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高校生で起業。壁に直面し事業転換する中で学んだこととは?株式会社Yoki 東出風馬さん

2024.06.25 

toC向けの英語教材販売事業とtoB向けの広告関連コンサルティング事業を経営する株式会社Yoki(ヨキ)の東出風馬さん。ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)」エントリー時はパーソナルロボットの開発事業に取り組んでいました。

 

強力なライバルの出現や困難を極めた資金調達。TSGエントリー時には想定していなかったさまざまな壁に直面し、大きく事業を転換させています。過去の自分自身を振り返って、いま教訓としていることや、「やりたいこと」を事業で実現していくための方法を伺いました。

 

真摯に、そして実直に事業に向き合う東出さんが、今見ている景色とは。

 

この記事は、現在エントリー受付中の東京都主催・400字からエントリーできるブラッシュアップ型ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」出身の起業家を紹介するWEBサイト「TSG STORIES」からの転載です。エティックは、 TOKYO STARTUP GATEWAYの運営事務局をしています。

東出 風馬(ひがしで・ふうま)さん

株式会社Yoki 代表取締役/TOKYOSTARTUPGATEWAY2016ファイナリスト

1999年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部在学中。フィルターバブルの問題をロボットを通して解決するという目的の下に2017年2月 株式会社Yoki設立。2019年ロボットを使ったオンライン個別プログラミング教室の立ち上げをきっかけに教育事業に転換。現在は、紙教材とアプリを組み合わせて学ぶおうち英語サービス「eduo(エデュオ)」を運営している。また、同事業立ち上げの知見を活かし、法人向けにデジタルマーケティングの戦略立案・実行支援を行なっている。孫正義育英財団1期生。Apple CM「Macの向こうから」選出など。

WEB https://yoki-jp.com

サービス紹介ページ https://eduo.app/

 

聞き手:栗原吏紗(NPO法人ETIC.)

ロボット開発事業から発展し、toC/toB向けに2事業を展開

 

―今、仕掛けている事業についてミッション・活動内容を教えてください。

 

TSGエントリー時は、「このうえなく優しい情報端末をつくる」をミッションにパーソナルロボットの開発に取り組んでいました。

 

IoTやAIの技術が発展すればするほど、製品サービスはよりパーソナライズ化の一途を辿ります。その一方で、心のデータはどうなのか? 人の気持ち、感情に寄り添わなければ本当の意味でパーソナライズされているとは言えないのではないか? との課題意識から生まれたビジネスでした。

 

パーソナルロボットは、感情の部分も含めてパーソナライズ化させる必要があります。そんな情報端末として最適なのが、センサーで状況を理解して会話によるスムーズなやり取りを行えて、さらに擬人化によってより深く人と関わることのできるパーソナルロボットだと考えました。TSGエントリー当初は、そのようなコンセプトで、AI・IoT時代に最適な情報端末をつくろうとしていました。

 

紆余曲折を経て、現在はtoC向けとtoB向けの2つの事業を展開しています。toC向けには、「eduo(エデュオ)」という子ども向けの英語教材サービスを展開。toB向けにはマーケティング関連のコンサルティング事業を行っています。

 

TSGエントリー当初、開発を進めていたパーソナルロボット

 

―現在の事業に至った流れを教えてください。

 

eduoは、英語絵本、ワークブック、アプリで視聴できるアニメーションを組み合わせて学ぶサービスですが、当時すべての制作を内製化していて、制作会社的な動きが可能な状況でした。その社内リソースを活かして2年ほど前から映像やグラフィックデザインの仕事を請け始め、さらにそこに上乗せする形でマーケティング支援の仕事を始めました。

 

今の2事業に関しては最初から綿密な事業計画を作って始めたわけではありませんが、売上は安定し収益も伸びてきています。現在はマーケティング支援を中心に、デザイナーやマーケティング担当と社内チームを組んでバナーやLPといった広告関連のクリエイティブを幅広く手がけています。

 

toC向け事業の「eduo」

 

―事業を進めるなかでぶつかった壁や大きな課題はありましたか?また、それをどのように乗り越えましたか?

 

パーソナルロボットの開発に心血を注いでいた時期は、世の中にない商品を生みだすことで需要そのものを作り出そうとしていました。当時は分かりませんでしたが、市場にないものを作り出すということは半ば博打のようなもので、うまくいかない可能性が高いといえます。

 

加えて、資金調達の難しさや強力な競合が出現したことで、2019年にロボットを使ったオンライン個別プログラミング教室を立ち上げていた知見を活かして、教育事業に転換することにしました。

 

―エントリー時のビジネスから現在のビジネスに事業転換するまでの経緯や葛藤について教えてください。

 

パーソナルロボットで強力な競合が出てきたことや他の競合が大量の資金をかけても浸透しておらず、破綻した企業も多かったことが、事業転換の大きなきっかけになりました。

 

私たちもプロトタイプの開発まではたどり着きましたが、いざ生産のフェーズに移ろうとしたとき、ものづくりに対する資金調達が難しいという日本特有の事情が大きな壁になりました。

ここまで取り組んできたことに対して、もったいないとの思いもありましたが、気持ちを切り替えて違うサービスに振り切ることにしました。

 

―事業転換をしたことで得られた知見はありますか?

