世界の人口は増加傾向にあり、国連の人口予測によると2030年には約85億人、2050年には約97億人、2100年には約108億人となる見込みです。人口増加に伴い、牛や豚、鶏など畜産によるタンパク質不足が懸念されています。
コオロギを食料として活用することでタンパク質不足の課題に取り組みつつ、持続的な食料生産を目指す株式会社エコロギーの葦苅晟矢さんにお話を伺いました。
この記事は、現在エントリー受付中の東京都主催・400字からエントリーできるブラッシュアップ型ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)」出身の起業家を紹介するWEBサイト「TSG STORIES」からの転載です。エティックは、 TSGの運営事務局をしています。
葦苅 晟矢(あしかり・せいや)さん
株式会社エコロギー 代表取締役 CEO / TOKYO STARTUP GATEWAY2016 ファイナリスト
1993年生まれ。早稲田大学商学部卒業。2017年の大学院在学中に研究成果を活用する形で株式会社エコロギーを創業。2018年12月に単身カンボジアに進出。2019年カンボジアにおいてコオロギ研究・量産体制を確立、同年、「Forbes 30 Under 30 Japan」に選出。現在はカンボジアと日本を往復しながら、カンボジアでの研究・生産体制の強化と日本でのブランディング強化・認知度向上に奮闘中。
WEB:https://ecologgie.com/ GrilloBar
公式販売サイト: https://grillobar.base.shop
聞き手:小倉康暉(NPO法人ETIC.)
コオロギを新しい食料として活用し、持続可能な食の循環をつくる
―現在、葦苅さんが展開している事業の概要を教えてください。
コオロギを新しい食料として有効に活用する事業を展開しています。具体的には、高栄養コオロギ原料をはじめ、コオロギを使った健康食品やペットフードを製造・販売しています。
コオロギを使った犬向けペットフード
また、鉄や亜鉛を豊富に含むコオロギの特性を活かし、鉄・亜鉛・美容成分をふんだんに含む「GRILLO BAR」も開発しました。
コオロギを原料に使ったGRILLO BAR
現在はカンボジアでコオロギを生産しており、コオロギを大量生産するための基盤研究には大方見込みがついたところです。今は日本だけでなく東南アジアでも、自社製品を栄養食品として販売することに力を入れています。
―なぜコオロギを活用しようと思ったのでしょうか?
人口増加に伴い、世界ではタンパク質不足が懸念されています。コオロギは畜産や水産養殖よりも生産に必要な資源が少なく、タンパク質含有比率も高いのが特徴です。コオロギを新しい食料として活用できれば、持続可能な食料生産が可能になると考えました。
コオロギは畜産と比べてタンパク質含有比率が高いのが特徴
―カンボジアでコオロギを生産しているのはなぜですか?
コオロギを生産するには暖かい環境が必要です。日本でも生産を試みたのですが、暖房のためのエネルギーが必要になり、持続可能性という点でわざわざ日本で生産する意味がないんじゃないかということになりました。
暖かい環境を求めてタイやベトナムにも行ったのですが、そこではもうある程度経済が発展していて。カンボジアにはまだ経済的に成長できるポテンシャルがありますし、昆虫食が根づいているんですよね。既に産業として根づいている昆虫食を研究でさらにアップデートするのは面白いなと思い、カンボジアを選びました。
エコロギーではカンボジアの複数農家にコオロギの生産を委託し、コオロギを買い取ることで、現地農家の生活の質向上にも貢献しています。
エコロギーのコオロギ生産は現地農家の生活の質向上にも貢献している
―この事業を始めるに至った経緯を教えてください。
学生時代に模擬国連というサークル活動をしていて、当時から社会課題を解決したいという漠然とした思いがありました。社会課題の中でも特に興味があったのが、食料や生物、循環型社会というテーマです。ちょうどそのタイミングで国連の昆虫食に関するレポートを読んだのが、今の事業を考えるきっかけになりました。
当時は大学の起業家養成講座にも参加していて、事業について先生方やメンターの皆さんに相談したり壁打ちに付き合ってもらったりして、アイデアを煮詰めていった感じです。
TSGにも応募して、自分の考えに理解や共感を得られたことが自信になり、個人活動ではなく企業活動としてスタートしたいと考え、今に至ります。
大学の起業家養成講座とTSGの違いは“起業への本気度”
―大学時代に在籍していた起業家養成講座とTSGの違いはどのようなところにあると思いますか?
真剣度、本気度が違うのかなと思います。やっぱり大学というコミュニティの中では「大学生」というレッテルの元でチヤホヤされる感じがありましたね。
TSGには社会人もいて、本当に経験のある方から学んで、切磋琢磨する時間があったのが大学の起業家養成講座とは全然違うなと感じました。
TSGでは、起業した後のお金面・人材面での出口を提示してくださっていたので、自然と「起業しよう」「起業しないと損だ」というように思えたのも大きいと思います。
壁にぶつかったときに自信をくれるのは仲間やメンター
―事業を始めてからぶつかった壁はありましたか?
