために

組織の大きな特徴は、スピード感をともなう成長期が続くことです。私は、「永遠の成長期」と呼んでいます。具体的には、次のような流れがぐるぐると続くことが多いと実感しています。

 

1 課題解決のために事業が立ち上がる。

2 前例がない中、摸索しながら実践をする。

3 課題解決の手ごたえを少しずつ感じていく中で、新たな課題が見つかる。

4 課題解決のための事業を立ち上げる。

 

ソーシャルビジネス特有の流れを自分たちで作り続ける中で、「プレイヤーとして一人前に働く」ために知っておきたい心構えは、大きく次の4つだと思っています。

 

・「永遠に続く成長期」を、少数精鋭でつくり、支える団体が多い。

・少数精鋭だからこそ、創業者との距離も近く感じられる。ビジョン達成に向かって常に情熱を持って走り続けるリーダーの近くで、プレイヤーたちは働きながら様々な学びを得ている。

・「事が起きたら、全員出動!」といった環境の中、プレイヤーが担う業務も流動的で変化しやすい。

・お互いの強み・弱みを補い合いながら、自分ができることに力を注ぐ。この考え方は、普段、受益者に寄り添う事業を展開するソーシャルビジネスならではかもしれない。

 

●「なぜ、今、目の前の仕事をしているのか」を明確に

限られた人数で、流動的な業務を常に推進する環境だからこそ、大事にしたいことがあります。それは、「自分はなぜ、今、目の前の仕事をしているのか」、その動機を常に意識することです。

 

目の前の課題に対して、「どうすればできるか」を考え、柔軟に動くことが求められるNPOでは、意識的に自分の立ち位置と動機をしっかりと認識することが迷いをなくすことにつながります。

 

動機を意識できれば、たとえ目の前の出来事が想定とは違っていたとしても、その先につながるビジョン、目指したい世界につながると納得感を持って動けるようになるはずです。

 

逆に、「自分の役割は決まっているから、それ以上はやらない」といった働き方を想定している人は相性が合わないかもしれません。

第2ステップ「マネージャーに求められる3つのマネジメント」

宮崎さん : プレイヤーとして成長を遂げていくと、リーダーシップを発揮する業務を担うステップへと移行します。そのとき、周囲からマネージャーへ求められる成果は3つあると思っています。

 

・「事業マネジメント」:事業で成果を出す(目標を達成する)

・「組織マネジメント」:いいチームをつくる

・「環境マネジメント」:成果を出しやすい環境を作る

 

「事業マネジメント」については、社会課題解決が最大の目的だからこそ、数字にこだわり、きちんと成果を出し、世に広めていくことが重要です。そうでなければ、人や資金など次の課題解決のための資源を獲得することはできません。

 

「組織マネジメント」で良いチームを作ることも、マネージャーの役割としてすごく重要です。ビジネスの領域でも同じことが起きていますが、メンバーの多様化が進んでいます。ボランティア、インターン生、フルタイムなど、いろいろな関わり方の人たちと一緒に成果を出せるようにマネジメントをしていくことが求められます。

 

次に、成果を出しやすいように環境を整える「環境マネジメント」も大事です。その一つに、自分の心身も丁寧に整えることがすごく重要だと思っています。

第3ステップ「マネージャーとして一人前になるまでの成長プロセス」

宮崎さん : 次に、「マネージャーの成長プロセス」についてお話します。ソーシャルの領域に転職後、プレイヤーとして任される業務が増えて、マネージャーへとステップアップしたとき、一人前の仕事ができるまでは5年くらい必要だと考えています。

 

【マネージャーの成長プロセス】

■ステップ1「知」:マネジメントに関する基礎知識を知る・マネジメントを身につける(習得期間は通常0.5年)

■ステップ2「守」:(支援を受けて)マネジメントを実践し、決められた成果を(なんとか)出すことができる(習得期間は1年)

■ステップ3「破」:現状を分析し、試行錯誤を重ねて、自律的に改良・改善を進めることができる。成果も効果的に出せる(習得期間は2年)

■ステップ4「離」:マネジメントに関する自分なりのセオリーとメソッドを持てる。成果も自分にしか出せない、新しい成果を出すことができる(習得期間は2年)

 

「マネジメントに関する基礎知識を得て知る」→「チームワークや事業を守る」→「自分らしいマネジメントをしていく」まで数年は必要だと思っています。そこまでの経緯を組織としてどうサポートしていくかが、経営的な課題なのだろうとも考えています。

 

