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「TSG2023」Starting Dayは一体どんな場だったのか。起業家の卵たちの声から探る【参加者の舞台裏編】

2024.05.27 

「東京発・400字から世界を変える」

 

2014年にスタートしたスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(TSG)」。5月14日から、2024年のコンテスト部門のエントリーが始まった。

 

このTSGでは、10期目の2023年からキックオフイベント「Starting Day (※)」が開催されるようになった。その模様を2023年7月、都内で取材した。

 

 

1年をかけたTSGのプロジェクトが幕を開けるこの日には、全国からエントリー者のみが参加。過去最高の2,963名から応募があった中、約600名が会場に集まった。

 

「起業」が大きなテーマとなるTSG、「Starting Day」でも何名かの出場者が自身の起業アイデアをステージ上で語った。さらに会場内では、イベントに足を運んだ多くの参加者たちも、様々な場で、自らまわりの人に声をかけ、自分のアイデアや思いを語っていた。

 

そんな参加者たちにとって、TSGの「Starting Day」とはどんな場なのだろう。この記事では、会場に集まり、TSG運営メンバーによるインタビューに答えた参加者たちの声から答えを探りたい。

 

※「Starting Day」について、2024年は「STARTING DAY」として開催予定です。

※※当日の取材動画の画像を加工してご紹介しています。ご了承いただけますと幸いです。

日本のお米のよさを伝えたい2人が出会った

 

TSG運営メンバーからのインタビュー質問は、「TSGに応募した400字のアイデアと思いをカメラの向こうの人にプレゼンしてください」。プレゼン時間は、15秒、30秒、45秒のカードから参加者自身が引き当てる。

 

運営メンバーが持つ3枚のカードを引くことからプレゼンは始まる。

15秒、30秒、45秒のどの時間を味方にするかは、選ぶ人次第だ

 

最も長い45秒のプレゼンタイムを引き当てたあやかさん

 

「普段、ご飯はどのくらい食べていますか?」

 

この質問から始まったあやかさんのプレゼンは45秒。質問を受けた茶茶さんが「お茶碗1杯くらい」と答えると、「日本ではお米が余っていることが課題となっています」と、日本での主食用米需要量が減少している課題から話が始まった。

 

日本の主食米の米課題と事業アイデアについてプレゼンするあやかさん(右)とプレゼンを聞く茶茶さん(左)

 

「日本のお米が余っている課題は、1人1膳プラスオンするだけで解決するともいわれています。しかし一方で、悲しいことに、日本のおいしいお米たちが海外の飼料米として輸出されているという現状があります。私は米粉ベーグルを通して、日本のみなさんに美味しいお米をもっと楽しんでもらいたいと思っています」

 

プレゼン終了後、あやかさんは「やり直したい!」と苦笑。しかし、「これが今の私です。成長します」と笑顔で締めくくった。 あやかさんのプレゼンを聞いた巻きずしアーティストの茶茶さんは、15秒で自分のアイデアをプレゼンした。

 

「甘いものが食べられない。ケーキが食べられない。そんな人たちのためにも、新しいお祝いの形をお寿司で作ります。最高の思い出と、愛を実感することができる瞬間を届けます」

 

プレゼンを終えて、ほっとした様子の茶茶さん

 

次に、茶茶さんが、あやかさんのプレゼンから感じたことを一言。

 

「日本のお米が余っていることを知りませんでした。日本の食文化なのに、余っているのはもったいない。食生活を改めていきたいです」

 

あやかさんは、茶茶さんにこう話してくれた。

 

「たまたま和服を着ていたので、『日本の何かを伝えたい方なのかな』と話しかけてみたら……。自分と同じように、日本のお米のよさを伝えたいという思いを持っている、まさに求めていた起業仲間ができたと思えてうれしいです」

 

茶茶さん(左)とあやかさん(右)は2人並んで、TSGのTを表現してくれた

中国出身の男性と日本人の男性。「応援したい」

 

運営メンバーが声をかけた人たちには、こんな出会いもあった。中国出身のサさんと、江口さんだ。

 

サさん(左)と江口さん

 

まずは中国出身というサさんが、30秒のプレゼンタイムでこう語った。

 

「日本在住15年、起業することを決心しました。早々と夢を諦めた人、職場に復帰できなかった人、就職難で将来の方向性を見失った人、海外に行ったものの何らかの事情で生活難になった人、こういった人たちに自分の価値を見つけ、もう一度社会で思いを持って活躍できるようにサポートしたい。

 

事業では、すべての人に自分の価値を見つめ直し、新たな価値づくりにつながる学び、教えの場となるプラットフォームを作りたいと思っています」

 

サさんのプレゼンを聞いた江口さんはこう一言。

 

「僕は日本の文化を発信したい。今回、TSGに初挑戦しました。サさんのアイデアは、自分も似たことをやりたいと思っていたので応援したいと思いました。僕は、日本の文化と和食を掛け合わせたボックスを、一定期間、気軽に体験できるサブスクリプションのようなサービスを海外に展開したいと考えています」

