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これからの地域作りのカギは“みんなで作る郵便局” 人が集まる新しい拠点に―Social Co-Creation Summit Liquid 2024レポート(1)

2024.07.12 

2024年5月10日、東京の日本郵政グループ本社にてカンファレンスイベント「Social Co-Creation Summit Liquid 2024」が開催されました。

 

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日本郵政グループは、気候変動や人口減少などの社会・地域課題を解決するために、グループ社員を地方の企業・団体に派遣し、全国各地に約2万4000ある郵便局のリソースを活用して新規ビジネスを創出するプロジェクト「ローカル共創イニシアティブ(以下、LCI)」を2022年4月より開始しました。NPO法人ETIC.(エティック)は、LCIの運営事務局・アドバイザーを務めています。

 

本稿では、「『場』『新しいインフラ~郵便局の新しい活かし方から地域の未来像を描く~』」について要約・編集してお届けします。このセッションでは、郵便局の活用方法や、他企業との掛け合わせにより生み出される新しい価値について議論されました。

 

<登壇者>

田鹿 倫基(たじか ともき)さん 株式会社ことろど 代表取締役

梶 恵理(かじ えり)さん 日本郵便株式会社 総務・人事部 課長

三渕 卓(みぶち たく)さん 東急株式会社 フューチャーデザインラボ統括部長

 

<モデレーター>

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん NPO法人おっちラボ 代表理事

 

※記事中敬称略。プロフィール詳細は記事最下部に記載。

 

赤字覚悟で簡易郵便局を開業。存続のために宿泊施設を併設し収益を補填

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モデレーター 小俣健三郎さん(NPO法人おっちラボ 代表理事)

 

小俣 : 本セッションでは、日本全国にある郵便局の活用についてお三方にお話をうかがいます。山間部、都市部それぞれの地域に合った郵便局の活用方法、役割の果たし方を共有いただくとともに、地域の未来について考えます。

 

田鹿 : 株式会社ことろどの田鹿です。縁があって移住した宮崎県日南市で、一時休業になっていた日南星倉簡易郵便局を再開させ、地域のインフラとして運営しています。

 

郵便局には、日本郵便さんが直営で運営している局と、業務委託で運営されている簡易郵便局があります。簡易郵便局の運営者は全国で募集されていて、申請をして審査に通れば始められる、フランチャイズのような形式です。

 

日南星倉簡易郵便局の再開は、純粋に地元の方々が困っていると知ったのがきっかけでした。乗り合いで車を出さないと切手1枚買いに行けないような状態だったのです。局を運営するのであればきちんとマネタイズしたいと思ったのですが、あらゆる調査をした結果、どう考えても赤字という現実が見えてしまいました。普通ならやめようかとなる状況です。でも、利益を優先した決断をする限り地域は縮小し続けるので、時には少々非合理的な意思決定も必要なのではと思い、始めることにしました。

 

地域の方が喜んでくださっているので、つぶれるわけにはいきません。儲けるためにやっているわけではないけれど、儲からないと続けられない。なんとか継続するために、2階を宿泊施設にして、1階の簡易郵便局で出た赤字を2階の宿泊施設で挽回する仕組みにしています。発想を柔軟に持って、どうすれば地域に必要とされるサービスを提供できるかを日々考えています。

地域住民を巻き込むリビングラボ郵便局。対話から生まれる、町に必要なサービスのアイデア

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梶恵理さん(日本郵便株式会社 総務・人事部 課長)

 

梶 : 日本郵便の梶です。今、北海道の東川町に出向しています。日本郵便は全国の郵便局の機能や資源を最大限に使って、地域のニーズに合ったサービスを提供することを理念としています。私が携わっているのは、それを具現化する人材育成のプロジェクトです。

 

私はリビングラボ郵便局の構想に取り組んでいます。地域の方を巻き込んで生活者の視点を取り入れ、地域に必要なサービスや事業の開発を目指すのがリビングラボです。人口減少が進行し、地方における生活関連サービスが縮小する中で、郵便局は最後の砦になりうると考えています。しかしながら、日本郵政グループのリソースだけでは地域のニーズに応え続けていくことはできません。その状況に対応すべく、自治体や企業、NPOと連携する方法を探っています。

 

具体的には、地域の方々に定期的に集まっていただく場を設けています。企業の方、役場の職員、地域おこし協力隊、学生さんなどが郵便局に集まって対話をしながら、事業コンセプト作りを行っています。ひとつ、木工家具の町、東川町らしい事業アイデアの事例をご紹介します。

 

ある工具メーカーの方が、電動工具はプロだけが使うものではなく、すべての人が豊かで便利な生活のために使ってほしいという話をしていました。ちょっと気の利いたものを作ったり、家具をリペアしたりするときに活用できるのだと。そうであれば、身近で気軽に電動工具が使える場所があっても良いのでは、という話になり、DIYスタジオのアイデアが生まれました。孤立や孤独が社会問題になっていますが、このような場は、孤立・孤独の問題を抱えやすい高齢男性の興味を惹くものになると思いますし、地域の交流の場としても機能していくものと思います。

