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「能登から日本の未来をつくるために」能登半島復興セッションレポート(前編)―Beyondカンファレンス2024レポート(5)

2024.07.31 

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能登半島地震以来、輪島市や七尾市、珠洲市、金沢市で復旧・復興活動を牽引してきたリーダーたちが、5月31日、東京に集まり、大勢の参加者を前に、各地域の現状や今後について語りました。

 

組織の枠を越えた「共創」を後押しするイベント「第3回Beyondカンファレンス2024」(主催:and Beyond カンパニー、事務局エティック)内に設けられた場で、能登半島に暮らす人たちと、能登に関心を寄せる都市部の人たちが出会い、言葉を交わしました。

 

今回、現地で活動するリーダー2名と識者によるトークセッションの一部をご紹介します。

「日本の未来に何を残すのか」能登から日本社会のあり方を問う

セッションでは、能登復興ネットワーク 事務局長の森山奈美さん、震災翌日より東北から能登に入って支援活動を続けている高橋博之さん、さらに能登で生物多様性の研究を行ってきた西廣淳さんの3名が登壇し、語り合いました。

 

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左から、森山さん、高橋さん、西廣さん

 

<登壇者>

高橋 博之(たかはし ひろゆき)さん 株式会社雨風太陽 代表取締役

森山 奈美(もりやま なみ)さん 能登復興ネットワーク 事務局長 / 株式会社御祓川 代表取締役

西廣 淳(にしひろ じゅん)さん 国立研究開発法人国立環境研究所 気候変動適応センター 副センター長

 

※記事中敬称略。

 

「今が主体性を取り戻すチャンス」―高橋博之さん(雨風太陽)

高橋 : 発災以降、能登に行かれた方はいますか?(会場内で手が挙がった様子を見渡して)行ってみてどう思いましたか?

 

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高橋さんから、能登の震災後、現地に行ったかどうかを聞かれて手を挙げる参加者たち

 

高橋 : 僕は1月から能登に行っていますが、特に珠洲市、輪島市は、町がとても静かな印象です。今回は(半島の地理的な特性などもあり交通インフラが限られているなど)特殊な状況が重なっていてやむを得ない事情もあるとは思います。しかし、先進国の日本で、能登半島の復旧復興を迅速に行うことがそんなに難しいのかという思いもあります。

 

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高橋さん

 

高橋 : 現場にいるとよく感じるのですが、能登の復興は、「日本の未来に何を残すのか」という答えに直結していると思っています。今回の震災で、我々は、村や過疎地といわれる地域とどう向き合っていくのか、その答えを出さなければならないときを迎えているのではないか、と。

 

もし経済的効率を優先した復興を進めるとなった場合、今回の能登復興はその大きな前例になると思っています。

 

また、日常における地方との向き合い方も、集約化を目的とする動きが始まってしまうと、後戻りが難しくなります。そういった意味で、能登の復興は、日本社会の未来を左右する分水嶺(ぶんすいれい)になると思っています。

 

現代では、集約化という論理的な考え方に共感する人も増えている中、唯一対抗できるのは、「自治」だと僕は思っています。自分たちで考え、動くのです。

 

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高橋 : 日本では明治維新以降、国に税金を納める形で、人は自分たちの地域の課題解決を国や自治体に任せるようになりました。しかし、それと引き換えに僕たちは、社会的自発性を失いました。「自分たちの暮らしの課題は自分たちで解決していこう」という強い意志を持ち、行動を起こすことです。

 

能登復興は、一度手放した主体性を取り戻すチャンスだと思っています。我々一人ひとりがもう一度、地域社会の主人公の座に座り直して、生きるエネルギーを取り戻すチャンスだと。決してネガティブではなく、ポジティブに。もともとその土地にある自然、例えば、珠洲市には湧水があります。水があるところに人が集まり、集落が生まれています。そういった自然の水、エネルギーなど、その土地にある力を生活の力にしていくのです。または、暮らしそのものを発信して生業にしていくことも可能だと思います。今は、そういった主体的な地域の課題解決ができる自分たちに戻れるチャンスなのです。

 

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高橋 : 将来的に、コストパフォーマンスなどで成功や豊かさを計る社会になっていくのか、それとも都市と地方、集落と中心市街地、人工と自然、論理と情緒、合理と不合理などが折り合いをつけながら共存し、ともに生きていく社会となるのか。僕は後者のほうがいいと思っています。都市か自然のどちらかを選ぶように二元論にすることで分断を生むのではなく、どちらも抱えながら生きていく社会をつくるほうが、息苦しさもないのではないでしょうか。

 

今日、ここに集まっているみなさんは、都市のツルツルした社会に普段生きている方々だと思います。凹凸のないツルツルした、人との関わりがどちらかというと薄い社会です。自宅で、一人でソファに座ってスマホを触っている方も多いのではないでしょうか。

 

一方、田舎は自然や古き良き時代との重なり、古来民族との関りなどゴニョゴニョした関りが息づいています。しかし、このままだと能登や田舎もツルツル一辺倒の社会になりそうだと思っています。だから、みなさんには能登を行ったり来たりしながら、ツルツルした社会とゴニョゴニョした社会を往来して、「ツルゴニョ」な社会をつくってほしいのです。

 

よく日本人は、海外から「意思がはっきりしない」といわれますが、「それでいい」と思っています。AかBではなく、AもBも選ぶのです。今日は、「ツルゴニョの社会でいくんだ」と狼煙を挙げられる日になればと思っています。