 

当初のビジネスを終えて実感したことは、事業は始めるよりも辞めるほうが大変だということです。「石の上にも3年」とはよく言いますが、石から降りる方がよほど困難です。

 

投資家から資金調達をしていると一定の事業成長を求められますし、私自身かなりの労力と時間をかけて、真剣にプロトタイプの開発に取り組んできましたので、これまでの事業に費やしてきたことをより意味あるものにしたいという気持ちから、事業転換すること決断しました。

 

私の場合、会社そのものを清算した経験はありませんが、事業をひとつ畳むだけでも大変なことが多くあるということは知っておくべきだと感じました。

無我夢中だったパーソナルロボット開発時代の知見が今に生きている

 

―今の自分から見て、駆け出しの時にこうすればよかったと思うことはありますか?

 

2つあります。

 

ひとつはサービスを世の中に出す流れをもっと学んでおくべきだったということです。

 

大半のサービスにおいて、市場のニーズがあるかどうかは広告を掲出することで分かります。申し込みフォーム登録や資料請求といったリードの獲得単価が明確になれば、成約までにかかる費用も割り出せます。

 

事前の仮説検証でそのビジネスで稼げるかどうかの判断を下すまでは、サービスを作る必要も人を雇う必要もありません。当時はこういった知識がなく、直感的に動いていたことから、無駄な動きが多かったと思います。市場のニーズを探る前に、「まずはプロトタイプを作ろう」と開発にリソースを注ぎ込んでいました。

 

ふたつ目は、資金調達についてです。

 

当時はVCから資金調達をしましたが、今の私だったら借り入れで資金調達をします。VCからの資金調達は、資本コストの関係で10倍にまで成長させることを期待されます。求められる責任の範囲は広く、リターンへの期待値も高いです。

 

私は最初のVCからの資金調達の後は、借り入れに転換し、事業を黒字化させることに注力しました。借り入れであれば、借りた分と利息を返済さえすればよいので、リターンだけに縛られず総合的に経営判断ができるようになります。

 

もちろん、エクイティによる資金調達には大きなメリットもあり、プロトタイプの開発初期に様々なトライアンドエラーができたことは非常にありがたい側面でした。そのため、自身事業内容ややりたいことと照らし合わせて最適なものを冷静に選ぶべきだと考えています。

 

TSGエントリー時の東出さん

 

―自分自身にスイッチを入れるためにどのようなことをしていますか?

 

中長期的な目標を高く立て、目の前の目標は低くするようにしています。起業家にとってメンタルの安定は非常に大切です。私は目標を超えられるとメンタルが安定するので、小さな目標を達成してモチベーションを上げるようにしています。

 

―起業して良かったことはなんですか?

 

自分自身の市場価値をビジネスモデルの観点から俯瞰して考える力が身についたことが良かったです。

 

ビジネスモデルはマネタイズの仕組みであると同時に、企業の積み重ねた信頼や実績、仕組みの上に成り立っています。そこから従業員の給料が支払わているので、個人の能力=給料とは限りません。

起業したからこそ、客観的に自分自身を見ることができ、ビジネスモデルの観点から、さまざまな事業を見る視座を持つことができてよかったです。

TSGで得たネットワークは貴重な資産

 

―TSGではどのような出会いがありましたか。

 

もともと、ものづくりには興味があって、中学生の頃にグライダーのキットを作って売ったりもしていました。

しかし、TSGに参加するまでは様々な形態、業種、レベルの起業家や、それに対する投資家などがいること、そして起業家を支援する多くの環境があることをまったく知りませんでした。そんな私に創業資金のみならず、さまざまな情報や環境を与えてくれたのがTSGでした。

 

―TSGは東出さんにとって、どんな価値がありましたか。

 

コンテストの期間が終わっても途絶えないネットワークとコミュニティを持てていることは、プライスレスな価値だと思っています。「私もTSGに出ていたよ」という会話が、親睦を深めるきっかけになることもあります。今でもよく会うメンバーはたくさんいますし、皆がどうしているかはSNSでチェックしています。「起業したは良いものの、ここからどうしたらいい?」という時に頼りになる、目に見えないネットワークがTSGでできた気がします。

 

それから、投資家のネットワークに繋がることができたことも財産です。スモールビジネスのスタートアップの相談窓口は自治体などが設置しているケースもありますが、ある程度の資金規模の投資家コミュニティはなかなか見つけづらく、見つけたとしてもなかなか入り込みにくいことが多いです。

 

特にVCと繋がれるコミュニティはクローズドなことが多いので、TSGをきっかけに繋がれるようになったことは大きな価値となりました。私の場合は、実際に資金調達にもつながっています。

 

TSG出場時の仲間との写真

 

―これから起業を考えている方に向けて、メッセージをお願いいたします。

 

高校生で起業したということもあって、よく相談を受けたりもするのですが、「起業すること」の先にある目標を見据えることをおすすめします。

 

実際、起業そのものが目標になっているような人を多く目にしますが、本当に会社として取り組む必要があるのか、会社として何を目指していくのかをしっかりと検討してから登記するのが大切だと思います。起業はあくまでも手段ですから。 起業する理由さえ見失わなければ、目標や取り組みの内容が変わっても問題ないと思います。

 

かくいう私も、当初の想定から大きく異なるビジネスを展開していて、今はマーケティングに強い会社を作っている最中です。

大半のサービスや商品が売れるかどうかは、マーケティングにかかっています。そして、その根幹の部分に関われることに大きな喜びを感じているんです。

 

今後は「商品は良いけれど、マーケティングがうまくいっていない」という企業のM&Aも視野に入れています。自社のマーケティング分野での強みを活かし、幅広く事業展開をしていきたいです。

 


 

こちらも合わせてお読みください。

>> 「TSG2023」Starting Dayは一体どんな場なのか。起業家の卵たちの声から探る【参加者の舞台裏編】

>> 特集「夢みるために、生まれてきた。」

 

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