TOP > ローカルベンチャー > 市役所・商工会議所の役割は、魅力的なプロジェクトで若者を地域に呼び込むこと ―塩尻商工会議所・尾鷲商工会議所の取り組み―

#ローカルベンチャー

市役所・商工会議所の役割は、魅力的なプロジェクトで若者を地域に呼び込むこと ―塩尻商工会議所・尾鷲商工会議所の取り組み―

2015.05.07 

2014年11月8日、東京都中野の中野コングレスクエアで「地域仕事づくりコーディネーター戦略会議~地域を選ぶ若者たちと新たな仕事が生まれる仕掛け~」が行われ、全国から地域おこしに関わっている方、学生さんなど、さまざまな背景の方が集まりました。

地域において求められているのは、新たな仕事や価値を生みだしていく人材です。そして、その人材を外部から呼び込み、育て、定着させていくには個人の努力だけでなくそれを支える土壌が必要となります。

地域仕事づくりコーディネーターとは、日本各地でそういった土壌をつくっている方々のこと。その形態も、株式会社、NPO、商工会議所、大学の教職員、地域の金融機関など多岐にわたります。

今回のイベントでは、「若者」にスポットをあて、若者と共に取り組んでいる新たなチャレンジを紹介。若者が入ることで地域にどのような効果があったのかを共有し、地域の中で彼らが活きる仕掛けを探りました。そして、各地で行われている、異なるもの同士を繋ぎ地域に新しい価値を生み出すコーディネートの技や仕組み、そこから地域に生まれてくる新たな可能性や、地域が変わる兆しについて共有しました。 3人対談

左から森山さん、山田さん、伊東さん

このレポートでは、その中で行われたショートプレゼンテーション「市役所・商工会議所がコーディネート機能を担う!多用な手法で若者を地域に呼び込む仕掛けとは」のお話のまとめをお送りします。

ファシリテーターは、株式会社御祓川のひと育て課の森山明能さん、登壇者は塩尻商工会議所(塩尻市役所から出向)の山田崇さん、夢古道おわせ支配人・尾鷲商工会議所人づくり事業アドバイザーの伊東将志さんです。

国の政策ではなく自治体でこそ課題解決を

森山:ファシリテーターを務める株式会社御祓川のひと育て課でインターンシップなどを担当している森山明能です。今日はまず最初に塩尻商工会議所総務課主任の山田崇さん――山田さんはTEDで町おこしをナンパの話を織り交ぜながらされて28000イイネをもらった方です。

次に夢古道おわせ支配人・尾鷲商工会議所人づくり事業アドバイザーの伊東将志さん――日本で一番初めに商工会議所で長期のインターンシップ事業を始めた方です。このお二人に話しをうかがいたいと思います。 森山さん

ファシリテーターの株式会社御祓川・森山明能さん

山田:TED*1 でもお話ししましたが、市職員で空き家プロジェクトnanoda(なのだ)を始めました。

まず4年前に、市の一部の若手職員でお金を出して時間を作って勉強会を始めました。塩尻の未来を一番真剣に考えられるのは50年後も生きている私たちだと思いましたし、多様化・複雑化している自治体の課題は、国の政策ではなく自治体でこそ解決できると思ったからです。公務員の数は大体住民100人に対して1人。身近な100人を救おうという想いで始めました。

*1 TED:さまざまな分野の人が講演を行う取り組みのこと。講演はネット上でも観ることができる。

空き家プロジェクトnanodaの発足

山田:勉強会の17回目のテーマが「魅力ある商店街」でした。

ですが、住んだことも商売したこともなかったので、どうしたらいいのかわからなかった。そこで4年間空いていた築約60年の物件を、自分たちでお金を出して借りることにしました。2年半経った今では3軒借りていて、4軒目も予定しています。

商店街振興活性化は商工会議所や商工課の職員としてやる必要がありますが、わからないことが多い。想像で施策してもだめですし、それでは間に合わない。なので、仕事外の自分たちの活動としてやっていくことにしました。 山田さん