住民が自ら発信し、交流を深める場を提供。目指す姿は“共助の拠点”

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三渕卓さん(東急株式会社 フューチャーデザインラボ統括部長)

 

三渕 : 東急の三渕です。 フューチャーデザインラボという組織で東急グループの新規事業を担当しています。東急は、交通、不動産や生活サービス事業を数多く展開しているわけですが、そこで得られる資源、資産を活用してより事業の可能性を広げていく活動をしています。

 

そのひとつに、スプラス青葉台という施設の運営があります。東急田園都市線青葉台駅の駅前郵便局で空いていたフロアを活用して、暮らしと仕事の新拠点としました。ワークラウンジやイベントスペース、小さなオフィスが入っている施設です。イベントを開催したり、地域の皆さんが発信したり、お互いに地域の情報交換をするような交流の場所になっています。

 

もうひとつ、東急の遊休地を使ったnexus(ネクサス)チャレンジパークという場所を運営しています。ここは東急が何かをやるというよりも、地域の皆さんが自ら企画を提案してチャレンジする、試行錯誤公園というコンセプトの施設です。毎月いろいろなイベントが持ち込まれて賑わっています。我々の狙いは共助の拠点作りです。これからは自助や公助でもない、共助の拠点が町作りにとって非常に大事だと考えています。当社の社員が常駐して、日々地域の方とコミュニケーションをとっています。イベントのときには毎回300人くらい集まって、皆さん生き生きと楽しまれています。

町を知り人とつながって進む、場作りの事業

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田鹿倫基さん(株式会社ことろど 代表取締役)

 

小俣 : ここから、皆さんに発表いただいた内容について掘り下げたいと思います。田鹿さんにおうかがいします。田鹿さんはなぜ簡易郵便局に目を付けたのでしょうか。どう活かせると思ったのですか。

 

田鹿 : まず楽しそうだと思ったというのが正直なところです。毎月委託料が入ってくる上、郵便局という、地域で圧倒的に信頼されている事業を運営できるのは、会社として信頼性も上げられるのではという打算的なことも含めて興味をもちました。委託業務を全うしていれば、その他の事業を同時に運営していても良いのです。委託料で必要な収入を確保しながら、自分が望む事業にも取り組めます。地域で新しい事業に挑戦しようとしている人が、その地域に入っていく足掛かりとして簡易郵便局の運営者になるのも良いと思います。

 

三渕 : 宿泊業を手がけているのには驚きました。全国でも事例はあるのでしょうか。

 

田鹿 : 他にもあるようです。運営者は、出入りの導線の確保など郵便局運営のための基本的なルールを守っていれば、並行して宿泊施設の運営も可能です。

 

梶 : 簡易郵便局の運営は、個人の方やNPOの方など、様々な方に支えられています。直営店とはまた違う魅力や可能性をもって広がるように思います。

 

小俣 : 次に、梶さんのリビングラボ構想についてうかがいます。郵便局を活用した活動は、会社の理解と協力を得ることが難しさのひとつだと思います。どのような工夫をされているのでしょう。

 

梶 : 組織外からの働きかけが力を発揮すると思っています。郵政も中から変わろうとしています。そこに地域や行政、私の場合だと「東川町が一緒にやろうと言ってくれている」となれば、会社も動きやすいです。その他、識者からの提言も刺激になります。

 

郵便局は地域に根付いている一方で、商工会や観光協会に所属しているわけではありません。ある種のフラットさがあって、新しい事業やサービスを生み出すときに始めやすい立場です。自治体でもないので、公平性を意識しすぎなくて良いのも、郵便局ならではの良さではないでしょうか。

 

田鹿 : 大きな組織の中で新しいことを始める大変さを想像しながらうかがっていました。梶さんは町長の発言などを用いて、会社が動き出しやすくなるコミュニケーションをされていると思いました。その秘訣はありますか。

 

梶 : 各案件の主体の方に、誰の意見が響くのかを心得るようにしています。関係性を見ながら、突くところは突く。でも、最終的にはパッションです。

 

小俣 : 続いて、三渕さんのお取り組みについてうかがいます。スプラス青葉台は郵便局とのコラボレーションとのことでした。郵便局にはどのように受け止められていますか。

 

三渕 : 局長さんも局員の方もとても協力的で、イベントにも出てくださっています。事業としてのつながりはなくても、一緒に取り組んでくださいます。

 

一方、チャレンジパークは東急の直営です。我々もまだ試行錯誤しながら最適な運営方法を探っているところです。経済的な利益創出を目的にしてしまうとコンセプトから外れてしまい、結局地域に必要なサービスを提供しようとすればするほど難しい課題が見えてきます。

 

田鹿 : 営利企業である東急さんが場作りを手掛けるのは興味深いです。将来的な利益が見えているのでしょうか。

 