 

江口さんの話を聞いたサさんのフィードバックはこうだ。

 

「日本は素晴らしい文化を持っていて、特に和食は海外でもすごく流行っています。日本の文化と和食の販売を事業として一歩踏み出す江口さんの勇気を応援したい」

育児中の男性や女性も事業アイデアのプレゼンを

 

運営メンバーは次々とインタビューを行い、たくさんの人がカメラの前でプレゼンをしていった。赤ちゃんを抱っこした男性も自分のアイデアを話してくれた。

 

「農業就業者を増やしたい。僕はおいしい野菜が好きだけれど、野菜作りはいろいろな事情があって続けるのが難しくなっていることに課題を持っています」

 

同じく幼い子どもを抱っこした女性は、子どもが親のために描いた絵や「ママ大好き」といったメッセージを、スマホなどでいつでも持ち歩ける商品開発についてプレゼンした。「元気をもらえるような、親子の絆を深められるようなサービスを創りたい」。

 

育児中の女性(左)は、親と子どもの愛情をつなぐ商品開発を実際形にしていると話す

 

また、「TSGへの挑戦は初めて」という女性は、「TSGに応募して感じたこと」をこう話してくれた。

 

「昨年くらいから自分のアイデアを人前で話す機会が重なって、進化を感じたので応募しました。今回、400字にすることで自分の考えを整理し、客観視できたと思う。気にしたのは、どう書けば伝わるか。工夫が難しかった。TSGでは、仲間との出会い、アドバイスをもらえる機会にできたら。いろんな人と話してつながっていきたいです」

 

そんな女性が400字に込めた思いは、「どんな人でも自分の個性を活かしてキラキラと輝く時間を作りたい」。

「介護に関わるスケジューリングの課題解決を」

 

「Starting Day」では、大学生や高校生の姿も目にすることができた。 高校生のコスゲさんは電車の中刷り広告でTSGを知り、以前から抱いていた起業への思いを400字にして応募してくれたという。

 

「いろいろな人と話せるワークショップがあってよかった」と話すコスゲさん

 

「『Starting Day』では、グループごとに話せるワークショップに参加しました。そこでいろいろな人と話して、共通する起業の悩みを感じました。自分ならではの事業をどう立ち上げ、市場価値を創るのか。

 

応募した400字には、介護に関するスケジューリングアプリのアイデアを書きました。家族以外にも、ケアマネージャー、ヘルパーなど介護をしてくれる人たちが一緒に使えるアプリです。祖母の介護の経験から、スケジューリングの難しさを感じて。介護に関する苦労をなくしていきたい」。

「中高生が興味関心から世界を広げるきっかけを」

 

続いて、高校生2人のインタビューでは、最初にけいすけさんが45秒で思いをアピールした。彼がチャレンジしたいのは、「自分が通う高校以外の高校生たちと、観光地でハンターたちから逃げるテレビ番組『逃走中』に一般参加し、スポーツ感覚で交流しながらストレス発散をすること」。

 

自宅と学校など限られた場所での往復が日常化する中、他校生や自分とは異なるバックグラウンドの人との関わりが持てないことへの課題感から生まれたという。

 

けいすけさんは、「些細なことからでも蓄積されたストレスによって孤独感や絶望感を抱いたまま、最悪の事態が引き起こされないように」と話した。

 

高校生のけいすけさん。自分が通う学校以外の高校生たちとスポーツ感覚で交流し、ストレスを発散したいと話す

 

続いて、高校生のひろさんは45秒で自分のやりたいこと、思いをアピール。ひろさんのやりたいことは、こうだ。

 

 

「日本と海外の中高生が、日本にいながらつながれるプログラムを作りたいです。日本の高校生は英語力があるにもかかわらず、活かせる場面が不足していることに課題を感じて。

 

海外からの中高校生たちには日本でできる文化体験旅行を体験してもらい、その旅行で日本の高校生たちは案内役を担います。日本の文化や言語を通じて関係性を育てることで、学生時代から世界とつながることを意識しながら交流を広げるきっかけを作りたい」

 

ひろさん(左)のプレゼンを聞いて感じたことを話すけいすけさん(右)

 

ひろさんのプレゼンを聞いたけいすけさんは次の一言を。

 

「日本にいながら海外の人たちと関われる機会はすごく貴重。僕自身、海外の大学を目指していて、海外の人と関わりたい思いが強いので、何か力になれたら」

 

この言葉を受けて、ひろさんは「一緒に何かやりましょう」と話した。

アイデアがある人と実装が得意な人

 

大学生のnatsukiさんは、「アイデアをすぐに実行できる場を作りたい。アイデアを持っている人、アイデアはなくても壁打ちが得意な人、AIやプログラミングなど実装が得意な人、それぞれ得意な人をつなぐプラットフォームを作りたい。その手法を考えるためにここに来ました」

 