塩尻商工会議所・山田崇さん

とにかく現状を知るために空き家を借りる

山田:まず、借りた空き家で地域の人たちと朝ごはんを食べるという“朝食なのだ”を始めました。また、美味しいカレー店があったので、周りの飲食店にもカレーメニューを作ってもらい、カレーの食べ歩きをする“ぐるぐるカレーなのだ”をやったりしました。

企画の名前すべてに“なのだ”と付けることにしています。 今一番力を入れているのは“空き屋お掃除なのだ”です。空き家の掃除をさせていただいて中を見て、大家さんとお食事会をして色々話をうかがっています。なかには、もう一度店を開けてくれたところもありました。

とにかく非営利で儲けは考えずに、現状を知るために空き家を借り、質問し、機会やニーズについて確認していきました。 森山さん、山田さん

和やかな雰囲気でのプレゼン

寄り添うように、各部門の橋渡しを

山田:塩尻市の約67,000人という人口は、住民の方をかなり巻き込める規模だと思います。そして、小さな行政だと商工会議所と市役所が一緒にやらないとだめだということで、商工会議所、市の商工部門、町づくり会社、振興公社が複合公共施設に集結しています。

しかし、場所が近くなっただけではなく、私が市役所から商工会議所に出向し、各部門の橋渡し役となって活動をするようになりました。これを行うときには対面ではなく協働、つまり寄り添うように隣にいる感じで進めていくようにしています。

また、若者を地域に呼び込む仕掛けとしては、地域イノベーター留学*2、ツーリズム企画*3、中小企業経営企画プログラム*4、空き家プロジェクトnanodaをやっています。

*2 地域イノベーター留学(NPO法人ETIC.):地域から新たな仕事を創り出すための手法と感性を磨く、短期実践プログラム。

*3 ツーリズム企画(NPO法人シブヤ大学):シブヤ大学の授業参加者が塩尻で暮らす人に会いに行き、そこで話し「自分なりのローカルを考える機会」とすることを狙いとして行われた企画。

*4 中小企業経営企画プログラム(ゴールドマンサックス):実際の経営の現場で参加者が経営者とともに革新的なプログラムに挑戦するもの。

今こそ行政が立ち上がるとき

山田:ドラッカーの言葉に“非営利、問うべきは心底価値を信じているかである”というのがあります。私は福祉の増進を言う前に、私の目の前にいる人の一人の幸せを大切にしたいと思っています。 今までは民間企業が町づくりをやってくれていましたが、今は雇用を守ることに一生懸命な時代。

だから地域の若者と一緒に会議所や市役所がやっていかなくてはいけない。ですから、各地の取り組みを聞いて、ただ真似するのではなくスキームを持ち帰って、自分の地域に合った、自分の目の前の人にどう合うかを考えてやっていっていただきたいと思います。 プレゼン風景

日本で初めてのインターン受け入れ

伊東:夢古道おわせ支配人・尾鷲商工会議所人づくり事業アドバイザーの伊東将志です。僕は22年間、商工会議所の職員をしていました。22年間いろいろやってきて、僕が今一番大切だと思うものはやっぱり“人”です。今日はインターンを中心にお話しします。

あるとき、出向先の“夢古道おわせ”という地域の情報発信を目的とした施設で店長をしているときに言われました。「大学生の中には、自分に何ができるのか、働くということは一体何なのかを真剣に考えている人がいる。そして無償で2か月、長いと1年間魅力的な経営者の元でインターンをやりたいと思っている」と。

そして、「伊東さんはその学生を満足させられますか?」と聞かれたのです。このときはドキっとしました。 伊東さん2

夢古道おわせ、尾鷲商工会議所・伊東将志さん

インターンは学生の成長物語ではなく、企業の研修・企業経営者の研修

伊東:今まで学生とやった一番の成功事例は、“100のありがとう風呂”というものです。これは今でも続いています。もともと尾鷲には“尾鷲ひのき”という名ブランドがありましたが、厳しい状況にあります。

僕は尾鷲ひのきそのものにまだまだ価値があると思っていたので、たくさんの方に香りを嗅ぎ、触ってもらいたかった。そこで、管理運営を行っている夢古道の湯で、その木にメッセージを書いて浮かべる、という企画をやりました。5年前に始めた事業ですが、今では全国で400の取引先を持つまでになりました。