プレイヤーからマネージャーへと成長するまでの2つの壁

●マネージャーになる人が超えるべき2つの壁

宮崎さん : 最後に、プレイヤーとして一人前になるまでと同様に、プレイヤーからマネージャーへと成長するまでにはやはり壁があって、今回、2つの壁についてお伝えしたいと思います。

 

1つめは、「チームで成果を出す」ことです。これは最初の壁ともいえますが、マネジメントを任された方は、自分でしっかりと成果を出したことが「プレイヤーとして優秀」だと評価されたことの結果だと思います。ただ、マネージャーになると、求められる成果は、「メンバーが成果を出し、チームで目標を達成すること」になります。この点は、しばらく自分の中での切り替えが難しいことだと思っています。

 

2つめは、「意思決定」すること。つまり、決めることです。どう意思決定をするかは、どんなチームを作り、どういった成果を出すのかといった組織マネジメントに大きく影響します。ソーシャルの領域でマネージャーに求められる「意思決定」は、合理的に判断して誰がマネージャーでも同じ結論を出すことではなく、一人ひとりの価値観やその人らしさを含めた「チームでどんな結論を出すか」となり、このことはその先も大事になってきます。

 

一つの意思決定が、チームの雰囲気を変えることもあると考えると、意思決定は、マネージャーになるための大きな壁となると思います。とはいえ、すべてをマネージャーに任せてしまうとメンバーと共倒れになってしまいます。組織は、人材育成の仕組みを作ることで今回挙げた2つの壁を越えられるようサポートすることが必要で、各組織でそれぞれ工夫がされています。

 

●ソーシャルビジネスは、初めて自転車に乗ることと似ている

もう一つ、ソーシャルビジネスの特徴としてロールモデルが少ないことがあげられますが、このことは、「初めて自転車に乗ること」と同じだとも思っています。ソーシャルの領域に飛び込むことは、それまでと違う乗り物に挑戦することと同じだと思うのです。

 

興味がある人は、ヘルメットと膝当てをつけて、乗り出してほしい。後ろからしっかりと助けてくれる人がいるし、「できたね」「やったね」と喜んでくれる人もいます。ぜひ走り出して、違う世界を一緒に見てほしいと思います。すごく楽しいから。私もみなさんの自転車を後ろから押します。関心ある方は、ソーシャルの世界に入ってきてください。

事例 NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの場合

能登半島地震の直後から資金調達の準備を進め、4日目から現地の支援活動を開始

 

――特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンの町 浩一郎さんは、広報・ファンドレイジングを推進するコミュニケーション部でマネージャーをされています。ご経験から、マネージャーとしてステップアップするために必要だと思うことを教えてください。

 

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町浩一郎さん/特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン コミュニケーション部マネージャー

一般企業での海外勤務経験を経て、学生時代からの憧れであったNGOへの転職を決意し、2018年にピースウィンズ・ジャパンに入職。現在は、広報およびファンドレイジング全般を担当している。

 

町さん : 特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンに入職後、7年目くらいです。大学卒業後にスーパーベンチャーでシステムエンジニアとして働いた後、学生時代からの想いを叶えようとピースウィンズ・ジャパンに転職しました。各事業部ともに、医療従事者などスペシャリストが多い中、コミュニケーション部は私のように民間からの転職者が多い部になります。

 

ピースウィンズ・ジャパンでは、主に官がやるべきこと、官だけでなく民もやるべきことを掲げて、海外事業、災害事業、保護犬事業を展開しています。特に災害支援事業は、国内外で災害が起こった地域にはいち早く現場に駆けつけて支援を行うなど、メンバーが一丸となって活動を推進しています。

 

町さん_ピースウィンズHP

特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンのWEBサイトより。

町さんは広報・資金調達を担うコミュニケーション部のマネージャーを務めている

 

私たちコミュニケーション部でも同じで、今年1月1日に能登半島地震が起こったとき、私は実家に集まって新年のお祝いをしていましたが、地震後はすぐ自宅に戻り、3日間、資金調達の準備をし、4日から能登に入りました。各部署、各チームが現地入りし、支援を始めました。現在も支援は継続しています。

 

入職したばかりのメンバーでも結果を出せばステップアップが可能

 

町さん : ピースウィンズ・ジャパンでは、職能給の制度があって、基本的にはこの制度に沿ってステップアップをしています。事業担当者からマネージャーまで7等級まであり、さらに次長、部長など、等級に合わせて給与も決まっています。

 