「気候変動が進む今後、地域に合ったインフラをつくるべき」―西廣 淳さん(国立研究開発法人国立環境研究所)

西廣 : 私のバックグラウンドは生態学です。能登には、生物の研究のために何度か通っていました。かつて日本で当たり前だった、しかし失われてしまった自然や風景が能登には残っていました。

 

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西廣さん

 

西廣 : 今回、能登のような地域での自律分散型の暮らし方の良さを強く感じています。特に水のインフラを考えたとき、日本は雨が豊かだといわれ、たしかに世界の平均でみると2位にあたる雨量ではありますが、一方で人間の密度も高く、一人当たりの水の量は世界の平均の3分の1ほどしかありません。さらに地域によって一人当たりが使える水の量も大きく異なり、そういった異質な地域が集まっているのが日本です。

 

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西廣 : さらに、今後、気候変動が進む中で、年間降水量は変わらなくても大雨の頻度が増えるという、地理的な変動も我々は避けられない状況にあります。どこの地域にも一律に大規模集中型のインフラが向いているわけでは決してなく、地域に応じた良いシステムを、過去の良い事例と新しい技術を融合させてつくり、地域の良さを伝えていく必要があると思っています。まずは考えることから始めるべきで、今はとても大事な時期なのだろうと考えています。

「大事なものを守るため、地域があり続ける必要がある」―森山奈美さん(能登復興ネットワーク)

森山 : 震災が起きてからを振り返ると、自分が「こうじゃないかな」と思っていたことが、「やっぱりそうだった」と腑に落ちることがたくさんありました。それは、「大事」だと思っていたことのほとんどが、「そうでもないかな」と思ったことです。

 

今回の地震で、「これをやらなければ」という生活や人生での優先順位が、今回の震災で揺さぶられ、「全部どうでもいい」となる極限状態に置かれました。そんなとき、普段自分が仕事や生き方など「これが大事」だと思っていたことのほとんどが、「たいしたことではなかった」と思ったのです。なぜなら、私は生き延びることができたから。

 

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森山さん

 

森山 : そのうえで、今日、平日にもかかわらず、大都市で暮らすみなさんがここに集まってくださったことに、「何を求めているのだろう」と、そのモチベーションが気になっています。何によって人は行動するのか。そういった原動力への興味関心があります。

 

私はこれまで民間のまちづくり会社で事業を長年つくり、地域の外からやってくる若者たちと能登のいろいろな課題をつなぎ合わせるコーディネートを行ってきました。今でも、各地から来てくれる人に「森山さんが本当に守りたいものは何ですか?」とよく聞かれるのですが、それは能登の祭りです。今日も法被を着てきました。

 

私たちには大事にしている祭りがあって(毎年5月開催の「青柏祭(せいはくさい)」)、祭りを続けていくためには地域があり続ける必要があって、それは合理的な方法ではなく、非合理的で、不合理で、非効率的なことの集合なのです。

 

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森山 : 西廣先生に質問ですが、生態系の視点から、長年守り続けてきた昔ながらの地域の祭りに対して、新しいことを始めたくても、否定的な意見が出やすい環境がどうしてもある場合、新しい価値観が次々と生まれていく生態系をつくるにはどうすればいいのでしょうか。ずっと考えています。

 

西廣 : 常に、昔から続くものを守りたい保守性と新しいものを取り入れる気持ちの両方があると思っています。しかし、それが議論の場ではどうしても感情として現れてくるためにゴニョゴニョするのですが、両方とも否定できないのではないでしょうか。

 

ただ、祭り自体が過去にどんなタイミングで始まったかを辿っていくと、疫病がまん延したり、災害が起きたり、何かしら危機的な状況から脱するために始まっていることも多いのです。今回、能登では伝統を大事にしながらも、新しい祭りが始まるときかもしれない、今はそういう話ができるチャンスだと思っています。

 

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高橋 : 僕は、各地で震災が起こると被災地に飛んで行きます。それは、なぜか。都市にはない、無駄のように見えるもの、スキマがたくさんできるからです。様々な要素でびっしりと埋め尽くされ、完成された現代社会に創造的スペースができるのです。

 

森山 : 能登は地形的に外からきたものを受け入れる玄関口でした。受け入れたことで日本自体が発展していった歴史があります。

 

これから新しい能登や日本をつくっていくために、例えば自治の話でいうと、基礎自治体の単位よりもっと小さな集落ごとにあわせた自治のかたちを積み重ねて、自分たちの手で自分たちの地域をつくっていく新しい能登づくりに挑みたいと思っています。それぞれの場所で、意思決定していけるつながり、ツルゴニョな関係性を能登でたくさん起こしていきたいです。

 

>> 後編 「能登から関係人口をどうつくる?」作戦会議―能登半島復興セッションレポート(後編)―Beyondカンファレンス2024レポート(6)

 


 

現在、能登の復興に携わる仲間を各団体・企業で募集中です。ご関心ある方、力を貸してください。

 

>> DRIVEキャリア 特集「復興を支え、能登の未来をつくる仕事

 


 

エティックでは今後、中長期にわたる支援を続けていくための寄付を受け付けています。

>> SSF災害支援基金プロジェクト 能登半島地震緊急支援寄付

>> Yahoo!JAPANネット募金 令和6年1月能登半島地震地域コーディネーター支援募金(エティック)

 


 

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これまでのBeyondカンファレンスについての記事はこちらからお読みください。

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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