三渕 : 短期的に見るとこの事業は回っておらず、長期的な視点で捉えています。東急線沿線の人口は減っていきます。それでもここに住みたいと思ってもらうために、住人の皆さんと触れ合いながら町の特徴を捉え、当社もマネタイズできる仕組み作りを目指しています。経済的に厳しいのは本音ですが、地域の方々にはとても評価いただいています。

 

小俣 : 都市における拠点作りの意義はとても大きいように思います。手応えはいかがですか。

 

三渕 : チャレンジパークでは共助がとても良く働いています。毎日近くの小学生が何十人と遊びに来て、イベントのビラ配りを手伝ってくれたりして、良い関係ができています。心理的安全を感じてもらうことで、共助は生まれてくるのだと実感しています。

 

梶 : おもしろい町であれば、住んでいる人が人を呼んで、人口が増える場合もありますね。このアプローチで東急沿線の人を増やすことで、最終的には東急さんに利益が返ってくるように思います。

 郵便局は変えられる、変わっていく

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小俣 : 今後の取り組みについてお聞かせください。

 

田鹿 : 郵便局はシェアリングエコノミーの拠点となり得る場所です。郵便や貯金のインフラを残しながら、例えば買い物が大変な過疎地であればそこでお総菜を売ったり、コーヒーを飲める住民の憩いの場所にしたりと、郵便局が多様なサービスを取り入れてシェアすることで、その地域の郵便以外のインフラも担保できるのではないかと思いました。私たちは、引き続き郵便局を運営しながら、今後は社会保障や交通などにも事業を広げていきたいと思っています。

 

梶 : 私は郵便局を、もっと「みんなのもの」としていきたいと思います。みんなの困りごとが郵便局に集まってきて、みんなでそれを議論して、解決策を見出して実践していくような場にしたいです。その地域に合った役割を果たす郵便局になるためには、地域の人たちにも郵便局の変革のための活動に参加してもらうことが重要なのではないかと感じました。「みんなで作る郵便局」というイメージです。

 

三渕 : 今後人口が減っていくと行政の役割は縮小し、行政でカバーできない領域を地域で補うケースが増えていきます。その部分で、郵便局は大きな可能性を秘めていると思います。地域の人が望むことを実現していけば、行政とは違う役割として機能するはずです。常にその場所に人がいるのは大きな価値だと思います。行政と対比して郵便局の在り方を考えてみると、ヒントが出てくるように思いました。みんなが郵便局は変えられると気付くのが、第一歩なのではと思います。

 

<登壇者プロフィール詳細>

田鹿 倫基(たじか ともき)さん

株式会社ことろど 代表取締役

宮崎大学卒業後、2009年に株式会社リクルートに入社。2011年には上海に本社を置く広告会社、爱的威广告有限公司(アドウェイズ中国法人)に勤め、北京支社の立ち上げにも携わった後、日南市に移住。宮崎県日南市の日南市マーケティング専門官として日南市に勤務(2013~2022年3月)。油津商店街の活性化に携わり、地域の人口動態に関心を寄せながら、市の活性に尽力する。

 

梶 恵理(かじ えり)さん

日本郵便株式会社 総務・人事部 課長

三重県伊賀市出身。2008年に郵便局株式会社(現:日本郵便株式会社)に入社。金融営業の企画、郵便・物流部門の法人営業人材の育成、広報業務に従事。2023年4月から北海道東川町役場に出向し、郵便局が地域住民とサービス提供者(企業・自治体)の共創を促しながら、暮らしに必要なサービスをデザインし、生み出していくリビングラボの実践を構想。2023年9月に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程入学。

 

三渕 卓(みぶち たく)さん

東急株式会社 フューチャーデザインラボ 統括部長

1995年東急電鉄入社。鉄道部門にて、相互直通運転を契機とし渋谷駅・横浜駅・目黒駅などの新駅の大規模改良工事の建築マネジメント業務に従事。経営企画部門を経て2008年からは都市開発部門にて住宅・商業・オフィスなどの不動産開発事業に従事したのち、2022年4月には新たな郊外まちづくり「nexus構想」を立案・公表。2022年7月より現職。社内起業家育成制度・スタートアップとの共創プログラムの運営・新領域開発などを手掛ける。

 

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん

NPO法人おっちラボ 代表理事

1981年東京都生まれ。弁護士として約4年、企業法務を扱う法律事務所で経験を積む。2015年6月におっちラボに加入し島根県雲南市に移住。地域でチャレンジする人をサポートする「幸雲南塾」やソーシャルビジネスを立ち上げる補助金制度(雲南スペシャル・チャレンジ)を運営し、起業家等の事業プランに伴走。また、2020年4月に市民等約600人で立ち上げた(公財)うんなんコミュニティ財団の理事として休眠預金を活用した市民団体の支援などにも取り組んでいる。

 


 

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伊藤ゆり子

東京都出身。主に外資系メーカーでマーケティングに15年以上従事。チームマネジメントの経験から人のキャリアや成長支援に興味をもつ。文章で人や組織の挑戦、前進、成長を後押しするべく活動中。

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