コオロギを活用したいといっても、目の前にコオロギがいないことですね。大量生産をやろうと思っても大量生産する技術の確立が難しくて、それを日本でやろうともがいていた期間が2年ぐらいありました。TSGの後、日本でいろいろと試行錯誤したのですが、結果が出なかったですね。
コオロギの生産は農業に近いので、暖かいところでよく育つんですよ。日本だったら温度などの環境をコントロールすれば良いんですけど、そうすると暖房を使うことになってコストが高くなるんですよね。
もともと地球環境に配慮してコオロギを生産していきたかったのに、暖房というエネルギーを使ってまで日本でやる意義あるんだっけ、と思ったことがあります。太陽光を使うとかいろいろ考えたんですけど、結果的に日本では難しかったですね。
―困難に直面したときは、どのように乗り越えてきましたか?
困難や落ち込むことは当然今もあります。でもまぁ、運が良かったというか。自分はTSGやMAKERS UNIVERSITY※にも参加していて、ここで得られた仲間やメンターに相談に行くと、「自分がやっていることは少なくとも間違ってはいない」と思えますし、ネクストアクションをいくつか提示していただけるんですよね。
※MAKERS UNIVERSITY:NPO法人ETIC.(エティック)が運営する大学生・大学院生に特化した起業家・イノベーター育成私塾。
自分だけで考えていると選択肢が限定されてしまうので、相談することでたくさんの選択肢をいただけて、そのおかげで良いことが起こる、ということの繰り返しだったように思います。
あと、「食料とか栄養が足りていない人を助けたい」という気持ちは根本としてありますけれど、それ以上に身近な人からの応援がモチベーションになっています。
大きな課題だけを見すぎてしまうと「自分はどうしたら良いんだろう」って気が遠くなってしまう。しかし、今の時点でやっていることに共感とか応援をしていただけると、やはり個人としてうれしいので頑張ろうと思います。昔から関わってきた仲間やメンターに「あの時に比べたら進んでるじゃん」って言ってもらえるだけで、気持ちが違いますね。
大学教授を巻き込むポイントは、大学職員との関係づくり
―事業と大学での研究内容とを結びつけようと思ったとき、どのように大学教授を巻き込みましたか?
根本は人間関係だと思います。大学生は軽視しがちですけど、大学の職員さんと仲良くなることは大事だと思っていて。結構、キーマンになるのは大学の産学連携課・起業推進課の職員さんなんですよね。
彼らは大学の先生たちとの間に入ってくれるので、単なる事務の人ではないよというのは学生さんに伝えたいですね。 僕の場合は運が良く、たまたま起業家養成講座とかTSGでの取り組みを当時の大学職員の方々が見てくれたので、先生方とつながることができました。
研究はしているけれど、研究はあくまでもツール
―研究と起業の両立は難しいと思いますが、どのようにバランスをとっていますか?
事業ファーストですね。研究開発ももちろん大事で、自分は今も研究はしていますが、自分がプロの研究者になれるとは思っていません。元々、文系人間ですし。「研究でこういうことができたら事業としても役立つ」というようなソリューションとして研究を捉えているイメージですね。
論理的じゃないところに面白さがある。この価値観に共感してもらえたことが財産になった
―これからTSGにエントリーする方や起業に挑戦する方へ応援メッセージをお願いします。
TSGに参加することで、「自分が何者なのか」という内省の場をいただけました。それを突き詰めた結果、自分の考えに理解や共感をいただけたので、うまく活用すれば起業のための大きな財産になると思います。
―自分と向き合いすぎると立ち止まってしまうこともありますが、どう乗り越えましたか?
立ち止まらないためには、内省した後いかにアウトプットするかが大事なんでしょうね。1人で考えると負の側面に入ることもあるので、メンターや一緒に走る仲間との会話が大事なんじゃないかなと思います。
私がやっている事業は、ITとかと違ってめちゃくちゃ赤字を掘ってドカンと大きくなるようなビジネスモデルとは違うんですよね。今はカンボジアで複数の農家さんにコオロギの生産を委託していますけど、論理的に考えたらドカンとでっかい工場を1つ立てたほうが良いという考え方もあると思うんです。
でも、私が考える持続可能な食の循環という視点に立つと、論理的に考えて工場を1つ立てれば良いというのは違うというか。新興国農家との分散・循環的コオロギ生産。
一見非効率のように思えても、そこに「面白いよね」っていう理解や共感をいただけたのが、TSGにエントリーしたことで得られた財産だと思っています。
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