このアイディアはもともと僕の頭の中にありましたが、業務に追われ実現できずにいたものでした。それが学生に入ってもらったことで実現できたのです。東京や愛媛・愛知・岐阜から来てくれた学生は、尾鷲に住み、共に生活をしながら必死に取り組んでくれました。

インターンというのは、学生の成長物語ではなく、企業の研修・企業経営者の研修だと思っています。インターンは無償ですが、なぜ我々は仕事をしているのか「仕事をする意義」について答えなければいけないため、受け入れ側は有償より大変です。ですが、その答えが求められているとわかったとき、商工会議所はこれをやるためにあるものなのではないかとも思いました。 伊東さん

商工会議所でインターンシップ事業を

伊東:その後、商工会議所に戻りましたが、引き続き商工会議所の立場でインターンに関わることになりました。会議所をコーディネート団体としていく作業です。そこでは、予算が年間いくらあればインターンシップ事業が商工会議所で成り立つのか、というチャレンジでもありました。

商工会議所の空きスペースを利用して商工会議所内ベンチャーのような形をとるなど、工夫をした結果、1年目約800万円、2年目約300万円、3年目の現在は約50万円の予算で運営することができています。

地域に戻ってきてくれるインターンの若者たち

伊東:埼玉県出身で、アメリカの大学に通っていたこともある学生は、地域の民宿にインターンにきていたこともありましたが、新卒Iターンで地域に移住、現在はデザインの会社に就職し、今期、ゴールドマンサックス中小企業経営革新プログラム案件において採択された長期実践型インターンシップ事業の受入企業の事業責任者となっております。

また、地域イノベーター留学に参加した人たちが、地域おこし協力隊*5 で戻ってきて150人の集落で仕事作りをしています。僕は今後、小さい150人、500人の集落に人を入れてその町で何ができるかを試そうと思っています。

*5 地域おこし協力隊(総務省):人口が減少している地方において、地域への移住を望んでいる若者などを積極的に招き、彼らのニーズに応えながら地域の力を強めていくことを目的とした取り組み。

伊東さん3

生まれ育った町が大好きだから

伊東:商工会議所が本来行うべきことは、中小企業支援であり、その手法の一つとしてインターンシップも可能性があります。そのために重要となってくるのが“プロジェクト設計”だと思います。課題をヒアリングして、プロジェクトを作成。そしてマッチング。魅力的なプロジェクトであればどこからでも学生は集まってきます。

僕は150人の集落の10年後に危機感を抱いています。近頃では有料の地域おこしのイベントに多くの人が集まっています。その人たちの受け皿になれるかどうかは、コーディネーターの我々にかかっていると思います。 コーディネーターは地域を愛する人、本当に地域を思っている人にしかできません。

19,000人の尾鷲市でできることは、きっと他の地域でもできるはず。何のために働くのかと問われたら、私はこう答えます、「すべては地域のためです。生まれ育った町が大好きです。そのために僕は働いています」と。みんなでがんばっていきましょう。

新たなネットワーク作りを

森山:若者がモテる前に、まずコーディネーターがモテる必要があると思います。コーディネーターが地域の感覚、地域でのモテ方を若者に教えていくことも大切ですね。

これからは商工会議所や役所のネットワークだけではなく、新しいネットワークを作る必要があります。それは地域外ではもちろん、地域内でも情報共有ができる関係作りをすることが大切です。地域で多くの情報が集まる行政、商工会議所、信用金庫との関係構築を行うのも一つの方法だと思います。今日のことをもとにアクションを起こしていきましょう。ありがとうございました。

この記事に付けられたタグ

地域おこし協力隊
この記事を書いたユーザー
アバター画像

安藤 未希

東京生まれ東京育ちの江戸っ子。海外の留学先で自分が日本について全然知らないことに気が付く。帰国後、鉄道で47都道府県を訪れ、地方の人や歴史・文化に触れ感動する。現在はライターとして地域のことや人の営みなどについて伝える活動を行っている。

Events!DRIVEオススメのイベント情報

イベント

東京都/新青山ビル東館6階(通称:青山ツイン AOYAMA TWIN)

2024/11/15(金)