例えば、メンバーという立場から1等級になり、その後、3等級くらいになるとチームリーダーくらいの役割を担います。その頃には、自分のチームを指導監督することも可能になります。4等級、5等級くらいになると、担当業務や自分の部に対して提案ができ、大きく成長していく自分のチームのマネジメントもできるようになってきます。6等級、7等級では部長の代わりになって業務の意思決定を行うことが求められるようになります。

 

また、各チームにはリーダーやマネージャーがいますが、特に私が所属するコミュニケーション部は、入職したばかりのメンバーでも秀でた結果を出したり、技能が高かったり、支援を新しく作ったり、何らかの成果を出すとステップアップすることが可能です。

 

ここ1、2年の動きとしては、コミュニケーション部ではSNSや画像を活用した情報発信に力を入れていますが、カメラマン3人くらいの映像チームが新しく結成されました。別のチームではカメラマンのリーダーやマネージャーが生まれ、さらにWEBマーケティングのチームが新しく立ち上がるなど、いろいろなチームが生まれています。

 

つまり、組織が注力するプロジェクトにおいて、まだ専属担当者がいない場合、そこで結果を出すことができればリーダーやマネージャーになれる可能性があります。チームにはマネージャーが何人でなければならないといった決まりはないので、結果を出しながらどんどん新しいことを組織に取り入れていくことでステップアップしていけると思っています。私は、こういった環境ですごく楽しく仕事をしています。

参加者からの質問

「マネージャーになるために意識したいこと、意思決定で大切にしたいことは?」

 

――参加者の方からの質問です。「マネージャーを目指すうえで意識したほうがいいことはありますか?」

 

町さん : 組織の方向性に合った成果を出すことだと思います。また、リーダーには人間性も求められるので、自分自身で内面を磨くことも必要かなと。あとは、アピールを忘れないでほしいですね。自分が手がけた仕事や成果はしっかりと評価してもらうことが大切だと思います。

 

宮崎さん : 自分を2つ上のポジションのつもりで考え、決定し、行動することがおすすめです。例えば、いつも打ち合わせに同行していた上司が病気で欠席したときに自分一人でどうすればいいかを常に考えて行動するなど、そういった思考の訓練は能力面で良い筋トレになるのではないでしょうか。

 

――次の質問です。マネージャーの大事な役割に「意思決定」がありますが、スピーディな意思決定が求められる状況で心掛けていることはありますか?

 

宮崎さん : 難しいですね。私自身、意思決定は今でも悩むテーマですが、以前、「意思決定5か条」を作ったことがあります。自分で設定した5個に対して「OKを出す」ことができたら、もう振り返らない。「自分で確認したのだから、あとは正解にするのが仕事。全力でいく」と決めていました。5個の内容は、一人ひとりのオリジナリティを大切に決めることをおすすめしますが、意思決定の後は、理論的には進めない世界へと走り出していくので、自分で自分にOKを出せることを大切にしてもらえればと思います。

 

町さん : 私の場合は職務上、広報や資金調達が業務範囲なので、基本的には団体の方向性と合っているのか、多くの人や動物のためになるのか、といった判断軸で動いています。また、誰かに相談できることであれば仲間たちと決めます。

 

「今後、NPOの立ち位置についてどう考える?」

 

――次の質問です。今後の日本のNPOの展望、これからの社会でのNPOの立ち位置についてどう考えていますか?

 

町さん : 社会貢献事業を推進する団体や企業を含めて、ソーシャルの領域は今後、大きく成長すると思っています。その理由は、民間がやらなければならないことや社会課題がますます増えていく中で、官ではできない、民間がやらなければならないことが増えてくると思っているからです。このことは、ピースウィンズ・ジャパン代表の大西健丞(おおにし けんすけ)もずっと言っていることで、私自身も思っています。

 

能登半島地震でも、多くの民間支援団体が現地入りし、一緒に活動したことで支援が推進されたように、民間の力は絶対に必要で、各民間団体の連携支援が増えていることも考えると、今後、NPOの役割はより増えそうだと考えています。

 

宮崎さん : 制度と制度の狭間で支援を作ることもそうですが、地域に入り込むなど、企業がボリュームがなければ挑戦できないところに先陣を切って入り、「できる」支援活動があることを示すソーシャルビジネスの役割は今後も求められ続けると思います。

 

また、私自身、「こうだったらいいな」と思っているのは、より民間の力が増えることです。人も資金も、ビジネスとソーシャルを行き来しながら、課題に深く関わるときと、そうではない関わり方をしながら課題に立ち向かっていくときなど、多くの人が役割を変えながら社会課題解決に参画していけるようになるといいなと思います。

 


 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。