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地域で「社会的インパクト」を高めるには? 3つのステップで考える―ローカルリーダーズミーティング2024レポート(1)

2024.08.20 

ローカルベンチャー協議会(事務局NPO法人ETIC.〈エティック〉)が主催した「ローカルリーダーズミーティング2024」は、今年で第3回目を迎えました。今回の舞台は、宮崎県日南市(にちなんし)にある油津(あぶらつ)商店街。

「つながるって、前進だ!」を合言葉に掲げ、地域のプレイヤーや行政職員、起業家など全国から約140名が集結し、ローカルと結びつきの深いテーマを専門とする研究者との活発なコミュニケーションが行われました。商店街周辺の店舗やスナック、企業の会議室を会場に、研究者と参加者がざっくばらんに語り合ったセッションの様子をお届けします。

 

本稿では、初日の午後に実施されたブースセッションの様子をレポートします。当日は、油津(あぶらつ)商店街周辺の店舗やスナック、企業の会議室を会場に、ローカルと結びつきの深いテーマを専門とする26名の研究者と、地域で活動するプレイヤー達がざっくばらんに語り合いました。

 

今回はその中でも、千葉直紀さんによる「社会的インパクト評価を地域に実装する」をテーマとしたセッションの様子を、要約してお届けします。

 

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千葉 直紀(ちば なおき)さん

株式会社ブルー・マーブル・ジャパン代表取締役

プログラム評価、発展的評価、社会的インパクト・マネジメント、組織診断等を通した社会的事業の開発・改善、組織のマネジメント支援を専門としている。これまで社会的事業の起業・実施経験あり。支援者としてはNPO/NGO、民間企業、行政の評価・マネジメント支援や人材育成、同分野に関する国内外の調査を広く行ってきている。社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ事務局、日本民間公益活動連携機構(JANPIA)評価アドバイザー、日本評価学会会員。

 

様々な側面をもつ「社会的インパクト」

社会課題とは、個人の責任に帰するものではなく、社会システム等を原因とした、多くの人に関わる問題です。次から次へと噴出する社会課題を解決するためのリソースは常に不足しており、公的セクターだけでの対応は困難となっています。そこで行政だけではなく、NPOや民間企業、財団等、市場の力も活用した課題解決が求められることになりますが、共通言語となるのが「社会的インパクト」なのです。SDGsのような、営利・非営利を問わずそれぞれの活動をチェックできる、共通の目標やターゲットをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

 

市場メカニズムの中で流通させるには、標準化・定量化することが基本です。一方で、「社会的インパクト」の「社会的」に込められた意味を考えてみると、容易には標準化できない性質をもっていることがわかります。

 

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社会は多様な人々から成り立っており、更に一人ひとりが複数の役割をもっていることも珍しくありません。つまり似たような困りごとでも、人によって微妙に違う可能性があるのです。このことを念頭に、インパクトを集合体としてとらえ、個々の価値観の違いや多様性を尊重し、配慮する姿勢が求められます。

 

社会的インパクトとは、「短期、⻑期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカムのこと」と定義されています。①長期的な取り組みによるものだけではなく、短期で生じる変化も含むこと、②大規模な取り組みによるものだけではなく、小規模のものや心理的変化等も含むこと、③ 数値化(定量化)されたものだけではなく、定性情報でも表すことができること、④ ポジティブ、ネガティブの両方の変化を含むことがポイントです。

 

対象は個人・組織・コミュニティ・社会など多岐にわたりますが、社会にとって望ましい変化全般を指します。具体的には、これまで就労意欲のなかった人が就職に前向きになる、地域内で困りごとを抱える人を支えるネットワークが構築されるといったアウトカムが挙げられます。「社会的インパクト」を生み出した状態とは、社会課題が解決した状態、あるいは新たな社会価値を創造できた状態を指すのです。

社会的インパクトを高めるための3つのステップ

それでは、社会的インパクトを高めるためにはどんなステップが考えられるでしょうか。大まかに3つのステップに分けて考えてみましょう。

 

1つ目のステップは、「インテンション(意図)」をもつことです。何かを変えようと行動すると、多くの人に様々な変化が起こります。いい変化を生み出し、悪い影響を最小限にするために、予期した/しない、プラス/マイナスの4象限に分けて生じた変化を洗い出し、「意図して生み出したインパクト」、つまり予期したプラスのインパクトに狙いをつけていくことが重要です。これにより、事業や活動によって目指す成果をはっきりさせることができます。

 

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2つ目のステップは、意図した成果を生み出すための「マネジメント」です。これは簡単に言えば、事業計画を立て、実行し、どのような効果があったのか振り返り、それを踏まえて改善を行うPDCAサイクルを回すということです。実行後の振り返りだけでなく、そもそも社会のニーズと合致しているのか、そのやり方で成果が上がりそうかといった計画段階での評価、実施のプロセスは適切かというプロセス評価も重視しています。

 