 

natsukiさんのプレゼンに対し、高校生のそうかもさんは「アイデアを持っている立場として、今すぐ使いたいサービス」とフィードバックを。「アイデアを形にしたくて、いろいろな場に足を運んでいます。アイデアはあっても実装をしてくれる人とつながるのが難しい」。

 

自分のアイデアを15秒でプレゼンする高校生のそうかもさん

 

そんな彼のプレゼンは15秒。こう話してくれた。 「途上国の農村部に村単位で新しいコミュニティを作り、農業の生産などを効率化させたい」

「ジェンダーを社会課題としてではなく、もっと自由に」

 

高校生のサニーさんは、30秒で自分のアイデアをプレゼンした。

 

「カナダ留学で体験したサバイバルキャンプで、生きるとは何かを考えるなど、自分と向き合い内省する時間の大切さを感じました。そういった場をもっと身近な人たちに広めたい。TSGでは、高校生の起業同期ができました。起業は難しく辛いことも多いかもしれないけれど、友達ができることで楽しくできるかなと思っています」

 

高校生のえいとさんは、45秒でプレゼンした。

 

「遠方から高校に通学していて、途中で気持ち悪くなる時があります。そんなとき、学校に近い場所で休憩できるスペースを作りたいと思うようになりました。満員電車で気持ち悪くなる人のためのカウンセラーもいてくれたら。TSGには、自分の事業アイデアに信念を持った人たちが集まっているので、思いのある人とつながりたい」

 

えいとさん(左)とサニーさん(右)

 

現在、ジェンダー団体で活動をしているというりょうさんは、30秒でプレゼンしてくれた。

 

「一人ひとりの『こうしたい』に寄り添ったジェンダーのコミュニティマーケット形成を目指しています。現在は、男性向けに女性の服を販売するオンラインショップ事業を展開中です」

 

りょうさんは、「ジェンダーを社会課題としてではなく、一人ひとりの気持ちに寄り添って展開したい」と話す

 

高校生のしゅうせいさんは45秒でプレゼンした。

 

事業アイデアをプレゼンするしゅうせいさん

 

「学習障がいのある人に向けた機器やアプリを作ろうとしています。今作っているのは、AIのトラッキングを活用して文章を分析しながら読み上げてくれる機能や優先順位を自動的に作ってくれるTO DOリストなどです。

 

学習障がいについてはマスコミでも取り上げられることが増えましたが、まだ誤認する人も多いと思っています。学習障がいは『得意』『不得意』が読み書きに表れていること、視力の弱い人が「眼鏡をかける」ことと似ていることなど、多くの人に正しく認識するきっかけも作ることができれば」

 

続いて、高校生のたなかさんは15秒でプレゼンした。

 

たなかさんは、自分の考えを丁寧にまとめ、15秒で表現した

 

「電気によって味覚が感じられる『電気味覚』を世の中に広めたい。食事制限のある人でも美味しく食べ物を食べられるように。TSGは、志を持ったたくさんの人達と会える、とてもいい場所だった」。

 

最後に、過去に挑戦者としてTSGに参加した経験があるという環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさん。「TSG『Starting Day』とはどんな場か?」という運営メンバーからの質問に対して、「未知の起業に対する、よくわからないけれどやりたいという情熱や鼓動が集まる場」と答えてくれた。

 

そんなWoWキツネザルさんのプレゼン時間は15秒。

 

TSG挑戦のOBとしても参加者たちにエールを送るWoWキツネザルさん。「Starting Day」当日のMCを担当した

 

「WoWキツネザルが伝えたいのは、『何をやりたいか』ではなく、『君はどうありたいか』ということ。様々なことに置き換えて考えてみて、よく考えてほしい。

 

もう一度言う。『君はどうありたいか』」

 

……

ここまで運営側からのインタビューに答えてくれた参加者たちの言葉を紹介した。

 

起業も、TSGへのエントリーも、決してどこかにいる誰かの話ではない。いつ、自分がその「誰か」になるのかわからない。いつ、マイクを持ち、自分の思いを語り、思いを形にするために走り出すのか誰にもわからない。

 

たまたまその場で一緒にいた人と思いやアイデアを共有し、もしかしたらその後もつながっていくのかもしれない。TSGとは、そんな「思いのある人やアイデアとの出会いの場」なのかもしれない。TSGの始まりを応募者全員とともに迎える「Starting Day」は、そういった体感が得られる場なのかもしれない――。

 

それはいつか、「あの出会いがあったから」「あのとき、勇気を出したから」「もしかしたら、あのときのことがきっかけで……」と、「今の自分がいる」ことを振り返られる日につながっているのかもしれない。「Starting Day」が、TSGの挑戦に参加した人たちにとって、そういう場になっていることを願っている。

 

……

今回、紹介した方々のコメントを含め、「TSG2023」Starting Dayでインタビューしたみなさまのプレゼンはこちらの動画でもご覧いただけます。

https://www.youtube.com/@tokyostartupgateway874

 

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>> 特集「夢みるために、生まれてきた。」

 

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この記事を書いたユーザー
たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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