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3つ目のステップは、成果を最大化するための「スケーリング」です。 ここでは、元全米評価学会会長のジョン・ガルガーニ氏らによるスケーリングの考え方を紹介します。事業の成果を果実に例えると、より多くの収穫を得るには、木を増やす、1つの木を大きくする、果実自体を大きくする、根を深く張る……等々、スケーリングには様々なやり方があります。

 

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Scaling Out(受益者の拡大)は木を増やすアプローチで、コンビニのフランチャイズ展開のようなイメージです。Scaling Up(機構変革)は、キャパシティを広げて受け入れられる量を増やすやり方、Scaling Deep(文化)は、強烈な体験でそれまでの価値観をゆさぶり、考え方や行動が変わるような深い変化を促すアプローチです。貧困地域に生まれたために自分のロールモデルを考えられず、将来に希望がもてなかった人が、2日間のプログラムを受けたことで一気に将来の展望が開けた、というようなケースを思い浮かべてもらうとわかりやすいかと思います。

 

Scaling Scree(新しいイノベーション)は、革新的なモデルを視察し、勝手にまねしてもらうというような飛び火的なアプローチです。そしてScaling Infrastructure(キャパシティ)は、地中に深く根を張ることで、将来にわたって持続的に果実が実り続ける状態を目指します。どの事業にどのタイプのスケーリングが向いているか、正解はありませんが、型があることで自分達の事業の広げ方を考える手助けとなります。

事業が成功した姿を描く、サクセス・ビジョン・ワークショップ

セッションでは千葉さんの講義に続き、宮城県気仙沼市から参加したメンバーを中心として、サクセス・ビジョン・ワークショップに取り組みました。これは、事業が社会的に成功している姿を自由に描き、成功の状態を具体化するワークショップです。成功している状態をイメージすることで、具体的なアウトカム(対象者の望ましい変化)の抽出につなげます。

 

今回対象とする事業は、2016年から取り組みが始まった「気仙沼まち大学」です。まち全体を大学に見立て、コワーキングスペース「□ship(スクエアシップ)」を拠点に、学びや対話、チャレンジの場を提供してきた「気仙沼まち大学」事業の成果として、どのようなインパクトを狙っていくべきなのでしょうか。

 

ワークショップは以下のような手順で進められました。

  1. 気仙沼メンバーが模造紙に成功の姿を描く
  2. 描いた内容について説明してもらう。出ていない要素があれば違う色の付箋で追加する
  3. 近いと思う考えがあれば矢印等でつなぐ
  4. 外の視点から見て、魅力的だと思う意見にシールを貼る

 

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ワークを進める過程で、時間軸はどのくらいのスパンで考えるべきなのか、個人にとってのゴールと支援機関にとってのゴールを分けて考えるとよさそう、といった気付きが次々と出てきました。気仙沼市外のメンバーからの意見も反映して見えてきたキーワードは、愛、自治、支援。

 

他者への関心(愛)がある→自治(自分が動く)が広がる→結果として必要な人に必要なサービスが届く状態になるというステップで実現できるのではないか、その真逆で、支援が必要な人に届くよう動く→それが自治になる→そんな町に住んでいることに幸せ(愛)を感じるのではないか等、議論は尽きません。

 

気仙沼メンバーからは、

 

「このメンバーとはよく会うんですが、こんな風にがっつり作業したのは初めてでいい機会になりました。今後評価指標を作る上で、外部からどんなことが評価されるのか、意見をもらえてよかったです」

 

「評価とも関連しそうですが、外部化することに意味があると感じました。私達は内側の自治する側にいるので、成功した姿には気仙沼メンバーの偏りが反映されていたと思います。外部化していろいろな人に関わってもらうことで、バランスの取れた評価軸を作っていけそうです」

 

といった感想が聞かれました。最後に千葉さんからの振り返りの言葉で、セッションは締めくくられました。

 

「投票によって視点の違いがわかり、気付きも生まれました。誰にどんな変化が必要か、同じようなものを扱っていても表現されることが違うということも感じられたと思います。

まちづくりでは、かっちりした評価やロジックモデルを作って進めていくのはそぐわない場面も多いのではないでしょうか。大事なのは、関係者の多様な視点を持ち寄り、目指したい状態の解像度を一緒に高めていくことです。どんなステップで進めていくかという議論がありましたが、どちらが正解というのはありません。ゆるさや曖昧さを許容しながら、目指すものに向けての合意形成や、納得解を作っていけるといいですね」(千葉さん)

 

そもそも事業が目指す方向性に迷ったとき、関係者の目線がずれていると感じるとき、社会的インパクトを考えるワークが役に立つかもしれません。

 


 

ローカルリーダーズミーティングでは、他にも全国の自治体や中間支援組織の参考になるような事例の紹介やディスカッションが多く行われています。気になる方は関連リンクよりまとめ記事をご覧ください。

>> ローカルリーダーズミーティング

 


 

※1…内閣府「社会的インパクト評価の推進に向けて―社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の基本的概念と今後の対応策について―」(平成28年3月)による。

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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